
以前から気になっていた、アルピナ D5ターボを試乗しました。
営業さんからお電話があり、是非にとお誘いされたので、ちと遠いが世田谷の本社までノコノコ出掛けて行きました。
そもそも、なぜこのクルマが気になったかという所からお話し致しますと、
元々私は以前、BMWに乗っていた事が有りました。
E39の528iです。
あの大きすぎないサイズ感と、気持ちよく回る6気筒エンジン。
当時の常識を超える、オールアルミのサスペンションアーム。
それにより、只のセダンとは思えない軽快でスポーティーなハンドリング。
そういう思い出が有ったので、その後もずっと5シリーズには注目していました。
けど、E39の後のモデル、E60型がガラリとデザインが変わり過ぎてしまい、一気に興味を喪失しました。
その後現在のF10型にモデルチェンジし、デザイナーも元々のクリス・バングルさんに戻し、デザインの方向性も原点回帰しました。
そこでまた色々と出会いがあるのですが、長くなるので割愛しまして、
ディーゼルの6気筒ターボにとても興味が湧いたのですが、残念ながらBMWの日本仕様のラインナップには、ディーゼルは4気筒しかありません。
※ヨーロッパ本国には、ちゃんと6気筒ターボがあるのにね・・・
ディーゼル6気筒ターボが欲しければ、日本の正規物ではアルピナしか選択肢が無い、という事が解かりました。
そこで、日本でのアルピナ総代理店 ニコル・オートモーティブさんに電話してみた、という訳です。
246経由で目黒通りを走り、環八に出てようやくたどり着いたショールーム。
流石という感じで、おもてなしの体制のよく整った、素晴らしい店舗でした。
営業さんの姿勢や知識も素晴らしく、アルピナの事がとてもよく解かりました。
すっかりALPINAファンになってしまったよ。
そしていよいよ試乗。
これがその、アルピナ D5 ターボ
やはり、通常のBMWとは、格段に存在感が違います。
明らかに『格上』オーラが漂っていますね。
下回りのエアロパーツはとても控えめな筈なのに、見た目の印象が全く異なります。
ハッキリ言って、全くの別物です。
既述の通り、F10型の5シリーズのボディーがベースです。
そのF10がマイナーチェンジしたので、このALPINA D5も新しくなっています。
でも変更箇所はほんのわずか。
ウインカーの位置が、フェンダーからミラーに変更になったのが、一番わかりやすい変更点でしょう。
そしてこのボディ塗装色、『ALPINAブルー』というプレミアムカラーで、
なんと塗装代で60万円強もします。
でもその価格に見合う、価値はあるかと思いました。
何しろ実際に見た目の色はもっと綺麗で、眺めていて飽きないくらい。
そして、マネーの話ですが、乗換時の査定額の差は、その金額以上になるとの事。
本当か!?
それは凄い。
リアビューも、とても精悍。
控え目な筈なのに、確かな存在感が有ります。
トランクスポイラーに、ディフューザー。
確かな効果があるのだとか。
でもどうせなら、僅かにでもマイナスリフトは達成して欲しかったな。
フロントは僅かにマイナス数値なのですが、リアだけは若干リフトなのだとか。
それだけは、このクルマに対する数少ない不満点。
まあ、贅沢か。
そして乗り込み、エンジンをかけてビックリ。
殆んどまったく、ディーゼルエンジンの音がしない!
