
長かった大雨が過ぎ去り、暑すぎた夏の残熱が少し和らいだ先週。
午前休みをとって久しぶりにアルピーヌで箱根に来てみた。
平日なので車は空いてる。
でもバイクはそれなりにいる。
真夏のあいだ姿を隠していたバイク乗りたちが久しぶりに路上に戻ってきたようで、嬉しいかぎりだ。
この日は国道1号線から椿ラインを上って大観山まで行った。
4輪でワインディングを走るのはけっこう久しぶりな気がする。
椿ラインくらいの中低速コーナーは、ライトウェイト・スポーツカーの独壇場。A110は水を得た魚のように、軽やかにノーズの向きを変え、荷重移動によってしっかりトラクションがかかりながら機敏に駆け抜ける。
というようなことを30年前くらいなら気軽に言えたんだけど、正直なところ今こういう道を走っても、フラストレーションのほうが勝る。
バカみたいに飛ばしているわけじゃないんだけど、バイクに乗ってるときにはあまり感じない、悪い意味での緊張感がある。
それは、車体コントロールを失うことに対する緊張感ではない。
バイクと違って4輪は、常識的な速度で走っている限りは公道でコントロールを失うことなんてまずない。
現代におけるスポーツドライビングの緊張感とはつまり、
他の車の存在、あるいは世間の視線に対する緊張感のことだ。善良な市民であることを自覚し、対向車やまわりの交通に少しでも威圧感を与えるような速度で走ってはいけないという抑制心に伴う緊張である。もちろん、煽ったりイエローカットしたりしてもいけない。
だけどその抑制心は、かなり意識的に気をつけていないと簡単に忘れさられてしまう。現代の車はとにかくスピード感に代表される運転の生々しさをドライバーに感じさせないようにできているからだ。
サーキット走行などに慣れていない大多数ドライバーにとっては、スピード感は無条件で不安につながる。使用の際に不安を感じさせるような商品ではユーザー・エクスペリエンス上よろしくないので、メーカーは実際に安全・安心であるだけでなく、なるべく
安全・安心を体感できるように商品をデザインする。運転している人の精神の平穏を少しも乱さないよう、柔らかくて繊細な安全膜でドライバーを包みこむことで、「一歩間違えば自分や他人の生命を奪うかもしれない大型機械に乗っている」という生々しいリアリティから保護してくれる。
同時に、さまざまな電子制御でドライバーのミスをカバーしてくれる。
だからドライバーは、昔では考えられないようなハイスピードを、恐怖感を感じることなく(そして実際、少なくとも単独事故に限って言えば昔よりずっと安全に)誰でも出すことができる。
ドライバーにすべてをダイレクトに伝えたうえで個人の運転技術なんていう不確かなものに頼るよりも、きっとそっちのほうが統計学的により安全で、商品としてより洗練されているのだ。その代わり、ドライバーにはより多大な抑制心を強いることになる。
セダンが廃れ各社ラインナップがSUVばかりになってしまっているのも、地面から着座位置をなるべく離すことでスピード感や路面の存在感をドライバーに感じさせないような車が大多数に好まれているからでは?という気がする。
それでも、A110は「軽さは正義」を地でいくライトウェイト・スポーツカーなので、リアルなスピード感覚を無制限にシャットアウトしてしまうわけではない。スポーツカーらしい適切なダイレクト感がしっかり感じられる。
だけど、「軽い」と言っても1,130kgもあるのだ。30年前なら、あえて軽さをアピールできるような数字ではない。それでも感覚的には昔のライトウェイト・スポーツカーよりむしろ軽快に感じられるのは、ハンドルの軽さ、旋回のレスポンス、そして昔よりはるかにトルクフルなターボエンジンのおかげで、すべての動きから荒削りなストレスが消えているからだ。言い換えれば、A110(そして現代のスポーツカー一般)の「スポーツカーらしさ」というのはある意味、演出によって作られているものだと言える。
現代の車は、より大きく、より重くの方向に進化してきた。大きくて重くなり続ける一方で、それでも軽さを感じさせるためにはパワー・ウエイトレシオを向上させて実際に車を速くしなければならない。
でも、重さをパワーで補いながら軽快さを演出しようとすればするほど、本来のライトウエイト・スポーツの「使い切れる楽しみ」が逃げていってしまうというジレンマ。
もしかしたら「ライトウェイト・スポーツカー」なんてカテゴリーは、とっくの昔に成り立たなくなっているのかもしれない。
そんなことを考えながら箱根を走っていたので、もうスポーツカーの居場所はサーキットにしかないのかなあ、と切なくなってきた。
でも違うんだよね。サーキットを走るならフォーミュラや専用レースカーが一番楽しいし一番合理的なんだよ。一方で公道で楽しむスポーツカーには、ドライバーが無理に抑制せずとも、気の向くままにアクセルを踏んでいるだけで自然と、自分にとっても周囲にとっても心地よいスピード域に落ち着くような、そんなまったり感が欲しいんだよ。
あ、それってマツダ・ロードスターのことだ。
「答えはいつもミアータに」という諺にもあるとおりですね。
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クルマの感想 | クルマ
Posted at
2024/09/12 19:19:41
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