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F1onaのブログ一覧

2025年01月03日 イイね!

ポニーカーの現在地

ポニーカーの現在地もう一年近く前なんだね。向こうを発つ前の最後の逃亡旅行で、今まで自分で走って無かった地域をドライブしたくて、デンバーからユタ・アリゾナを抜けて、ラスベガス・デスバレーまで走ったの。

もちろん東部の片田舎からデンバーまではフライトなので、そこからベガスまではレンタカーで移動することになるんだけど、当日Hertzのゴールドメンバーロットに着いたら、居並ぶクルマの中にマスタングが置いてあった。

もちろんソコに置いてある以上は、周りのセダン・CUV達と同じ値段で乗れるわけで…
「これ乗ってっていーい? 値段一緒だよね?」
「あー?いいよ。雪の中だと誰も乗りたがらないから、正直扱いに困ってたんだわ。」
「OK、それじゃ西に行く自分が乗ったら丁度いいわね」
「おー助かるわ。」

―――

しかもそんなマスタング (レンタカーなので当然2.3L エコブースト 10AT)
ハーツの半ば虐待に近い使われ方を生き抜いてきた個体なので、コンディションは中々ステキ。 新車無交換のフロントタイヤは既にプラスチックの仲間入りをしてるし、フロントのホイールベアリングからは妙な音がする。
デンバーからベガスまでの二泊三日 1600kmをだましだまし乗ってきたけれど、さすがにこれで砂漠のど真ん中デスバレーに向かうのもなぁ…と

なのでベガスでの余裕時間を使ってハーツに車両交換を申し込んだんだけど
ハーツの営業所で、ゴールドメンバーロットを見まわしたら、偶然にもカマロがいた

もちろんソコに置いてある以上は (ry

ということで、図らずしもアメリカの道路環境で、それなりに長い間 (当時の)現行ポニーカー二台を乗り比べることになっちゃった。それが非常に興味深くてね、せっかくなので忘れないように書き残しておくことにしようと思うの。

なので話はカマロ (LT = 2.0L エコテックターボ 10AT)に乗り込んだところから…
―――

乗り込み自体はそこまで変じゃない、でも座ってみると屋根に髪の毛が触れる
シートライザーが一番上になってたとはいえ、やはり天井は低いね

ポジションを出してみると、まずリクライニングで引っ掛かる。
アップライトな角度から寝かせられない…というかリクライニング角度がかなり制限されてる。

仕方なくこの角度を前提にポジションを作っていくことになる。
必然的にステアリングから距離を離し、座面もフラットにして、フットレストと揃うトコロまで座面を上げていく。 その状態でステアリングは最下点からちょい上げぐらいで、メーターもぎりぎり隠れない。テレスコは量がかなり少ないけれど、これで中間からちょい押し込みぐらいでしっくり来るし、この姿勢でセンターコンソールのシフト位置は完璧。
かなり戦闘的というか、アップライトでガチなポジション。

ここまで姿勢を出した時点で気付く。
かなり着座点に対してウインドウの下端が高くて、キャビンに沈み込むような感じ
これだけなら先代も一緒なのだけれど、現行は異様にタイト感がある。キャビンの高さは低いけれど、それ以前にドアとインテリアトリムがかなり立体的で内側に入り込んでるから、車幅があるのにあえてタイトに感じさせる作りに見える。
これ、ポニーカーだよね?

―――

デンバーからデスバレー、あえてのビーティ経由で3時間。そこで更に気付く。

車両は最廉価のLTなのにパドルシフトが付いてるし、ステアリングを握った指先にはクルーズコントロールの操作系。どちらも9:15の教科書通りの姿勢で綺麗に指先が届く。
ポジションも確かにアップライト強制だけど、身体もどこも痛くなってない。つまりカマロチームは明らかにこのポジションを想定してすべてを開発してる。


実はさっきまで乗ってたマスタングは真逆だった。

大きいクーペドアは一緒だけれど、シートベルトのバックルにしっかりお金を掛けてあって、シートバックがしっかり寝かせられるようになってた。
ステアリングも9時15分で握った時に、親指で操作するのはオーディオの設定。
クルコンの操作系はその下にある。リラックスした姿勢で距離を稼ぐ時に握る場所

この時点で何となく察する。
カマロもマスタングもポニーカー。コルベットじゃないのでお金の縛りがあることは一緒。
だから優先順位がどうしても発生するけれど、その観点がカマロとマスタングで、明確に違う。

―――

そしてビーティを回って北からデスバレーに入る。目の前にはデイライトパス、片側一車線・25キロの峠道。

乗ってるのはLT。タイヤは幅狭のオールシーズン。エンジンもたかが2.0Lでしかない。

それでもいざ峠道に飛び込むと、車重やサイズを感じさせず、なんならペースを上げれば上げるほどクルマがドンドン小さくなる。進入では漸進的なロールと共に徐々にヨーが飽和し、そこから立ち上がりでアクセルを踏みましていけば、エンジンが綺麗にスッキリ回ってアンダーが消える。
ドラポジはこういう時にパーフェクトに決まり、ATの変速遅れもパドルをドンドン叩くから全く気にならなくなる。
エンジンも気持ちいい吸気音とともに雑な振動なく回るから、積極的に踏んで回したくなり、排気量の小ささが全くネガに感じなくなる。

ここで全てが確信に変わる。カマロチームはポニーカーじゃない、本物のスポーツカーを作りたかったんだなって。
値段とグレードは絶対的なスピードだけに置換される。最廉価グレードでもタイヤなりのペースで楽しめて、体験の密度は全く変わらない。
これはまさにスポーツカーの仕立て方。

だからこそ、カマロチームはこのスタンスをGT性能のために緩めるようなお金の使い方はしなかった。それこそ衝突対策でシートバックの角度制限を付けることも厭わない。だってそういうポジションで運転してほしいんだから。

―――

それに対して、思えばマスタングは真逆だった。
GTカーとしてしっかり作り込み、その上でスポーツカーに仕上げていくのが彼らの常道

だからこそ周辺視界はスキっと広いし、内装も安っぽく見えないようお金を使う。

その安楽の犠牲になったのはシフトパドルだけど、代わりにSモードを設定して、グレードシフティングをキッチリ使えるようにする。あくまでシフトレバーを倒すだけで、車に全部やってもらう前提
そういう仕立てだからこそ、エンジンがトルク型なのも生きる。必要なのは高速での追い越し加速。あまりエンジンをカチ回さず、中間トルクを生かせる回転数で加速できることが生命線
だからロードトリップしても全く疲れない。ほんとに疲れない

