
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第10章 燃料系
歴代3シリーズで初めて電子制御燃料噴射装置(EFI)を全車に装備したのがE36だ。EFIとは、無駄に燃料を消費することなくエンジンの能率と性能を最大限に引きだすために、吸気系と排気系に備わるセンサーから得た情報を元に燃料噴射量を調節する装置である。
これを司る装置はECU(電子制御装置、エレクトロニック・コントロール・ユニット)の名称で広く知られているが、BMWの世界ではエンジン用の主要ECUのことを一般に「デジタル・モーター・エレクトロニクス」の略である「DME」と呼ぶ。DMEが不具合を起こす最大の原因は、以前にも述べたとおり格納部への浸水である。
全車がEFI仕様となるE36では、エンジン警告灯が点灯する原因を診断装置(スキャンツール)で読み取ることができる。対応する製品は多数あるが、BMWファンの間で一番の支持を受けているのはピーク・リサーチ(Peake Research)製のツールだ。中でも例えばR5 FCX-3型は、DIY指向ユーザー向けの初めてのスキャンツールとして最適といえる。念のために申し上げておくが、私は同社の回し者ではない。本当に優れた製品なのだ(訳注: 2022年5月の訳文執筆時現在、ホームページによると同社は事業を停止しているようです。訳者はR5 FCX-3と機能的に全く同等のGunson社製ツール77083を購入しましたが[整備手帳]、こちらはまだ販売しているようです[商品ページ])。
(項目一覧)
1. エンジンECU(DME)
2. 燃料タンク・ポンプ
3. 燃料フィルター
4. エアフィルター
5. スロットルポジションセンサー(TPS)
6. エアマスセンサー(MAF)
7. O2センサー
8. 燃料ホース
9. 要約
エンジンECU(DME)
DMEはエンジンルーム後端のバルクヘッドに付いたゴム製カバーの裏側に格納されている。上述したように、故障を起こす最大の原因は外気取入口から侵入する水だが、基板のはんだ付けが割れて動かなくなる場合もある。そうめったに壊れるものではないが、バッテリーに問題がないのにクルマがうんともすんとも動かず、スキャンツールでの診断にも反応しない場合はDMEが怪しい。
一目散にDMEの取り外しにかかる前に、まず試しにヒューズボックスにあるDMEリレーを交換してみよう。これでダメなら、新しいDMEを接続してエンジンがかかるか確かめることになる。高価な新品に手が出ないなら、多く出回る動作確認済みの中古品という手もある。
ボッシュ・モトロニックDME燃料噴射装置諸元
ガソリン
M40型 : Bosch DME M1.3 fuel injection
M42型 : Bosch DME M1.7 fuel injection
M43B16/B18型 : Bosch DME M1.7.1 fuel injection
M44型 : Bosch DME M5.2 fuel injection
M50型 : Bosch DME M3.1 (1992)・Bosch DME M3.3.1 (1993-1995)
S50B30US型 : Bosch DME M3.3.1
S50B30型 : Bosch DME M3.3
ディーゼル
M41型 : Bosch DDE 2.1
M51型 : Bosch DDE 2.1
シーメンス燃料噴射装置諸元
M43B19型 : Siemens BMS 46
M52型 : Siemens MS 41.1
S52B32型 : Siemens MS 41.1
S50B32型 : Siemens MS S50
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燃料タンク・ポンプ
E36の燃料タンクは後席座面の下にあり、材質は金属ではなくプラスチックである。意外に思われるかもしれないが、昔の金属製のように腐食して漏れたりしないプラスチック製の方が好都合なのだ。よってタンク交換が必要となることはまずない。E36で燃料漏れや臭いの起こる原因としては、ホースから漏れている可能性の方が大きい。
キーを回してスターターが回っているのにエンジンが始動しない場合は、後席下にある燃料ポンプから作動音がするか確認しよう。スターターを回しても何も音がしないなら、燃料ポンプが故障している疑いが濃い。ポンプは後席座面を引っ張って外したらその下の車両右側にあり、手を入れやすいのは有難い。ポンプを固定するリング状のねじを回して外すには、専用工具があると便利だ。燃料系周りの整備を行うときの注意点はまず換気を良くし、火花や火気を避け、もちろんバッテリーの端子は外しておくことだ。固定リング・配線・燃料ホースを外したら、古いポンプを取り出して新品を取り付ける。
