■ご売却
MPVを手放すことにした。もともと自家用で三菱iが活躍してくれていたのだが、縁あってMPVに出会い所有することになった。その時に考えていたのは仕事用のパートナーとして、ヨーロッパの高速を飛ばすメルセデスベンツ・Vクラスのようなトランスポーターとして、或いは小粋にカングーのような華やかさもアリかと思い、何の躊躇もなく手に入れたのだが、使いこなす、とまではいかずレポートは三回目にして最終回となってしまった。最後のレポートはMPVの暮らしを振り返ると共に、巷に溢れるミニバンの存在感についても考えてみたのでここに記していく。
■振り向けばMPV
ここ中部においてはミニバン天国である。目分量で測るだけでもとりわけショッピングモールの駐車場を見る限り、セダンやスポーツカーが埋もれてしまうくらい、ミニバンが多く生息しクルマの平均身長は伸びている。そのなかでも先代MPVは同じ駐車場のブロックに3台いてもおかしくないくらい友達がいっぱいいる。これはトヨタがお膝元の愛知県としてはなかなか検討しているんじゃないかと思う。とにかく数が多いのがMPVだが、マイナーチェンジのほかにもいろいろな仕様を登場させることにより、常に鮮度が保つことにより好調な販売を維持し続けた台数を増やした、と考える。
99年登場の前期型と05年の末期方ではまったく別のクルマと言っても過言ではない。筆者が所有したのはLW5Wという形式で前期型V6モデル。ご存知フォード製2.5リッターV6エンジンだ。前期型には他に2リッター直4が選べ、マイナーチェンジを持ってアテンザと同様の2.3直4と3リッターV6 が与えられた。エクステリアも前期型と後期型では別物といってもいいフェイスリフトが行われ、アテンザ以降、しきりに拳を振り上げる“ZOOM-ZOOM”宣言に歩調を合わせた格好となっている。
後期型は現行MPVさえ見なければ今でも十分に魅力あるミニバンだ。デザインはフロントノーズを間延びさせて歩行者衝突対策をとり、同時に段を一段設けることによって大きさを感じさせない、軽快なイメージを持つことに成功している。軽快といえば頼りなかった初期型の2リッターを2.3に拡大、V6もフォードのしがらみから脱出し自前の3リッターV6を積み、ATも5段になった事でクルマの守備範囲も拡大したように感じられる。
尚、装備はこのクラスでは必然になってきた電動スライドドアを採用、これがあるのとないのとではかなり違う。自慢のカラクリシート、特に3列目を床下に収納できたり、反対に向けてベンチにできたりするあたりはライバル達にとって今なお大きなアドバンテージだ。
■一昔前のミニバン
話を筆者のMPVに戻そう。エスティマやオデッセイに慣れ親しんできた輩にとって、MPVの第一印象は「まっとうな作りだが、もはや古臭い」というものだった。理由はフォード製2.5V6と4段のATでこの大柄なボディを引っ張る乗り味である。このクルマが出た当時、既にミニバン界は2.4リッター直4が主流で、やはり効率の上で劣る。軽くて小さい直列4気筒の方が効率がよく、大きくて重いV6のメリットはスポイルされてしまっている。
まぁ、フォード傘下になったばかりの台所事情はあったのだが、ジューシーなハンバーグランチのようにV6の旨みは十分に味わうことができる。例えばアイドリング時の振動の少なさや一気に回転を上げたときのモリモリ感のあるトルクの出方、とりわけこのフォードV6は大荷物や人を沢山乗せたときなど、あらゆるシーンでゆとりを感じることが出来、空いた郊外の国道を流していると、その古臭ささは昔から営んでいる個人経営のレストランで味わえるジューシーなハンバーグランチのような味わいだ。
■グランドツーリングの共に
富士五湖まではいかなかったが、河口湖・山中湖周回と諏訪湖から木曽路で帰路に着く旅に連れ出した。御岳で満天の星空を眺める目的と、MPVの性能を最大限まで引き出すべく、ワインディングロードを飛ばしてみた。