―――

同じに見えて、ここまで両極端な2台

マスタングは常にGTカーからスタートする車。だからこそサーキット前提だったS197 Boss302ですらクルーザー特性が備わってる。
その鎖は専用プラットフォームの現行でも同じ。だからこそ本気でサーキットタイムを取りに行くときは、魔改造と飛び道具が前提になる公式大幅改造車のGTシリーズが必要になる


それに対して、Z/28であそこまで魔改造して初めてスポーツカーに変身したのが先代カマロ。カマロチームはそれを二度と繰り返したくなかったからこそ、αプラットフォームという千載一遇の機会を得て、根っこから完全なスポーツカーを仕立ててきた。
だから現行カマロはサーキットタイムを取りに行くときでも魔改造を必要としない。LE1パッケージを付けるだけで、GTシリーズの向こうを張れるぐらいのタイムをあっさり出してくる

―――

だからこそ現行は販売台数に圧倒的な差がつく
本気のスポーツカー好きに対しては、V8積んだグレードであればどちらも響くけれど、やっばり販売台数に響くのはそこじゃない。
今も昔もポニーカーの主要販売層はセクレタリーカーを求める層であり、GTカーを求める層。
そこでちゃんとGTカーしてるマスタングに対して、カマロはLTだろうがガチガチのスポーツカー。この差はどうしても大きい。

でもそれって、たぶんカマロチームは最初から解ってるんだよね
その上で、そこを最初から明確に見切ってる
彼らはどうしてもスポーツカーを作りたかった。マスタングはニュルに行かないけれど、彼らは行ってしまったから… そこに対してウソをつけなくなってしまった

そうであれば、これはもはやどちらのクルマが優れているか、とかいう次元の問題では無くなる。だってこれは完全なる信念の問題
己が何を信じ、どの道を行くのか?
マスタングもカマロもそれを明確に示し、自ら信じる道を進んでる。であれば、自分たちはその信念に奉じるのみよね
Posted at 2025/01/03 16:51:24 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記
2024年01月04日 イイね!

C6 Z06 アルミフレームの困惑 (1/n)

C6 Z06 アルミフレームの困惑 (1/n)うちはC6Zが来てからずっと2台体制を続けてるから、Zに乗ったあとにもう1台に乗り換える機会が結構ある。そんな中でずーっと感じてたのがZのボディ剛性の独特な雰囲気。端的に言ってしまえば 「明らかに弱いのに、なんか嫌じゃない」

そもそもC6 Z06といえば専用のアルミスペースフレームが華なのに、なんでこんな感覚を覚えるのかがずーっと気にはなっていて、色々と文献を漁ってたんだケド、知れば知るほど、どうもここだけに注目するのはちょっと違う気がしてきた。
じゃあどこまで下るのかといえば、C6標準車を通り越してC5まで。そしてその位置づけを俯瞰して眺めようと思ったら、C7についてもどうしても触れたくなる。足掛け20年以上のフレームの進化の歴史、それがC6 Z06を理解する上でのポイントになるんじゃないか、って。

なので整理し始めたらもう止まらない。結果的に超長文になったので複数回にまとめて書いてみようと思うの。

―――

で、なぜ冒頭がC6ZどころかC6でもなく、C5からなのか…になるんだケド
これはC5のコンセプトに起因するところが大きいと思うの。

よくモダン・コルベットの歴史を外から語る時に「コルベットがワールドクラスのパフォーマンスを手に入れたのはC6から」みたいな言説を見かけることが多いけれど、個人的にはそれは若干近視眼的だと思ってるのね。
というのもクルマの基本的なエンジニアリングにおいて、C6はC5の踏襲でしかないから

もともとコルベットはGMの技術的なスピアヘッド・テストベッドなので、C1から最新技術の取り込みには積極的。
しかもそこにFather of the Corvetteであるゾーラ・アーカス・ダントフの意向も入り、ボディ・シャーシの構成っていうのは世間で言われているほど古臭いものでは無かったりする。

ボディオンフレームとはいえ、C2の時点でエンジン搭載位置は完全なるフロントミッドだし

C3の時点で大勢のアメリカ車を差し置いて足回りはしっかりと4輪独立懸架

確かに10年以上のMalaise eraを乗り越えて、パワートレインこそ情けないことにはなっていたけれど、それも根強い需要を抱えて生き残ったコルベットをC4として進化させた際に、King of the hill CorvetteとしてZR-1を復活させたことで払拭

C4 ZR1の5.7L DOHC 48V V8は、確かにロータスとマーキュリー・マリーンの手を借りてはいたものの、それを乗せたC4 ZR-1が、Car and Driverのテストで当時の964ターボより
 ・5-60mphで0.4秒速く
 ・70mphから12ft短く止まり
 ・スラロームコースで2mph速く
 ・サーキットで2.5秒速い
という記録を残しているのは、単に「真っすぐだけが速いアメ車」では到底無理な結果だと思うのだ。

#なお、ここあたりはHagertyのRevelationsが詳しく触れてる


―――

だからこそ、そんなコルベットをC5に進化させる上でカギになったのが
どうやってそのランニングシャーシーを次世代に進化させるか?

ここでもカギになったのはロータスだったと、C4の主査であるデイブ・マクレランは残してる。
C5のコンセプトメイキングは、C4 ZR-1の開発と並行して1889年から始まるんだけど、そのタイミングで彼は当時GM傘下だったロータスにも助言を求めてるのね。そんなロータスの回答は
「(コルベットには)Torsionally-stiff backboneが必要だと思う」


元々C4はボディ・オン・フレームでこそ無くなっていたけれど
コンバーチブルが必須なわりに、ゼロからアーキを起こす台数でもない、という微妙な台数もあり、モノコックよりはペリメーターフレームに近い構造になってる。
この構造だと曲げにはそこそこ強くても、ねじり方向には部材が足りない。これが高出力だけど超重量級のLT5+315mmのリアタイヤのトラクションを与えたときに懸案になってるとロータスは指摘したのだ。

もちろん彼らの頭の中には初代エランのようなバックボーンフレームのイメージがあったんだろうけど、これは簡単な話ではなく、これを実現するには高いセンタートンネルとそこに繋がる骨格が必要
しかもコルベットは大排気量V8に耐える大容量MT/ATの搭載が必要なわけで。そんなミッションがセンタートンネルに収まるわけもなく、当然トランスアクスルが前提となる。

