今日は墓参に行ってきました。
自宅付近は晴れていたので安心してたらお墓のある所は雨でした・・・
しかも迎え火&供物のタバコ点火用の火を忘れるという大失態(T_T)
一端、お墓の近くのホームセンターに戻りチャッカマンを買ってきました。
車中の音楽はスメタナの連作交響詩「我が祖国」(ヴァツラフ・ノイマン指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1974年 東京文化会館 LIVE)を聴きながら。
この公演はFM番組「TDKオリジナルコンサート」録音の為に催された演奏会の実況録音で、ライナーノーツによれば東京文化会館の定員2,000名の募集(録音の為、無償応募制のコンサート)に対してハガキがなんと115,000通も届いたそうです。
その2,000名に選ばれた方は幸運だったでしょうね(^^)
当日はそれでも抽選から漏れた人々が文化会館に並び「立ち見でいいから入れくれ」と懇願する人まで現れスタッフは「消防法で禁止されていますので駄目です」と必死に頭を下げたとか。
演奏は少しデッドな響き(東京文化会館大ホール自体がデッドですから仕方ないですね)ですがチェコの土臭さを感じる素晴らしい演奏です。
「我が祖国」ではクーベリックのチェコ・フィル盤とバイエルン放送響盤に並んで私の愛聴盤となっています。
最後の「ブラニーク」が終わって一瞬の間を置いての「ブラボー!」と万雷の拍手は当時、如何に人々が音楽を渇望していたか、そして115,000人の中から選ばれた幸運な2,000名の聴衆の熱狂ぶりを感じました。
私の生まれる前の録音ですが、これを実演で聴けた方は本当に羨ましい限りです。
さて、お墓は雨も降っていて迎え火も線香も直ぐに消えてしまう為、ご先祖への非礼を詫びつつそそくさと帰って来ました。
(恐らくお迎えたのでGT-Rに一緒にご先祖方々も乗ってきたと思います。恐らく相変わらずうるさい車だなと言っていることでしょう笑)
思ったより早く帰宅したので日課の「読書&CDを聴く」に耽ろうと思ったのですが、ふと映画でも観ようと思いDVD棚から「白い巨塔」を出して観ました。
「白い巨塔」は余りにも有名な山崎豊子原作の小説で、近年では唐沢寿明さん主演で連続ドラマ化され高視聴率を誇りました。
しかし、この「映画版 白い巨塔」は田宮二郎さん主演で最初に映像化された記念すべき作品です。
(監督は社会派作品の巨匠として知られた山本薩夫)
その主要な登場人物達。
※以下、三作品を分類するため下記のように書きます。
映画版=最初に映像化された作品
田宮版=田宮二郎主演で1978年に連続ドラマとして放映された作品
唐沢版=唐沢寿明主演で2003年に連続ドラマとして放映された作品
主人公 財前五郎
国立浪速大学第一外科助教授。そのメス捌きは国内でも屈指の物で「胃がんの若き権威」と呼ばれ財前の名前を頼って遠距離からも患者が来る存在。上昇志向が強く、患者や医局員への態度も尊大・傲慢だが母親想いの一面も。
財前五郎(田宮二郎・映画版)

財前五郎(田宮二郎・田宮版)

財前五郎(唐沢寿明・唐沢版)

私は「唐沢版」をリアルタイムで観て、それから「田宮版」を観たクチですが、田宮二郎という俳優の演じた財前五郎はニヒルで傲慢・冷血、しかし意外と情にもろいところを演じきった姿に「役者魂」を感じました。また「唐沢版」も尊大で傲慢、そして打算的だが里見との友情を感じさせる名演技でした。
里見脩二
国立浪速大学第一内科助教授。財前とは学生時代からの友人であり、そのメス捌きを認めつつも患者への態度等では相容れない。患者に対してはおせっかいとも言えるほど献身的で且つ、慎重な診察をする。患者からの信用は絶大だが、医局員や上司の教授からは、その献身的且つ丁寧な診察で時間と取られたりするため煙たがられている。
里見脩二(田村高廣・映画版)

里見脩二(山本學・田宮版)

里見脩二(江口洋介・唐沢版)

