
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第11章 電装系
先代のE30と比べると電気仕掛けだらけに映るE36も、現代の3シリーズに比べれば可愛いものだ。これは不具合についても同じことがいえ、E36の電装系は直すのに少しばかりの手間暇と面倒はかかるが全く手に余るほどではない。とはいえ、電装系を触るときはショート防止のため最初にバッテリーのマイナス端子を外すことだけはくれぐれもお忘れなきように。
(項目一覧)
1. ヒューズ
2. オルタネーター
3. スターター
4. メーターパネル
5. オンボードコンピューター(OBC)
6. コンフォートリレー
7. 集中ドアロック
8. パワーウインドウスイッチ・モーター
9. ヘッドランプ・テールランプ・フォグランプ
10. エアバッグ警告灯
11. バッテリー
12. 要約
ヒューズ
電装品が動かなくなったら、まずはヒューズを点検するのが鉄則だ。エンジンルームの後方、バルクヘッド近くの黒い箱がヒューズボックスである。フタははまっているだけで、裏側にはヒューズの配置図が貼ってある。E36の純正ヒューズは、上から内部の電線をのぞけば切れているかどうかは一目で分かる。フタの裏側にはヒューズをつまんで引き抜くための小さなピンセットのような道具と共に予備のヒューズも何本か付いているはずだ。もしなければ、交換用のヒューズセットを買ってフタに付けるかグローブボックスに忍ばせておこう。
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オルタネーター
E36のオルタネーターはエンジンルームの奥深くに押しこめられているため、熱がこもりやすい。もちろんメーカーもこれは織りこみ済みと見えてラジエーターグリルからオルタネーター上面に導風管が引きこんであるのだが、もしこれが異物などで詰まると過熱から故障に至る恐れがある。とはいえ壊れる原因は熱ばかりではなく、単に寿命を全うしただけの場合もある。新品のバッテリーがすぐに上がってしまう場合はわずかな放電が原因のこともあるが、最も考えられるのはオルタネーターの故障だろう。オルタネーターは外して電装品修理業者へ持っていけば、たいてい無料で検査してもらえる。
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スターター
バッテリーもヒューズもソレノイドも問題がないのにスターターが回らないとなれば、スターターモーター自体の不良が考えられる。E36のスターター交換は、クラッチ交換やサンルーフ機構の取り外しなどと並んで最も骨の折れる部類の作業である。4気筒車ではクルマをジャッキスタンドで持ちあげて下に潜りトランスミッションのベルハウジングからボルトを緩めて外すくらいのもので、トランスミッション形式にかかわらずさほど手を入れづらいわけではない。だが、6気筒車では事情がややこしくなる。
6気筒のMT車は4気筒車よりも多少難しくなるが、それでも下側からの交換はさほど困難ではない。これがAT車となると下側から手を入れるのが非常に難しくなるので上側から吸気マニホールドを外して進めるのが一番良いと思われるが、それでも空間的に厳しいことに変わりはない。どのモデルでも、どこからどうやっても外せない場合はトランスミッションをクルマから取り外して作業空間を確保することになる。
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メーターパネル
メーターパネルにまつわる不具合はそう珍しくない。いちばん多いのは照明の電球切れだが、これはソケットをひねるだけで脱着できるので有難い。走行距離計の不具合も割と多く、長年の間に表示部のパネルの接着が弱くなって数字が上下どちらか半分しか映らなくなることがある。表からパネルを強く押しつけると回復することもあるが、それでダメならメーターパネルを取り外し、パネル周りが緩んでいるようなら表裏からしっかり押さえつけて周囲を接着してみよう(接着剤が電子部品に付かないよう注意)。他に考えられるのは、はんだ付け部分の割れだ。はんだ付けがお手のものなら表示部周辺の割れたはんだを付け直すのがよいだろう。苦手な向きは、メーターパネルごと交換してしまうのが一番手っとり早い。
