
CX-60を納車から200kmほど走りまして、今の思うところを載せておきたいと思います。長文になりますので、興味ある方だけ読んで頂けると幸いです。また、CX-60や今後のラージ商品群が気になっている方は目を通してもらうと参考になると思います。
ちなみに私は自動車パワートレイン関連全般に関わるいちエンジニア(設計)です。ICEやEVも関わっています。そんな目から見た感想を下記に連ねていきます。
(誤字脱字は後から修正していきますのでご容赦下さい…)
◆いいところ、気に入ってるところ
・まずはCX-60全体から、“クルマ好きが乗りたくて作ったクルマ感“、を感じられて本当にうれしいし乗ってて楽しい。
・ドライビングポジションを自然に取れることが何よりも素晴らしいと思う。
・鼓動デザイン最新版解釈をついにFRプロポーションで表現され、非常に優雅なスタイルだと思う(顔つきは好みが分かれるのは理解できる)。
→プロポーション、車体スタンスは抜群にかっこいいです。
・フロントオーバーハングが最少化されている(BMW X3、X5よりも短い)(スポーツカーかよ)。
・ステアリングタイロッド前引き+デュアルピニオン化でスムーズかつ剛性感もあり手応えが一定でフィーリング◯。
→余談ですが、ブレーキングでフロント荷重が増したフィーリングが伝わってきます(スポーツカーかよ)
・ブレーキキャリパーの車体中央よりへの配置され個人的主観ですがかっこいい(スポーツカーかよ)。
・エンジンをフロントミッドシップ化させている(直6は完全には無理だが、直4は完全にフロントミッドシップ)。
・バッテリー位置までバルクヘッドへ押し込んでいる(スポーツカーかよ)
・フロントはハイマウントタイプのダブルウィッシュボーン、リヤは5リンクのマルチリンク(メルセデスタイプ)の採用意図が操縦性からも感じられる。
(3シリーズやX3、Z4、M3ですらフロントはストラット形式だというのに)
・パッシブタイプのサスペンションで守備範囲の広さは褒めるべき(街中が犠牲になっている感はあるが、好みによるところが大きい)。
・ショックタワーにダイキャスト品を採用し、振動吸収性が格段に向上し振動・音の遮断が段違いになっている。
→国産車だと、GT-R、LC、LS等のGA-L車(先代クラウンも?)、GRスープラ(マグナ製だけど)位じゃないかと思います。
・ラージ商品群というだけありクルマの巨大化パッケージングを考えている為か、バルクヘッド~ダッシュボード付近は非常に剛性があるように感じる。ここが弱いとステアフィールを始め、いいクルマ感が出ないはず。高級ラインの欧州車(とキャデラック等一部米国車)は一律アルミ押し出し材orダイキャストを使用している(が、CX-60は鋼板のままに見える)。
→ラージ群の中で一番小型なCX-60はその恩恵を最も受けていると考えます。
・アクセル操作時や停止中に踵に伝わる振動がほぼなく、フロア剛性が高い(実際どんな段差が来てもシャシーフロアがよれる印象は皆無)
・(走りにこだわる)マツダが初めて採用したパノラマルーフはとりあえず解放感が最高(走りのネガはあまり感じない)。
→ルーフパネルを剛性要素で考えておらず、フレーム本体での剛性確保が十分になったのだと推測します。
・燃費(特に実用燃費)を稼ぐ=環境への最大限の配慮、涙ぐましい努力を感じ、そしてそれは見事に体現されている(特に気を遣わずに街中18~20km/ℓは出てます)。
・ICEとモーター(バッテリー走行)のどちらが効率がいいかとしっかりと見極めたうえで、それをうまく制御ロジックに落とし込めている
→アクセルを戻す、ブレーキで即回生・充電、負荷の軽い惰性走行になるとエンジン停止(モータ走行)、アイドリングもHVバッテリーへ充電。本当にびっくりしますが、30分くらい街中や郊外を走ると、合計で10分くらいエンジンが停止してます(アイドルストップ含む)←センターモニターに表示可能
・そもそも48Vのマイルドハイブリッド車において、走行中にICEを停止させるのはすごいと思う。(欧州車のそれはコースティング走行になり、クラッチでICEを切り離しているだけ、もしくはニュートラル走行)