里見という人物は患者だけでなく周りの人々にも優しく学究肌の人間なのですよ。江口さんはその役を上手く演じているのですが、「トレンディドラマ」のイメージが強いうえに「学究肌」という感じがしません(笑)その点、田村高廣さんと山本學さんは優しくて、学究肌だが医師としても一流、しかし要領の悪い人物を完璧に演じきっています。それを最も感じさせるのが江口さんは財前を「おい、財前」と呼び捨てですが田村高廣さんと山本學さんは「財前君」と呼んでいます。江口さんの演技が下手というわけでは無くて、ちょっとワイルドになっているかな?という感じ。
東貞蔵
国立浪速大学第一外科教授。財前の師であり上司でもある。医師として高潔な人物であり財前の腕を認めていたが、財前が「若き権威」と雑誌で紹介されたり、教授である自分を差し置いて財前を指名する患者の方が多いことなどから嫉妬心を抱く。またその事から財前の性格までを憎むようになり自らの退官後の後任教授にほぼ内定していた財前に対立候補を立て、追い落としを図る。
東貞蔵(東野英治郎・映画版)

東貞蔵(中村伸郎・田宮版)

東貞蔵(石坂浩二・唐沢版)

東教授を演じた三人の役者さんは皆「大物」ですから演技はどの版を観ても素晴らしいとしか言いようがありません。若い才能に嫉妬心を抱き、それが憎悪となり些細なことでもケチをつけ、挙げ句の果てには自分の弟子である財前を追い落とそうとする姿・・・
医師としての「高潔さ」と人間臭い「若い才能への嫉妬」を両立させた演技は難しいところですが、この三人全てが自らの個性を出しつつ、それを演じています。
それにしても東野さんと石坂さん、「黄門様」という共通点が(笑)
鵜飼医学部長
国立浪速大学医学部長・第一内科教授。人間関係の駆け引きに長けており、医師としての業績よりその世渡り上手な人間性で医学部長にまで登りつめた人物。自らの権勢を誇ると同時に患者や医局員達にもドライで更に自派閥を大きくしようと画策する人物。
鵜飼医学部長(小沢栄太郎・映画版)

鵜飼医学部長(小沢栄太郎・田宮版)

鵜飼医学部長(伊武雅刀・唐沢版)

いやー、鵜飼医学部長役を演じたお二人は俳優界の「二大ヒール」とも言っていい存在ですね(^^;)
小沢さんは大河ドラマ「新・平家物語」で「藤原信西」役をやった時は余りのヒールっぷりにNHKに「早く信西を殺せ!」という投書が沢山来たとか(笑)伊武さんも様々なドラマでヒール、それも相当クセのある演技をしていますよね。「権謀術策」を図るヒールではこのお二人が最高だと思っています。
(といいつつ十数年位前に伊武さんが「明智小五郎」をやったのは黒歴史?笑)
この二人がヒールであることには変わりないのですが「映画版・田宮版」で演じた小沢さんはちょっとは人間味のあるところがあるのに対して「唐沢版」の伊武さんは最後まで徹底したヒール(笑)
ここにちょっとした違いがあります。
菊川昇
国立石川大学外科教授。
心臓外科の若き権威をして高名な存在。財前の追い落としを図る東教授により東後任の教授選挙に出馬するよう依頼される。当初は断るが逡巡し、出馬を決意。学究肌で穏やかな人柄。熾烈な教授選挙で財前に敗れる。
菊川石川大学教授(船越英二・映画版)

菊川石川大学教授(米倉斉加年・田宮版)

