
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第12章 内装
E36の内装の品質には、生産が始まって間もないうちから不満の声が多く上がった。リサイクル効率を高める一方で製造コストを下げてレクサスやインフィニティといった日本製の競合車に対する価格競争力を保とうとする思惑がBMWにはあったのだが、その結果内装がちゃちなプラスチックや耐久性に欠ける素材だらけになったためだ。
そういうわけで、今日まで生き残ったE36の多くがドアの内張りは剥がれシートはすり切れ、あるいはアームレストやシフトノブが剥げてしまっていても何の不思議もないのである。年々改良が加えられたことは確かだが、それでも問題はどの年式のモデルにも生じうる。もっとも、内装の不具合は比較的簡単に解決できるのが救いである。
(項目一覧)
1. ドア内張り
2. アームレスト
3. シート・パワーシートモーター
4. イグニッションキーシリンダー
5. 電動サンルーフ
6. オーディオ
7. カーペット
8. 要約
ドア内張り
一度でもE36(の特にクーペ)に乗ったことがあれば、ドアを開け閉めするたびにガタガタと耳障りな音がするのに気づかずにはいられないだろう。ドアの内張りはパーティクルボード製の本体に固定クリップの土台となるプラスチック製のドアポケットやブラケットが接着された構造になっている。そして接着剤はいつしか剥がれてしまい、宙ぶらりんになった部品が音を立てるようになるのである。
これを直すにはまず内張りをドアから外すことになるが、最初にドアハンドルを取り囲むカバーをずらして外し、次に縁に並ぶプラスチッククリップとドアグリップ裏側のT20トルクスボルト数本を外すと取れてくる。外れた内張りにはおそらく先のプラスチック部品がぶら下がっているはずで、それが異音の原因だ。もう1つ、上辺全体にわたって黒いプラスチックの板が付いているはずだが、もしなければドアパネルの金属クリップの方にはまっているので、壊さないようにそっと引き抜こう。
次は本体とドアポケットならびにブラケット類を接着するのだが、接着剤にもいろいろ選択肢がある。ホットボンドがよいという人も多いが、私はうまくいったためしがない。工業用接着剤を勧める話も聞くが、車内に強烈な臭いが残るのが問題だ。個人的には、グラスファイバーシートとレジンが一番よかった。短冊状に切ったシートをプラスチック部品の縁に並べ、上からレジンを塗って内張り本体と接着してみたところ、これまで外れることなく強固に固定されている。接着前には部品を元通りにきちんと位置決めしないといけないが、元の接着剤の痕を頼りにすれば問題はないだろう。作業を終えていざドアを閉めてみて一切のがたつきなくバシッと閉まる音を耳にすれば、直し甲斐があったとひしひしと感じられることは間違いない。
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アームレスト
前席中央のアームレストもそのうちみすぼらしく剥げてくるが、カバーは割とお手頃に取り替えられる。取り外すには、まず後側にある灰皿の下にあるねじを抜いてカバーを外す。するとアームレストの回転軸の左右から大きなプラスチックの固定ピンが刺さっているのが見えるので、そのくぼみに細いマイナスドライバーを突っこんで固定を解除しながら引き抜くとアームレストが外れてくる。次に底面をおおうプラスチック板の固定ねじに付いたキャップを小さなマイナスドライバーでこじって外し、ねじもゆるめて外せば、古いカバーを剥ぎ取れる。新品のアームレストカバーはBMW部品専門店にも売っているが、内装修理業者で誂えてもらうこともできる。新品カバーは芯のフォーム材とプラスチックに内装用接着剤や両面テープで固定できる。
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シート・パワーシートモーター
E36の布シート(特に初期のモデル)の品質はBMWの名がすたるレベルだったが、それもこれもBMWが低コストとリサイクル性を優先した結果である。シート地がすり切れて穴が空いてしまったら、布地を張り替えるか中古品に交換することになる。前席シートの取り外しは、基本的にはシートレールを床に固定する4本のボルトを外すだけである。他にシートベルトアンカーやパワーシート(装備車)の配線も必要に応じて外す。
革シートの品質は布よりはるかに優れるが、やはりいずれは古びてくる。革そのものに傷みがなければ、皮革用のクリーナーやクリームで見栄えはよくなるだろう。穴や裂け目まではなくとも表面が傷んでいる場合は、皮革用の弾性塗料で塗りなおしてもよい。純正の革内装色に合わせて調合した塗料をネット販売する内装専門業者もいるくらいだ。もし傷み具合がちょっとやそっとではなければ、張り替えるか小ぎれいな中古シートを探すしかない。