・走行中のエンジン停止はメーターを見るとわかる程度(気にしている人は気づけます)で、電動VVTをしっかりモノにしている。
・(回生↔物理摩擦ブレーキを切り替えているはずだが、操作中におけるその変化など)ブレーキフィール変化の違和感はほぼない。
・メカニズム好きは最高にツボにはまると思う(私がそう)。
・直6という記号性と必要十分な動力性能。
→結構回さないと一般的な直6の良さはわからない(2000rpm程度だと新しい燃焼方法による音侵入が大きく、回転フィールがスムーズな印象は薄い)ここは、十分なトルクを出す為の大排気量化の手段が直6だったという理解でいいと思う。
・トルコンレス8ATはMT車のようなダイレクト感はあり、カツンカツンと変速していく感じが楽しい。
・操縦性においてダイアゴナルロールの考えをやっと改めてくれたようで嬉しい。(これで安心感のある操縦性を手に入れた)
→マツダ3等の第7世代のクルマに試乗し、そんな気はしていましたがやっと確信を持てました。
・ハンドリングが本当に素晴らしい。
→荷重の移動をステアリングフィールで感じ取れるSUVなんて、今までありましたか?(ポルシェマカンやその他一部特別仕様車を除く)アクセルでも姿勢変化(ここでいうところの荷重移動)ができるあたり、クルマの運転が好きな人が作ったことが理解できます。街中、高速、ワインディング総合しても、価格で考える同クラスにおいて動的質感は圧倒的だと思います。
・従来のマツダ車でずっと気になっていた空力処理がやっと変わったことにより、やっと高速移動も本来の意味で楽になると思う。
→ホイール周りエアウォッシュ、ピラー周りの処理、ホイール面狙い、足回りの空力処理が最新トレンドを抑えている
・サイドミラーを小型してくれた(空力良化、風切り音減)
・ワイパーも見えない位置になった(空力良化、風切り音減)。
・ドライバーポジションだけでなく、シートやミラーやテレスコが自動調整されること(家族持ちにはありがたい)。
・車体サイズは結構大きいが運転しやすい(視界を含むクルマからのインフォメーションが思った通りなのだと感じる)。
・小回りが利く(FFにあるフロント軌跡の違和感がないこと、FRの良さを実感)。
・ドアハンドルのデザイン(開閉ボタンがついになくなった!ロードスターにも早く・・・)。
・内装デザインの統一感(外観デザインとの調和、電子システムとの融和性は国内外でトップクラスと感じる)。
・タンカラー内装(ナッパレザー)を採用してくれ、白以外で暗めの内装以外の選択肢を作ってくれた点。
→質感は価格以上のものを感じる(革は少し張りが強め)が、もっといいものは日本車にもありますね。
◆イマイチなところ、改善して欲しいところ
・走行中の音が多い(異音と言われても仕方がない)
→アイドルストップからの始動音(FRで振動を抑えることが難しいのはわかる、トヨタもFR系への採用は最後発だったはず)、エンジン燃焼音(DCPCI↔通常燃焼)、ギヤシフト音、EV走行+ブレーキの回生音・・・他。私は機構や構造もある程度わかっている為、むしろワクワクできますが、一般的ウケはしないと思います。
・動的質感の観点からいうと、メカニズム関連で発生する音はマイナス。
・したがって、メカニズムに興味のない人には、選びにくいクルマ(上記で指摘した“異音”にも関連)という評価は間違いない。
・今後をもっと空力を極めるなら、フラットサーフェイス化が必要(この価格では厳しいか・・・)。
→サイドウインドウや窓枠嵌めこみ精度等を詰めることができれば、本当のプレミアム性が醸し出されると思います(メルセデス車の空力処理を目指してほしい)。
・ウインドウ開閉モーターの作動音が大きい(ここにコストはかけられないのは理解できる)。
・ドアハンドルの操作における重厚感が少し足りない。
→ドア開閉時の手に伝わる振動や周波数処理に気を遣っていないことがバレてしまい、欧州車から乗り換えで指摘されるかもしれません(レクサスはここら辺抜かりない)。
・プラットフォームの時点で十分な剛性を確保した為か、軽量化されたリヤドアの閉まる音が少し安っぽいという声が出るのは理解できる。おそらくマツダとしてはドアハンドルを持ちながら閉めることを想定していると思われる。
