
久しぶりにブログを書くなぁ、と思ったら、前回は冬のワンフェスの記事でした。
いやいや半年前ですか…。もう少し更新しないとなぁ。(汗
さて、今回は趣向を変えて、ちょっと専門的な技術と、自動車と言うモビリティの未来についての話をば。
マツダ、次世代エンジン「SKYACTIV-X」を2019年から導入…圧縮着火を世界初の実用化
https://carview.yahoo.co.jp/news/market/20170808-10270404-carview/?sid=cv
いやホント、マツダさん凄いですね。2年位前から「実現しそうだ」と公表はしていましたが、
ついにここまでこぎ着けたか、と言ったところでしょうか。
(おめでとうの言葉は、2019年の発売まで取っておきますね)
同じ技術屋の端くれとして飯を食っている手前、真面目に尊敬します。
あの規模のメーカーがこんなに凄い事をやってるってのに国内市場の売り上げが伸び悩んでいるとか、
日本人って本当に阿呆なのかと…。
今回はそのHCCIについての説明をさせて頂きますが、あまり専門的になりすぎるのは
書いている方も読んでいる方もしんどいと思いますので、大まかな概略についてに留めます。
さて、本題に入る前に、いきなりですが横道に逸れてマツダとエンジンについての話でもしましょう。
マツダのエンジンと言ってクルマ好きが真っ先に思い浮かぶのは、言わずもがな「ロータリーエンジン」だと思います。
自分も大好きですロータリー。一度は乗ってみたかったなぁ…。
マツダの代名詞の一つとも言えるロータリーエンジンはその昔、「夢のエンジン」「未来のエンジン」と呼ばれました。
が、世界中のメーカーが開発に難航し、量産化を断念。
そんな中でマツダだけが、ロータリーエンジンの量産化に成功した。
しかしその後、ロータリーエンジンは各国の排ガス規制強化を乗り切れず、
20世紀の終焉とともに消えていった。
「誰もが夢見た未来のエンジン」は、振り返ってみれば「過去から見た未来のエンジン」だった…。
一説には、ロータリーエンジンは世界中でただ一人、マツダだけが開発・量産していた為に、
「競合他社がいないが為に、進化することなく行き詰ってしまったから」だと言う意見もありますが、
個人的にロータリーエンジンが消えていってしまったのは
基本特性が「出力を求める為の機構・特性」であり、構造的な問題からくる絶対的な効率の悪さが
環境規制に対応しきれるものではなかったからだと思っています。
この辺りは丁度、2輪の2ストが消えていったのとイメージがダブりますね。
それでも競合がいれば、環境に優しい、全く新しいロータリーエンジン、なんてのが生まれたのでしょうか…?
バブルの崩壊と、それと同時期に起きた多チャンネル化の失策、
いわゆる『クロノスの悲劇』によって味わうことになる「冬の時代」。
フォードからの株式出資比率引き上げにより行われた
両社のプラットフォームの共用化によるグローバル戦略こそ成功したものの、
リーマンショックを起因とするフォードの経営危機によりその傘下から切り離され、
マツダはその設立以来、幾度目かの危機に陥る。
それでも水面下で行ってきたコモンアーキテクチャ構想とその成果、「SKYACTIV TECHNOLOGY」
と呼ばれる技術群によって、現在では業界の中でも一目置かれる存在になっている。
そんなマツダの次の一手が、HCCIエンジン。
とは言えスカイアクティブエンジンの初期構想やロードマップの中に
HCCIは最初から組み込まれており、ひとまずの到達地点がここにあるのは間違いありません。
SKYACTIV-G(ガソリン)とSKYACTIV-D(ディーゼル)の圧縮比を近付け、部品の共有化を推進したのも、
そもそもの目標が「ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのいいとこ取り」と呼ばれる
HCCIエンジンを開発するための足掛かりであり布石だったのも言うまでもないと思います。
じゃあ「そのHCCIってなんなのよ?」という話ですが、
「ガソリン燃料を使って、ディーゼルの様に燃焼をするエンジン」と説明するのが