ドアを開けた状態でエンジンが掛かった瞬間に少しだけ、ディーゼルっぽい音がするくらいで、それもほんの僅か。
ドアを閉めてしまえば、少なくともキャビン内にいる人間には、殆んど聞こえないと言って良いでしょう。
確認の為、ドアを開けて、やや大きめにブリッピングしてみる。
ストレスなく回る回転フィールは、ガソリンエンジンだと言われれば騙されてしまうのではないかと思える程、スムース。
そしてサウンドも、ディーゼル特有のカラカラしてザラ付いた音は、殆んどまったくと言って良い程、しない。
この辺りは、エキゾーストシステムも相当吟味されているのでしょう。
バルブ開閉式で、停車時は2本。走行時は4本すべてが開通するのだとか。
ドライビングポジションをアジャストし、ミラー類も合せる。
勿論、ステアリングポジションもだ。
そして、独特なチェンジレバーをDレンジにセットし、いざ公道へ。
目の前は環八。出てすぐに、第三京浜に入ります。
流れてはいましたが、そこそこに交通量があり、なかなか踏めるポイントは少なかったですが、それでもこのクルマの特徴がよく解かりました。
ドライブフィールは、とにかくスムース。
ザラ味の無いクリアな味と言えばいいか。
スポーツカーの様な、豊富なロードインフォメーションはあえて多少スポイル気味にしてある様子。
ただしかし、国産セダン車と比較すると、ちゃんとロードインフォメーションは感じられます。
その塩梅が、丁度良いという感想。
出過ぎず、無さ過ぎず。
サスペンションモードを色々試してみましたが、一番スポーツに振っても、それほど固くも無く乗り心地はどこまでもしなやか。
エンジンパワーについて。
こちらについては、まあこんな感じかというのが正直な印象。
今の時代、280馬力とは言っても驚くべき馬力ではもうない。
ただ、誤解無き様に付け加えるが、決して非力ではない。
ディーゼルエンジンの特徴を発揮して、トルクは必要にして充分。
回して行っても、ディーゼルエンジンとしては驚愕の高回転、5,500回転からレッドゾーンという、とても高回転型?なエンジンだ。
それにその回転フィーリングも、とてもスムース。
ガソリンエンジンと比較すると、間違いなく少しだけ劣るけど、そんな事は気にする必要が無いと思える程、このエンジンも素晴らしいキャラクターの持ち主だ。
BMWの6気筒を、アルピナがチューンして仕立て直した、素晴らしいシルキーシックスがそこには有る。
ターボラグは、殆んど感じられない。
勿論、私の愛車、NISMOのV6と比較すると、低速のピックアップも鈍いし、回転フィールも、高回転でのパンチも薄い。
ただ繰り返すが、これはディーゼルエンジンなのだ。
ディーゼルエンジンでここまでやれていること自体が、神業だと言える。
そして一番の驚きは、『燃費』である。
カタログ数値は、リッター18.8km。
本当か?と目を疑いたくなる数値だが、公道テストをしてみてそれが真実だと解かった。
短い時間であったが、一般道&第三京浜という走行シチュエーションで、
燃費計の表示はリッター約15km。
第三京浜を走行時は、ナント約19km以上を叩き出した。
これこそが、このディーゼルターボエンジンの真骨頂だと言っても良いだろう。
これだけ必要にして充分なトルクとパワーを持ち、尚且つこの好燃費性能。
天は二物を与えずと言うが、これは確実に与えられている。
尚且つ、それに加えてアルピナチューンの素晴らしいドライバビリティも加わるのだから、三物を与えられたエンジンだと言っても良いだろう。
こうなると、D3 BITURBOも乗ってみたくなるのが人情というものだが、
このD5のシングルターボでも、日本の道路事情では完璧に充分過ぎるかも知れない。
ちなみに、ビターボの意味だが、本来のドイツ語では、『バイターボ』と言う。
『バイ』は、ドイツ語で『2』の意味だとか。
すなわち、英語ではツインターボ、ドイツ語では『バイターボ』となる訳だ。
で、日本語でそれではちょっとおかしいので、ローマ字読みをして『ビターボ』となった訳だ。
細かい点だが、細かい点に拘るナイジェル満月の豆知識でした。
第三京浜の帰り道、たまたますぐ前方にBMWの5、そして後方からBMWの7が追い上げてくるシチュエーションが有ったのだが、なぜかその7は、私のおよそ100m後方からは、こちらに寄ろうとはしない。
たまたまだったのかも知れないが、それだけALPINAに敬意を表しているのか、とその時は感じてしまった。
そして不思議な事に、このALPINAをドライブしていると、他のどんな高級車が並走していたとしても、ALPINAに誇りを持てる。
ステータス、というだけではない、プライドという言葉だけでも片付けられない、『誇り』。
不思議だ。
そんな事を感じながら、試乗の時間はあっという間に過ぎて行った。
本社ショールームに到着しても、いつまでもクルマから降りたくないと思わせる、不思議な魅力がこのクルマには有る。
本当に、1,000㎞でも、2,000㎞でも、どこまでも走り続けられるという意味が解かった様な気がする。
クルマとの一体感?
それとはちょっと違う、というか足りない。
クルマに受け入れられているような感覚。
何と言えば良いか、どこまでも包容力のあるクルマが、まるでクルマの方から歩み寄ってきて包み込んでくれている様な、不思議な感覚。
これは本当に、感じた者にしか解からない世界。
とてつもなく深いぞ、ALPINA。
いかん、これ以上ここに居たら、買ってしまいそうだ。