菊川石川大学教授(沢村一樹・唐沢版)
菊川教授は心臓外科の第一人者であり、穏やかな人間性と確かな技術で患者や医局員からも慕われ、金沢で研究と講義に没頭する日々を送っていたのに東教授の野心のせいで浪速大学の教授選に引っ張り出され、挙げ句の果てに負けるという踏んだり蹴ったりな役です。
この役を三人の名優が演じています。
船越さんは今ワイドショーを賑わしている「YouTubeで怖い日記を公開している家計上手な妻」を持つ「2時間ドラマの帝王」のお父さんです(笑)
船越さんは金沢に愛着を感じ、そこでの生活に満足しているのですが東教授らに流され教授選出馬に至ってしまうという感じ。
米倉さんも金沢で研究を続けたいが、石川大学より規模の大きい浪速大学の教授になればもっと大きな研究が出来ると思う、ちょっと野心を覗かせた感じ。
沢村さんは寡黙で「完全に学究肌」な人物で余計なことはしゃべないという感じ。
三者の「菊川教授」もそれぞれ違いがあっていい演技でした。
一番印象深いのは沢村一樹さん。教授選に敗れた事を電話で聞くと「そうですか。やはり東先生と船尾先生の道具として使われた私と、医局員達から絶大な信用を集めていた財前先生とでは最初から勝負がついていたのでしょう。もう石川大学にいるわけにもいきませんから、オーストラリアの大学に移って研究を続けます。あちらには「医局」という不可解な存在はありませんから」と言って電話を切るシーン。
穏やかな人柄の菊川が皮肉を込めて東教授への怒りを静かにあらわすシーンは印象的です。
この他にも登場人物は多数おりますが、それを全部紹介していたのではとても長くなるのでこの5人を紹介すれば「白い巨塔」のあらすじは分かるということで(笑)
この作品は山崎豊子先生が「医局」という世界にメスを入れた名著です。
当時は「無給医局員」(医局に置いてもらえて医師としての修行や研究は出来るが給料が出ない)なんてものがあった時代で医学部内における「教授」は絶対的存在であったようです。
その暗部を小説家したもので所謂「エンターテイメント的」要素は無い骨太の作品です。
そのあらすじ。(というか映画版ネタバレです。物凄く端折っています笑)
浪速大学第一外科助教授の財前五郎は父親を早くに亡くし、母親の手1つで育てられ勉学に勤しんだ結果、地元の医師の目に止まり学費援助や奨学金を貰いながら浪速大学医学部に入学。優秀な成績は勿論、外科医としての才能も開花し第一外科助教授にまで登りつめます。
またその優秀な所が大阪で大きな産婦人科医院を営む「財前又一」の目に止まり、婿養子として迎え入れられます。
そして「胃がんの若き権威」として世の注目を浴びる存在となり、雑誌の取材を受けたり財前を頼って全国から患者が集まるまでの存在となり、第一外科は「財前外科」とまで呼ばれる存在に。
しかし、当の第一外科教授、東貞蔵は弟子である財前にばかり世間の注目が浴びせられることに嫉妬心に似たようなものを感じ始め、さらには財前のスタンドプレー的行動に腹を立て始めていました。
東は翌年に定年退官を控えていましたが、その後継者は誰が見ても「財前助教授」だろうという事で一致しています。しかし東はそれが余計にも面白くなくなり、財前に対し些細な事で注意したり上げ足を取るかのような発言を繰り返します。
それでも「東教授の後継者」は自分だと自負する財前は我慢し、東に対して低姿勢な態度を取り続けますが、今度はそれが東にとっては「慇懃無礼」な態度に思えて来て、遂に東は財前を後継者として指名せず、自らの院政を狙う事も考え他の大学から後任教授を連れてくることを画策します。
師として従っていた東の行動を知った財前はなんとしても「教授」になって「財前外科」を有名事実にしたいと考え、医学部長で第一内科教授の鵜飼に接近。
鵜飼への調略(まぁ簡単に言えば賄賂工作ですね笑)を始め、また鵜飼医学部長も医学部内での自らの派閥を更に強大化させるという二人の思惑が合致した結果、鵜飼医学部長は財前を教授選で応援することに決めます。
東は自らの出身校「東都大学医学部」の医学部長である船尾教授に誰か自らの後継者足りうる人物はいないか相談した結果、船尾教授の弟子で石川大学の「菊川教授」を紹介され菊川こそ自分の後継者に相応しいと考え自分の後任の浪速大学第一外科教授になってくれるよう頼みます。
