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2021年04月19日

Coyoteというエンジンの進化

Coyoteというエンジンの進化 前回書いた、うちのBoss302に積まれてるRoad Runnerが市場に出たのが2012年。

フォードが問うたポニーカーのトラックカー仕様は、GMのカマロZ/28を生み出し、フォードのGT350につながり、それがGMの1LEパッケージとフォードのGT500につながって今に至るんだケド、でもそれはポニーカーで言えばあくまで傍流の話。
だってポニーカーの販売台数を占めるのはあくまでもベースグレードで、その上に存在するV8グレード。

だからこそフォードは、11MYで出したコヨーテの継続的な進化を怠らず、それが今まで続いていくんだけど、今回はそれをまとめてみるね。 というのもこの継続進化、いろいろとスペックを調べれば調べるほど、なかなかフォードらしくて面白いなぁ、って思ったから。

―――

もともとコヨーテは2011年のイヤーチェンジでマスタングに搭載されたエンジン。
2010年に外見を大幅にアップデートしたあとの次の年だね。

過去にも書いたから今更だけど、コヨーテは仮想敵をカマロが乗せてた第3世代スモールブロックとして、今までのモジュラーV8の基本骨格を崩さずに、420馬力にどれだけ迫れるかっていうのがポイント。

基本骨格を崩さないのは大幅な設備投資を避けるため。特にボア加工や搬送機に大きく影響が出るボア間ピッチ(100mm)やブロック高(227mm)はキープしたいトコロ。

そうなると当然排気量拡大にも限界があるから、フォードが取った手段は高回転化。
6500rpmで最大出力を発揮し、7000rpmまで回すという前提のもとに、ボアを2mm拡大、ストロークを2.7mm延長
(92.2mm x 92.7mm)

その上で空気をしっかり吸えるようにSOHC 3バルブのヘッドを、先代コブラ同様のDOHC4バルブとする。
ここに263°っていう広い作用角のカムを付けたうえで、高回転一本やりにならないように、吸排両方に油圧の位相可変機構を付ける。

圧縮比は11.0と、ポート噴射としては高い値。これはボアが小さいのが効いてる。
 # これはハイオク前提なら大したことないかもだけど
 # 重要なのは、アメリカだとレギュラーガソリン前提っていうこと。

腰下については、もともとの設計がそれなりに新しいだけあって、すでにアルミブロックに6ボルト締めのベアリングキャップと、クランクシャフトの支持剛性に有利な構造。 
だからコヨーテはその基本構成を踏襲しつつ、部品レベルで支持剛性を上げていく。

この結果が400馬力をあっさり超えた412馬力。これはLS3の420馬力には負けるけど、車体が小さいマスタングに乗せる分には、パワーウェイトレシオで戦えるスペック。
これがGMやクライスラーに再度挑戦状をたたきつける形になる。

ここまでと、これの派生形であるロードランナーが前回に書いたお話。

でね、興味深いのが2012年にロードランナーが出てから今までの話。
というのも、それから9年経った今でもこのエンジンは進化系がバリバリ現役。
最前線で戦ってる最中なのだ。

―――

コヨーテにとって最初のマイナーチェンジになるのが2013年。
ベースモデルがフェイスリフトを受けた年なのだケド、この時にコヨーテ自体も仕様変更を受けてる。

見た目には出力が11MYの 412馬力 から 420馬力 に変更になっただけ。最大トルクも発生回転数も一緒。
でもこの際、単なるセッティングの詰めだけでなく、エンジン内部が何点か変更を受けてるのね。

例えばインテークバルブが中実品から中空ステム品へ。
例えばピストンリングが高回転化での挙動を改善したものへ。
例えばヘッドボルト径を12mmから11mmに落として周辺応力を低減。

この変更点、どこかで聞いたコトあるように思えたら、それは正解だったりする。
つまりBoss302の開発の中で新規にオコした部品をベースグレードに逆展開してるのね。

当然型が違って加工が必要なヘッドはお金がかかるから持ってこれない。
でも既存のハードウェアを守った中で、やれることはすぐに展開してくる。
そういうトコロに銭勘定だけない、マスタングだから、っていう拘りを感じたりする。

―――

そしてコヨーテにとって初めての大幅刷新となるのが2015年。
マスタングのベースプラットフォームがリジッドアクスルのS197系から、リアマルチリンクサスのS550系にフルモデルチェンジした年だね。
この世代がGen 2と呼ばれる仕様。


とはいえGen2でも、ボアストや7000rpmレブといった基本構成は受け継がれてる。実質刷新だったコヨーテでも、従来4.6Lからブロックの基本寸法を受け付いだぐらいだから、ここはある意味当たり前。

