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2022年05月29日 イイね!

(E36レストア本和訳) 第10章:燃料系

(E36レストア本和訳)  第10章:燃料系E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。

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第10章 燃料系

 歴代3シリーズで初めて電子制御燃料噴射装置(EFI)を全車に装備したのがE36だ。EFIとは、無駄に燃料を消費することなくエンジンの能率と性能を最大限に引きだすために、吸気系と排気系に備わるセンサーから得た情報を元に燃料噴射量を調節する装置である。

 これを司る装置はECU(電子制御装置、エレクトロニック・コントロール・ユニット)の名称で広く知られているが、BMWの世界ではエンジン用の主要ECUのことを一般に「デジタル・モーター・エレクトロニクス」の略である「DME」と呼ぶ。DMEが不具合を起こす最大の原因は、以前にも述べたとおり格納部への浸水である。

 全車がEFI仕様となるE36では、エンジン警告灯が点灯する原因を診断装置(スキャンツール)で読み取ることができる。対応する製品は多数あるが、BMWファンの間で一番の支持を受けているのはピーク・リサーチ(Peake Research)製のツールだ。中でも例えばR5 FCX-3型は、DIY指向ユーザー向けの初めてのスキャンツールとして最適といえる。念のために申し上げておくが、私は同社の回し者ではない。本当に優れた製品なのだ(訳注: 2022年5月の訳文執筆時現在、ホームページによると同社は事業を停止しているようです。訳者はR5 FCX-3と機能的に全く同等のGunson社製ツール77083を購入しましたが[整備手帳]、こちらはまだ販売しているようです[商品ページ])




(項目一覧)
1. エンジンECU(DME)
2. 燃料タンク・ポンプ
3. 燃料フィルター
4. エアフィルター
5. スロットルポジションセンサー(TPS)
6. エアマスセンサー(MAF)
7. O2センサー
8. 燃料ホース
9. 要約



エンジンECU(DME)
 DMEはエンジンルーム後端のバルクヘッドに付いたゴム製カバーの裏側に格納されている。上述したように、故障を起こす最大の原因は外気取入口から侵入する水だが、基板のはんだ付けが割れて動かなくなる場合もある。そうめったに壊れるものではないが、バッテリーに問題がないのにクルマがうんともすんとも動かず、スキャンツールでの診断にも反応しない場合はDMEが怪しい。

 一目散にDMEの取り外しにかかる前に、まず試しにヒューズボックスにあるDMEリレーを交換してみよう。これでダメなら、新しいDMEを接続してエンジンがかかるか確かめることになる。高価な新品に手が出ないなら、多く出回る動作確認済みの中古品という手もある。

ボッシュ・モトロニックDME燃料噴射装置諸元


ガソリン
M40型 : Bosch DME M1.3 fuel injection
M42型 : Bosch DME M1.7 fuel injection
M43B16/B18型 : Bosch DME M1.7.1 fuel injection
M44型 : Bosch DME M5.2 fuel injection
M50型 : Bosch DME M3.1 (1992)・Bosch DME M3.3.1 (1993-1995)
S50B30US型 : Bosch DME M3.3.1
S50B30型 : Bosch DME M3.3

ディーゼル
M41型 : Bosch DDE 2.1
M51型 : Bosch DDE 2.1

シーメンス燃料噴射装置諸元


M43B19型 : Siemens BMS 46
M52型 : Siemens MS 41.1
S52B32型 : Siemens MS 41.1
S50B32型 : Siemens MS S50

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燃料タンク・ポンプ
 E36の燃料タンクは後席座面の下にあり、材質は金属ではなくプラスチックである。意外に思われるかもしれないが、昔の金属製のように腐食して漏れたりしないプラスチック製の方が好都合なのだ。よってタンク交換が必要となることはまずない。E36で燃料漏れや臭いの起こる原因としては、ホースから漏れている可能性の方が大きい。

 キーを回してスターターが回っているのにエンジンが始動しない場合は、後席下にある燃料ポンプから作動音がするか確認しよう。スターターを回しても何も音がしないなら、燃料ポンプが故障している疑いが濃い。ポンプは後席座面を引っ張って外したらその下の車両右側にあり、手を入れやすいのは有難い。ポンプを固定するリング状のねじを回して外すには、専用工具があると便利だ。燃料系周りの整備を行うときの注意点はまず換気を良くし、火花や火気を避け、もちろんバッテリーの端子は外しておくことだ。固定リング・配線・燃料ホースを外したら、古いポンプを取り出して新品を取り付ける。
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燃料フィルター
 車両床下の左側にある燃料フィルターは、およそ30,000-50,000マイル(約50,000-80,000km)で交換が必要となる。もし見つけにくい場合は、ゴム製の燃料ホースを見つけてそこからたどっていくと良い。あまり気の進まない作業ではあるが、工程は単純だ。ここでも換気を良くし、火気厳禁を守ろう。また、燃料タンクは空にとまでは言わないがなるべく空に近くしておこう。
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エアフィルター
 エンジンのエアフィルターは20,000-30,000マイル(約30,000-50,000km)ごとに交換が必要だ。ほこりっぽい環境なら、15,000マイル(約25,000km)かそれ以下で換えた方がよい。オイルを染みこませた綿ガーゼ製で再利用が可能な湿式のフィルターはよく話題になるが、そのオイルが吸気量センサーに付くと誤作動を起こしかねないので、一般的な紙製のものを勧めたい。フィルターの交換は全く簡単だ。4気筒車ではクリップで留まっているカバーを外して古いフィルターを取り出し、格納部の中を掃除して新しいフィルターを入れる。6気筒車ではカバー両側のツメを広げて持ちあげるとフィルターごと取り出せるので、あとは新品に取り替えて格納部に戻すだけだ。
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スロットルポジションセンサー(TPS)
 その名の通り、スロットルボディに付いていてスロットル開度を読み取るセンサーである。これが不調になるとアイドリングで回転が安定しなくなる。ボルトを2本外せば取れるので交換もまあ簡単だ。アイドリングが不安定でスキャンツールで異常が検出されない場合は、アイドルコントロールバルブ(ICV)も調べてみよう。また、スパークプラグの異常でもアイドリングが不調になり得る。
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エアマスセンサー(MAF)
 エアマスセンサーは、エンジンの吸気量をDMEに伝えるセンサーである。TPSやICV同様、これが不調になるとアイドリングが不安定になる。原因としてよくあるのが、性能向上のための改造である。上述のように、湿式エアフィルターのオイルがセンサーを汚すのだ。

 エアマスセンサーの清掃・交換は簡単だ。ねじをゆるめて吸気管から取り外し、清掃するなら接点清浄剤かエアマスセンサー用クリーナーをスプレーする。センサー感知部は拭き取ることはおろか、指で触れるだけでも汚れが問題となるのでご法度だ。エンジン不調の原因をエアマスセンサーに絞り込めているのに清掃しても改善がみられないなら、新品に交換しよう。
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O2センサー
 燃費が悪くなってきたという場合、E36ではO2センサーの不具合が原因のことが多い。1996年以降のモデルではセンサーの数が増えており、例えば6気筒車では4個付いている。燃費悪化が主な症状だが、エンジン警告灯が点く一番の原因でもある。排気マニホールドのセンサーは100,000マイル(約160,000km)、床下に付くものは170,000マイル(約270,000km)保つとされる。
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燃料ホース
 強烈な燃料臭がする場合はたいてい、長年の間に硬化して割れてしまったゴムの燃料ホースから漏れているはずだ。1箇所でも漏れが見られたら他の箇所も早晩漏れる恐れがあるので、ゴム製の部分はすべて取り替えてしまおう。
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要約
 メーターパネルの警告灯点灯は目障りだが、どこかが何かしら悪そうだとしかわからないよりははるかに良いだろう。ある程度腰を据えてE36に乗り続けるつもりなら、良質のスキャンツールを1台持っておいた方が長い目で見ても頭痛の種を確実に減らせることだろう。
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Posted at 2022/05/29 12:09:06 | コメント(0) | トラックバック(0) | E36レストア本和訳 | クルマ
2022年05月28日 イイね!