菊川は当初は渋りますが師である船尾教授の説得もあり、その話を受けます。
それを知った財前は、舅(開業医)の豊富な資金と鵜飼医学部長の支援のもと、他の教授陣へ多数派工作を進めますが、東教授側も同じくポストや研究資金をエサに同じことを・・・
そして運命の教授選挙の日。
一度目は財前・菊川両者ともに過半数に届かず決選投票となることが確定。
即時決選投票を主張する大河内前医学部長(高潔な人物。財前・菊川両派の札束やポストが飛び交う熾烈な選挙戦に嫌悪しており教授選挙を早期に終わらせようとしていた)を鵜飼医学部長が静止し「一週間後」の決戦投票が決まります。
さらに飛び交う札束とポストをエサにした一本釣り(笑)
書いていてなんだか昔の政治ドラマみたいだな(^^;)
決選投票。
財前16票、菊川14票で財前が東退官後の後任教授に決定します。
喜びに湧く財前や医局員、唇を噛む東・・・
(東教授は学外から教授を連れてこようとしたことで医局員達からも距離を置かれています)
その敗戦を報告する東教授に対する菊川教授の態度は船越・米倉のお二人は淡々としていますが、沢村さんは上で書いたとおり淡々と語りながらも強烈な皮肉を込めたカウンターパンチ(笑)
晴れて教授になることが内定した財前に海外で開催される学会に来て発表をして欲しいとの依頼が来ます(映画版、田宮版、唐沢版によって行き先が違います)
更なる栄誉に自信を深める財前と海外にまで轟く「Professor Zaizen」の名に沸き立つ医局。
財前の学生時代からの友人で第一内科の助教授である里見脩二は内科医として優秀ですが「出世」には興味が無く、患者に真摯に向き合い事を第一に考える医師です。
里見は患者に対する態度等、財前と違うところはあれどお互いにその存在を認め合う中でした。
財前が教授選工作をしている頃、里見は1人の患者を診察、その患者のレントゲン写真を見て「胃がん」であることを見抜き、財前に意見を求めます。
財前は間違いなく胃がんであり、今手術をすれば完治可能だと結論を出します。
がんを宣告され、動揺というよりあーだこーだと理由を付けて手術をゴネる患者に財前は一喝します。
「今なら100%切除可能です。助かりたいなら手術同意書にサインしてください。嫌だと言うならどうぞお引き取りを」と。
里見はその態度を見て「100%根治を約束するなんてどういうことだ!」と食って掛かりますが財前は「治せるから言っているんだ。治せないなら言わないよ。それに患者自身が治すという気が無ければどうにもならないじゃないか」。
この患者はしぶしぶ手術を受けることに同意し、手術の説明を受けますがその際、医局員の1人が気になる影を見つけ、財前に尋ねますが財前は結核の痕と判断、更にこのがんを発見した里見は更なる精密検査を行うべきと財前に進言しますが財前はそれを無視、手術を行います。
そして海外での学会へ医局員達の歓呼の声に送られ旅立つのですが・・・
財前の出発後、その胃がんを手術した患者の容態が急変、手当の甲斐なく死亡。
死因はがんが肺に転移していたのに手術を行ったことによるものでした。
(なお解剖によって「肺への転移」を見つけたのは上で書いた「高潔」な大河内・前医学部長でした)
遺族は財前の尊大な態度と親身になって診察せず海外に行ってしまったことに不信感を抱き、浪速大学と財前を相手取り民事訴訟(賠償と謝罪を求める)を起こす事態に。
海外での学会を成功裏に終わらせ絶頂で帰国した財前を待っていたのは新聞の一面にデカデカと載った「財前教授、訴えられる」の紙面でした。
財前は自らの潔白(誤診はなかった)と信じていますが、念には念を入れ医局員達に工作すると同時に裁判における被告側鑑定人を医学界の権威に依頼、万全の体制で裁判に臨みます。
財前の力量を知っているこの権威は財前の手術は完璧で、肺への転移は予測することは不可能であり、また外科医が手術を恐れていては医学の発展はおろか、外科医達は皆萎縮してしまい救える命も救えなくなると擁護する鑑定意見を述べます。
(この被告側鑑定人として登場する人物、なんと教授選で東教授と一緒に財前を追い落とそうと菊川教授を紹介した船尾東都大教授です)
一方の原告側は「浪速大学」を敵に回すということもあり鑑定人を引き受ける人物がおらず困っていましたが事の経緯を知る里見や東前教授の力添えもありなんとか鑑定人を見つけます。
そして判決。