メーターパネルの取り外しはさほど難しくはない。上部2箇所を留めているトルクスボルトを抜いたら、クレジットカードのような薄いプラスチック片をパネルとクラスターの間に滑りこませて前後に動かしつつ、ボルトのはまっていた突起をつまみパネルをゆすって引き出す。パネルが欠けるか割れる恐れがあるので、決してマイナスドライバーなど固く鋭いものでこじってはいけない。パネルが引き出せたら、背面の配線コネクターを外す。コネクターを固定するプラスチックのロックが手探りで触れるはずだが、見当がつかなければ小さな鏡を差しこんで映せば構造がつかめるだろう。ステアリングホイールを外さないとパネルは外に出せないという話もよく聞くが、多少苦労はするもののクラスターとの間を何とか通して抜き出せないことはない。
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オンボードコンピューター(OBC)
メーターパネルの走行距離計と同じくOBCのモニター画面も表示が暗くなったり消えたりすることがあり、たいていは電球切れが原因なのも幸い同じだ。交換にあたっては、まずOBCをダッシュボードから取り外す必要がある。先端にテープを巻いたマイナスドライバーをOBC左右の隙間に慎重に差しこんでこじり、少し手前に出てきたら下の小物入れに手を入れ、天井に空いた穴から指を差しこみ裏側から押し出す。背面に電球が取り付けてあるので、反時計回りにひねって外す。新しい電球の取り付けは逆の手順である。
標準装着が7・8・11ボタン型OBCでも後から18ボタン型の多機能版に交換することができ、必要な部品とセットでよく売られている。
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コンフォートリレー
パワーウインドウもサンルーフも全く動かない場合、一番に疑われるのはコンフォートリレーの故障だ。ダッシュボードの左下にあるので、交換するにはまず右ハンドル車はグローブボックスを、左ハンドル車はステアリングコラム下のパネルを外す必要がある。のぞき込んでみて、61358353090または61358364690の品番が書かれた青色の四角いものが見つかればそれがリレーだ。見つけるのが一番苦労するところで、作業は抜いて新品を差すだけだ。
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集中ドアロック
ZVMとも呼ばれるE36の集中ドアロック機構は、ドアやトランクや給油口のフタの施解錠を司るだけの割には妙に複雑な仕掛けになっている。よって、調子が悪くなった場合はまず原因の切り分けが必要となってくる。
バッテリーに異常がないのに集中ロックが全く効かない場合は、まずヒューズボックスとリレーを確認しよう。いずれか特定のドアだけが効かない時はドアロックのアクチュエーター、ドアに問題がなくトランクがおかしいならトランクリッドロックのアクチュエーターが原因である可能性が高い。トランクリッドについてはアクチュエーターへの配線が断線していることもままあり、BMWも交換用の配線ハーネスを用意しているくらいだ。ドア・トランクリッドともウェザーストリップの劣化損傷により水が侵入して電気系の不具合を来すこともあるので、水漏れがないかの確認も重要である。
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パワーウインドウスイッチ・モーター
いずれかのパワーウインドウが作動しない場合は、パワーウインドウモーター故障の可能性がある。だが、そう早合点する前にまずは動かない窓のスイッチを他の窓のものと入れ替えてみよう。スイッチが壊れることも大いにあり得るし、仮にそうだったらモーターよりもはるかに安く済む。スイッチを入れ替えても動かなければ、悪いのはモーターということになる。パワーウインドウモーターにたどり着くには、ドアの内張りと防水シートを外すことになる。ドア内部に水が入ると腐食や電気系の異常を引き起こすので、水漏れがないか確認しよう。もっとも、モーターは水の影響がなくとも壊れるものではある。
モーターがリベットで固定されている場合はドリルで壊して外し、新品モーターは新しいリベットを使って固定する。内側のドアハンドルはもとよりレギュレーターから窓ガラスを外すのはなかなか苦労する。それぞれの部品がどのように付いていたか記録しながら一歩一歩進めれば、つまずきも最小限に抑えられるだろう。1つ外すごとにデジタルカメラで写真を撮っておけばまことに心強い。