→トヨタ級の鋼板の薄さでドア設計ができているという点は褒めるべきでしょうか…。
・インナードアハンドルはバーで閉めるタイプになっている為、しっかり閉めないといけない(インナーポケットもあれば便利だったかと思う)。
・惰性走行でモーター走行に切り替わったまま回生ブレーキで車体を止める際に、最後の最後の停止が綺麗に止められない(最後にカクっとなる)。
→エンジンがかかっているとスムーズに止められるので、回生ブレーキのみでの停止マナーの煮詰めをもう少し頑張ってほしいです。
・トルコンレス8ATはCVTや通常のトルコンタイプのATに乗り慣れている方には少し奇抜に感じると思います(スタートがMT車のようで機械音も結構入ってくる)。ドライビングポジションの為の必要悪としてのトルコンレス採用だと理解してます。
・ピッチングセンターを車体後方へ飛ばしたことによる得たバウンス挙動については、今のところ一長一短があるような気がする。メリットとしてはステアリングの終始一貫したフィール、確かに縦揺れは不快に思わない点などはメリットと感じるが、(周波数があってしまった)うねった路面だとバウンス挙動が4、5回続くので違和感が少し残るし、この時にハンドルフィールが少し薄くなり残念。個人的にはうねる路面以外ではバウンス挙動は気にならず、足さばきのうまさを感じるくらいには乗り心地はいいと思う(国産車で同類のクルマはない)。ただし道路のインフォメーション通り(忠実に)揺れてはしまうのと、サスやシートを含めて張りがある印象がある(高弾性な感じと言えばわかりますかね)為、普通に乗ると固い(硬い)と言われてしまうのだと思う。総合的には新しい乗り物のライドフィールの提案として受け入れられるかどうかがキーになると思う。
・もしかしたらもっとコストがかけられたとしたら、リアサスのナックル側をピロ化するよりもサブフレームをアルミ一体成型化した方が一般的な乗り心地の良さは理解してもらえたかもしれない。
・車体ハード面に直接は関係ないが、純正ドラレコのリアカメラ取付位置がリアウインドウの視界に常に入り、残念に感じる。
→リアワイパー取付方向等も含めた新しい解釈を見たかったです(ここはコストかけられないですよね)。
・ACCの機能に不満はないが、ハンドルアシストのCTSは少し様子見中。気持ち車線右側に寄っていて任せるには少し怖い気がする(慣れだと思うが)。
◆まとめ
マツダの理念を体現できるハード(ラージプラットフォーム)を使ったCX-60の発売に、まずはおめでとうを伝えたいです。マツダファンとしても感謝します。
日本車の枠組みを超えたと思われる各種の新機構、新機軸が盛りだくさんなのに、初期ロットですらこの完成度を示すCX-60には正直脱帽です。マツダが進めてきたMBD(モデルベース開発)手法の最大の成果と言えるのではないでしょうか。
もちろんまだまだアラがあり、今後に向けた伸びしろもありますが、基本設計や狙ったスペックは間違っていないと思わせるには十分です。マツダ車全般だと思いますが、CX-60も積極的に運転をした方が生き生きしてきます。(マツダが作りたいのは付加価値のあるクルマであって高級車ではないと思います)
CX-60もといマツダというメーカーは、きっと好き嫌いが分かれると思います。ですがクルマ好きであれば何か感じるものはあると思います。
現状はディーゼルMHVだけですが、純内燃機モデルやPHEVも基本的に印象は変わらないと思います。何よりもこれらの動的質感やステアリングフィールに宿る“余剰の高級感“を300~400万円から楽しめると思うと、どのグレードを選択してもとても幸せに思えると思います。
また、CX-60の評価をする上で自身のクルマ知識やカーライフを試されている気がします。
日本におけるエネルギー需給を考えた上でリアルワールドではトヨタのTHSに並び、現時点で最高な回答を出してくれたと思います。(納車されるまで正直発売が3年は遅かったと思った自分を反省します…)
私自身、マツダが示したかった未来をしっかり感じ取りたいと思います。