それは原告の請求を棄却するという財前側の勝利で終わりました。
裁判で勝ちを収め、不敵な笑みを浮かべる財前。
そして「これは当たり前の結論だよ」と一言。
一方、浪速大学に不利になる鑑定人を紹介した里見第一内科助教授には鵜飼医学部長から「山陰大学内科教授」という一見、助教授から教授への昇進と見えつつ浪速大学とは比べ物にならない貧弱な研究設備や病院、そして殆ど研究予算の無い山陰大への転勤命令は事実上の「左遷」辞令が。
里見はその辞令を拒否、浪速大学を退職することを決意します。
映画のラスト、1人寂しい姿で去っていく里見。
そして彼が振り向くとそこには「白い巨塔」浪速大学病院がそびえて建っているのでした・・・・・
はぁ、長かった(笑)
これが映画版のあらすじ(というかネタバレ)です。
これを子供の頃、BSで見た時の感想。
財前には「なんて酷い奴だ!悪いことやって教授になって、しかも裁判でも悪いことして勝ってるし!なんでこんな奴が最後に勝って高笑いすんだよ!こんな奴、サイテーだ!」。
里見には「患者にも優しいし子供にも優しくていい先生だなぁ。それに仕事にも一生懸命だし。なんでこんないい人に看護婦さんとかの態度悪いのかなぁ。それに正しいことを言ったのに病院を追い出されるなんて酷いよ・・・」
東教授には「細かいことでうるさいおっさんだなぁ。それになんでもかんでも文句ばっか言ってるよ。うちの親父よりうるせぇ(笑)でも死んだ患者さんの事を考えていたのは立派だね」
鵜飼医学部長「こいつも財前並に悪い奴だ!自分が得になることしか考えてないし!こいつが一番のワルだ!」
と思ったものです。
しかし、歳を重ねて今この映画を観ると見方が子供の頃と全く違うのです。
財前に対しては「人間、上昇志向が無くなったらダメだよなぁ。しかも教授になれば手術も研究も人事も好き勝手やれるし、どうしてもなりたいよなぁ。それを信じて東教授に仕えてきたのに梯子はずされたらそりゃ頭にくるし、潰しにかかるよね。裁判もなんだかんだ言って「組織の論理」で仕方ねーなぁ・・・」・
里見には「患者に優しいのはいいけどもうちょっと要領よくできないのかねぇ。仕事が丁寧なのは分かるけど使えない奴じゃん。それに自分の友人を売るような事、よくできるわ!むしろ左遷で済んでいい位じゃね?」
東教授「ホント口うるせぇおっさんだな。しかも自分より若くて腕の立つ弟子に嫉妬しやがって。しかも院政を引こうとしてやがるし。高潔ぶっているけど単なる権力欲が欲しいだけじゃん。しかも長年仕えた部下を切り捨てやがって、最低な奴だ」
鵜飼医学部長「組織のトップに立つと足元掬われないかと思うよなぁ。そうすると自分の派閥を大きくしたくなるのも当然だし。金だってあげると言われたら貰っちゃうな(笑)それに組織を守ろうとするのも分かるし、なんだかんだ言って財前の手腕を認めてんじゃん」
・・・・・
大人になって心が汚れてしまったようです(笑)
子供ころは「勧善懲悪」にスカッとさせられる単純な物語が好きでしたから、そういう思いを抱いたのだと思います。
逆に大人になり「労働経験」を持てば「組織の論理」や「要領の良し悪し」「出世欲」という物を知ってしまう訳です。
ですからこういう感想を抱くのだと思います。
山崎豊子さんが小説で言いたかったのは「上昇志向が強いが外科医としてのスキルは超一流」の財前と「出世欲は無く、要領が悪いが患者への真摯な態度」の里見を対比させると同時に、嫉妬心で弟子を追い落とそうとする東教授、更には財前を取り込んで自らの権勢拡大と懐も肥やす(笑)鵜飼医学部長をという4人の人間模様を絡め、「教授選び」という1つの「儀式」のせいで1人の患者が死んだという悲喜劇だと思っています。
この小説(そして映画・ドラマ)には結局「ヒール」はいないのだと思います。
財前は自らの腕に過信しその結果、誤診をしてしまうわけですがその患者を「救おう」としたことは事実ですし、東教授に梯子を外された結果、教授選で闘うことになってしまった事は「それまで仕えて来た師に裏切られた」という思いだったでしょう。
里見は里見で財前と対応の違いや科の違いこそあれ、その患者を救おうとしたことは同じですし、亡くなった患者の家族の事を考えると同時に「死因」を明らかにすることこそが「医学の進歩」に繋がると信じているからこそ、原告側の証人になったのでしょう。