両方ともに運動性能という意味ではぜひともやりたい項目であり、C5の最初期からのパッケージ要件でもあったとデイブ・マクレラン、そして彼から主査を引き継いだデイビッド・ヒル両名ともに残しているんだけど、最大の問題はこのタイミング。

これらC5の基礎要件が固まりだしたのは1988年。
この時C5は1993年のコルベット生誕40周年記念を祝う車になるはずだった。
だけどGMはこのタイミングで強烈な業績悪化の真っ最中。開発予算はどんどん削られ、量産時期は1994年、1995年、1996年と延々と遅れる。 そして主査がデイビッド・ヒルに変わる1992年の10月には、量産時期は未定になるぐらいの厳しい状況に。
そんな中で完全新規のプラットフォームを実現するには、あらゆる絡め手と徹底的なコストダウンが必要だったのだ。

―――

技術開発であれば絡め手が使える。それについては百戦錬磨のコルベットチーム。
トランスアクスルATの開発予算については、デイブ・マクレランがGM Powertrainのジム・ミネカーと結託し、ピックアップトラック用4WDミッションの開発予算に潜りこませた。
トランスアクスル試作車は、伝統のコンセプトカーであるCERVシリーズの名目でC4の量産予算をくすね、簡単にバレないようエンジニアリング会社に外託してまで製作。

でも量産に向けたコストダウンについては根本的なエンジニアリングが必要。
C5のフレームの場合は、ハイドロフォームの実用化がこれを担うことになった。

元々エランのようなバックボーンだけのフレームでは、90年代の量産車としては成立しない。側面衝突された場合に、乗員がクランプルゾーンになっちゃうからね。なのでペリメーターフレームに当たる環状骨格はまだまだ必要になる。
それそのものはボディ・オン・フレームのフレーム部分みたいなモノだから、作るだけなら難しくはないけれど、当然乗降性を考えるとこのフレームは薄く・軽く作りたいし、ボディ剛性の連続性を考えると、なるべく断面変化はスムーズにしたい。

結果として、C4のサイドペリメーターフレームは28点の板金部品を溶接して制作した複雑な部品になっており、C5はこれをひとつながりのパイプをハイドロフォームで成形することで簡略化を狙ったのだ。
一体成型できるということは、溶接しろも削減でき軽く・安くできることにも繋がるわけで。

―――

こうして数多くの課題を乗り越えて生まれたC5のシャシーは、C4から10年以上の技術進化を織り込み、更にスポーツカーとしても大幅に進化したものになった。

高剛性のバックボーンを追加し、更に大型鋳造のアルミクロスメンバーを追加した新フレームは、ルーフを外した状態でも曲げで 7660kN/mm (C4比 1.9倍)、ねじりで720 kNm/rad (C4比3.4倍)の改善を達成
これは当時のオープントップの車両と比較してもかなり良好な値となる。

その上で、断面形状の最適化によりサイドシル高さは3.7インチ下げて乗降性を改善。
トランスアクスルに軽量な新型V8 (LS1) を組み合わせることで、重量配分も52:48だったC4 ZR-1に対して51.4:48.6と改善。センタートンネルからミッションが無くなったことで助手席のレッグスペースも拡大と、当初狙い通りの全方位進化を達成したのだ。

もちろん、この進化したフレームをベースにしたC5はC4に対してハンドリングでも大幅な進歩を遂げていて、モデル中期に追加されたZ06は 360モデナや996ターボに対しても

・1/4mile 12.7sec/113mph で並び (360モデナ : 13.1sec/110mph, 996ターボ : 12.3mph/116mph)
・70mphブレーキング 152ft でトップ (360モデナ : 165ft, 996ターボ : 163ft)
・スキッドパッド G 0.98g でトップ (360モデナ : 0.92g, 996ターボ : 0.93g)

と完全に並ぶ性能を達成しているのね。ワールドクラスのパフォーマンスというのであれば、コルベットはC5の時点ですでに世界に肩を並べていたのだ。

(つづく。いつになるかは知らない)
Posted at 2025/01/05 01:38:22 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記
2023年02月13日 イイね!

C6 Z06の空力、標準車からの進化

C6 Z06の空力、標準車からの進化まだBoss302についても書ききってないというのに、次に行っちゃうのもどうかとは思うんだけど、こっちにしても書かないと忘れちゃいそうで…

ということで去年の夏ごろに調べながらつぶやいてたC6Zの空力について、さらっと纏めてみるの。




―――

そもそもZ06に入る以前に、コルベットチームはC6標準車でもかなり大幅な空力対策をやってる。これは主査のデイブ・ヒルたっての思い。

彼はC5でトランクアクスル化を含めた大幅なシャーシー性能改善を行ったにも関わらず、相変わらず北米以外の市場では
 --- コルベットは見掛け倒しで、20年近く時代遅れのクルマ ---
と思われていることを認識していて、C6ではそれを打開しないといけない、と本気で考えてたと残してる。そのためにはただ見た目が良いだけではなく、本物の空力を纏ったカタチに意味のあるスタイリングでなければいけない、と。

さらにスポーツイメージを求めて参戦したルマンシリーズで、コルベットレーシングが駆るC5Rは順調な成績を収めてはいたものの、現場からは流麗なスタイルがゆえの巨大な前後オーバーハング、冷却開口の少なさがゆえ、あちらこちらにベントを開けないと冷却できないエンジンルームなど、さまざまな課題も打ちあがってきた。


だからこそコルベットチームは社外レース活動の経験が豊富なカーク・ベニオンをエクステリアスタイリストに据え、C6ではプロポーションからの改善を狙った。
センターにまとまったラジエーター開口と固定ヘッドライト。これらは1962年以降コルベットには無かったもの。この伝統から脱却を図ったスタイリングも、全ては形状からスポーツカーであることを追求するために必要だった、と。

でもこの短いオーバーハングと大きな冷却開口は、それ単体では空力に対して不利に働く。
というのもC6は動力性能目標として、最高速度を186mph (300km/h) と定め、400馬力でそれを達成するのに必要なCd値を0.28と定めていたから。
この0.28は数字だけ見ると大したことが無いように見えるけれど、C6は大きな冷却開口を要求し、タイヤも太いスポーツカー。根幹のトコロで一般的なセダンより圧倒的に不利な条件。