(E36レストア本和訳) 第9章:冷却・空調系

(E36レストア本和訳)  第9章:冷却・空調系E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。

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第9章 冷却・空調系

 これまで述べてきたとおり、E36の悩みどころは冷却系だ。ここをやり直した履歴のないクルマで心配の種を一掃するには、部品という部品を改良版に入れ替えるしか手はないだろう。




(項目一覧)
1. サーモスタット(含むハウジング)
2. ウォーターポンプ
3. ラジエーター・エキスパンションタンク
4. 冷却系の空気抜き
5. 冷却ファン・ファンクラッチ・「ファン撤去改造」
6. ファイナルステージユニット
7. エアコン
8. 補機ベルトプーリー
9. エアコンフィルター
10. 要約



サーモスタット(含むハウジング)
 これも既述のとおり、サーモスタットは開閉いずれの状態でも固着しうる。これが収まるハウジングも、プラスチック製のものは破損するおそれがある。ちっとも暖房が効かない(開いたまま固着)とかエンジンがオーバーヒートする(閉じたまま固着)場合はサーモスタット交換となる。いずれの場合もどうせハウジングは外すことになるので、プラスチックの純正品が付いていたらついでにBMW部品専門店でいくらでも売っているアルミ製の社外品に交換してしまおう。

 サーモスタットの交換は特に難しくはない。まずラジエーター下の排出口のプラグを外して冷却水を抜き、冷却ファンとシュラウドを外す。ファンを外すときはファンクラッチを緩める32mmレンチはもちろん、軸が共回りしないようにプーリーを固定する専用工具があった方がよいだろう。また逆ねじで留まっているので、外すときは時計回りに回すこと。ファンが外れたらハウジングを外し、中のサーモスタットを取り出す。新品を入れるときは、元の部品と同じ向きに入れるように注意しよう。
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ウォーターポンプ
 E36のウォーターポンプは、すぐに壊れる災いの元という悪評がとどろき渡っている。既に述べたように1997年中頃までの製品はインペラーがプラスチック製で、割れて砕けると冷却系をメチャメチャにしてしまうのだ。

 交換作業は冷却系全般に共通するところが多い。ラジエーターから冷却水を抜き、ファンとシュラウドを外し、アッパーホースとサーモスタットハウジングを取り外し、補機ベルトとウォーターポンプのプーリーを取り外す。ポンプ本体が出てきたら、シリンダーブロックに固定するボルトを抜いてゴムハンマーで軽く叩いてみる。これだけで外れてくれば幸いだが、中には発破でもかけたくなるほど頑として外れないこともある。固着でどうにもならなければ、プーラーの力を借りよう。
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ラジエーター・エキスパンションタンク
 E36のラジエーターはアルミ製の本体とプラスチック製の端部との接続部から冷却水が漏れたりエキスパンションタンクが割れたりすることがあるが、両方とも総アルミ製のものに取り替えてしまえば怖いものなしだ。部品さえ揃えば、交換作業そのものは大したことはない。ラジエーターから冷却水を抜いたらつながったホース・センサー・配線類やATFクーラーなどとの接続を全て外す。続いて本体を固定するプラスチックリベットを慎重にこじって抜き、ラジエーターを取り出す。あとは新品を取り付けて外したものを元通り取り付け、回路に冷却水を満たそう。

 これだけは言っておきたいのだが、ラジエーターから水が漏れているからといって冷却水に混ぜる漏れ止め剤の類は絶対に使ってはいけない。たとえ一時的に漏れが止まっても、ゆくゆくは粘性の高い成分が冷却系のどこかを詰まらせかねない。
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冷却系の空気抜き
 冷却水は、BMW純正冷却水の原液と蒸留水を同量ずつ混合したものが最適だ。レッドラインの「ウォーターウェッター」のような添加剤を入れてみるのもいいだろう。水温が下がるとしてこの手の添加剤を推奨する愛好家も多い。

 エンジンが冷めた状態で空気抜き口のねじを緩め、エキスパンションタンクの「KALT(冷間)」印まで冷却水を注ぐ。次にイグニッションキーを回してアクセサリー電源を入れ(エンジンは始動しない)、ヒーターのスイッチを入れて温度を最高に、風量を最低に合わせる。冷却水を注ぎ足し、空気抜き口からの泡が止まりきれいな液体しか出なくなったら空気抜き口を元通り閉め、エンジンをかけて冷却水を温める。

 水温が適正まで上がったら、エンジンを停止して冷めるのを待つ。十分に冷めたら冷却水量を確認し、水を注ぎ足して再度空気抜きを行う。完全に空気を抜くには数回繰り返さないといけないことが多いが、車両の前部を持ちあげて行うと空気が上がりやすくなり抜けが早くなる。

冷却水容量諸元


4気筒エンジン全機種 : 6.5L
M50/M52型6気筒エンジン : 10L
S50/S52型6気筒エンジン : 10.5L
*BMW純正冷却水と蒸留水を同量混合

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冷却ファン・ファンクラッチ・「ファン撤去改造」
 クランクシャフト駆動冷却ファンの交換は、何も恐れることはない。アイドリングで水温が上がりすぎるなら、怪しいのはサーモスタットかファンクラッチだ。ファンクラッチの交換には32mmのスパナとプーリー固定器具が必要になる。サーモスタットの交換は既述のとおりエンジン前部のサーモスタットハウジングを取り外して行う。E36オーナーにとってはまことに腹立たしいことだが、ウォーターポンプのベアリングが壊れてファンの回転がぶれるとラジエーターにぶつかって壊してしまう場合がある。そうならないようオイル交換の時は必ずファンの状態も点検し、もろくなっていたり羽根に割れや欠けがあったりしたら交換しよう。またファンを前後に揺すってみてガタがあるようならウォーターポンプのベアリングがへたっている証拠なので、ウォーターポンプも早急に交換が必要だ。

 壊れたファンの被害を蒙ったマニアの中にはファン自体の撤去に踏みきる人もおり、そのためのキットもBMW部品専門店で売っている。これはもともとクランクシャフト駆動のファンにエンジンパワーを取られるのを嫌ったレースチームが発案したものだ。ファンなしで冷却水温を正常に保つには以下の事項を絶対に守ってほしい。もし端折ったりすれば地獄を見ることになるだろう。
 作業は、まずエンジンを冷まして冷却水を抜くことから始まる。次に32mmのファンクラッチボルトを(逆ねじなので時計回りに)緩めてファンを外す。この際、ウォーターポンププーリーが共回りしないよう専用工具で固定しておく。次にサーモスタットハウジングを外し、サーモスタットを取り出して開弁温度80℃のもの(BMW品番11531466174)に交換する。既に述べたように、プラスチック製のハウジングはここでアルミ製の社外品に交換しておくのがよいだろう。ラジエーターの側面に付くファンスイッチも80/88℃仕様(BMW品番は1995年9月以前のモデルが61318361787・それ以降が61318376440)に交換するが、取り付けるときは締めすぎに注意が必要だ。取り付けが完了したら、2倍希釈したBMW純正冷却水で回路を満たす。そして最後に大事なポイント、レッドラインのウォーターウェッターだ。これを2本冷却水に入れておけば、オーバーヒートは避けられるだろう。
 大方の想像とは異なるだろうが、この改造はまったく珍しいものではない。正しい種類のサーモスタットとスイッチを付けてウォーターウェッター2本を入れておけば、オーバーヒートとはまず無縁だ。
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ファイナルステージユニット
 E36には、オーナーを一瞬にして混乱に陥れるものがある。「エンジンをかけ、エアコンのスイッチを入れても…何も起こらない」という現象だ。とはいえ原因はほとんどの場合ファイナルステージユニット(ブロアモーターレジスター)で、これなら幸い大したことではない。「ヤマアラシ」とか「ハリネズミ」の異名を取るこの部品は、ダッシュボード下でセンターコンソールの奥にある空調ユニットケースに左側から差しこまれている。左ハンドル車なら、運転席に座った右足の右側だ。ステアリングコラム下 (左ハンドル車)もしくはグローブボックス下(右ハンドル車)のパネルを外せばたどり着けるが、奥まった狭いところなので見にくいかもしれない。

