■ 最終回 ~ Lust Run ありがとう、アルファ145
***** クルマを手放すタイミング
ついに、この時を迎えた。長い間、145に変わる魅力的なクルマはそうそうなく、欲しいクルマはいくつかあったのだが、今ひとつ食指を働かさせるに至らずに時が過ぎるのも束の間、すっかりアルファ145が定着してしまい、気がつけば8年近く、13万キロも共にしてきた我が相棒も、次のオーナーが見つかったことにも伴って、ココが乗り換えるタイミングに相応しいと思い、145を手放すことになったのである。次のクルマは新シリーズのレポートからレポートを始めていく。このページでは最終回に相応しい、これまで145と暮らしてきた総論を記していきたい。
***** アルファロメオのボトムレンジ、お手頃だった。
アルファロメオが欲しい、と思った切っ掛けはDTMやBTCCなどのツーリングカーシリーズに参戦している155TIを見た時だった。メルセデスCクラスやオペルカリブラ、ルノーメガーヌといった市販車ベースに混じって、アルファ155が参戦している姿がたまらなくカッコいい。アレッサンドロ・ナニーニがドライブする155は、テール・トゥ・ノーズの激しいバトルを繰り広げ、接触やコースアウトは当たり前のレース。高回転で吼えるV6サウンドにすっかり心を打たれてしまい、 アルファ155が欲しいと思うのは必然だった。
その頃はゴルフⅢワゴンに乗っていて、当時パソコン少年ではなくアウトドア野郎だった。ひょんなことから見つけた96年型155スーパーの中古車を買いかけた時もあったし、シリアルナンバーのついたファイナルバージョンも欲しかったのだが、当時アルバイトの立場で400万円近くの買い物をするのは、勇気が要ったことだし、アウトドアを楽しむのに45サイズを履く155はいささか抵抗を感じるものだった。そこで興味の的となるのが145になるわけで、ゴルフと同じハッチバックボディ、そして何より155より80万円近くも安い265万円という車両価格は、ゴルフワゴンより安い。155と同じティーポと同じプラットフォームを使う145は、94年デビュー以降の145から始まる146、GTV、スパイダーと同じ世代のテイストが入り、155とは違う新世代のアルファロメオを感じることも嬉しかった。そしてジウジアーロやベルトーネ、ピニンファリーナとも違い、大好きな164から155の流れを汲むチェントーロ・スティーレのデザインは、「受け入れ難さを楽しむ」くらい、魅力があった。
購入の決め手となったのはやはり実用性の高さ。しかし3ドアというのがどうもネックになっていて、エグザンティア風の5ドアハッチバックの146も比較していた。コチラは並行モノしか選択できない。"モノ"というからにはそれなりで、当時南原社長んとこのオートトレーディング・ルフト・ジャパンが近所にあることもあって、入手しやすかったのだが、「日本仕様」となっていないことが心配の種。本国仕様こそ楽しいという場合もあると思うが、私はそこまでイタ車党ではない。でも最終的には強烈なウェッジシェイプなラインに、ひん曲がって付いたような黒塗り仕様のバンパーのデザインが、145の一番カッコいいところだと感じたのが購入の決め手となった。
***** ドイツ車とイタリア車との違い
フォルクスワーゲンに慣れ親しんできた輩にとって、ゴルフワゴンからアルファへの乗り換えは、いかにドイツ車に近いかが評価の判断基準だった。ボディ剛性、スイッチ・レバー類の節度感、全体の耐久性などを比較しながら乗り続けた。走りの印象をわかりやすく表現すると、ドイツ車は「鉄道のようにレールに沿って道路を走る感覚」イタリア車は「エンジンにしがみつき、好きな道を走る」といつも説明する。つまりはドイツ車はシャーシやボディの性能が良く、安全指向が高くて、イタリア車は走ることへのハートやソウルに訴えるところが大きい。自動車技術の理想から別のところの、ファントゥ・ドライブを追及し、本当に楽しみを味わえたのは、少々時間がかかった。
