
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第7章 トランスミッション
E36のマニュアル・トランスミッションは、高回転まで引っぱれるガソリンエンジンならではの楽しみを存分に味わわせてくれる。変速モード切り替えが付くオートマチックも悪くはないのだが、マニュアルほどのスポーティな面白さはない。SMGは次のE46で弱点がほぼ洗い出されたが、初めて設定されたE36の欧州仕様M3では疫病神としか言いようがない、やたらと壊れる代物だった。
(項目一覧)
1. マニュアル・トランスミッション(MT)
2. マニュアル・トランスミッションオイル交換
3. クラッチ
4. クラッチペダルの異音
5. クラッチペダルストッパー
6. トランスミッションマウント
7. オートマチック・トランスミッション(AT)
8. オートマチック・トランスミッションフルード交換
9. シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス(SMG)
10. プロペラシャフト
11. ディファレンシャル
12. 要約
マニュアル・トランスミッション(MT)
E36の5段MTはZFもしくはゲトラグ製である。6段となるのは欧州仕様M3のゲトラグ製S6S 420G型だけだ。
4気筒全車と325以下の6気筒車には、ゲトラグのS5D 200GまたはS5D 250G型が組み合わされる。両者ともゲトラグ製品の定評通り極めて丈夫で、完全に壊れるのは扱いがあまりに雑だったかトランスミッションの許容トルクを超えるエンジンチューンを施した場合くらいである。200Gと250Gは互換性があるが、後者の方が多少強度が高い。
ゲトラグ製の5段では、ギアが勝手に抜けてくるものがある。これは生産の不手際で1998年4月以前に生産された250G型に1・2速のガイドスリーブが正しく加工されていないものがあるためで、それ以降は改善されている。もし該当するようなら、外してリビルドに出すよりもリビルド済みあるいは中古のトランスミッションに載せかえてしまう方が安くて簡単だ。ガソリン車用とディーゼル車用は変速比が異なるので、間違えないよう注意が必要だ。
328とM3の5段MTは、ZFのS5D 310ZまたはS5D 320Z型である。こちらはゲトラグ製5段よりも頑丈で、ハードな走り方にも耐える。これもよほど乱暴な使い方をしない限り壊れることはないだろう。6気筒ディーゼル車に付くZFのS5D 260Z型5段も、およそ問題となるところはない。ゲトラグも同様だが、変速時にガリガリと異音がするかギアが入りにくい症状が出たらリビルト品のトランスミッションに載せかえるのがいちばん安くつく。
E36に用意されるMTの頂点に位置するのが、ゲトラグのS6S 420G型6段だ。E36では欧州仕様M3のみの設定で、他にはV8エンジンを載せたE39型M5やZ8にも使われた。ご想像の通りこれも耐久性は折り紙つきで、扱い方を誤らなければまず壊れない。これが壊れるくらいなら相当無茶な走り方をされていたはずなので、MTのみならずクルマ全体にわたって機械的な問題があるとみるべきだろう。
マニュアル・トランスミッション適合表
ガソリン
316・318・320 : ゲトラグS5D 200G・S5D 250G
323・325 : ゲトラグS5D 250G
328・M3 3.0(北米仕様・欧州仕様)・M3 3.2(北米仕様) : ZF S5D 310Z・S5D 320Z
M3 3.2(欧州仕様) : ゲトラグS6S 420G
ディーゼル
318tds : ゲトラグS5D 200G・S5D 250G(変速比はガソリン車と異なる)
325td・325tds : ZF S5D 260Z
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マニュアル・トランスミッションオイル交換
どの型式でも手順は基本的に同じで、エンジンオイル交換と似たようなものだ。まずは軽くひとっ走りしてオイルを温めておく。クルマを地面が固く水平なところに停め、ジャッキスタンドに乗せる。注入口のフィラープラグに続いて排出口のドレーンプラグを外し、古いオイルを廃油受けに排出する。
オイルが抜けきったらドレーンプラグを再び取り付け、注入口からトランスミッションオイル用ポンプで新しいオイルを注入する。BMW推奨品はMTF LT-2だが、レッドラインのD4 ATFを好む愛好家も多い。規定の容量を注入したら(注入口から溢れてくる)、フィラープラグを取り付けて完了だ。たったこれだけのことである。
マニュアル・トランスミッションオイル容量
ゲトラグS5D 200G : 1.0L (BMW MTF LT-2)
ゲトラグS5D 250G : 1.1L (BMW MTF LT-2)
ZF S5D 310Z : 1.2L (BMW MTF LT-2)
ZF S5D 320Z : 1.3L (BMW MTF LT-2)
ゲトラグS6S 420G : 1.9L (BMW MTF LT-2)