 交換は、固定するトルクスボルトを外して(訳注:デジタル操作式空調となる後期型のみ)古い部品を引き出し、コネクターを外す。あとは新しい部品で逆の手順を行う。デジタル操作式空調システムが付くモデルでは、X5や5シリーズ用のようなより耐久性の高い改良版を流用するのがよいだろう。

注意: ダッシュボード下のパネルとボルトを外すだけとはいえ、狭い奥まった場所なので手が入りにくいかもしれない。作業自体は単純ながら、サイドシルの上に腹這いになる無理な体勢を強いられる。腰が悪いなどで作業姿勢が体の負担となる場合は、無理をせずに整備工場にお任せしよう。
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エアコン
 エアコンからまったく風が出ない場合は、ファイナルステージユニットの故障が考えられる。風は出るが冷たくならないなら、冷媒不足かコンプレッサーの異常だろう。冷媒補充もコンプレッサーの交換も危険と隣りあわせの作業なので、信頼のおける専門家にお願いしよう。
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補機ベルトプーリー
 E36では補機ベルトプーリーにも言いたいことがある。他の多くのエンジン周りの部品と同じくこのプーリーもプラスチック製で、いともあっけなく割れて砕けてしまうのだ。壊れたときのベルトや補機類の交換の手間を考えると、プーリーは見た目が怪しくなってきた段階で早めに交換した方がよいだろう。アルミ製の社外品は高価だが、根本的な対策にはなる。
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エアコンフィルター
 本来30,000マイル(約50,000km)ほどで換えるべきエアコンフィルターの交換は簡単でなければいけないはずなのだが、E36では場所が悪いせいで交換されないままになっているクルマも非常に多い。
 エアコンフィルターは空調からきれいな風を室内に送るために取り入れた外気に混ざったホコリや花粉や悪臭の元となる異物などを捕らえてくれるものだが、あろうことかBMWはこれをダッシュボード中央下にある空調システムのケースの奥深くに隠してしまった。ファイナルステージユニットもこのケースに付くが、フィルターは右側から入っている。ステアリングホイール位置の左右にかかわらず、交換には無理な体勢を強いられる。フィルター格納部のフタを外すには左ハンドル車ではグローブボックスを外す必要があり、また右ハンドル車ではステアリングコラム下のパネルを外すのみならずペダルが邪魔をする。

注意: ファイナルステージユニットと同じく、エアコンフィルターの交換は人によっては苦しい姿勢となる。腰や背中が悪い人は、無理をせずプロにお願いしよう。
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要約
 純正のラジエーター・サーモスタットとそのハウジング・冷却ファンはE36の全モデル最大の弱点だが、ひとたび改良品に交換してしまえば実用上の問題から解放されることは救いである。
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Posted at 2022/05/28 12:59:36 | コメント(1) | トラックバック(0) | E36レストア本和訳 | クルマ
2022年05月26日 イイね!

(E36レストア本和訳) 第8章:エンジン

(E36レストア本和訳)  第8章:エンジンE36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。

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第8章 エンジン

 E36のガソリンエンジンは、どれも回して楽しめるものばかりだ。6気筒は概して機械的に丈夫だが、ヘッドガスケットが問題視される4気筒の評判は芳しくない。だが、それは実のところM42型エンジンのタイミングケースプロファイルガスケットが欠陥品というだけの話であって、他の部分の信頼性は6気筒に何らひけを取らない。




(項目一覧)
1. (4気筒エンジン) M40/M42型
2. M42型エンジンのプロファイルガスケット交換
3. M43/M44型
4. (6気筒エンジン) VANOSとは
5. M50型
6. M52型
7. M3用エンジン
8. 6気筒エンジンのオイルポンプナット問題
9. タイミングチェーン
10. タイミングチェーンテンショナー
11. VANOSの整備
12. VANOSはオーバーホールか交換か
13. カム角センサー
14. ディーゼルエンジン
15. 要約



4気筒エンジン

M40/M42型

 基本的にはともにE30型3シリーズから継承されたエンジンで、同じ基本構造ながらM40型は8バルブSOHC、M42型は16バルブDOHCのカム駆動系をもつ。M40型は1990-1992年モデルの欧州仕様316(M40B16)・318(M40B18)に、M42型は1992-1995年モデルの北米仕様318・318tiと欧州仕様の318is(M42B18)に設定された。機構的な共通点も多いのだが、BMW愛好家からの情熱には明らかに差がある。
 M40型の性能はE36のガソリンエンジンでは最も控えめで、重くなったE36を元気よく走らせるには心もとない。カム駆動にチェーンではなくゴム製のタイミングベルトを使っているのも弱いところで、カムシャフトも摩耗しやすく、タペット交換の間隔も比較的短い。

 先代E30型の318isでお目見えしたM42型は同じE30型M3のS14型に次ぐスポーティなエンジンとして好評だったが、車重の増えたE36では大人しく感じられる。カム駆動がM40型のようなベルトではなく耐久性のあるチェーンなのは有難いところだが、こちらはヘッドガスケット不良という悪評がある。ただ、これは実際にはエンジン前方のタイミングケースに付くプロファイルガスケットの不良である。この不具合は1993年9月以前の生産分のみと言われているが、私の知るところではどの年式のクルマにも起こっている。
 エンジン冷却水が減り続けてしょっちゅう足さないといけないような場合は、このプロファイルガスケット異常の疑いがある。解決法は、ガスケットをより耐久性のある対策品に交換することだ。M42型エンジンを積むE36の車齢を考えればまずたいていは既に対策がなされている可能性が高いが、該当車をお持ちならこの件の整備記録が存在するかどうかはぜひとも確かめておきたい。

 始動時のカチカチ音も、M42型にはよくある問題だ。M40型ならあまり考えたくないバルブタペット劣化の可能性も考えられるが、M42型の場合はタイミングチェーンテンショナーの劣化によることがほとんどだ。
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M42型エンジンのプロファイルガスケット交換
 上述のとおり、M42型でヘッドガスケット関係の不具合を起こすかなりの原因はタイミングケースプロファイルガスケットの欠陥である。プロファイルガスケット・ヘッドガスケットの部品価格はそう大したことはないのだが交換作業がきわめて大がかりとなるのが難点で、整備工場に頼めば車両価値に匹敵する工賃を請求されかねない。一度新しい改良版ガスケットに交換してしまえば未来永劫にわたりまず心配はいらなくなるのがまだしもの救いだ。

 作業は基本的にヘッドガスケット交換と同じなので、シリンダーヘッドを外さなければどうしようもない。さほど難しくはないが、面倒ではある。バッテリーの接続を外し、冷却水を抜き、ヘッドに付くものは全て外す。手が入りにくくガッチリ留まっているエキゾーストマニホールドのボルト外しが一番手間取るところかもしれない。他には、負圧ホースやエアクリーナーケース、ラジエーターのアッパーホース、サーモスタットとハウジング、イグニッションコイルとプラグコード、スパークプラグ、バルブカバーとインテークマニホールドといった諸々を外す。

 外すべきものがヘッドから外れたら、クランクシャフトを1番シリンダーのピストンが圧縮上死点(TDC)に来るように合わせる。このとき、1番シリンダーの吸排気カムが向き合うこととカムスプロケットの目印が両者とも12時(シリンダー長軸)方向を指すことを確かめる。ここでクランクシャフトとカムシャフトを専用工具(それぞれ品番112300・113240)で固定するが、作業終了時には取り外すのを忘れないこと。固定できたら、チェーンテンショナーを外してチェーンをスプロケットから取り外す。そしてE12トルクスソケットを用い、ヘッドボルトを取り外す。ヘッドのゆがみを防ぐため、ボルトは星形の順序で2-3回転ずつ緩めていく。

