
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第9章 冷却・空調系
これまで述べてきたとおり、E36の悩みどころは冷却系だ。ここをやり直した履歴のないクルマで心配の種を一掃するには、部品という部品を改良版に入れ替えるしか手はないだろう。
(項目一覧)
1. サーモスタット(含むハウジング)
2. ウォーターポンプ
3. ラジエーター・エキスパンションタンク
4. 冷却系の空気抜き
5. 冷却ファン・ファンクラッチ・「ファン撤去改造」
6. ファイナルステージユニット
7. エアコン
8. 補機ベルトプーリー
9. エアコンフィルター
10. 要約
サーモスタット(含むハウジング)
これも既述のとおり、サーモスタットは開閉いずれの状態でも固着しうる。これが収まるハウジングも、プラスチック製のものは破損するおそれがある。ちっとも暖房が効かない(開いたまま固着)とかエンジンがオーバーヒートする(閉じたまま固着)場合はサーモスタット交換となる。いずれの場合もどうせハウジングは外すことになるので、プラスチックの純正品が付いていたらついでにBMW部品専門店でいくらでも売っているアルミ製の社外品に交換してしまおう。
サーモスタットの交換は特に難しくはない。まずラジエーター下の排出口のプラグを外して冷却水を抜き、冷却ファンとシュラウドを外す。ファンを外すときはファンクラッチを緩める32mmレンチはもちろん、軸が共回りしないようにプーリーを固定する専用工具があった方がよいだろう。また逆ねじで留まっているので、外すときは時計回りに回すこと。ファンが外れたらハウジングを外し、中のサーモスタットを取り出す。新品を入れるときは、元の部品と同じ向きに入れるように注意しよう。
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ウォーターポンプ
E36のウォーターポンプは、すぐに壊れる災いの元という悪評がとどろき渡っている。既に述べたように1997年中頃までの製品はインペラーがプラスチック製で、割れて砕けると冷却系をメチャメチャにしてしまうのだ。
交換作業は冷却系全般に共通するところが多い。ラジエーターから冷却水を抜き、ファンとシュラウドを外し、アッパーホースとサーモスタットハウジングを取り外し、補機ベルトとウォーターポンプのプーリーを取り外す。ポンプ本体が出てきたら、シリンダーブロックに固定するボルトを抜いてゴムハンマーで軽く叩いてみる。これだけで外れてくれば幸いだが、中には発破でもかけたくなるほど頑として外れないこともある。固着でどうにもならなければ、プーラーの力を借りよう。
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ラジエーター・エキスパンションタンク
E36のラジエーターはアルミ製の本体とプラスチック製の端部との接続部から冷却水が漏れたりエキスパンションタンクが割れたりすることがあるが、両方とも総アルミ製のものに取り替えてしまえば怖いものなしだ。部品さえ揃えば、交換作業そのものは大したことはない。ラジエーターから冷却水を抜いたらつながったホース・センサー・配線類やATFクーラーなどとの接続を全て外す。続いて本体を固定するプラスチックリベットを慎重にこじって抜き、ラジエーターを取り出す。あとは新品を取り付けて外したものを元通り取り付け、回路に冷却水を満たそう。
これだけは言っておきたいのだが、ラジエーターから水が漏れているからといって冷却水に混ぜる漏れ止め剤の類は絶対に使ってはいけない。たとえ一時的に漏れが止まっても、ゆくゆくは粘性の高い成分が冷却系のどこかを詰まらせかねない。
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冷却系の空気抜き
冷却水は、BMW純正冷却水の原液と蒸留水を同量ずつ混合したものが最適だ。レッドラインの「ウォーターウェッター」のような添加剤を入れてみるのもいいだろう。水温が下がるとしてこの手の添加剤を推奨する愛好家も多い。
エンジンが冷めた状態で空気抜き口のねじを緩め、エキスパンションタンクの「KALT(冷間)」印まで冷却水を注ぐ。次にイグニッションキーを回してアクセサリー電源を入れ(エンジンは始動しない)、ヒーターのスイッチを入れて温度を最高に、風量を最低に合わせる。冷却水を注ぎ足し、空気抜き口からの泡が止まりきれいな液体しか出なくなったら空気抜き口を元通り閉め、エンジンをかけて冷却水を温める。
水温が適正まで上がったら、エンジンを停止して冷めるのを待つ。十分に冷めたら冷却水量を確認し、水を注ぎ足して再度空気抜きを行う。完全に空気を抜くには数回繰り返さないといけないことが多いが、車両の前部を持ちあげて行うと空気が上がりやすくなり抜けが早くなる。
冷却水容量諸元
4気筒エンジン全機種 : 6.5L
M50/M52型6気筒エンジン : 10L
S50/S52型6気筒エンジン : 10.5L
*BMW純正冷却水と蒸留水を同量混合
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冷却ファン・ファンクラッチ・「ファン撤去改造」
クランクシャフト駆動冷却ファンの交換は、何も恐れることはない。アイドリングで水温が上がりすぎるなら、怪しいのはサーモスタットかファンクラッチだ。ファンクラッチの交換には32mmのスパナとプーリー固定器具が必要になる。サーモスタットの交換は既述のとおりエンジン前部のサーモスタットハウジングを取り外して行う。E36オーナーにとってはまことに腹立たしいことだが、ウォーターポンプのベアリングが壊れてファンの回転がぶれるとラジエーターにぶつかって壊してしまう場合がある。そうならないようオイル交換の時は必ずファンの状態も点検し、もろくなっていたり羽根に割れや欠けがあったりしたら交換しよう。またファンを前後に揺すってみてガタがあるようならウォーターポンプのベアリングがへたっている証拠なので、ウォーターポンプも早急に交換が必要だ。