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クラッチ
E36のクラッチの減り方はだいたい走り方による。新車から無交換のまま天寿を全うする多走行車も珍しくはない一方、逆に60,000マイル(約100,000km)で交換する羽目になることもある。滑らせてばかりの酷な使い方では早く減り、大事に使えばとても長持ちするということだ。
注意 : クラッチが滑りはじめて交換を考えるなら、その前にぜひとも確認すべき事がある。E36はスレーブ(レリーズ)シリンダーも弱点で、クラッチが不調ならこちらも寿命に近づいていると考えられるので、まずこちらを交換して回路内のフルードを入れ替えよう。これでクラッチの操作感が元に戻ったなら、クラッチ交換の多大な手間が省けたことになる。それでもまだ滑るようならどのみちクラッチを換えざるを得ないとはいえ、いきなりクラッチを換えるよりは安くつくかもしれないのだ。
クラッチの交換作業は経験があればさほど難しいものではないが、初挑戦がE36となると少し手強いかもしれない。ほかのクルマよりもトランスミッションの取り外しには手こずるだろう。技術的に難しいというわけではなく、下回りが隙間なく詰まっていて作業空間の余裕がなく面倒なのだ。まずけっこう重い排気管を外さないといけないし、シフトリンケージやスレーブシリンダーを外し、次に固定ボルトを外してやっとトランスミッションを取り出せる。アマチュアでもE36の整備に慣れていればさしてつまづくことなく2-3時間で交換できるかもしれないが、行き詰まれば週末をまるまる棒に振ることになるだろう。
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クラッチペダルの異音
これは危険というわけではないが、E36はクラッチペダルから耳障りなキーキーという異音が出てくることがある。これはクラッチペダル根元にあるブッシュの劣化によるもので、ペダルが横方向にぐらつく原因でもある。一番の解決法は一旦クラッチペダルを外し、ブッシュをテフロン製のものに取り替えてしまうことだ。これは社外品がいくつも出回っており、簡単に手に入る。
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クラッチペダルストッパー
E36に標準のクラッチペダルストッパーはちゃちなプラスチック製で丈も低すぎ、たいていはそのうちねじ山がつぶれて床板にめり込んでしまう。こんな代物はさっさと取り払い、3/8×1 1/2インチ(9.5×38mm。訳注: M10規格が使えます)のエレベーターボルトに換えてしまおう。作業時間はほんの1-2分、費用もタダ同然だ。クラッチのストロークが短くなるし、踏みきった感触も純正のプラスチックよりしっかりする。長さが1 1/2インチ(38mm)を超えるとクラッチスタートスイッチ(装備車)が効かなくなるので注意しよう。床の傷つき防止に椅子の脚に貼るようなフェルトをボルトの上面に貼れば、ペダルが当たる音も弱まる。これくらいのことなら最初からやっておいてほしいと感じるところだ。
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トランスミッションマウント
サスペンションのブッシュと同様、MTのゴム製マウントもいずれは劣化してくる。そうなると振動が大きくなるだけでなく、シフトミスも起こしやすくなる。シフトをしくじって過回転でヘッド周りを修理する羽目になるよりも、マウントを交換しておく方が簡単なのは言うまでもないだろう。マウントはトランスミッション後部下を横切るメンバーに付いており、これを外せばあとは古いブッシュのボルトを外して新品と取り替えるだけだ。純正のゴム製は振動をよく吸収してくれるが、個人的には耐久性に優れシフトがより正確な感触になるポリウレタン製が好みだ。
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オートマチック・トランスミッション(AT)
E36の4段ATの実体はゼネラルモーターズ(GM)のフランス・ストラスブール工場製ハイドラマチック4L30-E型で、BMWでの呼称はE36の登場時から1995年9月までがA4S 310R型、それ以降はA4S 270R型となっている。
5段ATはほとんどがZFの5HP18型(BMW式にはA5S 310Z型)である。GMの4段よりも丈夫で耐久性にも優れ、また整備の手間をできるだけ省くというBMWの方針にも則った設計となっている。ジヤトコのRE5R01A型(BMWではA5S 300J型)もオセアニア向けを中心に採用されたが、そこから流れて他の地域で見られることもある。
BMWはATフルード(ATF)の交換を不要としているが、正常に働かなくなったらフルードとフィルターを交換してみよう。それでも症状が治まらなければAT自体を交換せざるを得ない。近年では一般的にいえることだが、トランスミッション自体を修理するよりもリビルド済みのものと交換した方が、安くて手間もかからず好都合だ。