461082
M42シリンダーヘッドボルト解除順
17953

 ヘッドはすんなり外れてくれないこともあるので注意が必要だ。外れてくる様子がなければ、まずはボルトが全て抜けているか確認しよう。本当に固着しているなら、ゴムハンマーで軽く衝撃を与えてみよう。ヘッドやブロックを損傷する恐れがあるので、決してこじってはがしてはいけない。うまく外せたら、ヘッドは傷つかないようペーパーウエスを敷いた作業机に逆さまに置いておく。ここで、ヘッドに歪みがないかストレートエッジを使って簡単に確認しておくのがよいだろう。ブロックとの当たり面が平滑なら問題はないがさもなくばオーバーヒートで歪んだということなので、ヘッドを機械加工業者へ面研に出すか交換することになる。歪みが軽度なら面研で回復可能だが、加工できないほど重度なら根本解決は交換しかない。

 正直言って取り外しが大変なのは間違いないが、それに比べれば新しいガスケットを組みこんで外した部品を戻していくのはずっと順調にいくだろう。まず、ヘッドとブロックに張りついた古いガスケットのカスを、傷を付けないよう注意して取り除く。位置決めの印を合わせてヘッドガスケットをブロックに置き、前方にプロファイルガスケットを付ける。ヘッドを戻したときにピストンとバルブが干渉しないよう、クランクシャフトの固定具を外して45°反時計回りに回転させピストンをすべてシリンダー内に収める。ヘッドをブロックに組み付けてボルトで固定したら、再びクランクシャフトをTDC位置まで戻す。ヘッドボルトは新品を用いて仕上げは指定の順番通りに30Nmで締めつけ、それからクランクシャフトとカムシャフトの固定を外す。

75139
M42シリンダーヘッドボルト締結順
104268

 残りの手順は取り外しの逆である。工程の多い大仕事だけに必ず一つ一つ確認しながら進めていき、戻し方を間違えないように必要なところは写真を撮っておこう。

M40/M42型エンジン諸元


M40B16 : 1990-1992 316i: (1596cc / 102bhp / 14.5kgf-m)
M40B18 : 1990-1992 欧州仕様318i: (1796cc / 115bhp / 16.8kgf-m)
M42B18 : 1992-1995 北米仕様318i/is・欧州仕様318スポーツ/318ti: (1796cc / 138bhp / 17.8kgf-m)

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M43/M44型
 BMWの直列4気筒エンジンはこのM43/M44型でまた一つ進化を遂げた。先のM40/M42型と同様にM43型は8バルブ、M44型は16バルブとなる。M43型は1994年以降の欧州仕様316(M43B16・M43B19)・318(M43B18)に、M44型は1996-1999年モデルの北米仕様318・318tiと欧州仕様318is(M44B19)に設定された。従来型からは性能・信頼性とも進化しているが、朗報なのはM40型でベルト式だったカム駆動がM43型ではチェーン式に改められたことだ。E36全般に共通する冷却系の問題を除けば、M43型の信頼性はかなり高い。M44型はM42型の環境性能を高めたもので、これも信頼性は向上している。両者に共通する唯一の実質的な弱点がアイドルコントロールバルブ(ICV)だ。標準装着品は製造上の欠陥があるため壊れやすく、そうなると始動性の悪化あるいは始動不可を招いたりアイドリングが不安定になったりすることがある。

M43/M44型エンジン諸元


M43B16 : 1993-1999 316i・316iコンパクト: (1596cc / 102bhp / 15.3kgf-m)
M43B18 : 1993-1995 欧州仕様318i: (1796cc / 115bhp / 17.1kgf-m)
M43B19 : 1999-2000 316iコンパクト: (1895cc / 105bhp / 17.0kgf-m)
M44B19 : 北米仕様318i/is・欧州仕様318スポーツ/318ti: (1895cc / 138bhp / 18.4kgf-m)

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6気筒エンジン

VANOSとは

 以後の本章で頻出する「VANOS」について、まず軽くまとめておこう。これは可変バルブタイミング機構のBMW式の呼称で、E36の6気筒ガソリンエンジンのほとんどに採用されている。カムシャフトの位相を6°の範囲で前後に動かすことで(訳者調べ:M50TU型は12.5°差の2段階切り替え)、全回転域での性能向上をもたらした。VANOSの機構はシリンダーヘッドの前面にあり、ソレノイドと油圧ギアで構成されている。エンジンECU(DME)の制御でソレノイドが作動すると油圧のかかったギアが内外へ動き、カムシャフトのスプロケットを周方向に動かすことでバルブタイミングが変化する仕掛けである。吸気側カムのみが可変式のものはシングルVANOS、吸排気カム両方が可変式のものはダブルVANOSと呼ばれる。名称の由来は可変カムシャフト制御を意味するドイツ語「Variable Nockenwellen Steuerung」の略である。
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M50型
 M50型は1991-1994年モデルの320(M50B20/M50TUB20)・325(M50B25/M50TUB25)に設定された他に、少数ながらアジア・オセアニア向けにタイで生産されたM50B24型という機種もあった。このうち、VANOSが採用されたのは技術進化版(Technically Updated)を意味する「TU」が型式名につく機種である。E36のエンジンはどれもウォーターポンプ不良の問題がつきまとうが、中でもM50型はもはや朝飯前といってもよいほど当たり前に起こる。

 1992年1月から1994年8月までに生産された(ほぼ全ての)VANOS付きM50型には、冷間時に始動不良となる問題があった。これはDMEのプログラムの不具合が原因でソフトウェアの更新により対策されているので、ディーラーでバージョン5.1以上のソフトに書き換えてもらうとよい。前輪ストラットタワー近くに対策済みであることを示すステッカーがあれば確認できるが、なくても最寄りのディーラーで記録を参照できるはずなので尋ねてみてもいいだろう。

M50型エンジン諸元


M50B20 : 1991-1992 320i: (1991cc / 150bhp / 19.4kgf-m)
M50TUB20 : 1993 320i: (1991cc / 150bhp / 19.4kgf-m)
M50B24 : 1993-1997 タイ生産車: (2394cc / 188bhp / 24.5kgf-m)
M50B25 : 1991-1992 325i/is: (2494cc / 189bhp / 25.0kgf-m)
M50TUB25 : 1993-1995 325i/is: (2494cc / 189bhp / 25.4kgf-m)

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M52型
 1994-1999年モデルの320(M52B20)・323(M52B25)・328(M52B28)に設定されたM52型は、当時の標準モデル用直列6気筒の最終進化版だった。M50との共通点は多いが、より大きなトルクと低排出ガス性能を実現している。

 1998年3月以前に生産された欧州仕様M52搭載車には、ガソリンに含まれる硫黄がアルミ製のシリンダーブロックを腐食してしまう問題があった(北米仕様は鋳鉄製ブロックなので影響はない)。もし該当車をお持ちなら、これによる圧縮抜けを生じていないか一度調べておいた方がよいだろう。他にも、このエンジンは製造時のアイドラープーリーの組み付け不良で補機ベルトから異音を生じることもある。

M52型エンジン諸元


M52B20 : 1994-1999 320i: (1991cc / 150bhp / 19.4kgf-m)
M52B24 : 1996-1999 タイ生産車: (2394cc / 181bhp / 24.5kgf-m)
M52B25 : 1996-2000 323i/is・323ti: (2494cc / 168bhp / 25.0kgf-m)
M52B28 : 1996-2000 328i/is: (2793cc / 190bhp / 28.5kgf-m)

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M3用エンジン
欧州仕様: S50 3.0L(S50B30)・S50 3.2L(S50B32)
 1993-1995年モデルの欧州仕様M3に設定された3.0LのS50B30型は基本的にM50型の超高性能版で、気筒別のスロットルボディや吸排気効率の高いVANOS付きシリンダーヘッドを奢られている。それをさらに過激にしたのが1996-1999年モデルのS50B32型で、3.2Lへの排気量増加はもとよりさらなる圧縮比の向上や吸排気バルブの軽量化ならびにダブルVANOSが大きな特徴だ。両者とも容赦なく高回転域を多用してもまったく苦にしない頑丈なエンジンで、それどころか回すのをせがんでくるかのようである。VANOSのオーバーホールが必要となる頻度もM50型と変わりなく、性能も構造も思い切り強化したM50型とみてよいだろう。