これを覆すためには、C5のような流麗な面だけで構成するのは難しく、どうしてもシャープな角と面構成の組み合わせになる。それが最終的に500時間に及ぶ空力試験で磨き上げられたC6のスタイリング。
チーフデザイナーのトム・ピータースが「カール・ルイスのような一切贅肉のない形状」と表現したカタチ。

―――

そんな標準車から派生するのがZ06。
標準車がCdの削減に重点を置いていたから、Z06での開発の焦点は「(Cdの悪化を最小限に抑えつつ)そこからリフトをどれだけ切り詰められるか」だったと空力チーフエンジニアのトム・フローリングは残してる。 馬力が上がり・ワイドタイヤで進化した運動性能に対して、高速域でのスタビリティの確保が必須だったんだろうね。

標準車が500時間に及ぶ風洞試験の元に生まれたのに対して、Z06に掛けられた時間は240時間。
最終的なCd値はC6標準車の0.28に対して、C6 Z06は0.342。これは先代C5 Z06と全く同じ値。100馬力上がった馬力と、さらにワイドなタイヤを履かせたにも関わらず、同じ数字を保ったところがコルベットチームの意地。



Cdの悪化は不回避として、むろんダウンフォースの増加 (リフトの削減) は必須なのだけれど、その中でまずコルベットチームが一番重点を置いたのが、前後ダウンフォースのバランス。

高速走行の時に、前輪だけリフトを切り詰める (ダウンフォースを高める) と、車はオーバーステア傾向になりかねない。 なので静的な前後軸重からリフトを引いた値が全速度域で50:50~48:52(リア勝ち) になるように空力パーツを設計したのだ。

ただし興味深いのが、その結果として各部に取り付けられた空力デバイスをまとめていくと、比較的フロント側に偏ったリフト削減量になることなのね。逆に言えば標準車は安定性を取って、かなりリア勝ちなダウンフォースバランスだったということ。
スポーツグレードとしてニュートラルに近づける改善をした結果、フロント側のリフト削減量が増えた、というバランス。

―――

フロント側では、まず目立つのが大きくなったスプリッター。
この部分だけで、全体量の67%に及ぶ92kgのダウンフォースを300km/hで発生させる。
もちろんスプリッターはリフト削減だけでなく、分流点を前に出すことで冷却開口に向かう流れが増えるので、冷却性能改善にも寄与してる。そんなグリル自体もエンジン放熱量の増加に合わせて開口高さが25mm増し。



興味深いのが、そんなバンパー形状による冷却性能向上代は、80km/hで1m^3/minとなってる。
比較対象になるのが、バンパー下に取り付けられたエアダムの効果なんだけど、最低地上高に関係なくアチラコチラで擦るこのエアダム、単体での冷却性能改善代が3.0m3/min @ 80km/h。つまりスプリッター+バンパーの効果より3倍高いのだ。
これは冷却系を入口から出口まできちんとダクトで流し、床下に抜く設計ができているからこその効果だね。

ついでに言うとZ06の特徴になる、バンパーのNACAダクト。これについてはコルベットチームは目的も効果についても、どこにも残していない。まぁあれ吸気開口に見せかけて、実は吸気系に繋がってないからだろうね。

その他の追加デバイスでは、フロントホイールハウスエクステンションが10kg (7%)、リアスポが36kg (26%)のリフト削減。フロントがトータルで102kgに対して、リアは36kgという点からも、標準車がかなりリア勝ちのリフトバランスだったことが改めて解るの。


空力面では、他にフロントとリアのブレーキダクトを標準車から拡大してる。
これについては標準車がさんざニュル詣をしていた関係から、既にパッド温度に対する風量の目標値が定まっていて、風洞でチューニングされた値は最終的にC5 Z06比フロントで400%増し、リアは200%増しで設定。

サイドミラーは、標準車の形状が風切り音とダウンフォースのバランスが良かったので、そのまま流用。これについてはあまりに出来が良すぎてC6Rでもそのまま使ってたりする。


―――

と、ここまで全体を数字を中心に束ねてきたけど、ここまできて一つ気づくことがあるの。
それが空力開発に、実走に関連する話があまり出てこないところ。

実際に色々な文献を当たっていても、C6の開発時におけるニュル詣の話は出てきても、C6Zの開発におけるニュルの話はあまり出てこない。 更に言えばC6Zの空力開発においても、数字はあくまでも「リフト削減量」で表されていて、「ダウンフォース量」という表現をしていないこと。

だからこそ思うのね。
コルベットチームはZ06について、スポーツ走行という用途はしっかり見据えていても、トラックスペシャルであることは追及していない。 彼らにとって、Zはあくまでもスポーツカーであって、トラックカーではないのでは?って。



その印象は自分で乗っていても感じるの。
この車はFK/FLタイプRやR35 GT-Rのような、トラックスペシャル特有の色々と切り詰めた「遊びのなさ」がない。

LS7はボアスト100mm超えを7000rpmまで回すって数字に目が行きがちだけど、本当に凄いのは演出が全くないこと。
排気量こそあるけれど、可変バルタイがない上に強烈なバルタイだから低回転域はそれなり。
でもそれをまったく隠してない。DBWにもかかわらず、どの領域でもスロットルは常にリニア。
それでいてバルタイが揃う中回転から一気に吹けて、7000rpmまできっちり回る。
そんなどこまでも真っ直ぐに丁寧なキャリブ、その有り様が逆にキャラクターになってる。

シャーシーも、ノーズの強烈な入りとロールの圧倒的な少なさには感動するけれど、これはあくまでも軽い車重・低い重心という車の素性の良さに起因するもの。
丁寧にキャリブはしてあるけれど、要素を削いで研ぎ詰めていったようなキャラクターではない。

何処からでも自在に吹けて、演出が一切ないエンジンと、軽い車重に合わせたガチガチじゃないシャーシーが相まって、コントロール性がえらく良い。
冗談じゃなく、S2000を通り越してロードスターに近いぐらいの素直な扱いやすさがある。

車重が軽いからこそ、ダンパーのこの手のクルマとしては絞まってないし、120m/h 6速で1600rpmなんてギアレシオができるから、結果としてクルーザー適正まで生まれちゃってる。
それに気づくと、サポートが少なくてふっくらしたシートも、そこら辺を踏まえた意図的なものなんじゃ、と思うくらい。



それを踏まえて、改めて車の開発記録を拾っていくと、彼らが思い描いていたC6Zの姿って、ニュルをアンジュレーションを飛び越えて疾走する姿ではなく、週末に北米のワインディングを駆け抜ける姿だったんじゃ、って思うのだ。

だからこそ、そんなZを本気のニュルアタック仕様に仕立て直した時には
ZR1でギア比すら変え、Z07パッケージとして空力も全面的にダウンフォース特化にやり直し、流体磁性ダンパーで足回りを締め上げる必要があった。そういうことなのかな、って。


でもだからこそ、自分はこの車が好きなんだよね。
自分が探してたのはトラックスペシャルじゃなくて、スポーツカーだったから、さ。
Posted at 2023/02/13 08:34:09 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記
2022年02月27日 イイね!