オートマチック・トランスミッション適合表
欧州
316・318・325td : GM 4L30-E (A4S 310R/270R)
320・323・325・325tds・328 : ZF 5HP18 (A5S 310Z)
*5段ATは一部にジヤトコRE5R01A (A5S 300J)も採用。
北米
318・323・325 : GM 4L30-E (A4S 310R/270R)
328・M3 3.0(北米仕様)・M3 3.2(北米仕様) : ZF 5HP18 (A5S 310Z)
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オートマチック・トランスミッションフルード交換
不可解なことに、E36のATにはフルードレベルを測るディップスティックが付いていない。これは、BMWがフルードはクルマの生涯にわたって減らないなので確認はいらないとしたためだ。だがものは考えようで、いざATの調子が悪くなったら注入口からあれこれこねくり回して液量を確かめるのではなく、とっととフルードを交換してしまえばいいのだ。ガスケットとセットになったフィルターキットをフルードと一緒に買っておけば、苦労は最小限で済むだろう。
エンジンオイルとは異なり、ATFは冷めた状態で抜きとる。まず車体を確実にジャッキスタンドに乗せて4輪とも浮かせる。ATのオイルパン底部にあるドレーンプラグを見つけて緩め、フルードを廃油受けに排出する。流出が止まったら、オイルパンを外して内側にあるフィルターを出す。GM製のATは内側にもう1つのオイルパンがあるので、これも外してフルードを捨てる。
古いフィルターを外して新品を取り付けたら、オイルパンを戻す。GM製ATでは、内側のオイルパンにフルードを満たして先に取り付ける。ガスケットももちろん新品に交換するが、このときシリコンシーラントの類は使わない。はがれたカスが回路内をふさいだらATを壊すおそれがあるからだ。オイルパンが付いたらフルードを注入するが、これにはポンプで圧をかけないといけない。ここで役に立つのは用品店で普通に売っているトランスミッションオイルポンプだ。側面の注入口から溢れてくるまで入れたらプラグを締める。
さて、ここからはちょっと面倒になる。真のフルードレベルを確かめるには、ATを温めないといけないのだ。おまけにディップスティックがない以上、量を確認するにもクルマの下へ潜らないといけない。まず、ジャッキスタンドに乗せたままエンジンを始動する。フルードが少なくとも44℃以上でなければ正確な測定はできないので、30-40分の間ブレーキをかけたままですべてのギアへシフトを繰り返して温める。温まったら側面の注入口を開けてフルードを再び溢れるまで注ぎ足す。注入口を閉めたらテスト走行に出かけよう。動作がスムーズになっていたら、作業は完了だ。もしまだどこかおかしいなら、今一度液量を確かめよう。量の問題でなければ、いよいよアセンブリー交換の時期だと考えたほうがよかろう。
オートマチック・トランスミッションフルード容量
GM 4L30-E (A4S 310R/270R) : 8.8L デキシロンIII
ZF 5HP18 (A5S 310Z) : 7.8L ESSO LT71141
ジヤトコRE5R01A (A5S 300J) : 8.0L アポロイルATF D3
注意 : 上表の容量はいずれも満タン時のものであり、E36のATでの排出・注入量はだいたい3.0L前後になる。
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シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス(SMG)
欧州仕様後期のM3では、ゲトラグのS6S 420G型MTをベースとする6段SMGが設定された。シフトレバーを操作すると電磁弁の働きで電動油圧のクラッチが切れ、油圧シリンダーでシフトリンケージを動かして自動的に変速するというものである。MTの高効率とATの安楽さのかけ合わせは当時も今もすばらしい考えに変わりないが、このSMGに関してはコンピューターの不調で非常モードに入ってしまうことがやたらと多かった。あまりの信頼性の低さに業を煮やして通常のMTに載せかえたオーナーも少なくないが、その際はトランスミッション本体をそのまま使えることが救いだ。あとはSMG用の部品を取り外し、クラッチペダル・マスターシリンダー・スレーブシリンダーを取り付ければよい。
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プロペラシャフト
E36のプロペラシャフトは2分割で、駆動系の前後の動きを吸収できる仕組みになっている。トランスミッションとプロペラシャフト前部は、ゴム製のフレックスディスク(英語圏では”guibo”と通称される)でつながっている。シャフトは中央部のセンターサポートで前後に分かれ、後部はディファレンシャルとフランジで接続されている。プロペラシャフトを取り外す際は、前後のシャフトの向きが変わらないように接続部に印をつけておこう。