北米仕様: S50 3.0L(S50B30US)・S52 3.2L(S52B32US)
 1995年モデルの北米仕様M3に設定されたS50B30US型はM50型を基本に3.0L化したという点では欧州仕様と共通だが、より大きな利幅を目論んだこちらは低コストで仕立てられている。例えば、吸気系が欧州版のようにスロットルが気筒別に独立した複雑なものではなくM50型と同じ仕様となるのが大きな違いだ。1996-1999年モデルの北米仕様M3に設定されたS52型は同じ北米仕様の鋳鉄ブロック版M52型の焼き直しで、高リフトのカムシャフトや出力指向のECUが付くなどの違いがある。

 一般的な弱点はベースのM50/M52型と同様で、冷却系では1997年初期までのモデルでウォーターポンプのインペラーがプラスチック製になることや、ラジエーター・サーモスタットとそのハウジング・冷却水ホースあたりだ。VANOSの修理や交換の時期もベースエンジンと同じようにやってくるし、カム角センサーも故障しやすい。

M3用エンジン諸元


S50B30US : 1995 北米仕様: (2990cc / 240bhp / 31.1kgf-m)
S52B32 : 1996-1999 北米仕様: (3152cc / 240bhp / 32.6kgf-m)
S50B30 : 1993-1995 欧州仕様: (2990cc / 286bhp / 32.6kgf-m)
S50B32 : 1996-1999 欧州仕様: (3201cc / 321bhp / 35.7kgf-m)

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6気筒エンジンのオイルポンプナット問題
 E36型M3の6気筒エンジンはどれも信頼性が高く丈夫だが、ガンガン走らせるドライバーにとって一番気になるのはオイルポンプの軸を留めるナットだ。M3のみならずE36の6気筒MT車で存分に力を引きだすような走り方をしていると、逆方向のトルクがかかったナットがゆるんでしまう恐れがあるのだ。もちろんこれが外れてしまえば油圧がなくなりエンジン内部のベアリングをダメにしてしまうことになるのだが、その予防としてはナットにワイヤーを通してスプロケットに固定する方法がある。エンジンオイルを抜いてオイルパンを外し、穴を開けたナットをオイルポンプの軸に取り付けてナットの穴とスプロケットをワイヤーで結びつけてしまうのだ。BMW部品専門店ではあらかじめ穴を開けたナットとワイヤーのセットまでよく見かけるくらいだが、中にはナットとスプロケットをMIGまたはTIG溶接でくっつけてしまう剛の者までいる。
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タイミングチェーン
 タイミングベルトが不具合の種になりやすいM40型を除けば、E36のエンジンはカム駆動がすべて耐久性に優れるタイミングチェーン式となるのは有難いところだ。チェーンはクルマと同じだけ保つ設計で実際にもまずその通りだが、あまりの多走行車やサーキットでレブリミッターに当てまくったようなクルマでは壊れてしまう例もないわけではない。そのどちらでもないのにチェーン周りからガラガラと音がする場合はたいていチェーンテンショナーの不良で、交換してしまえば解決することが多い。チェーン交換が必要となるのは、テンショナーを換えても音が消えないようなよほどの場合くらいである。6気筒モデルではVANOSの不調でもガラガラ音が出るので、チェーンからの音と決めつける前にVANOSの状態を確認しよう。本来、チェーンはテンショナーやVANOSよりも頑丈なものである。
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タイミングチェーンテンショナー
 大多数のE36に標準だった2分割型テンショナーは概して壊れやすいが、後期モデルの一体型はずっと信頼性が上がっている。交換するならぜひとも一体型の改良版にしたい。ねじ込んである古いテンショナーの取り外しは難しくないが、内部でばねが圧縮されているので飛び出しに注意が必要だ。取り付けはまず新品にOリングを組みこんでおき、テンショナーが収まる穴に指を入れて奥の峰を触れる。その峰とテンショナーの溝の向きを合わせて新品を挿入し、最後に40Nm(一体型)または50Nm(分割型)のトルクで締め込む。
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VANOSの整備
 上述のとおり、タイミングチェーンやテンショナーからの異音はVANOS故障時の音と区別しにくい。VANOS起因の音はバルブカバーの前端あたりからで、大小の石をかき混ぜるような感じである。YouTubeで「E36 VANOS noise」をキーワードにして検索すれば、この音がよくわかる動画がいくつも出てくる。テンショナーは悪くなっても単に音が出るだけだが、VANOSの場合は異音だけでなくエンジンの力感も損なわれる。また特にエアコン使用時など、まるで足が泥に埋まったように反応がもたつくこともある。VANOSの故障に対しては、シール類を交換してオーバーホールするかユニットごと交換するかを選択することになる。
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VANOSはオーバーホールか交換か
 VANOSのオーバーホールでは、漏れやすいニトリルゴム製のシール類を耐久性のあるフロロエラストマー(バイトン)製のものに交換するのが一般的だ。ユニットごと新品に交換するのももちろん正解だが、ニトリルゴム製のシールが付いたユニットを入れてしまうとまたいずれ不調を来してしまうのが唯一の懸念だ。それを考えると、異音と長くおさらばしたければ確実にバイトン製シールを組み込めるオーバーホールを選択した方が間違いはないだろう。
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カム角センサー
 もしエンジンが始動しない場合は、スキャンツールにつないだらカム角センサーの異常が検出される可能性が高いだろう。これもまたけっこうな割合で不調を来す箇所だ。

4気筒エンジン
 1993年9月以前生産の4気筒エンジンではセンサーはシリンダーヘッド前面にあって手が届きやすかったのだが、それ以降は吸気マニホールドの上側を外さないと手が入らない場所に移されてしまった。マニホールドの取り外しは骨だが、それさえできればセンサーの交換は簡単だ。

6気筒エンジン
 まずオイルフィルターのフタを外してフィルターを抜き、異物が入らないようカバーをしておく。次にPCVホースを外してVANOSの油圧パイプとソレノイドも外す。シリンダーヘッド上部のソレノイド裏側にセンサーがある。新品センサーに付属してこないこともあるが、Oリングも必ず新品に交換しよう。
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ディーゼルエンジン
M41型
 1994-2000年モデルの318tdsに設定されたM41型は、6気筒のM51型から2気筒を切り落とした成り立ちだ。バルブリテーナーが外れてシリンダー内にバルブが落ちこむというあまり類を見ない不具合をおこすことがあり、これはもちろん壊滅的な損傷をもたらす。タペットの損耗も比較的早い方である。

M51型
 標準の325tdとインタークーラー付きの325tdsに設定されたM51型は豊富なトルクと低燃費を両立し、E36用エンジンの中では一二を争う傑作として評判が高い。もっとも、だからといって不具合と無縁というわけではない。噴射ポンプ不良は割とよく起こる不具合で、燃料タンク内のリフトポンプも壊れやすい。

ディーゼルエンジン諸元


M41D17 : 1994-1998 318tds・318tdsコンパクト: (1665cc / 89bhp / 19.4kgf-m)
M51D25 UL : 1991-1996 325td: (2498cc / 114bhp / 22.7kgf-m)
M51D25TU UL : 1996-1998 325td: (2498cc / 114bhp / 23.5kgf-m)
M51D25 OL : 1993-1996 325tds: (2498cc / 141bhp / 26.3kgf-m)
M51D25TU OL : 1996-1998 325tds: (2498cc / 141bhp / 29.0kgf-m)

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要約
 E36用のエンジンはあらゆる面で扱いやすく、また頻繁な整備を要しない設計になっている。めぼしい弱点も全機種にいえる冷却系の他にはM42型のプロファイルガスケットくらいのもので、機構的にはBMW歴代で指折りの傑作揃いといってもいいだろう。定期的なオイル交換と基本整備を欠かさなければ、現実的にどのエンジンも優に200,000マイル(約300,000km)の走行に耐える素質を持っている。
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Posted at 2022/05/26 13:03:25 | コメント(0) | トラックバック(0) | E36レストア本和訳 | クルマ
2022年05月21日 イイね!