TLX Type-S 3世代越しの宿願と困惑

TLX Type-S 3世代越しの宿願と困惑久々に運転中に「これいいっ!」って叫んだ車に出会った。
自分の感覚は人とはちょっと違うから、それすなわち誰にでもってワケではないんだけど、それでも乗ってる最中から色々なことが頭の中を回り続けて止まらなくなったから、冷めないうちにメモ書きで残しておこうと思うの。

そんな随伴艦は、Acura TLX Type-S。
実は以前にTLX A-Specには乗ったことがあって、その時は色々と結構もやもやしたからから、正直期待はあまりしてなかったんだけど、それがType-Sは運転中常にワクワクするぐらい楽しめたのだ。

―――

Acuraにとって、TLってネームプレートはけっこう重みがある。
NSXこそあれど、インテグラ以外はいまいち鳴かず飛ばずだったAcuraが、一気に高価格帯でセールスチャートを駆け上ったのが、2代目TLと初代MDXのヒットだったから。

更にこの2代目のヒットから日本市場を投げ捨てて、北米市場に特化するために、北米スタイリング・北米開発で更にヒットを飛ばしたのが3代目。

先代から引き継ぐType-Sも、当時の北米のイケイケ具合を象徴するように
パワトレはType-S専用のハイオク仕様J35 V6に4本出しの高流量排気系、6速MTとLSDの組み合わせ
シャーシ―も4輪ダブルウィッシュボーンの足を固め、ブレーキもサイズアップしブレンボキャリパーを奢る。
そんなキッチリ決まったメカとは裏腹に、外装はフロントリップ・サイドシルエクステンション・ダックテールスポイラーといった抑制的な内容にとどめ、室内は快適装備を完備の上、Type-Sの型押しが入ったヘッドレストといったワンポイントを入れるという、Type-Rのような血圧高めの古典的スポーツカーとは真逆のスポーツセダン。

でも逆に、そんな完成系を北米開発一発目から飛ばしたこと、これがTLにとって呪縛になった節があるのね。

3代目の当時としては非常に未来的だったスタイリング。これを切り札と考えたアキュラは、4代目で更にそれを押し進めた結果、やり過ぎて爆死。
その反省から生まれた5代目は、まんま3代目を焼き直したようなスタイリングで登場するも、ベースになった9代目アコードのプラットフォームはコストダウンの結果、乗り心地と操縦安定性のバランスが取れず、継続使用したJ型V6の性能は今やクラスに埋もれる状態で、過去の栄光を取り戻すには程遠い結果となった。



だからこそ、今回のTLXの肩にかかったプレッシャーは相当大きかったんだと思うの。
3代目という成功と、その文法を安易にコピーして失敗した次の2世代。
ましてや、今回はその3代目の総大将だったType-Sの復活まで控えてる以上、同じ轍を踏むわけには行かない。

だからこそ、プラットフォームは完全新規。
フロントは新型V6ターボの駆動力に対応する形で、ダブルウィッシュボーンへの回帰と共に、他社プレミアム物件と同様、アルミダイキャストのストラットタワーを採用。
リアサスも、リアへの駆動力分配自由度が高いSH-4WDの特性を生かすために、FFF専売のアコードとは違う、駆動力を入れても姿勢がブレない横方向リンクを主体にしたもの。

ベースのA specに乗せてもらったときは、リアに回せる駆動力が限られることで旋回自由度が限られること、最近時では大き目なターボラグからくる、旋回加速でのつながりの悪さ。重量に対するタイヤのキャパ不足が気になったけど、これらはType-Sでは手が入るであろう場所。
その結果が、いざ乗り込んでみたら伝わってきた。


真っ先に気づいたのが、ドラポジの決まり方がA specより全然良いこと。
Type-Sはシートのグレードが上がり、サイドサポートが電動調整になる。これがかなりキツめまで絞めれる結果、シートの中で体が安定して、センターが出やすいんだと思う。

走り出しても、低い速度域でのコントロール性がかなり良い。
最近のターボエンジンでヌルいことが多い、転がすような速度のアクセルオフにちゃんと回転落ちが追従するし、アクセルに対する加速側応答も適切。
加速中も低い回転をきっちり使ってトルクバンドで加速する感じはよく出てるし、その領域でのエンジン音は、演出が聞いてるけどベースグレードの4気筒より嫌味がない。
絶対的な音量は同じぐらいでも、4気筒にV6みたいなスピーカーエンハンスをかけてたあちらに対して、こっちはV6音質にV6エンハンスメント。 演出であることはゴリゴリ伝わってくるけど、あらかさまではない。

ブレーキも調律はいうほど悪くない。
踏み込みのジャンプインはもう少しなましたいけど、そこから先のビルドアップが遅めかつリニアに立ち上がるので、アクセルと調律が取れている。

いつものS字。
ステアフィールもさらに一段昇華してる。A-specの遊びがなく、引っかかりなくヨーレートにつながる様子はそのままに、増えた前荷重が綺麗に効いてる。
まるでFK7 Type Rを思いだす、切っただけ曲がるキレイな応答。どんどん好きになる。
そこからのエンジン応答も良い。NAのベーストルクがあるのがキッチリ効いてるけど、ブーストの乗り方もイヤミがない。スッキリしてて、曲がり・加速共に車重を感じない。

この良さは、高速に乗っても変わらない。
遊びがまったくない感じは高速域までキッチリ一緒で、ステア系の剛性がキッチリ確保されてるのがよく解る。何処までも綺麗に応答するステアリングに、ターボラグを、ATモードで乗ってる分には意識させないAT。