***** 実用車としての145
↑何でも飲込んだラゲッジスペース。リアサスの張り出しも僅か。トノカバーはマジックテープだけだがこれが
意外と使いやすい。そしてウェザーストリップが足りてない事に注目!これがイタリア車。
アルファ33スポーツワゴンの後継とも位置づけられた145だけに、実用車としての厳しい目を持っていた輩だが、実力は想像以上のものだったし、その辺のミニバン以上にヒトを、モノを運び続けてきた自信がある。
4回の引越し、友人の結婚式には映像・音響機器をしこたま詰め込んで機材カーとなったし、レジャーではマウンテンバイクを積み、4人乗せての日帰りスノーボード、友人たちと集まってのBBQ、やがてレンタカーが使えなくなった時には愛知・岐阜を巡回する営業車として活躍する。素晴らしいのは荷物の積み込みに全く不安がなく、27インチのモニターを積み込み、デスクや組み立て家具、あるいはスノーボードも難なく飲み込む。4本のタイヤを積んでもまだ後ろに一人乗れるくらいの余裕だし、開口部が広く、天地方向に広く且つトーションビーム形式のリアサスペンションによる余分な出っ張りがないので、"美しく"荷物が積めるのだ。
このように、スペース的には不満はなかったが、ハッチゲートの取り扱いには少々ストレスが残るものだった。キーオフの状態でダッシュボードの電磁式オープナーで開けるか、エンブレムを回して鍵を差し込んで開けるしかなかったから、かなりわずわらしかった。しかしハッチゲートのデザインを優先してグリップを設けなかったり、集中ロックとシンクロさせてコストアップを嫌ったように、こだわりが伺える。
インテリアもうまくデザインされている。 ポジションについては全ての145オーナーが感じていることだろうが、シート位置が高く、一番低い位置にしてもミニバンに乗っているような感覚になり、初めのうちは落ち着かなかった。それでも運転席からの視界が随分と良く、ウェッジの効いたサイドウィンドーのラインも相まって、開放感は最高。例の"えぐられた"助手席側ダッシュボードも室内空間をルーミーなものにするのに一役買っている。シートは13万キロ使ってきてもあんこのへたりは感じられず、長距離移動にも疲れを感じることは少ないほうだった。この99モデルには戦前時代のalfaromeoロゴが入っており、雰囲気があるもので、デザインそのものも外から見ていて飽きのこないものだった。
常に不満を感じていたのはやはり小物入れスペースの不足。グローブボックスは車検証を入れると蓋が閉まらず、携帯電話を置くスペースはラジオの下か、メーターフードに置いておくくらいしかできない。元来、クルマにモノを置かない気質なので、どうってことなかったが、12年間も稼動したカーナビの貼り付け位置は恥ずかしいもので、せっかくのダッシュボードのデザインを台無しにしていた。とはいっても運転しながら目視するものなので、安全性は妥協できない。空調噴出し口に差し込むカップホルダーだけは絶対にできなかったが。
一方で走りの面については一長一短の性格があった。はじめのうちは駐車スペースにバックで入る際、私はミラーでしか後方を確認しないのだが、真っ直ぐ入ったつもりが降りてみると斜めになっていた事が半年くらい続いた。ドアミラーの視界が狭いのが影響しているのか、オークションで仕入れたワイドミラーを両面テープで貼り付け、多少は役に立ってるのかと思う。145にお乗りの方なら経験があると思うが、フロントバンパーの最低地上高が低く、車輪止めにもぐりこませてしまったり、急なスロープで擦ったりしたことが多いかと思う。しかしその後方には低い位置にあるオイルパンがある。13万キロ乗ってきて幸いにして一度もヒットした痕跡がなかった。オイルパンの低さとバンパーの低さに意味があるのかわからないが、この低さが145独特のプロポーションを表しているのはいうまでもない。