じゃあ何が進化したかというと、やはり吸排気系なのね。 ロードランナーの開発で得たシミュレーションの知見を活かして、それを大量生産可能なスペックに落としたのがGen2。


まずはベースとなるヘッドがベースの型から変更になった。 狙いはバルブジオメトリのさらなる進化。
 吸気バルブ径を 37.0mm から 37.3mmに拡大、リフトも1mm増やした13mm。
 排気バルブ径を 31.0mm から 31.8mmに拡大、リフトも1mm増やした13mm。
つまりGen1.5には変更規模が大きすぎたロードランナーの排気バルブジオメトリを反映しつつ、吸気側も設計限界まで攻めてるのね。

増やしたリフトに合わせ、バルブスプリングも吸排両方ともロードランナー用の強化品へ。そして吸気側へもビックバルブを採用・リフトを上げたことで吸気量が増えるから、ポート形状もより進化させられる余地が生まれた。
ここでもシリンダーヘッドの型を変えてまで攻めていく価値が出る好循環。

腰下も鍛造ピストンこそ投入できないけれど、ロードランナーの強化焼結コンロッドを持ってきた。Gen1では開発の途中でコストダウンで廃止になったオイルクーラーも、ロードランナー同様に復活させる。

つまりロードランナーでやり切った仕様のうち、7000rpmレブを守り切ったうえで必要なモノをきっちり入れたのがGen2。 その結果がGen1.5から15馬力アップの435馬力という最大出力と、全域でアップしたトルク。

ちゃんとロードランナーで作ったものを使い切って、無駄なお金を使わずパフォーマンスアップを達成する。
台数が少ない車だからこそ、そういうことをきっちり徹底することで利益を出し続ける。
そんな意気込みが見えるのがGen.2


ちなみにそんな意気込みは厳しくなる環境対策についても一緒。

元々Gen.1で触媒位置を縛り、エキマニのブランチ長・自由度の限界を決めていたのが排ガス規制。
GM含めた他社V8はみんな出力なんかシカト決めて、触媒暖気を速くするために芋虫エキマニを使ってヒートマスを減らしてたのに対し、ちょっとでも出力を確保するために溶接パイプ組みのエキマニを使い、限界まで触媒を離してたのがコヨーテ。
その思想はGen.2でも引き継がれてる。 

だからこそ出力影響が避けられないエキマニ側ではなく、インマニに片吸気ポートだけを閉じるフラップ (CMCV) を付けることで、低回転での吸気流速をアップさせて、燃焼速度を上げる。
吸気側VTCについてもロックピンを追加することで、始動直後の油圧が足りない領域でも適切なバルブタイミングを狙う。

これらは暖気が完了して、全開全負荷になれば出力影響が出にくい手段。お金をじゃぶじゃぶ使うのではなく、言い訳なく、性能に影響が出ないトコロできっちり使って、お約束を達成する。

―――

そしてベース車がマイナーチェンジを迎える2018年に登場したのがGen.3

ここでの大きなトピックは直噴化。
ライバルのGMは2013年に既に踏み切っていた手段に、フォードもとうとう踏み込むことになる。
さらにこの世代のマスタングは欧州展開前提、だから直噴システムは欧州の厳しい微粒子規制にも対応する、ポート噴射も備えた最上級仕様。

でもやはり気になるのが、なんでGMは2013年にやっていたことが、ここまで遅れたのか。 

フォード自体は北米向けでも、直噴化に対して及び腰なメーカーでは無いんだよね。
何せ北米にEcoboostのモニカーでダウンサイズの考え方を持ち込んだメーカーだし、 Gen.2の頃にはセンター直噴も含めた知見も十分にあった。 それでも投入がここまで遅れたのは、Gen.2同様に、やはりコストの考え方があったんだと考えざるをえない。


それを考える上で重要なのが、コヨーテファミリーで2016年に登場した、GT350向けVoodooエンジン。

Gen1.0に対するロードランナーのように、Gen.2をベースにRace Engine for Streetをやったのがブードゥー。
だからこのエンジンを語る時って、どうしてもフラットプレーンクランクが注目されるけど、ブードゥーには他にも特筆すべき新機構・専用部品が何点が入ってる。

その一つがブロックから鉄ライナーを取っ払った、プラズマ溶射ワイヤーアーク加工 (PTWA)
簡単に言えば鉄ライナーを入れる代わりに、鉄をアルミのシリンダー表面に薄く溶射して同じ効果を得る技術。

ライナーが無くなれば同じボアピッチでボアを広げられるから、排気量が上がるし、直噴の壁面付着防止にもつながる。 さらに摺動面が薄膜になれば、熱伝導がいいアルミが燃焼室に近寄るから冷却性能が上がって、ノックタフネスも上がる。
つまりどちらも直噴と非常に相性がいい技術で、これをフォードはヴードゥーで実用化したのち、Gen.3で本格量産したのね。

