
4CからA110に乗り換えて、4Cオーナーから「お、そっち行きましたか。4Cとの違いはどうですか?」とたまに聞かれる。あるいは、まだオーナーじゃないけどどっちにも興味ある人から「どっちが面白いですか?」と聞かれることもある(なぜかA110オーナーから「4Cはどうでしたか」と聞かれたことはない)。
4CとA110、スポーツカー好きならどっちも気になって当然である。
重量1100kg前後のライトウェイトスポーツで、250ps〜300psくらいの4気筒極太トルクターボエンジンをミッドに積んでいて、0〜100km/hがだいたい4秒台半ばくらいで、DCT(TCT)のパドルシフトオートマで、と、この2台はスペック的に非常に近いところにいる。
おまけにアルファロメオとアルピーヌというイタフラ好き垂涎のブランドが、それぞれの過去の伝統とノスタルジーをしっかり押さえながら現代手法で本気で作ったスポーツカーなんだから、両方に興味が沸かないはずがない。
ところがこの2台、実際に乗ってみると方向性が全然違う。もし仮に4CとA110に興味のある人が両方に試乗してみたら、「あ、僕はこっちのほうが断然好き」という答えがあっさり出せるんじゃないかと思う。
みんカラにも4CとA110の両方を所有した経験のある方はけっこういらっしゃるようだけど、そんな皆さんが2台の車の違いをどのように言語化しうるのか、けっこう興味がある。
対比軸を挙げるなら、
✓ 古典的⇔現代的
✓ スパルタン⇔ラグジュリー
✓ 乗ること自体を楽しむスポーツカー⇔移動時間を楽しむスポーツカー
✓ 非日常性への扉⇔日常性のなかの華
✓ イタリア的クンタッシュ感覚⇔フランス的エスプリ感覚
✓ ぶっ壊れた予算感覚⇔しっかり商売勘定
✓ 中小メーカーの一点突破型戦略⇔大メーカーのバランス型戦略
みたいな書き方ができるかもしれない。
いや、アルファロメオが中小メーカーでアルピーヌが大メーカーと分類するのも変な話だけど、どう見ても自由奔放にやらせてるFCA(発表当時はぎりぎりフィアットか)と、しっかり手綱を握ってそうなルノーの差が、商品としてのぶっ飛び具合に表れてる気がする。内部事情は知らんですけど、そんな気がする。
私の個人的見解としては、4Cは「引き算して上から降りてきたクルマ」でA110は「足し算して下から積み上げていったクルマ」という印象がある。
どういうことかというと、4Cはコンセプト的にも佇まい的にもやっぱり「スーパーカー」なのだ。小さめの4気筒エンジンだったり軽い車重だったりするけど、その存在感はあくまでスーパーカーのそれだ。そんな超高級で派手で重厚な世界から、洗練さを取り去ってプリミティブな方向に向かっていった感じ。
一方のA110は、昔のA110のようなライトウェイトスポーツへのこだわりが真っ先にあって、そこに現代的なパワーと上質感を加えて洗練させた感じ。
ユーザー側の視点で見ても同じことが言える。
A110は、ロードスターやカプチーノで軽量スポーツカーの魅力を知った若者が、年齢を重ねていって、ライトウェイト路線を大事にしつつも上質感と大人の余裕を求めてステップアップしたいときに選ぶクルマ。
かたや4Cは、たとえばポルシェ911のようなメジャーで洗練されたスポーツカーを楽しんできた人が、なにかの拍子に道を踏み外してイケナイ世界にはまり込んで行くときに選ぶクルマ。
だから、A110を選んだ人のその先にはポルシェ911が待っているかもしれないけど、4Cを選んだ人をその先で待ち受けているのは、もうこれ以上刺激が欲しいならクラシックカー行くしかないよね、みたいなさらなる変態世界なのである。
いやもちろん、どっちの例にしても、そういう人ばかりじゃないだろうけどね。
4Cの世界観というのは、自動車の正常進化の中にではなく、クラシックカーへの回帰にある。ガレージに収まっていることの愉悦、機械のプリミティブさ、同好の変態仲間と知り合うことの楽しみ、イベントに繰り出すときのワクワク感。どれも、非日常をとことんつきつめて純粋培養された趣味車みたいなものじゃないと味わい難い世界だ。そして、そんな楽しみ方がしたければもはや旧車に行くしかない。4Cは新車販売中からすでにそんな世界にいた数少ない例外である(ロータス・エリーゼもそれに近いけど、その立ち位置は4Cとたぶん全然違う。長くなるので今回は触れないけど)。
その世界の中心にあるのは、(趣味仲間からギャラリーまでひっくるめて)他者との交流だ。A110は目的地に向かって移動する時間を一人で楽しむだけでも成り立つクルマだけど、4Cの悦びというのは一人では成立しない。一人で通勤や買い物なんかに使っていても大して楽しくはない。このクルマには生活感がまったくないからだ。でも、ドライブだけではなく、クルマを所有し維持し同好者と交流すること全部をひっくるめてクルマ趣味として楽しみたいのなら、A110よりも4Cのほうが遥かに向いているはずだ。
A110は逆に、日常生活の相棒として付き合ったときに本領を発揮するクルマだ。愛着の対象ではなく、道具として割り切ったほうが心地よい。フランス車の経験はそんなにないけど、こういうところがフランス車的ということなのかもしれない。
A110に乗り換えた当初は、ふだんはガレージにしまって愛でつつ、晴れた休日の朝にたまに箱根へ出撃するような楽しみ方をしていた(今でもするけど)。それ自体は楽しいのだけど、「こういう使い方で、はたして合ってるのだろうか」という変な疑問がつきまとっていた。必要以上にクルマを大事にしすぎている気がしたのだ。
ところが、思い切ってA110を普段使い用に「下ろして」みたら、全然違う魅力が見えてきた。ふつうに通勤でバイパスを走ったりショッピングモールに買い物に行くのがやたら楽しいのだ。4Cの「プリミティブさ」は街乗りではネガ要素になるけど、A110の「軽さ」は街乗りでも運転の心地よさにつながっていて、わざわざワインディングに行かなくても味わえる。その代わり、4Cのような「どやっ!4Cやで!」みたいなスーパーカー的高揚感はない。大観山で見知らぬ人から話しかけられることも4Cよりは少ない。日常性と非日常性は常にトレードオフである。
私は交流だとかプリミティブさだとか休日のワクワク感だとかはもうバイクのほうに役割を移したので、4Cの立ち位置がなくなってしまって、だからA110に乗り換えた。あくまで私の所有目的が変わっただけであって、どっちが優れたクルマ、という話ではない。ただ、提供してくれる世界は全然違うのだ。
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クルマの感想 | クルマ
Posted at
2024/12/14 15:42:47