プロペラシャフト周りで一番劣化しやすいのは、どうみてもフレックスディスクだ。加減速時に駆動系の前の方から変な振動やコツコツなどの異音がするなら交換しよう。ゴム製なので、しまいには割れて引き裂かれてさながらゴムのスパゲッティのようにグチャグチャになってしまう。交換作業はそれほど難しくはない。基本的には、プロペラシャフトを外し、ボルトを抜いて古いディスクを外し新品に入れ替えるだけだ。プロペラシャフトは再び取り付けるときに向きを間違えないよう、接続部にマーカーで印を付けておこう。ディスクにはトランスミッションのフランジとの位置合わせのための矢印が付いているので、外す前と取り付け時に位置関係を確認しておこう。
プロペラシャフトのセンターベアリングはフレックスディスクよりも寿命は長いが、劣化しないわけではない。後席下あたりからギアが唸るような音がする場合は、ベアリング劣化の疑いが大きい。交換の際は、フレックスディスクと同様にまず接続部に印を付けてからプロペラシャフトを取り外す。次に中央部のクランプスリーブを外してシャフトを前後に分解する。センターベアリングユニットをシャフトから取り外したら、Cクリップを外してベアリング本体をプーラーで抜いて交換するか、またはユニットごと新品に取り替える。取り付けはこの逆手順だが、前後シャフトが噛み合うスプライン部にはモリコート・ロングターム2のような適切なグリスを塗り、クランプスリーブはシャフトを車両に取り付けてから最後に締め込むよう注意しよう。
後部のユニバーサルジョイントは丈夫だが、フレックスディスクとセンターベアリングを替えたのにまだ駆動系の振動が消えない場合はここのUジョイントが悪さをしている可能性がある。Uジョイント単体の交換も可能だが、取り付ける前には専門業者にシャフトのバランス取りをしてもらう必要がある。
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ディファレンシャル
E36には3種類のディファレンシャル(以下デフ)が使われている。最も小型のものが4気筒全車と320に付く168型で、320と欧州仕様3.2LのM3以外の6気筒車には188型が付く。残る欧州仕様3.2LのM3は、大型の210型となる。リアサスペンションの構造が異なるコンパクトは同じ168型でも専用となっており、他のモデルの168型とは互換性がない。
M3以外のモデルはほとんどがオープンデフで、M3は全車にリミテッド・スリップ・デフ(LSD)が付く。両者を簡単に見分けるには、デフ本体に付いた金属板の刻印を確かめよう。減速比の数字の前に「S」という刻印があればLSDである。もし見あたらなければ、停止状態から急発進させて路面にタイヤ痕を付けてみればよい。痕が片側だけなら非LSD、両側に付いていたらLSDだ。
デフ自体は丈夫だが、もしカチカチと音がするようなら内部のクラッチパック固定ボルトが外れている恐れがある。これは頻発するわけではないが、気にしておいた方がよい。もし的中だったら、デフをオーバーホールするか中古品に取り替える必要が出てくる。走行中のコンコンという音は、等速ジョイントから出ている可能性が高い。
トランスミッションと同じで、工場充填のデフオイルは交換不要とされている。そして実際には絵空事なのも同じで、デフを長持ちさせるには約40,000マイル(約60,000km)ごとに交換したい。交換手順としては、まずオイルが温まるようある程度クルマを走らせる。次にクルマの後部をジャッキスタンドに乗せて廃油受けをデフの下に用意し、フィラープラグを外してからドレーンプラグを外してオイルを排出する(訳注:原文ではオイルを抜いてからフィラープラグを外すとありますが、常識的には逆でしょう)。ドレーンプラグを締めて、新しいオイルをポンプで注入口から溢れるまで入れ、フィラープラグを戻したら完了だ。
ディファレンシャルオイル容量
168型(4気筒車・320) : 1.1L
188型(320・欧州仕様3.2L M3以外の6気筒車) : 1.7L
210型(欧州仕様3.2L M3) : 1.9L
指定ディファレンシャルオイル
非LSD : BMW SAF-XO化学合成油
LSD : BMW SAF-XLS化学合成油
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要約
E36のトランスミッションは十分な耐久性がある。ATの動作がおかしくなったら、壊れてしまう前にフルードを交換しよう。MTも頑丈ではあるが、無茶な扱いをすればたいていの場合リビルドよりも交換することになるだろう。
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Posted at 2022/05/21 11:27:44 | |
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