
日産の新型EVアリアが発表されました。初代リーフ以降ほとんど変わっていなかったパワートレインも大きく手が入っているようです。
特にモータは、長く使い続けてきた十年選手EM57から、やっと新開発のモータになりました。
このモータですが、主流の永久磁石同期モータの最新改良版かなと思っていましたが、なんと巻線界磁式の同期モータのようです。
出典:
https://www.netdenjd.com/articles/-/235199
巻線界磁式の同期モータと言えば、電気機器の教科書の同期モータの基本原理を説明する最初に出てくる基本的で古くからあるモータです。
移動体駆動用のモータとしてはこれまで実用化例はあまり無いのではと思います。
電車の駆動システムがわかりやすいと思います。抵抗制御の直流モータ駆動に始まり、制御装置の無接点化と回生ブレーキを実現するためにチョッパ制御の直流モータ駆動が開発され、さらにモータの保守軽減を目的にインバータ駆動の誘導モータ駆動が実用化されて現在の主流になっています。
一部ではモータの高効率化を目的に永久磁石同期モータも適用されています。
電気自動車の駆動システムも基本的には同じ構成であり、高効率化とパワー/トルクウエイトレシオを重視して、近年はほとんどの電気自動車に永久磁石同期モータが使われています。パワーエレクトロニクス技術の進歩と、電磁界解析技術の進歩とともに、この30年くらい進化してきたモータが永久磁石同期モータです。
永久磁石同期モータは、界磁磁束を永久磁石で得られることもあり、定格効率としてはたぶん最も高効率なモータと思います。
ただし、永久磁石がロータに組み込まれて回転する構造であるので、無負荷連れ回り時にも鉄心内に磁束変化を生じるために損失が発生する点、高速回転では誘起電圧が大きくなりすぎて不都合なので、磁石磁束と逆方向の磁束を発生させるため電流をわざわざ流して磁石磁束を弱める制御を行う必要もあり、これで損失となる点はネガでした。
連れ回りが多い用途、高速運転が多い用途など、ネガが目立つ場合は、誘導モータが選択されることがこれまでの流れだったかと思います。(プリウス50のAWDモデルのリアモータ、テスラ(モデル3除く)等)
ところが今回のアリアは、その流れに乗らず、古風な響きの巻線界磁式同期モータを選択しました。
なぜなのでしょうか?
巻線界磁式では、永久磁石の代わりに電磁石で界磁磁束を作るので、無駄な電力が必要になります。また回転するロータに外部から電力供給するためにブラシが必要になり摩耗への配慮も必要になります。モータも大きく重くなるなど種々課題があると思います。電気自動車に使うにはどうもネガが目立つように思います。
唯一? 永久磁石と異なり、界磁磁束の大きさの調整ができるので、ゼロから最大まで、運転状態に応じて界磁磁束を最適に制御可能なので、無負荷連れ回りや高速回転での効率は良いのでしょうが・・・。
文献を探すと、今年の明電舎の技報に永久磁石同期モータと巻線界磁式同期モータを比較した文献がありました。どうやら、温故知新というか、巻線界磁式同期モータをもう一度見直してみようという動きがあるのかもしれません。
出典:明電時報
https://www.meidensha.co.jp/rd/rd_01/rd_01_02/rd_01_02_22/rd_01_02_17_01/__icsFiles/afieldfile/2020/04/07/No367_09_web_200406.pdf
グラフの右下の赤い線よりも下側の領域が、巻線界磁式同期モータが、永久磁石同期モータよりも効率で勝っている領域です。
これによれば、巻線界磁式同期モータは、中高速の低トルク域で、永久磁石同期モータよりも効率が良いとの結果のようです。理屈どおりのイメージで腑に落ちます。
クルマの使い方で言えば、一般道である程度速度が乗った状態で速度を維持するためにアクセルを少し開けた運転や、高速道路での走行全般において、巻線界磁式同期モータの効率が勝るということのようです。
低速でのゴーストップが多くアクセル開度の大きい街乗りでは、永久磁石モータの方が効率面で優れています。
結局、アリアはなぜ巻線界磁式同期モータを採用したのか?
運用の大半を占めると思われる市街地走行時の電費効率よりも、高速道路を使った長距離移動時の電費効率に主眼を置いた設計ということなのか?
確かに、自宅での継ぎ足し充電で十分まかなえる日頃の市街地運用よりも、充電が心配な高速長距離移動時の充電機会を最小化する点に軸足を置いた設計思想の方が現状の充電環境では合理的に思えます。
あるいは日本よりも、長距離高速移動の多い欧米向けの車両設計なのか?
どうなのかなぁ。
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Posted at
2020/07/18 17:43:13