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ヘッドランプ・テールランプ・フォグランプ
ヘッドランプの電球交換は、ユニットを取り外さなくてもできる。両方同時交換が原則なので、片方が切れたらもう片方も交換しよう。
ヘッドランプユニットを外すには留めている5(4)本のボルトを外すが、上側の3(2)本は見えているので問題はないだろう。下側2本の隠しボルトを外すには、まずウインカーユニットとエンジンルーム前端中央部のプラスチックカバーを外す。ウインカーユニットは内側のツメで留まっているので、ヘッドランプユニットとの隙間から差しこんだマイナスドライバーでツメの噛み合いを外して前方へ押し出す。両方とも外れたらボルトが見えるので、これらと配線コネクターを抜いてユニットを引き出す。
テールランプユニットは簡単に外せる。固定ナットはトランク内側にあるダイヤル付きプラスチックカバーの裏に隠れているので、ダイヤルを捻ってカバーを取り外す。するとナットと配線コネクターが見えるので、それらを外してユニットを取り外す。取り付けの際は締めすぎに注意が必要だ。
テールランプの端子と電球との接触は元来あまり強くないので、腐食や緩みを生じるとOBCの球切れ警告が表示される。そうなったらまず端子の状態を点検し、腐食が見られたらサンドペーパーで軽く削って均してみよう。腐食がなく緩んでいるようなら端子と電球の間に金属線を挟み込むとよいが、ショートによりテールランプのヒューズを飛ばしてしまう恐れがあるので、金属線は動いたり他の導線に接触したりしないよう注意して確実に固定しよう。
フォグランプユニットの脱着はとても簡単だ。ユニット内側に面したバンパーグリル縁の窪みからマイナスドライバーを差しこみ、ユニット裏側にある取り外しレバーを先端で探る。レバーらしきものが触れたら押しこめばユニットが手前へ外れてくる。ランプ本体をこじって出そうとしても割れるのがオチなので、絶対に行わないこと。
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エアバッグ警告灯
メーターパネルの警告灯が点灯すると、もし事故に遭ってもエアバッグが展開しないことになってしまう。これが点くのはたいていSRS (補助拘束装置)ヒューズを抜いたかステアリングホイールを交換したかシートベルトセンサーが異常かだろうが、思い当たる節がないのに点いてしまうこともある。
ECUの不調は「一旦バッテリーの接続を外せばOK」と思われがちだが、あいにくエアバッグECUのエラーには効かない。エラーの種類を特定し消去するには、ピーク・リサーチ(Peake Research)のR5/SRS型のようなスキャンツールが必要となる(訳注: 2022年6月の訳文執筆時現在、ホームページによると同社は事業を停止しているようです)。これはエンジンECU用のスキャンツールとは別物で、エアバッグECUの診断に特化したものである。
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バッテリー
E36のバッテリーは基本的にトランク内の黒いプラスチックトレーの下にあり、コンパクトではエンジンルーム内にある。バッテリーが上がる原因は放電かオルタネーターの不調である。放電の原因として最もありがちなのが灯火類の消し忘れだが、中にはグローブボックスのフタが十分に閉じきらず内部の照明が点きっぱなしになるのに気づかないような場合もある。
交換用のバッテリーとしては、BMW純正品が最もお勧めだ。確かに一般の市販品よりは高価だが品質は折り紙つきで、10年保つことだって例外ではない。
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要約
E36の電気系はひとたび病魔が巣くうと実に厄介だが、それでも全くお手上げということはない。腰を据えて問題点を見つけて原因を切り分け、具合の悪い部品を直すか交換すればよいのだ。
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Posted at 2022/06/01 17:25:57 | |
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