(E36レストア本和訳) 第7章:トランスミッション

(E36レストア本和訳)  第7章:トランスミッションE36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。

目次はこちら





第7章 トランスミッション

 E36のマニュアル・トランスミッションは、高回転まで引っぱれるガソリンエンジンならではの楽しみを存分に味わわせてくれる。変速モード切り替えが付くオートマチックも悪くはないのだが、マニュアルほどのスポーティな面白さはない。SMGは次のE46で弱点がほぼ洗い出されたが、初めて設定されたE36の欧州仕様M3では疫病神としか言いようがない、やたらと壊れる代物だった。




(項目一覧)
1. マニュアル・トランスミッション(MT)
2. マニュアル・トランスミッションオイル交換
3. クラッチ
4. クラッチペダルの異音
5. クラッチペダルストッパー
6. トランスミッションマウント
7. オートマチック・トランスミッション(AT)
8. オートマチック・トランスミッションフルード交換
9. シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス(SMG)
10. プロペラシャフト
11. ディファレンシャル
12. 要約



マニュアル・トランスミッション(MT)
 E36の5段MTはZFもしくはゲトラグ製である。6段となるのは欧州仕様M3のゲトラグ製S6S 420G型だけだ。

 4気筒全車と325以下の6気筒車には、ゲトラグのS5D 200GまたはS5D 250G型が組み合わされる。両者ともゲトラグ製品の定評通り極めて丈夫で、完全に壊れるのは扱いがあまりに雑だったかトランスミッションの許容トルクを超えるエンジンチューンを施した場合くらいである。200Gと250Gは互換性があるが、後者の方が多少強度が高い。

 ゲトラグ製の5段では、ギアが勝手に抜けてくるものがある。これは生産の不手際で1998年4月以前に生産された250G型に1・2速のガイドスリーブが正しく加工されていないものがあるためで、それ以降は改善されている。もし該当するようなら、外してリビルドに出すよりもリビルド済みあるいは中古のトランスミッションに載せかえてしまう方が安くて簡単だ。ガソリン車用とディーゼル車用は変速比が異なるので、間違えないよう注意が必要だ。

 328とM3の5段MTは、ZFのS5D 310ZまたはS5D 320Z型である。こちらはゲトラグ製5段よりも頑丈で、ハードな走り方にも耐える。これもよほど乱暴な使い方をしない限り壊れることはないだろう。6気筒ディーゼル車に付くZFのS5D 260Z型5段も、およそ問題となるところはない。ゲトラグも同様だが、変速時にガリガリと異音がするかギアが入りにくい症状が出たらリビルト品のトランスミッションに載せかえるのがいちばん安くつく。

 E36に用意されるMTの頂点に位置するのが、ゲトラグのS6S 420G型6段だ。E36では欧州仕様M3のみの設定で、他にはV8エンジンを載せたE39型M5やZ8にも使われた。ご想像の通りこれも耐久性は折り紙つきで、扱い方を誤らなければまず壊れない。これが壊れるくらいなら相当無茶な走り方をされていたはずなので、MTのみならずクルマ全体にわたって機械的な問題があるとみるべきだろう。

マニュアル・トランスミッション適合表


ガソリン
316・318・320 : ゲトラグS5D 200G・S5D 250G
323・325 : ゲトラグS5D 250G
328・M3 3.0(北米仕様・欧州仕様)・M3 3.2(北米仕様) : ZF S5D 310Z・S5D 320Z
M3 3.2(欧州仕様) : ゲトラグS6S 420G

ディーゼル
318tds : ゲトラグS5D 200G・S5D 250G(変速比はガソリン車と異なる)
325td・325tds : ZF S5D 260Z

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マニュアル・トランスミッションオイル交換
 どの型式でも手順は基本的に同じで、エンジンオイル交換と似たようなものだ。まずは軽くひとっ走りしてオイルを温めておく。クルマを地面が固く水平なところに停め、ジャッキスタンドに乗せる。注入口のフィラープラグに続いて排出口のドレーンプラグを外し、古いオイルを廃油受けに排出する。

 オイルが抜けきったらドレーンプラグを再び取り付け、注入口からトランスミッションオイル用ポンプで新しいオイルを注入する。BMW推奨品はMTF LT-2だが、レッドラインのD4 ATFを好む愛好家も多い。規定の容量を注入したら(注入口から溢れてくる)、フィラープラグを取り付けて完了だ。たったこれだけのことである。

マニュアル・トランスミッションオイル容量


ゲトラグS5D 200G : 1.0L (BMW MTF LT-2)
ゲトラグS5D 250G : 1.1L (BMW MTF LT-2)
ZF S5D 310Z : 1.2L (BMW MTF LT-2)
ZF S5D 320Z : 1.3L (BMW MTF LT-2)
ゲトラグS6S 420G : 1.9L (BMW MTF LT-2)

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クラッチ
 E36のクラッチの減り方はだいたい走り方による。新車から無交換のまま天寿を全うする多走行車も珍しくはない一方、逆に60,000マイル(約100,000km)で交換する羽目になることもある。滑らせてばかりの酷な使い方では早く減り、大事に使えばとても長持ちするということだ。

注意 : クラッチが滑りはじめて交換を考えるなら、その前にぜひとも確認すべき事がある。E36はスレーブ(レリーズ)シリンダーも弱点で、クラッチが不調ならこちらも寿命に近づいていると考えられるので、まずこちらを交換して回路内のフルードを入れ替えよう。これでクラッチの操作感が元に戻ったなら、クラッチ交換の多大な手間が省けたことになる。それでもまだ滑るようならどのみちクラッチを換えざるを得ないとはいえ、いきなりクラッチを換えるよりは安くつくかもしれないのだ。

 クラッチの交換作業は経験があればさほど難しいものではないが、初挑戦がE36となると少し手強いかもしれない。ほかのクルマよりもトランスミッションの取り外しには手こずるだろう。技術的に難しいというわけではなく、下回りが隙間なく詰まっていて作業空間の余裕がなく面倒なのだ。まずけっこう重い排気管を外さないといけないし、シフトリンケージやスレーブシリンダーを外し、次に固定ボルトを外してやっとトランスミッションを取り出せる。アマチュアでもE36の整備に慣れていればさしてつまづくことなく2-3時間で交換できるかもしれないが、行き詰まれば週末をまるまる棒に振ることになるだろう。
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クラッチペダルの異音
 これは危険というわけではないが、E36はクラッチペダルから耳障りなキーキーという異音が出てくることがある。これはクラッチペダル根元にあるブッシュの劣化によるもので、ペダルが横方向にぐらつく原因でもある。一番の解決法は一旦クラッチペダルを外し、ブッシュをテフロン製のものに取り替えてしまうことだ。これは社外品がいくつも出回っており、簡単に手に入る。
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クラッチペダルストッパー
 E36に標準のクラッチペダルストッパーはちゃちなプラスチック製で丈も低すぎ、たいていはそのうちねじ山がつぶれて床板にめり込んでしまう。こんな代物はさっさと取り払い、3/8×1 1/2インチ(9.5×38mm。訳注: M10規格が使えます)のエレベーターボルトに換えてしまおう。作業時間はほんの1-2分、費用もタダ同然だ。クラッチのストロークが短くなるし、踏みきった感触も純正のプラスチックよりしっかりする。長さが1 1/2インチ(38mm)を超えるとクラッチスタートスイッチ(装備車)が効かなくなるので注意しよう。床の傷つき防止に椅子の脚に貼るようなフェルトをボルトの上面に貼れば、ペダルが当たる音も弱まる。これくらいのことなら最初からやっておいてほしいと感じるところだ。
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トランスミッションマウント
 サスペンションのブッシュと同様、MTのゴム製マウントもいずれは劣化してくる。そうなると振動が大きくなるだけでなく、シフトミスも起こしやすくなる。シフトをしくじって過回転でヘッド周りを修理する羽目になるよりも、マウントを交換しておく方が簡単なのは言うまでもないだろう。マウントはトランスミッション後部下を横切るメンバーに付いており、これを外せばあとは古いブッシュのボルトを外して新品と取り替えるだけだ。純正のゴム製は振動をよく吸収してくれるが、個人的には耐久性に優れシフトがより正確な感触になるポリウレタン製が好みだ。
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オートマチック・トランスミッション(AT)
 E36の4段ATの実体はゼネラルモーターズ(GM)のフランス・ストラスブール工場製ハイドラマチック4L30-E型で、BMWでの呼称はE36の登場時から1995年9月までがA4S 310R型、それ以降はA4S 270R型となっている。