一番分かりやすいでしょうか。
現在主流のガソリンエンジンは、燃料であるガソリンと空気を、吸気工程中に予め混ぜて混合気とし、
圧縮したあと点火⇒燃焼⇒膨張させる、予混合燃焼と呼ばれるシステム。
現在の最大熱効率(燃料が元来持つ熱量を、どれだけ仕事に変換できるか?の指標)は、
30%~40%。
対するディーゼルエンジンは、まずはピストンで圧縮した空気に、燃料である軽油を噴射する事で
自己着火⇒燃焼⇒膨張させる、圧縮着火と呼ばれるシステム。
ガソリンと比べて効率が良く、最大熱効率は45%~50%。
HCCIは、「Homogeneous Charge Compression Ignition」
日本語に訳すと、「予混合圧縮着火」となるが、この時点でガソリンとディーゼルのシステムの名を
そのままくっつけただけになっているのが分かると思います。
最大熱効率は、ディーゼル同等の50%前後。
ガソリンエンジンの熱効率は、20年前までは30%前後、10年前で35%前後、
現在ようやく40%に乗ろうとしているところのものが、
HCCIでは一足飛びに10%も向上。2、30年を一気に飛び越えてしまったことになり、
この時点でHCCIが今までのガソリンエンジンとは、
”何かが違う”ことがお分かり頂けるかと思います。
熱効率が高いと言う事は、平たく言ってしまえば「燃費が良い」のと同義。
大気汚染ガスや地球温暖化ガス(一般的にはCO2)の低減が叫ばれる現代に於いて、
まさしく「夢のエンジン」「未来のエンジン」と呼ぶに相応しいものだと
個人的には思うのだが、いかがでしょう?
さて、ちょっと話は逸れますが、「なぜガソリンとディーゼルで、点火/着火と火の付け方が違うのか?」
についても少し触れておきましょう。その答えはただ一つ。
ガソリンと軽油の「着火点(発火点)の温度の違い」にあります。
ガソリン
・着火点(発火点):400~500℃
軽油
・着火点(発火点):300~400度
この様に、ガソリンは軽油よりも着火点が100℃は高い為、
たとえ圧縮し空気を高圧・高温状態にしたとしても、ディーゼルよりも圧倒的に
「火が付きにくい」のです。
だから圧縮着火をさせようとしても、思うように燃焼が安定しない。
さすがにそれでは自動車の動力源としては不適切。
ですが今回、マツダはそれをある程度制御、コントロールする事ができ、
「2019年に量産化する」と宣言してきました。
技術的な内容が全て開示されている訳ではない為、「何をどうすれば」できるようになったのか、
については分かりませんが、(特許とか調べれば出てくるのかも知れないが…)
今ある情報で分かっている事が一つだけあります。
それが、従来の火花点火と併用する独自の燃焼方式「SPCCI」と呼ばれるシステム。
「Spark Controlled Compression Ignition」
日本語に訳すと、「火花点火制御圧縮着火」
これはどういうことかと言うと、
「既存のスパークプラグを使った点火方式と、圧縮着火方式をハイブリッドさせて使いますよ」
と言う事。
「なんだ結局完璧じゃないのかよ」と思われるかも知れませんが、
最初から完璧な物など、作ろうとするのは非常に困難…いえ、神さまでもない限り無理でしょう。
ガソリンエンジンですら、100年以上昔に今のシステムがおおまか構築されたばかりの黎明期には、
一桁台前半の熱効率しか無かったとも言われており、その頃に比べたら現代のガソリンエンジンは
10倍もの熱効率を有していることになります。
それに、当然HCCIにもデメリットがないわけではありません。
一番分かりやすいデメリットは、ディーゼルと同様に「高回転化が難しい」事でしょう。
内燃機関はその構造上、回転を上げなければ高出力は得られません。
ディーゼルエンジンは低回転でもトルクがある為出足が良く、
逆にガソリンエンジンはディーゼルエンジンよりも高回転まで回る為に高速域での伸びがいい。
このどちらの恩恵も受けてしまおう、と言うのが、この「SPCCI」なのだと推測します。
さて、次回はこのHCCIの可能性と自動車と言うモビリティの未来について、語りたいと思います。