そして乗り心地! なんでこんなにA-specから進化できたの?
ノーマルモードで、段差をバネ下で収める縮みと一発で収める収斂。これもFK7Rを思い出させるレベルが高い動き。ショック音・インパクト音も音量小さく安っぽくない。これは良い。
コンフォートに入れると上屋が少し動き出すし、スポーツではハーシュネスが入ってくるようになる。なのでノーマルのバランスが最良に感じる。

気をよくして山道に入る。
進入も、ブレーキのフィールが綺麗で絶対キャパがそれなりにあるので怖くない
そこからのステアインも綺麗にノーズが入って、重さを感じさせない。

ただここに至って、ノーマルでは足の完璧な動きに対してパワトレが遅れるようになる。
A-specと一緒で、立ち上がりのギア段が走りに対して1段必ず高い。
キックダウン遅れでテンポが削がれるし、定常円からの加速でリアに入る駆動力が限られてるから、駆動がアンダー消し程度にしか効かない。
「孕まない」って言うレベルで、リアを回すトコロまでは行かない。

モードをスポーツモードに切り替える。A-Spec同様、車の感覚が一気に凝縮する。

ミッションが進入で積極的にダウンシフトを使って、立ち上がりのキックダウン・ブースト遅れが一気に消える。
元々抑えられてたロール速度もさらに絞まって、車の姿勢をキッチリ抑え込むし、その状態でも局部剛性が確保されたボディと、綺麗に逃げるダンパーが、目地に対して姿勢を乱さない。
ここに来て、車重が重くても剛性確保できてるボディの硬さが一気に活きる

進入で複数段ギアを落とし、繊細なステアフィールと会話しながら車を曲げ、V6の咆哮を聞きながら、SH-4WDを活かして斜めに加速していく。
立ち上がりはまだニュートラル傾向だけど、それはTypeSとしては正しい。
峠道で355馬力あれば十分以上、それをかっちり踏み切れる仕立て。

サーキットではなく、ワインディングベストであること。
Dailyとしての利便性・快適性を持ちつつ、モード一つで車のサイズが小さくなったかのような一体感を持たせること。

開発者がType-Sとしてやりたかったコトが、まさに全身から伝わってくる仕立て。
いつものパーキングに車を乗り入れて5分ぐらい放心するぐらい、濃密な時間だった。

―――

でも、その火照った身体が覚めていくほど、脳裏には違う考えもめぐり始める。

結局A-Specの時も思ったんけど、4代目の呪縛から逃げられないのがTLX。
このFK7-Rのワインディング仕様ともいえる車は、本当に4代目 TL Type-Sの後継車なんだろうか?

今や伝説になってるTL Type-Sだけど、その本質はハイウェイクルーザー。

排気量アップされたエンジンが裏付ける通り、あくまでも想定シーンはクローバージャンクションのランプとその立ち上がり姿勢であって、サーキットは本質じゃない。
低速トルクに欠けるJ35、トルクステアが強烈に出る駆動系、そしてフロントヘビーでアンダーと戦いながら曲がるシャーシー。 そんなJ型の特性をそのままに押し込んだ歪なキャラクターがあったからこそ、オーナーはそれを乗りこなすことを喜びとして、それが時と共に美化されてるんじゃ、って。

だからこそ、ターボ+10速ATになったことは、逆に作用する。

クルーザーって意味では、間違いなくの正常進化。
先代Type-Sの悪癖は完全に抑え込まれて、そこからクルーザーとしての適性が完璧に全方位で進化した。 低速トルクとその領域での変速・NVの作り込み。ミッドレンジで走ってる時のシャーシーダイナミクスは本当に世界一流と言って差し支えないレベル。
タイプRと一緒で、重量があることを全くハンデに感じさせない作りこみ。

確かに踏み込んでいった最後の領域は完全にハードの限界が見えるし、それを何とかしようともしてない。でもそれはType-Sだから。 そこに踏み込むことで剥ぎ取りトラックエディションなType-Rや、戦艦M3になろうとはしてない。

普段使いの領域で特別感を醸しつつ、公道で相見える環境で使い切れるクルマであることがType-S。サーキットでの適合性を捨てる代わりに、公道90%の領域を完璧にこなすことが使命。

…でもその「残り10%」こそがエンスージアストが求めてる領域で、残念ながら、結果的に4th TL Type-Sのパワトレだけが達成していたこと。 技術的に劣っていたコトで、結果的にチャームとなっていたトコロ。
今回のType-Sは、それを技術進化で慣らしてしまったがゆえに、いびつが故に存在するX factorの部分まで取り去ってしまった

だからこそ公道で単体で乗ると非常に印象が良いのに、比較しだすと解らなくなる。 想定したステージに完璧に噛み合うが故に、飛び道具が存在せず個々の要素で勝ち負けが目立つ。
それは、企画と商品開発が綺麗に噛み合ってるからこそ起こる、不幸な連鎖。

だからやはりTypeSだから、なんだよね。どっちの意味でも。
90%のペースで飛ばすトコロまでは、本当にTypeS。
最後の10%の噛み合わなさも、本当にTypeS。

それは言い訳でもあるし、狙いを完璧に達成した証拠でもあるんだろうな、って。
Posted at 2022/04/17 06:01:40 | コメント(0) | 日記
2021年09月05日 イイね!

こっちでオンラインでクルマを買った話

こっちでオンラインでクルマを買った話これもね、早くやらないと記憶がどんどん薄れちゃう。

例によって緊張の糸がほぐれたトコロで、今回は「MTの下駄グルマが欲しい…」が発動して、フィエスタSTをお迎えする運びになったんだけど、その際に思ったのが「オンライン販売ってどんな感じなんだろう?」

前回Boss302を買ったときは、まだこっちに来たばかりで右も左も解らなかったから、すべてをお任せできるディーラーで買う運びになったんだケド、コッチで2年も車を所有してて、世界がちょっと解ってきたから、次も同じっていうのも何か面白くない。

コッチもCOVIDが蔓延してから、タッチレス・コンタクトレスで何かが出来るっていうのはどこでも売り文句になってて、中古車販売もそれは例外じゃない。  だったら、ここ数年で一気に流行ったオンライン中古車販売を体験するのも悪くないかなぁ、って。

しかも、それが蓋を開けたら想像以上にアメリカ社会の縮図みたいな体験で、とっても興味深かった。だからね、今回はそんなお話

―――

オンラインで買うって決めて、最初に決めたのはどこのサイトを使うのか。

今回選んだのは業界最大手のCarvana。選んだ理由は、単純に規模が大きくてタマ数が多かったから。
特に自分の場合は(USDMでは)オプションのレカロシート指定で探してたからね、母数の数は重要。

