「全国一律」という介護保険制度の前提が崩れている。サービスを受けたい人の要介護度の認定を巡り、市区町村の99%が全国共通の判定を2次審査で変更。申請件数に占める変更比率は自治体でゼロから41%までばらつきがあることがわかった。同じ身体状態でも利用できるサービスが地域で異なることになる。自治体は独自の判断理由を住民に周知しないと、公平性が保てなくなる。
■変更件数の割合、最大は41%
要介護度は介助が必要な度合いに応じ、軽い順に要支援1~2、要介護1~5の7段階。立ち上がるのに支えが要る程度なら要支援1、寝たきりの場合は要介護5に相当する。生活上の自律性や認知機能を問う全国共通の調査票に基づきコンピューターで判定。その後、個別事情を考慮し、医師などで構成する介護認定審査会が決める。
審査会で議論する材料は自治体で異なる。要介護度を上げれば、利用できるサービス量や種類は増える。要介護5の場合、介護保険からの支給限度額は月約36万円で要介護1は約17万円。むやみに上げると介護需要が膨らみ、保険財政の負担が増す。不必要に下げれば適切なサービスを利用できない懸念が出る。
日本経済新聞は厚生労働省に情報公開請求し、2次審査で判断を変えた比率の自治体別データを入手した。最新の2018年10~11月で100件以上を審査した904市区町村が対象だ。
892市区町村が要介護度を変えていた。変更率は平均9.7%。変更率が5%未満の自治体数は3割、10%以上は4割だった。77市区町で20%を超し、ばらつきが大きい。ゼロは12市町。
■指針から逸脱も
多くの自治体で上げる事例と下げる事例が混在しているが、相対的に上げている自治体が多く、財政負担が増す方向に働いている。
国の指針は介護の手間を基準とし、病気の重さや同居人の有無を理由に変更はできないとしている。だが、変更率が高い自治体では指針に合わない事例があった。
変更率が35%と3番目に高い東京都国立市は大半が要介護度を引き上げていた。末期がん患者は一律に要介護5とする独自運用があるからだ。高齢者支援課は「容体が急変しても対応できるようにするた
1次審査より要介護度を引き上げる割合が30%超の自治体は埼玉県三郷市や三重県四日市市など8つ。千葉県銚子市も末期がんは要介護2以上にする慣習があるという。
21%で要介護度を下げた埼玉県和光市の審査会委員は「家族介護が見込めると下げる」という。宮崎市や兵庫県西宮市も同居人の有無が影響している可能性があるという。変更率が41%で、下げた割合が33%弱の福岡県みやこ町は「調査票の特記事項にある事情を議論した結果」と述べた。
■独自の裁量、住民に見えず
日本介護支援専門員協会の浜田和則副会長は「自治体が独自基準を設けてもおかしくない」と指摘する。認定は市区町村の自治事務だからだ。
問題は独自基準が明文化されておらず、審査も非公開である点だ。19年に長野市から埼玉県内に移った80代女性は要支援1から要介護1に上がった。親族は「住む場所でこれほど違うのか」と驚いた。NPO法人「となりのかいご」の川内潤代表理事は「独自基準があるなら住民に丁寧に説明すべきだ」と訴える。
国は18年度、要介護度を維持・改善した自治体に交付金を手厚く配る制度を設けた。ニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員は「自治体の方針で変わる要介護度を指標にすると、交付金狙いで要介護度を下げようとする地域が出かねない」と語る。
(上林由宇太)
めだ」という。