壊れたファンの被害を蒙ったマニアの中にはファン自体の撤去に踏みきる人もおり、そのためのキットもBMW部品専門店で売っている。これはもともとクランクシャフト駆動のファンにエンジンパワーを取られるのを嫌ったレースチームが発案したものだ。ファンなしで冷却水温を正常に保つには以下の事項を絶対に守ってほしい。もし端折ったりすれば地獄を見ることになるだろう。
作業は、まずエンジンを冷まして冷却水を抜くことから始まる。次に32mmのファンクラッチボルトを(逆ねじなので時計回りに)緩めてファンを外す。この際、ウォーターポンププーリーが共回りしないよう専用工具で固定しておく。次にサーモスタットハウジングを外し、サーモスタットを取り出して開弁温度80℃のもの(BMW品番11531466174)に交換する。既に述べたように、プラスチック製のハウジングはここでアルミ製の社外品に交換しておくのがよいだろう。ラジエーターの側面に付くファンスイッチも80/88℃仕様(BMW品番は1995年9月以前のモデルが61318361787・それ以降が61318376440)に交換するが、取り付けるときは締めすぎに注意が必要だ。取り付けが完了したら、2倍希釈したBMW純正冷却水で回路を満たす。そして最後に大事なポイント、レッドラインのウォーターウェッターだ。これを2本冷却水に入れておけば、オーバーヒートは避けられるだろう。
大方の想像とは異なるだろうが、この改造はまったく珍しいものではない。正しい種類のサーモスタットとスイッチを付けてウォーターウェッター2本を入れておけば、オーバーヒートとはまず無縁だ。
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ファイナルステージユニット
E36には、オーナーを一瞬にして混乱に陥れるものがある。「エンジンをかけ、エアコンのスイッチを入れても…何も起こらない」という現象だ。とはいえ原因はほとんどの場合ファイナルステージユニット(ブロアモーターレジスター)で、これなら幸い大したことではない。「ヤマアラシ」とか「ハリネズミ」の異名を取るこの部品は、ダッシュボード下でセンターコンソールの奥にある空調ユニットケースに左側から差しこまれている。左ハンドル車なら、運転席に座った右足の右側だ。ステアリングコラム下 (左ハンドル車)もしくはグローブボックス下(右ハンドル車)のパネルを外せばたどり着けるが、奥まった狭いところなので見にくいかもしれない。
交換は、固定するトルクスボルトを外して(訳注:デジタル操作式空調となる後期型のみ)古い部品を引き出し、コネクターを外す。あとは新しい部品で逆の手順を行う。デジタル操作式空調システムが付くモデルでは、X5や5シリーズ用のようなより耐久性の高い改良版を流用するのがよいだろう。
注意: ダッシュボード下のパネルとボルトを外すだけとはいえ、狭い奥まった場所なので手が入りにくいかもしれない。作業自体は単純ながら、サイドシルの上に腹這いになる無理な体勢を強いられる。腰が悪いなどで作業姿勢が体の負担となる場合は、無理をせずに整備工場にお任せしよう。
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エアコン
エアコンからまったく風が出ない場合は、ファイナルステージユニットの故障が考えられる。風は出るが冷たくならないなら、冷媒不足かコンプレッサーの異常だろう。冷媒補充もコンプレッサーの交換も危険と隣りあわせの作業なので、信頼のおける専門家にお願いしよう。
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補機ベルトプーリー
E36では補機ベルトプーリーにも言いたいことがある。他の多くのエンジン周りの部品と同じくこのプーリーもプラスチック製で、いともあっけなく割れて砕けてしまうのだ。壊れたときのベルトや補機類の交換の手間を考えると、プーリーは見た目が怪しくなってきた段階で早めに交換した方がよいだろう。アルミ製の社外品は高価だが、根本的な対策にはなる。
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エアコンフィルター
本来30,000マイル(約50,000km)ほどで換えるべきエアコンフィルターの交換は簡単でなければいけないはずなのだが、E36では場所が悪いせいで交換されないままになっているクルマも非常に多い。
エアコンフィルターは空調からきれいな風を室内に送るために取り入れた外気に混ざったホコリや花粉や悪臭の元となる異物などを捕らえてくれるものだが、あろうことかBMWはこれをダッシュボード中央下にある空調システムのケースの奥深くに隠してしまった。ファイナルステージユニットもこのケースに付くが、フィルターは右側から入っている。ステアリングホイール位置の左右にかかわらず、交換には無理な体勢を強いられる。フィルター格納部のフタを外すには左ハンドル車ではグローブボックスを外す必要があり、また右ハンドル車ではステアリングコラム下のパネルを外すのみならずペダルが邪魔をする。
注意: ファイナルステージユニットと同じく、エアコンフィルターの交換は人によっては苦しい姿勢となる。腰や背中が悪い人は、無理をせずプロにお願いしよう。
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要約
純正のラジエーター・サーモスタットとそのハウジング・冷却ファンはE36の全モデル最大の弱点だが、ひとたび改良品に交換してしまえば実用上の問題から解放されることは救いである。
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Posted at 2022/05/28 12:59:36 | |
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