その結果、Gen.3はボアピッチを100mmで保ちつつ、ボアを0.8mm広げた93mmにすることで排気量を4951ccから5038ccに拡大。 さらにGen.1以来 7年間手つかずだった圧縮比を11.0から12.0に上げることで、最大トルクはとうとう570Nmに到達。
1.2Lも排気量に差がある、カマロのLT1 617Nmとの差を一気に縮めてみせた。


とはいえ、当然ながら正常進化の部分もある。
シリンダーヘッドは直噴化する以上、インジェクターを差す穴が増えたり、噴霧を乗せる筒内流動をポート形状で作ったりするから完全に作り直し。 こればっかりにポート噴射のブードゥーを流用するわけにもいかないからね。
でもそれを逆手にとって、フォードはバルブ周りも完全刷新してきた。

直噴インジェクターを燃焼室に刺すことで、バルブ径が割を食って小さくなるエンジンも多い中、吸気・排気バルブ径をさらに0.3mmづつ拡大。 バルブリフトも設計を刷新することで、吸気・排気ともに1mm増やすという、 まさに執念のレイアウトを見せてきたのね。

ここまで吸排気のポテンシャルが上がり、腰下はGen2同様のロードランナー由来の強化品を踏襲。そうなると踏み込みたくなるのが更なる高回転化ということで、Gen.3は回転限界もロードランナーと同じ7500rpmまで上げてきた。

しかも今度はロードランナーの時と違い、トルクを維持したままの高回転化。
全域でGen.2のトルクを上回りつつ、馬力を25馬力上乗せしてみせる。
まさにコヨーテの集大成ともいえるエンジンとなった。

―――

ちなみにGen.3には、Bullitt用のGen.3.5ともいえるバリエーションが存在する。

これもここまで来たら、ある意味いつものヤツ。
Gen.3に対して、GT350で開発した高回転型インマニ+大径スロットルを組み合わせた仕様。

元々出力ピークを7500rpmと高く持ったGT350は、インマニ径が大径で脈動効果の同調回転数が高い。
これをGen.3の骨格と組み合わせることで、より出力発生点を上にズラすことができる。
つまりGT350で作ったものを更に展開した仕様ともいえる。

この仕様の重要なトコロは、エンジン骨格がブードゥーと違ってGen.3、つまりポート噴射+直噴仕様そのままということ。 これは低速トルクが犠牲にならないだけでなく、最新の欧州法規に適合できるってことも意味するのね。

つまりpmや騒音規制に引っかかって輸出できないGT350と違い、世界展開できる上位グレードになるってことになるのだ。これが21MYでGT350がモデル廃止になり、マッハ1に置き換わった背景。
そういう意味でも、ロードランナーの部品を使って仕立て直したGen.2と同じ考え方、と言えるとも思うの。

―――

これが2011年から足掛け10年、フォードがコヨーテを育て続けた系統樹。
それと同時に自分には、フォードがこのエンジンを活かし続けるために、どれだけ苦労しているのか、というのが如実に表れたストーリーにもみえるの。

コヨーテシリーズといえば、いつも目を引くのがロードランナーやブードゥー、他にも今回省いたGT500用のトリニティやプレデターといった、限定車向けのスターたち。

でもフォードはそこで投入される技術を、決して一品モノ・作って終わりのものにしていない。
新技術要素は先行する少数限定エンジンで開発して、それを必ず標準車にも落としてくる。 そういう点が徹底されてるように感じるのだ。


それらはすべてベースグレードのV8を安く、継続して販売していけるものにするため。
GMやクライスラーといったライバルに対抗しつつも、NAのV8なんていう、時代遅れになりつつある代物を、決して絶やさないための努力。

いみじくもフォード自身がFord GTで証明したように、GMがキャディラックATS-Vで示したように、もはや速さを求めるならV6ターボでも事足りてしまう。パッケージングだって成り立ってしまう。 燃費だって改善する。

でも、そんな中でもV8でなければ味わえない世界がある。
もはや理窟ではない、その灯を絶やすことなく受け継いでいく義務がある。

そんなフォード開発陣の執念を感じるような想いを、自分はこの歴史から感じたのだ。
ブログ一覧 | 日記
Posted at 2021/04/24 09:42:29

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この記事へのコメント

2021年4月25日 3:21
素晴らしい解説です
ありがとうございました(^_^)
コメントへの返答
2021年4月26日 2:28
ありがとうございます。
書き散らかしですが、楽しんで頂けたなら幸いです。

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