
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
目次はこちら
第6章 ブレーキ
E36は、コンパクト・4気筒モデルの一部で後輪がドラム式となる他は4輪ともディスクブレーキを装備する。電子制御により急ブレーキ時の車輪ロックを防ぐアンチロックブレーキシステム(ABS)は初期モデルではオプションだったが、1992年以降は全車標準装備となった。また、ブレーキパッドの摩耗を感知するセンサーとメーターパネルの警告灯も標準だった。
(項目一覧)
1. フルード交換・エア抜き
2. パッド・ローター・キャリパー
3. ABS警告灯・ブレーキライト不良警告
4. 要約
フルード交換・エア抜き
ブレーキフルードは使っているうちに空気中の湿気を吸うが、水分が混ざると圧力が伝わりにくくなり効きが悪くなってしまう。また沸点も下がりフットブレーキの多用によるベーパーロックも起こりやすくなるので、フルードはおよそ2年おきに交換するのが望ましい。作業自体は有難いことに実に簡単だ。
まずクルマ全体をジャッキスタンドに乗せ、ホイールを4つとも外す。回路内に異物が落ちこまないようマスターシリンダー上部を掃除してからリザーバータンクのキャップを外し、注射器で古いフルードを吸い取る。概ね抜けたら、新しいフルードをさしあたり満タンまで注いでおく(後でまた追加する)。フルードはDOT4規格のものを使おう。愛好家の間ではAteのスーパーブルーが特に人気だが、DOT4ならどれでも大丈夫だ。
次に、マスターシリンダーから最も遠いところ(右/左ハンドルのそれぞれ左/右後輪)から回路内に残っているフルードの入れ替えを行う。あらかじめ、キャリパーのブリーダーニップルに浸透潤滑剤を噴いて緩めやすくしておくとよい。ニップルに透明なプラスチックホースを差しこみ、緩めて開けたら助手にブレーキペダルを10回踏んでもらって最後に踏みっぱなしにしてもらい、古いフルードを排出する。この時キャリパーをゴムハンマーで軽く叩くと回路内の気泡も出やすくなる。プラスチックホース内のフルードの色が新しいものに変わるまで排出を続けるが、この間にマスターシリンダーから空気が入らないよう常にリザーバータンクの残量には気を配り、適宜フルードを継ぎ足すこと。もし回路内に空気が入ってしまったらまた始めからやり直しになってしまう。
交換ではなくエア抜きを行う場合も、作業は基本的に同じだ。マスターシリンダーから最も遠いキャリパーから始め、ブリーダーニップルを緩めて助手にブレーキペダルを踏んでもらい、気泡が出てこなくなるまでフルードを排出する。助手がいない場合は加圧式ブリーダーが便利だ。フルードを入れてマスターシリンダーに接続しポンプで15psi(約1気圧)加圧したら、あとはブリーダーニップルを緩めて上記と同じようにすればよい。
項目一覧へ
パッド・ローター・キャリパー
ご存じのとおり、どんなクルマでもブレーキ関係でいちばん消耗する部品はパッドだ。ブレーキをかけたときに金切り声のような音がするかメーターパネルの摩耗警告灯が点灯すれば、いやでもパッドが終わっていることは分かるだろう。ローターはパッドと一緒に換えた方がよいともいわれるが、個人的にはレコード盤のような溝状の摩耗あるいは歪みがなければ交換しなくても問題はないと考えている。ただし、減りが進んでいるようならパッドと同時に交換しよう。
E36のブレーキ性能は一級品だが、あまりに酷使するとローターが歪むことがある。ブレーキをかけるとステアリングホイールが振動するのがよくある症状だが、E36ではサスペンションのボールジョイントの損耗でも同じような振動が起こりうるので注意が必要だ。部品を注文する前に、必ずボールジョイントとローター双方の状態を確認して原因を特定しておこう。
E36はキャリパーの品質も高いが、長年の間にキャリパーと内部のピストンとの間に侵入した水分が腐食やひいては固着を招きうることに変わりはない。腐食した古いキャリパーはオーバーホールももちろん可能だが、手っとり早く新品に交換した方がよいだろう。
項目一覧へ
ABS警告灯・ブレーキライト不良警告
E36のブレーキ関係の不具合で一番厄介なのが、メーターパネルやオンボードコンピューターに出る警告表示だろう。よく出るのは前者のABS警告灯、後者のブレーキライト不良警告(“BRAKE LIGHTS FAILURE”など)だ。スキャンツールでECUのエラーコードを読み取ることもできるが、それでも原因にたどり着けない場合は比較的不具合が起こりやすい以下の箇所を点検してみよう。
ABS警告灯が点く原因としては車輪速センサーの異常が最も疑われるが、これは各車輪の近くにあるセンサーの電圧変化をマルチメーターで測れば確認できる。センサーの配線コネクターを外し、マルチメーターをつないで車輪を回転させる。これで電圧の値が上がらなければ、センサーの異常ということになる。
車輪速センサーに問題がなければ、次はヒューズボックスの中にあるABSポンプのリレーを調べてみよう。まずリレーを外し、マルチメーターで抵抗を測る。正常なら、赤の端子を30a番ピン・黒の端子を30番ピンに当てると抵抗値は50-100Ωを示し、逆につなぐと無限大を示す。もし異なる値が出たなら、リレー交換が必要だ。
センサーもリレーも正常なら、次の容疑者はABSポンプだ。これは内部の配線が劣化してもろくなり断線することがある。ポンプを開けて切れた配線をはんだ付けし直すこともできるが、そもそも配線が弱るほどなら新品に交換した方が長い目で見れば得策だろう。
ブレーキライト不良警告の方は、ABSに比べればだいぶ原因を突き止めやすい。単なる球切れの場合もあるが、犯人はたいていブレーキライトスイッチだ。これはブレーキペダルのてっぺんに付いており、交換作業は特に問題となるところはない。
項目一覧へ
要約
BMWならではの卓越したブレーキ性能を長く堪能するなら、ブレーキフルードは定期的に、また摩耗したパッドは速やかに交換し、ABS関係の不調にも気を配っておこう。
項目一覧へ
Posted at 2022/05/19 12:09:49 | |
トラックバック(0) |
E36レストア本和訳 | クルマ