んで車種とグレードを選んだから、こんな感じで検索していくことになる。

当然、オンライン中古車販売って聞いて、誰も最初に不安になるのが、車両の程度をどうやって見極めるか。
# いや、アメリカみたいな広い国土だと、face to faceの中古車販売だろうが
# レア車は全国検索になって、どの道現車確認なんかできっこないって話はあるけどさ。

Carvanaの場合、そのためのシステムは三つ用意されてる。


一つ目はCarvana独特の手法で、こんな感じの360°外装・内装確認。

これの重要なトコロは、全国各所にあるCarvanaの倉庫の中に、決まったフォーマットで作ったターンテーブル付きのスタジオがあって、物件すべてが同じフォーマットで写真が撮れるようになってること。

これによって、この手の中古車販売サイトでありがちな、人による写真撮影箇所のばらつきを極力抑えようとしてるのね。 杓子な設備を作り、マニュアルでカッチリ縛り、必要最低限のクオリティが100%絶対に担保されるようにシステムを作る。

逆に言えば、この360°ビューに追加で、担当者が傷の写真を個々に乗せてるんだけど、こっちは基準が人任せなので、当然のごとく人バラつきがあるし、360°ビューでも解るような傷も、普通に出てこなかったりする。

だからこそ360°ビューで最低限の担保をしていることが非常に大事になるし、ここから先はまさにCarvanaとの探り合いになる。楽しいところ。


なので当然ながら重要になるツールがCarfax。これは一般的なディーラーと一緒だね。
これは当然のごとく全物件で閲覧可能になってて、オーナー履歴や整備履歴が追える状態。逆に言えば、これがないとさすがに怖くて何も買えない。

例えば今回のFiesta ST、年式・走行距離のわりに値段が安い。
Carfaxを見るとミシガンの降雪地帯で使われてるから、前オーナーが外装に気を使わず普段使いしてるのも想定できるし、それは傷部位の写真に写りこむボディの反射で何となく伺える。
でも同時にPep boysで冬タイヤに交換してるから、自分で車弄りをするタイプじゃないことも解る。つまり扱いは雑でも運転はのんびりしてる可能性も大きい。
よって外装さえ自分で仕立て直す前提ならアリ、って判断できた。


んで、ここで腹をくくっても、当然パワトレとか錆とかになると現状が解らない。
だから最も重要な最後のステップが、一週間の試乗期間。

前にも書いた通り、アメリカは車検がないから、名変しても車の価値が下がらない。
だから「車両がデリバリーされてから一週間の間であれば、ノーコスト・ノークエスチョンでリターンできる」ってシステムが成立するのね。

つまり下回りを見たければ、家に届いてから自分でリフトアップしてみればいいし、ミッションがギタギタかどうか気になる場合は、1週間で試乗して判断すればいい。
その結果として、あまりに程度が悪くて納得できなかったら、電話一本で手数料ゼロで返車できる。

さっきも書いたとおり、今回は中身が無事な可能性が高いから、まずはそこに賭けてみることにした。

―――

ちなみに注文に際する必要書類は免許証の写真のアップロードと、個人情報一式のみ。
しばらくすると、名義変更に関連する書類のデータが送られてきて、電子決済すれば完了。
ただし自動車保険だけは自前で手配が必要だから、サイトに載ってるVINナンバーを使って、納車日までに契約しておく必要がある。

で、こっちがその手続きをしている間に、Carvana側は車両がリスティングされた地域から、うちの近くの倉庫に車両を運んできて、デリバリー前に規定項目のチェックをした上で、問題がなければ家まで持ってくる。

…って手筈なんだけど、今回はまずここでトラブった。


コトは配車前日の夕方。いきなりメールが入って
 「車両にトラブルが見つかったので、明日の配車が取りやめになりました」
 「詳細はこれから電話で連絡します」
と来た。

まぁそういうなら、とまずは待つんだけど、当然こっちの常で、待てど暮らせど電話が来ない。
仕方ないので、カスタマーセンターに電話を入れて、事情を説明して、うちの地域の営業担当に電話を回してもらう。


 「何が起こってるのさ? 電話来ないんだけど?」
 「いや、あなたの車両にトラブルが見つかって、安全上問題があるから、修理するまで配車できなくなった」
 「んー、トラブルって何さ? あまりに致命的なら、そんな車引き取れないんだけど…」
 「いや、それは整備してるスタッフに聞かないと解らない。明日には確実に詳細を折り返しさせるから…」

まぁ、そういうなら…ってことで、一回その日は終わりにして、翌日待つんだけど、まぁ当然ながら連絡がこない。
仕方ないので、またカスタマーセンターに電話して、また地域の担当に電話を回してもらい
整備担当を ”今・ココで出して” ということで解ったのが

 「車両のフロントタイヤと、フロントブレーキパッドも摩耗限界を越えてるから、交換が必要」
 「いやそれさ…ネットの物件情報では、買取時にCarvanaの基準値以下だったから
  すでに交換済って書いてあるんだけど…?」
 「それは私は知らない。 私が配車前の最終チェックをしてダメだったから。
  これから交換しない限り内規でデリバリーできないし、交換は外部の整備工場に出すけど
  部品が今なくて、配車は2週間遅れになるから」
 「いや遅らせるってさ、保険も今日デリバリー前提で契約完了してて
  今日からすでに料金も引き落としされてるんだけど」
 「迷惑を掛けていることは謝る。それについては補償金を払うから、営業と話をしてちょうだい」

と来る。真っ先にお金で補填する話が出るのが、とっても資本主義のこっちらしい。

 「いや、そんな車渡されるぐらいなら、もう一回物件を洗いなおす時間が欲しいんだけど。数時間ぐらいは。」
 「わかった、その場合はキープはできないから、キャンセルするしかない。何ならこの場で受けるけど?」
 「んー、わかった。一回キャンセルさせて。
  もう一回物件洗いなおして、いいモノが他にないなら改めてこの個体注文するから」

ということで、物件選択からやり直し。とはいっても、早々タマ数豊富なワケじゃないので、やっぱり折り合いがつく物件がない。癪だけど、あまり納期が遅れても仕方がないので、もう一回同じ物件を注文して、2週間待つことにする。