 5段ATはほとんどがZFの5HP18型(BMW式にはA5S 310Z型)である。GMの4段よりも丈夫で耐久性にも優れ、また整備の手間をできるだけ省くというBMWの方針にも則った設計となっている。ジヤトコのRE5R01A型(BMWではA5S 300J型)もオセアニア向けを中心に採用されたが、そこから流れて他の地域で見られることもある。

 BMWはATフルード(ATF)の交換を不要としているが、正常に働かなくなったらフルードとフィルターを交換してみよう。それでも症状が治まらなければAT自体を交換せざるを得ない。近年では一般的にいえることだが、トランスミッション自体を修理するよりもリビルド済みのものと交換した方が、安くて手間もかからず好都合だ。

オートマチック・トランスミッション適合表


欧州
316・318・325td : GM 4L30-E (A4S 310R/270R)
320・323・325・325tds・328 : ZF 5HP18 (A5S 310Z)
*5段ATは一部にジヤトコRE5R01A (A5S 300J)も採用。

北米
318・323・325 : GM 4L30-E (A4S 310R/270R)
328・M3 3.0(北米仕様)・M3 3.2(北米仕様) : ZF 5HP18 (A5S 310Z)

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オートマチック・トランスミッションフルード交換
 不可解なことに、E36のATにはフルードレベルを測るディップスティックが付いていない。これは、BMWがフルードはクルマの生涯にわたって減らないなので確認はいらないとしたためだ。だがものは考えようで、いざATの調子が悪くなったら注入口からあれこれこねくり回して液量を確かめるのではなく、とっととフルードを交換してしまえばいいのだ。ガスケットとセットになったフィルターキットをフルードと一緒に買っておけば、苦労は最小限で済むだろう。

 エンジンオイルとは異なり、ATFは冷めた状態で抜きとる。まず車体を確実にジャッキスタンドに乗せて4輪とも浮かせる。ATのオイルパン底部にあるドレーンプラグを見つけて緩め、フルードを廃油受けに排出する。流出が止まったら、オイルパンを外して内側にあるフィルターを出す。GM製のATは内側にもう1つのオイルパンがあるので、これも外してフルードを捨てる。

 古いフィルターを外して新品を取り付けたら、オイルパンを戻す。GM製ATでは、内側のオイルパンにフルードを満たして先に取り付ける。ガスケットももちろん新品に交換するが、このときシリコンシーラントの類は使わない。はがれたカスが回路内をふさいだらATを壊すおそれがあるからだ。オイルパンが付いたらフルードを注入するが、これにはポンプで圧をかけないといけない。ここで役に立つのは用品店で普通に売っているトランスミッションオイルポンプだ。側面の注入口から溢れてくるまで入れたらプラグを締める。

 さて、ここからはちょっと面倒になる。真のフルードレベルを確かめるには、ATを温めないといけないのだ。おまけにディップスティックがない以上、量を確認するにもクルマの下へ潜らないといけない。まず、ジャッキスタンドに乗せたままエンジンを始動する。フルードが少なくとも44℃以上でなければ正確な測定はできないので、30-40分の間ブレーキをかけたままですべてのギアへシフトを繰り返して温める。温まったら側面の注入口を開けてフルードを再び溢れるまで注ぎ足す。注入口を閉めたらテスト走行に出かけよう。動作がスムーズになっていたら、作業は完了だ。もしまだどこかおかしいなら、今一度液量を確かめよう。量の問題でなければ、いよいよアセンブリー交換の時期だと考えたほうがよかろう。

オートマチック・トランスミッションフルード容量


GM 4L30-E (A4S 310R/270R) : 8.8L デキシロンIII
ZF 5HP18 (A5S 310Z) : 7.8L ESSO LT71141
ジヤトコRE5R01A (A5S 300J) : 8.0L アポロイルATF D3
注意 : 上表の容量はいずれも満タン時のものであり、E36のATでの排出・注入量はだいたい3.0L前後になる。
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シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス(SMG)
 欧州仕様後期のM3では、ゲトラグのS6S 420G型MTをベースとする6段SMGが設定された。シフトレバーを操作すると電磁弁の働きで電動油圧のクラッチが切れ、油圧シリンダーでシフトリンケージを動かして自動的に変速するというものである。MTの高効率とATの安楽さのかけ合わせは当時も今もすばらしい考えに変わりないが、このSMGに関してはコンピューターの不調で非常モードに入ってしまうことがやたらと多かった。あまりの信頼性の低さに業を煮やして通常のMTに載せかえたオーナーも少なくないが、その際はトランスミッション本体をそのまま使えることが救いだ。あとはSMG用の部品を取り外し、クラッチペダル・マスターシリンダー・スレーブシリンダーを取り付ければよい。
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プロペラシャフト
 E36のプロペラシャフトは2分割で、駆動系の前後の動きを吸収できる仕組みになっている。トランスミッションとプロペラシャフト前部は、ゴム製のフレックスディスク(英語圏では”guibo”と通称される)でつながっている。シャフトは中央部のセンターサポートで前後に分かれ、後部はディファレンシャルとフランジで接続されている。プロペラシャフトを取り外す際は、前後のシャフトの向きが変わらないように接続部に印をつけておこう。

 プロペラシャフト周りで一番劣化しやすいのは、どうみてもフレックスディスクだ。加減速時に駆動系の前の方から変な振動やコツコツなどの異音がするなら交換しよう。ゴム製なので、しまいには割れて引き裂かれてさながらゴムのスパゲッティのようにグチャグチャになってしまう。交換作業はそれほど難しくはない。基本的には、プロペラシャフトを外し、ボルトを抜いて古いディスクを外し新品に入れ替えるだけだ。プロペラシャフトは再び取り付けるときに向きを間違えないよう、接続部にマーカーで印を付けておこう。ディスクにはトランスミッションのフランジとの位置合わせのための矢印が付いているので、外す前と取り付け時に位置関係を確認しておこう。

 プロペラシャフトのセンターベアリングはフレックスディスクよりも寿命は長いが、劣化しないわけではない。後席下あたりからギアが唸るような音がする場合は、ベアリング劣化の疑いが大きい。交換の際は、フレックスディスクと同様にまず接続部に印を付けてからプロペラシャフトを取り外す。次に中央部のクランプスリーブを外してシャフトを前後に分解する。センターベアリングユニットをシャフトから取り外したら、Cクリップを外してベアリング本体をプーラーで抜いて交換するか、またはユニットごと新品に取り替える。取り付けはこの逆手順だが、前後シャフトが噛み合うスプライン部にはモリコート・ロングターム2のような適切なグリスを塗り、クランプスリーブはシャフトを車両に取り付けてから最後に締め込むよう注意しよう。

 後部のユニバーサルジョイントは丈夫だが、フレックスディスクとセンターベアリングを替えたのにまだ駆動系の振動が消えない場合はここのUジョイントが悪さをしている可能性がある。Uジョイント単体の交換も可能だが、取り付ける前には専門業者にシャフトのバランス取りをしてもらう必要がある。
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ディファレンシャル
 E36には3種類のディファレンシャル(以下デフ)が使われている。最も小型のものが4気筒全車と320に付く168型で、320と欧州仕様3.2LのM3以外の6気筒車には188型が付く。残る欧州仕様3.2LのM3は、大型の210型となる。リアサスペンションの構造が異なるコンパクトは同じ168型でも専用となっており、他のモデルの168型とは互換性がない。

 M3以外のモデルはほとんどがオープンデフで、M3は全車にリミテッド・スリップ・デフ(LSD)が付く。両者を簡単に見分けるには、デフ本体に付いた金属板の刻印を確かめよう。減速比の数字の前に「S」という刻印があればLSDである。もし見あたらなければ、停止状態から急発進させて路面にタイヤ痕を付けてみればよい。痕が片側だけなら非LSD、両側に付いていたらLSDだ。

 デフ自体は丈夫だが、もしカチカチと音がするようなら内部のクラッチパック固定ボルトが外れている恐れがある。これは頻発するわけではないが、気にしておいた方がよい。もし的中だったら、デフをオーバーホールするか中古品に取り替える必要が出てくる。走行中のコンコンという音は、等速ジョイントから出ている可能性が高い。