エンジンは可変吸気バルブタイミング&リフト機構が採用された156と同じエンジンなので、全域で扱いやすかった。混雑した道路や低速域で、低い回転からでもトルクの出方が自然で、ミッションとの相性もよくガクつかない。因みに前期型で新世代エンジンの組み合わせは、この99年モデルだけだ。一方で高速・高回転域ではアルファロメオ本来の魅力が最大に発揮される。特別速いというわけでもなく、強大なトルクを感じるわけでもないが、4000回転あたりから始まるウェーバーサウンドを耳にするたび、アルファに乗る悦びを感じる。特に深夜の空いた道でミッションを自在に操り、高回転気味で駆け抜けるともうそれは病みつき。レスポンスがよく、回転が落ちるのも早いので、キビキビ感がたまらない。
8万キロ無交換のフロントブレーキパッド ブレーキは車検の度にオイルを交換し、ローター研磨を一回しただけのメンテナンス。ブレーキパッドは13万キロ走ってきて1回しか交換を要しておらず、12万8千キロ時点でスタッドレスタイヤに交換するときに点検してみると、残り5mm強といったところ。エンジンブレーキを多用し、惰性で走りぬくエコドライブを繰り返してきた恩恵だと思う。制動力そのものは大したことなく、はっきり言って効きはよくはない。それでもパニックブレーキ時にはABSを利かせながら安定してステアリングできるようになっていた。
***** アルファロメオ
一台のクルマがあれば、人生を変えることができる。アルファロメオとは、そんなドラマを持ったクルマだと私は信じている。145に乗っているうちに、イタリアのクルマや文化に影響を受け、ミラノやフィレンツェへ行きたいと思っていたが、その野望は叶わずに8年を消化した。その間にもイタリア文化を知り、シューマッハーが乗るフェラーリやモトGPのマックス・ビアッジ、バレンティーノ・ロッシのキャラクターにシビれ、子供の頃からの一台だけの珠玉、チンクェチェントに乗り、数々のイベントにも参加してきた。中でも印象に残った出来事は2001年の夏にパシフィコ横浜で開催されたムゼオ・アルファロメオで、戦前のアルファや155などの最近のレーシング・アルファなど門外不出のアルファロメオミュージアム。エンジンや貴重な資料・ポスターが展示され、アルファロメオの歴史的重み、文化の洗練を受けてきた。第2次世界大戦があるのとないのとで、歴史的命運が分かれたように思う。
↑一番のオカズがこれ。ティーポ33ストラダーレ
次に日本で見れる日があるのだろうか…
ちょっとでもクルマが好きな人を横に乗せれば、大概はツインスパークサウンドの話になるし、クルマのことをよく知らない人にも、高速道路を飛ばせば「いい音」と言ってもらえる。高回転になれば喧しいだけのクルマとは違い、走る事についていえばどんな人にでも直感に訴えかけるエンジンサウンドは凄い。このようなエンジンはアメリカンV8くらいだろうし、ガソリンエンジンが淘汰されていくこの時代に十分堪能できた事は幸せに思う。145の刺激は156や147でも無く、初めてのアルファは作りの良い147からが良かったかなと思ったが、鋭利なラインで独特の抵抗感をあえて演出したような145が好きだ。145に乗って落ち着きや安らぎはなかったが、ソウルがある。人生を楽しみ、人を愛し、歌を歌い美味いものを食べようじゃないか。かっこいいクルマに乗り、好きなように走る。それが実用車としてのアルファロメオ。このメーカーにはイタリア文化が詰まっている。アレーゼの風は堅物の私を翻弄したのだ。
***** 145、セカンドライフへ
それにしても約13万キロ、よく走ってきたものだ。ディーラーの顧客では20万キロを超えた145オーナーが最長で、毎日現役だという。我が145も20万キロまで付き合いたかったのは本音。新しい相棒と付き合うことになったが、145を長く蔵入りさせれるほどの余裕もなく、次のオーナーが見つかったことでリリースするよいタイミングとなった。我が145の里親となるのはこれまた145オーナーとの事で、甥っ子として送り出すことになるのである。もう滅多に見ない145なので、旧いアルフィスタ達の仲間入りだろうか。いい状態で長く現役生活を送ってほしいものである。
ありがとう145。次はジュニアで会おう!
(2007年1月10日)