カスタマーサービスに再度電話して、同じ物件を注文する手続きをその場で確認する。
一緒に手続きをして、注文が入ったのを確認して、同じように書類を提出して
同じように納車日を決めて、再度迎えたデリバリー当日。

…うん、当然ながら連絡も無ければ、配車も来る気配がない。 はい電話。

 「あのー、今日納車日ってシステムから連絡来てるんだけど、時間過ぎてもなしのつぶてなんですが…?」
 「ちょっと待って確認する・・・ いや、キャンセルしたって担当は言ってるけど…?」
 「いや、そのあとカスタマーサービスと一緒に、もう一回注文を言われたようにやってるし
  システム上も受け付けOKになってて、デリバリー日も承認されてるんだけど?」
 「…申し訳ない、その場合はこれから配車調整するから、1週間後になる」
 「あのー、例によって前回と同じく保険も日程調整して、また引き去り始まってるんだケド…
  これでトータル3週間遅れになるんだけど…」
 「迷惑を掛けていることは謝る。 それについては補償金を払うから、それで納得してほしい」

はい資本主義。  仕方ないので3週間分の配車遅れの補償金を受け取り、やっと次の週に車両が届くことに。

ちなみに補償金は綺麗に一週間あたり $〇〇 で計算可能な額なので、完全にこういう時のマニュアルがあるんだね。 こういうトコロも、フールプルーフというか、頭いい人が現場のトラブルを織り込んでシステム化してるってコトになる。

―――

で、さんざ色々と楽しいトラブルを迎えたうえで、やっと来た車は、想像通り外見こそヤレヤレだったけど、錆は進展してない。ミッションも想定通り全然荒れてなくて、これなら自分的には全然OKなレベル。

ただ気になる点があって、まず左のミラーの上下アジャストが効かない。
それに交換したっていうタイヤも、明らかにバランスが取れてなくてバイブレーションが出るし、ステアリングセンターもおかしい。 配車前整備とはなんぞや…?

でもCarvanaのシステムを作った頭のいい人は、当然こういう現場のトラブルを想定してる。 配車から100日以内であれば、Carvanaと提携してる整備工場に持ち込むことで、無料で基本的な修理はしてもらえるのね。
今回のホイールバランスやアライメントは、明らかに一般劣化じゃなくて車両トラブルなので、さっそくこのシステムのお世話になることになる。

調べてみると、家から5分のトコロにある整備工場が提携拠点なので、さっそく作業予約をして向かってみた

 「ネットで予約して、Carvanaの保証修理でホイールバランスとアライメントっぽい症状を直して欲しいんだけど」
 「え? Carvana? うちそんなシステム知らないんだけど?」

はい想定内。 もちろん携帯でCarvanaのサイトと保証内容を全部開いてあったので、それを渡して説明。

 「んー、わかった。ちょっとこの(Carvanaが契約してる保険会社) に電話させてくれ」 

電話して合点がいったらしく、車両をリフトに乗せて症状を確認、その数分後…

 「確かにホイールバランスとアライメントがイカれてるんだが、保険会社が保証対象外って言ってる」
 「えーと、サイトのココでは対象だって書いてあるよ? 相手は理由はなんて?」
 「いや、教えてくれねぇんだ。 兎も角ダメの一点張りでよ… なんで悪いが今日は無理だ」
 「んー、まいったな… 解った、とりあえずこっちから問い合わせてみるよ」

ということで、今度はこっちからまたCarvanaのユーザーサポートに。

 「いや、それはうちの責任区じゃないので、保険会社に問い合わせてくれ」

はいそうですよね。とっても楽しいぞ。 ということで保険会社の窓口に問い合わせ。

 「えーと、ケースを確認したんですが、走行距離が保証範囲外となってます」
 「なんて? まだ4日でいいトコロ300kmぐらいしか走ってないんだけど」
 「こっちの記録だと12000マイル走ってることになってます。これだと受けられません」
 「あの…、それどう考えても走行距離をkmで拾ってるよね?
  ちなみに、それをマイルに換算すると保証距離になるけど、この2点はその場合は修理できるの?」
 「できます」
 「で、なんでその理由を自分には伝えてるのに、今日工場側には伝えなかった?」
 「それはこっちでは解りません。
  ともかく、もう一回予約を取って、提携工場にこの事を伝えてください」
 「えーと、なんで自分が? ケースに情報全部残ってますよね?」
 「…であれば、こちらからも連絡するようにします」

ということで、改めて予約を取って、再度提携工場に出向いてみる
 
 「Carvanaからなんか連絡あった?」
 「え? なんのこと? 何も聞いてないけど」

でーすーよーねー。 

 「ああ、じゃあ大丈夫。 前回と同じ内容なんだけど、オドメーターマイルで連絡してみて?」

…で数分後、工場から電話してもらい、今回はノントラブルで修理が承認され、無料でアライメントと4輪ホイールバランス完了。 配車されてから約一週間、これで言い訳なしのパリっとした車両が手元にきた。


―――

…とココまでが今回の顛末。

読んでもらって解るように、全てが典型的なこっちのシステム構築思想に基づいてて、その本質は

 ・人間は共通の常識を共有してない。だから認識違いもミスもする。
 ・だからこそフールプルーフなシステムでそれを救えるようにして、マニュアルをがっちり固めて運用する

ということ。

だから、何かあったらユーザー側としてもそのシステムを最大限使わなきゃいけないし、逆に言えば言わないと泣き寝入りになるだけ。 でもその分、上手くいったときの利便性は果てしないし、それが8割9割の体験なんだと思う。

今回はトラブル続きで楽しい体験になったけど、もし予定通りの予定で想定通りのクルマが届いたら、って考えたら、こんな便利な体験もないと思うのね。
営業との不毛な値段交渉も無ければ、無駄な書類を取りに行く手間もないし、整備だってわざわざディーラーに持ち込む必要もない。最初から最後まで、それこそ配車の受け取りを除いて、それこそ一言も言葉を発せずに車両が手元に届く。

対象車両は全米全域でストックがあって、フィエスタSTなんてレアな車でも、それなりのストックの中から選ぶことができるし、車両の程度が想定外だったら、単にリターンして別の物件を探せばいい。

この利便性を知っちゃったら、確かにディーラーまでわざわざ出かけて中古車買う、なんて行為がアホ臭く感じるのも解る。

これは今後も、もっと伸びるシステムな気がするなぁ…
Posted at 2021/09/07 12:00:10 | コメント(3) | トラックバック(0) | 日記

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