筆者のMPVはサスペンションのバネが縮められており、ご覧のとおりローダウンルックである。巷でいう“ツライチ”とまではいかないが、スペーサーも入っていてトレッドが拡幅されている。果たしてどんなパフォーマンスを示すかと思いきや、これがなかなか面白かったのである。フロントヘビーの巨体はロールで怖い思いもしなければ、タイヤが悲鳴を上げることもなく、(因みにタイヤの銘柄はレグノの標準装着版)いとも簡単にコーナーをパスするのだ。調子に乗ってスピードをあげても、一向に破綻を見せることはなかった。アップダウンの激しいワインディングでは時折下回りをヒットさせ、おそらくラテラルロッドからなのか、音源はわからないが「カン」と軋むこともあった。
多くのミニバンに乗ったわけではないが、この驚きはオデッセイの時と同様であった。もっとも最新のMPVのように低床ミニバンといわれるものばかりか、エスティマにしたってミニバンの運動性能は私が抱いているグラっと傾く、曲がらない、切り替えしが鈍いといった印象はもはや捨ててしまったほうがいいのかもしれない。
■高速テスト
夜も更けてきたところで高速クルージングを試す。非合法ながら先行する他車がいないことを確認し、アクセルは床から離さず踏みっぱなし。動物が飛び出しても回避できない危機が脳裏をよぎる。ただ、トンネル内では風の抵抗も少なく、メーターを振り切ってもリミッターが作動する気配がない。さすがに最高速でのレーンチェンジは怖く、それが例え旧いゴルフであっても、アウトバーン育ちのドイツ御三家の性能にはかなわない。フロント周りの骨格を板金修理した筈のMPVだが、クルマの挙動は比較的安定している。ただ、タイヤなのか、何なのか特定できないけれども低周波が120キロを越えたあたりから聞こえてくるのが難点だった。まあもっとも、日常の速度域であれば問題ないのだが、よくETCの深夜割引を狙って、空いた高速を長距離飛ばして帰った時は不満を感じたものだった。
■キャラクター
パッケージングの話に移そう。杓子どおりのファミリーカー、といった感じで全体的に使いやすい。欲を言えばパノラマルーフといった遊び心も欲しかったのは本音だが、マツダはあえてこのクルマには採用しなかったように感じられる。内装の素材や組み付け精度もレベルが高く、安っぽさは感じない。マツダが良心的と思えるのは、トヨタのように表面は隙を見せないが実は裏側にコストが見えてくる気配があまり感じられないところだ。それに世帯収入や家族構成ごとにカテゴライズされ、ターゲットがみえみえのキャラクターが与えられているのではなく、生活臭が漂ってこないのがMPVのいいところで、そこが選ばれる要員なのかもしれない。
正直MPVを名乗るのであれば、世界のハイウェイを快適に飛ばす基準にまで性能を追求してほしかったが、その気になればクライスラー・ボイジャーのような本格ミニバンを凌駕する商品力まで引き上げられたかもしれない。しかし、初代のような元祖アメリカンミニバンの原形を捨ててまで、国内でヒットさせた商品力に拍手を送るべきだと思う。マツダが再認されたのも、このMPVがヒットしたお陰だと思うからだ。
最後になったが我がMPVは中古車で手に入れ、約4000キロと、もっぱらたまに長距離移動のお供にしか使わなかったので距離は伸びなかった。お陰で駐車場から一歩も踏み出さずに、汚れたまま放ったらかしの時もあった。その間メカニカルトラブルはゼロ。何一つ出費はなかったのは幸いであった。もし次またミニバンを買うような機会があったら、MPVのようなワゴンタイプにしたいと思う。サイズもクライスラー・グランドボイジャーのようなデカいサイズで、ちゃんとクルマがもっている役割をまっとうできるような使い方をしてみたい、と思う。
2008年4月16日
Posted at 2015/05/12 01:24:57 | |
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マツダ MPV 2.5 (LW5W) | クルマ