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燃料フィルター
車両床下の左側にある燃料フィルターは、およそ30,000-50,000マイル(約50,000-80,000km)で交換が必要となる。もし見つけにくい場合は、ゴム製の燃料ホースを見つけてそこからたどっていくと良い。あまり気の進まない作業ではあるが、工程は単純だ。ここでも換気を良くし、火気厳禁を守ろう。また、燃料タンクは空にとまでは言わないがなるべく空に近くしておこう。
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エアフィルター
エンジンのエアフィルターは20,000-30,000マイル(約30,000-50,000km)ごとに交換が必要だ。ほこりっぽい環境なら、15,000マイル(約25,000km)かそれ以下で換えた方がよい。オイルを染みこませた綿ガーゼ製で再利用が可能な湿式のフィルターはよく話題になるが、そのオイルが吸気量センサーに付くと誤作動を起こしかねないので、一般的な紙製のものを勧めたい。フィルターの交換は全く簡単だ。4気筒車ではクリップで留まっているカバーを外して古いフィルターを取り出し、格納部の中を掃除して新しいフィルターを入れる。6気筒車ではカバー両側のツメを広げて持ちあげるとフィルターごと取り出せるので、あとは新品に取り替えて格納部に戻すだけだ。
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スロットルポジションセンサー(TPS)
その名の通り、スロットルボディに付いていてスロットル開度を読み取るセンサーである。これが不調になるとアイドリングで回転が安定しなくなる。ボルトを2本外せば取れるので交換もまあ簡単だ。アイドリングが不安定でスキャンツールで異常が検出されない場合は、アイドルコントロールバルブ(ICV)も調べてみよう。また、スパークプラグの異常でもアイドリングが不調になり得る。
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エアマスセンサー(MAF)
エアマスセンサーは、エンジンの吸気量をDMEに伝えるセンサーである。TPSやICV同様、これが不調になるとアイドリングが不安定になる。原因としてよくあるのが、性能向上のための改造である。上述のように、湿式エアフィルターのオイルがセンサーを汚すのだ。
エアマスセンサーの清掃・交換は簡単だ。ねじをゆるめて吸気管から取り外し、清掃するなら接点清浄剤かエアマスセンサー用クリーナーをスプレーする。センサー感知部は拭き取ることはおろか、指で触れるだけでも汚れが問題となるのでご法度だ。エンジン不調の原因をエアマスセンサーに絞り込めているのに清掃しても改善がみられないなら、新品に交換しよう。
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O2センサー
燃費が悪くなってきたという場合、E36ではO2センサーの不具合が原因のことが多い。1996年以降のモデルではセンサーの数が増えており、例えば6気筒車では4個付いている。燃費悪化が主な症状だが、エンジン警告灯が点く一番の原因でもある。排気マニホールドのセンサーは100,000マイル(約160,000km)、床下に付くものは170,000マイル(約270,000km)保つとされる。
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燃料ホース
強烈な燃料臭がする場合はたいてい、長年の間に硬化して割れてしまったゴムの燃料ホースから漏れているはずだ。1箇所でも漏れが見られたら他の箇所も早晩漏れる恐れがあるので、ゴム製の部分はすべて取り替えてしまおう。
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要約
メーターパネルの警告灯点灯は目障りだが、どこかが何かしら悪そうだとしかわからないよりははるかに良いだろう。ある程度腰を据えてE36に乗り続けるつもりなら、良質のスキャンツールを1台持っておいた方が長い目で見ても頭痛の種を確実に減らせることだろう。
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Posted at 2022/05/29 12:09:06 | |
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