東教授は自分の弟子である財前のスキルの高さに嫉妬する気持ちも分かりますし、一度握った権力を「院政」という形で残したいことも理解できます。そして財前のスタンドプレーに嫉妬から憎悪に変わりつつもなんとか財前に謙虚になって欲しいとの思いから小言めいた事を言っているのも分かります。
鵜飼医学部長は最も人間臭い人物でしょう。自らの権力保持、さらなる栄達、金。人間が欲する「欲」を如実に表している人物です。人間だれもが一度はこれらを欲しいと思うことでしょうし守るべき「組織」が出来ればなりふり構わずそれを守ろうとするのも人間の本能です。
こうして書いていてこの四人でもっとも共感と言うかその心情が分かる人物。
私は「東教授」の心情が分かるような気がしています。
私には財前のような傑出した何かのスキルがあるわけでもありませんし、上昇志向もある方では無いと思っています。
また里見のように聖人君子のように人に接する事ができる自信もありませんし彼のように自らの組織を敵に回してまで他人様の事を考えるなんて行動をする勇気もありません。
そして鵜飼医学部長のように栄達には興味が無く(というより縁がない笑)組織のトップに立ったことはありませんし、これから立つことも無いでしょうから「組織を守る」という矜持を持っていません。また「組織」が無いとすれば、それに替わって「守るべき物」であろう「家庭」もありません。(ただし「金」への欲だけはありますが笑)
私は東教授の「嫉妬心」が分かる(ような)気がするのです。
学生の頃は自分より成績がいい人間にジェラシーを抱きましたし、今でも自分よりルックスがいい、運転が上手い、話術に優れている、女の子にモテる(笑)等など自分が持っていない物を持つ方にジェラシーを憶える事は今でもたまにあります。
「ジェラシー」という感情を捨て去るにはまだまだ人生の経験値が不足している証左なのかもしれませんが、一生捨て去ることが出来ない感情の1つなのかもしれません。
まぁ、その感情が人様に迷惑を掛けなければ、無理に捨て去るべき感情だとは思っていませんし、ふとしたきっかけでそれを捨てる事が出来るかもしれません。
理想は名指揮者カルロス・クライバーが言った「私は庭の野菜のように太陽を浴びて成長し、食べて、飲み、愛し合いたいだけ」という人間像ですが、こうなるにはまだまだ人間としての修行を重ねなければならないのでしょうね。
(あ、「愛し合いたい」という欲が残っていた笑)
「白い巨塔」は本来、この財前の勝利で終わる筈でした。
映画版もそのとおり、財前の勝利で終わっています。
しかしこの小説が発表されるやいなや、社会的反響が大きく山崎豊子さんは乗り気ではなかったようですが続編を書くことになります。
それが「田宮版」や「唐沢版」で描かれる第二審から衝撃のラストまでです。
小説版・映画版・田宮版・唐沢版で話のメインストリームは同じですが、細部では放送された時期にそった変更点や登場人物の変更があります。
それらを比べてみるのも1つの楽しみだと思います。
なお、「白い巨塔」は上で挙げた三つの映像作品の他にテレビ朝日で放映された「佐藤慶」さんが財前を演じた「佐藤版」、村上弘明さんが財前を演じた「村上版」もあるようですが、こちらの2つは残念ながら映像化されていないようです。
これらはDVDで復刻して欲しいですね(^^)
また韓国でも「白い巨塔」はドラマ化されています。
ハングル表記하얀 거탑 (ハヤンコタプ)
最後に「白い巨塔」名物?「教授総回診」の模様をお伝えして本日のブログを最後としたいと思います。
映画版

田宮版

唐沢版
?

あ、最後のは違いますね(笑)
同じ医療ドラマで「ドクターX」も好きですがあちらは「エンタメ」、「白い巨塔」は骨太の人間ドラマですね。
映画版では田宮さんが31歳と若く「教授」らしさが足らないと考え髭を生やしたそうです(^^)
それにしても私の入院していた某病院は教授回診でこんなにゾロゾロと大名行列じゃなかったですけどね(笑)
本日も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
また沢山の「イイね!」誠にありがとうございます。
Uターンラッシュが明日(あ、もう今日か)あたりから本格化するようです。
Uターンの皆様も行楽に行かれる方も道中、何事もありませぬようお気をつけて。