E36のパワーシートはそれなりに壊れる。ヒューズや配線の問題でなければ、モーターか可動部のギアの問題が考えられる。ボタンを押してもシートが動かずモーターの作動音すらしないなら、片方あるいは両方のモーターがダメになっている。音はすれども動かないなら、可動部のギアが壊れている。パワーシート関係の部品は割と高くつくので、シート自体も古びているならちゃんと動く程度のいい中古品と交換する方がよいだろう。
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イグニッションキーシリンダー
長く使えばあちこち消耗して不調になるのは仕方ないのだが、それにしてもこればかりは許しがたいという不具合がE36にはある。エンジンをかけようとキーを回しても空回りするだけでエンジンがかからないという事態だ。これはシリンダー内部にある突起が壊れるのが原因だ。古いシリンダーを抜いて新品を取り付けるのがさほど難しくないのは幸いだが、クルマに合うシリンダーを手に入れるにはBMWディーラーに行って所有者であることを証明しないといけない。古いシリンダーは外周にあるくぼみにヘアピンを差しこんでこねくり回せばロックが外れて引き出せる。イモビライザーが付く後期モデルではキーシリンダーにかぶさるリングアンテナを先に外さないといけないが、これはマイナスドライバーを裏側に突っこんでそっとこじるだけだ。
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電動サンルーフ
サンルーフが腐食したり損傷で動かなくなったりした場合は、第4章でも述べたとおりユニットごと新品に交換した方がよいだろう。ただ見た目に何ら問題がないのに開閉できなくなったという場合は、2つの原因が考えられる。1つは第11章で述べたコンフォートリレーの不具合である。リレーやヒューズに異常がなければ、サンルーフモーター自体の異常が疑われる。サンルーフスイッチが付く天井前方の小さなフタを外せばモーターが見えるので、あとは取り外して交換するだけである。モーターが動くのに開閉しない場合は、ルーフを動かすケーブルまたはガイド部分が壊れていると考えられる。これについてはBMWも認識しており、修理キットが用意されている。チルト用のレバーなどは車載のままで交換が可能だが、全体像を把握するために車外に出して修理する場合もある。
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オーディオ
たいていのE36はオーディオヘッドユニットが社外品に換わっているが、それには理由がある。アルパイン製の標準装備品がろくでもない代物なのだ。テープデッキは壊れて表示は映らなくなる上に、肝心の音質も全く大したことがない。本書はなるべく新車の状態に近づける方法をご紹介するものだが、これについては壊れてしまったら他のよくできた社外品に交換することをお勧めしたい。
純正ヘッドユニットの取り外しは簡単で、左右の突起を手前に引っぱり、その下のねじを抜いたらユニットを引き出し、配線とアンテナの接続を外すだけだ。社外品の取り付けには通常配線アダプターが必要になるが、機能も品質も優れた社外ヘッドユニットなら音質も向上するのみならず、純正品について回る暗証番号の面倒臭さからも解放してくれる。
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カーペット
E36のフロアカーペットは品質的に悪いところはないが、巷のクルマと同じくところどころ粗が出てくることもある。まずほとんどは上にフロアマットも敷いてあるはずなので、カーペットの交換が必要になることはそうない。とはいえ、マットを敷かずに使っていたとかサンルーフからの雨漏りでダメになったという例外的な場合では交換も考えられる。
交換にあたってはシート・サイドシルカバー・キックパネル・センターコンソールを外す必要がある。再び戻すときに困らないよう、外したボルトやナットはきちんと仕分けして場所をメモしておこう。
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要約
ドア内張り・シート・アームレストといった部品の取り外しは往々にして面倒なものだが、ひとたび修理あるいは交換して新車並みの風体になるのならそれだけのことはあるだろう。
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Posted at 2022/06/03 17:11:54 | |
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