 トランスミッションと同じで、工場充填のデフオイルは交換不要とされている。そして実際には絵空事なのも同じで、デフを長持ちさせるには約40,000マイル(約60,000km)ごとに交換したい。交換手順としては、まずオイルが温まるようある程度クルマを走らせる。次にクルマの後部をジャッキスタンドに乗せて廃油受けをデフの下に用意し、フィラープラグを外してからドレーンプラグを外してオイルを排出する(訳注:原文ではオイルを抜いてからフィラープラグを外すとありますが、常識的には逆でしょう)。ドレーンプラグを締めて、新しいオイルをポンプで注入口から溢れるまで入れ、フィラープラグを戻したら完了だ。

ディファレンシャルオイル容量


168型(4気筒車・320) : 1.1L
188型(320・欧州仕様3.2L M3以外の6気筒車) : 1.7L
210型(欧州仕様3.2L M3) : 1.9L

指定ディファレンシャルオイル


非LSD : BMW SAF-XO化学合成油
LSD : BMW SAF-XLS化学合成油

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要約
 E36のトランスミッションは十分な耐久性がある。ATの動作がおかしくなったら、壊れてしまう前にフルードを交換しよう。MTも頑丈ではあるが、無茶な扱いをすればたいていの場合リビルドよりも交換することになるだろう。
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Posted at 2022/05/21 11:27:44 | コメント(0) | トラックバック(0) | E36レストア本和訳 | クルマ
2022年05月19日 イイね!

(E36レストア本和訳) 第6章:ブレーキ

(E36レストア本和訳)  第6章:ブレーキE36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。

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第6章 ブレーキ

 E36は、コンパクト・4気筒モデルの一部で後輪がドラム式となる他は4輪ともディスクブレーキを装備する。電子制御により急ブレーキ時の車輪ロックを防ぐアンチロックブレーキシステム(ABS)は初期モデルではオプションだったが、1992年以降は全車標準装備となった。また、ブレーキパッドの摩耗を感知するセンサーとメーターパネルの警告灯も標準だった。




(項目一覧)
1. フルード交換・エア抜き
2. パッド・ローター・キャリパー
3. ABS警告灯・ブレーキライト不良警告
4. 要約



フルード交換・エア抜き
 ブレーキフルードは使っているうちに空気中の湿気を吸うが、水分が混ざると圧力が伝わりにくくなり効きが悪くなってしまう。また沸点も下がりフットブレーキの多用によるベーパーロックも起こりやすくなるので、フルードはおよそ2年おきに交換するのが望ましい。作業自体は有難いことに実に簡単だ。
 まずクルマ全体をジャッキスタンドに乗せ、ホイールを4つとも外す。回路内に異物が落ちこまないようマスターシリンダー上部を掃除してからリザーバータンクのキャップを外し、注射器で古いフルードを吸い取る。概ね抜けたら、新しいフルードをさしあたり満タンまで注いでおく(後でまた追加する)。フルードはDOT4規格のものを使おう。愛好家の間ではAteのスーパーブルーが特に人気だが、DOT4ならどれでも大丈夫だ。

 次に、マスターシリンダーから最も遠いところ(右/左ハンドルのそれぞれ左/右後輪)から回路内に残っているフルードの入れ替えを行う。あらかじめ、キャリパーのブリーダーニップルに浸透潤滑剤を噴いて緩めやすくしておくとよい。ニップルに透明なプラスチックホースを差しこみ、緩めて開けたら助手にブレーキペダルを10回踏んでもらって最後に踏みっぱなしにしてもらい、古いフルードを排出する。この時キャリパーをゴムハンマーで軽く叩くと回路内の気泡も出やすくなる。プラスチックホース内のフルードの色が新しいものに変わるまで排出を続けるが、この間にマスターシリンダーから空気が入らないよう常にリザーバータンクの残量には気を配り、適宜フルードを継ぎ足すこと。もし回路内に空気が入ってしまったらまた始めからやり直しになってしまう。

 交換ではなくエア抜きを行う場合も、作業は基本的に同じだ。マスターシリンダーから最も遠いキャリパーから始め、ブリーダーニップルを緩めて助手にブレーキペダルを踏んでもらい、気泡が出てこなくなるまでフルードを排出する。助手がいない場合は加圧式ブリーダーが便利だ。フルードを入れてマスターシリンダーに接続しポンプで15psi(約1気圧)加圧したら、あとはブリーダーニップルを緩めて上記と同じようにすればよい。
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パッド・ローター・キャリパー
 ご存じのとおり、どんなクルマでもブレーキ関係でいちばん消耗する部品はパッドだ。ブレーキをかけたときに金切り声のような音がするかメーターパネルの摩耗警告灯が点灯すれば、いやでもパッドが終わっていることは分かるだろう。ローターはパッドと一緒に換えた方がよいともいわれるが、個人的にはレコード盤のような溝状の摩耗あるいは歪みがなければ交換しなくても問題はないと考えている。ただし、減りが進んでいるようならパッドと同時に交換しよう。

 E36のブレーキ性能は一級品だが、あまりに酷使するとローターが歪むことがある。ブレーキをかけるとステアリングホイールが振動するのがよくある症状だが、E36ではサスペンションのボールジョイントの損耗でも同じような振動が起こりうるので注意が必要だ。部品を注文する前に、必ずボールジョイントとローター双方の状態を確認して原因を特定しておこう。

 E36はキャリパーの品質も高いが、長年の間にキャリパーと内部のピストンとの間に侵入した水分が腐食やひいては固着を招きうることに変わりはない。腐食した古いキャリパーはオーバーホールももちろん可能だが、手っとり早く新品に交換した方がよいだろう。
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ABS警告灯・ブレーキライト不良警告
 E36のブレーキ関係の不具合で一番厄介なのが、メーターパネルやオンボードコンピューターに出る警告表示だろう。よく出るのは前者のABS警告灯、後者のブレーキライト不良警告(“BRAKE LIGHTS FAILURE”など)だ。スキャンツールでECUのエラーコードを読み取ることもできるが、それでも原因にたどり着けない場合は比較的不具合が起こりやすい以下の箇所を点検してみよう。

 ABS警告灯が点く原因としては車輪速センサーの異常が最も疑われるが、これは各車輪の近くにあるセンサーの電圧変化をマルチメーターで測れば確認できる。センサーの配線コネクターを外し、マルチメーターをつないで車輪を回転させる。これで電圧の値が上がらなければ、センサーの異常ということになる。

 車輪速センサーに問題がなければ、次はヒューズボックスの中にあるABSポンプのリレーを調べてみよう。まずリレーを外し、マルチメーターで抵抗を測る。正常なら、赤の端子を30a番ピン・黒の端子を30番ピンに当てると抵抗値は50-100Ωを示し、逆につなぐと無限大を示す。もし異なる値が出たなら、リレー交換が必要だ。

 センサーもリレーも正常なら、次の容疑者はABSポンプだ。これは内部の配線が劣化してもろくなり断線することがある。ポンプを開けて切れた配線をはんだ付けし直すこともできるが、そもそも配線が弱るほどなら新品に交換した方が長い目で見れば得策だろう。

 ブレーキライト不良警告の方は、ABSに比べればだいぶ原因を突き止めやすい。単なる球切れの場合もあるが、犯人はたいていブレーキライトスイッチだ。これはブレーキペダルのてっぺんに付いており、交換作業は特に問題となるところはない。
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要約
 BMWならではの卓越したブレーキ性能を長く堪能するなら、ブレーキフルードは定期的に、また摩耗したパッドは速やかに交換し、ABS関係の不調にも気を配っておこう。
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Posted at 2022/05/19 12:09:49 | コメント(0) | トラックバック(0) | E36レストア本和訳 | クルマ

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「先日はE36ミーティングで鷲羽山へ。お昼にうどんが食べたくて一瞬だけ四国に踏み込みました(笑)」
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今の時代にNA・MT車をこよなく愛する天の邪鬼?です。まっとうな家庭人としての顔との両立に日々悩みつつも楽しんでおります。よろしくお願いします。
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