お久しぶりです。
昨シーズン、純正トルセンLSDがまるで差動制限できない状況が出てきて、いよいよクラッチ式のデフの導入を検討すべき状況になってきたなと。
しかし導入にはコストはかかるし、下手に導入すれば得るものがあれば失うものもあったりするわけで、導入にあたって慎重になる私(
さっさと導入してしまえ )
その検討材料がほしいと、実際のデフの差動ぶりも含めて4輪の状態を見てみるために、4輪それぞれの速度データを車載動画に合成するという手段をとって可視化してみました。
それで作成した動画がこちら。
VIDEO
※2023/05/14 より見やすく改善した動画に差し替えました。
動画の右上に配置されている4つのゲージが各輪の速度を示しています。
2つ目のコーナー(TC2000の1ヘア)の立ち上がりで内側の駆動輪が思いっきり空転してちゃってます。
しかし減速時には差動制限が解かれているし、ほとんどコーナーではきちんと差動制限できている。優秀なLSDですな!
あばらの車をどうするかはさておき。
先だってTwitterでこの動画を添えたつぶやきをツイートしましたところ、この可視化ができるという点に思いのほか多くのエンゲージメントをいただきました。
この手法はデフやサスペンションのセッティングにも役立てられるはずで、可視化する方法そのものにニーズがあると感じましたので、必要とされる方にとって参考になればと、私なりのやり方をまずはざっくりとご紹介することにしました。
この手の合成動画を作成した経験がある方には目新しい情報はなくつまらない読み物かもしれません。ご了承ください。
なお、あらかじめ次の2点をご承知おきください。
・
記事中で車両のECU(ここではElectric Control Unitのこと)のネットワークにアクセスすることについて言及していますが、アクセスは推奨しません。 ネットワークでは車両制御に関わる通信が行われていて、外部からアクセスしてデータをキャプチャしたりすると車の制御が正常に働かなくなる可能性があります(ググると詳細は不明ですがそのような事例が散見されます)。アクセスは各自の責任において実施していただくようお願いします。
・同様の可視化を実現する方法は、この記事で紹介するもの以外にも考えられます。この記事で紹介する方法は、私がこれまでに別の目的のために用意してきたデバイスの類を活用するかたちとして行きついたものです。したがって、ゼロから環境を用意する場合などは他にもっと良い方法がある可能性がありますので、あくまで参考情報として受け取っていただけるようお願いします。
1. 合成動画の作成フロー概略
下図の通りです。
こんな感じで、
・データロガーを使用して取得した4輪それぞれの速度データ(以下、車輪の速度データと表します)
・カメラで撮影した動画データ
をそれぞれ個別に用意し、動画編集ソフトを使って合成しています。
個々のデータと動画編集ソフトについて以下で掘り下げて説明します。
2. 動画編集ソフトについて
Telemetry Overlay というソフトを使用しています。
このソフトは、
・動画ファイルのメタデータ(例:GoProであれば、GPS情報や加速度センサーのデータ)
・別途用意された、その動画に付随するデータ(例:ECUから取得した車輪の速度やエンジン回転数、ブレーキ圧などのデータ)をもつファイル
を取り込み、それらをソースとして動作するゲージを動画に合成することができるというものです。
有料ソフトで、投稿時点での価格はUS$149です。
割引クーポンが提供されていることがあり、それが使えればもう少し安く購入できます。
ゲージのソースとして取り込めるファイルの種類が豊富で、例えばCSV形式のテキストデータも使えます。
車輪の速度データが記録されたファイルの生成方法については後述しますが、4輪各輪の速度データが独立して記録されているファイルを取り込み、それぞれの速度データに対して1つずつゲージを割り当てることで、冒頭に載せたような動画を作成できます。
3. 車輪の速度データの取得方法
車種によってはこの限りではありませんが、今どきの多くの車種では、ECU同士が車両のネットワークで通信し合っていて、その通信のなかで各車輪の速度データがやり取りされています。
私が動画合成に使っている車輪の速度データは、そのネットワークにアクセスしてキャプチャすることで取得しているようです。(CANネットワークにアクセスしていると思われますが、厳密には仕様は未確認です)
私が使っているデバイスを具体的にここに書くことは控える必要があると思われるため書かずにおきたいと思いますが、走行中にデバイスを車両に接続してデータをロギングし、走行が終わったらデバイスからCSV形式のテキストファイルをエクスポートするという簡単な作業のみで取得できるものです。
参考:エクスポートしたファイルをGoogleスプレッドシートで開いたイメージ
ちなみに入手自体はどなたでも可能なものです。
アフターマーケットには、このようにして車輪の速度データを取得できるデバイスがいくつも存在します。
モータースポーツ界隈でよく使われていると思われるものとしては、例えばAiMのSOLO2 DLが挙げられると思います。
AiM製品を使って自分の車で車輪の速度データを取れるかどうか(というよりどんなデータが取れるか)は、
AiMが車両ごとに展開しているドキュメント で確認可能です。サーキットでポピュラーな国産FR車であるS2000(AP2)、ロードスターNC/ND、RX-8(前期)、Z33/Z34向けのドキュメントに目を通してみましたが、いずれも車輪の速度データを取得できそうでした。
※AiM製品の導入を推奨しているわけではなくあくまで紹介の意図です。導入は各自のご判断でお願いします。
4. 動画データの取得方法
GoPro Hero7 Blackを使用して撮影したデータ(.mp4)を使用しています。
合成動画を作成する場合、使用する動画編集ソフトが取り扱える動画データを用意する必要があります。Telemetry Overlayに関しては、動画データのインポートでサポートするフォーマットは特に限定されていないそうで、FFmpegでデコードできるようなものであればものであれば概ね使えるそうです。なのでGoProでなければらないということはありません。実際にiPhoneで撮影した動画(.mov)でも合成は可能でした。
以上、個々のデータと動画編集ソフトについての説明でした。
実際の合成の手順を具体的に書くとかなり説明が長くなってしまうので、この記事では説明は省略します。需要があるようでしたら、一連の手順を動画にして投稿することを考えたいと思います。
補足
動画編集ソフトに関して、類似ソフトとして
RaceRender 3 が利用可能です。
RaceRender 3は有料版2種類と無料版がありますが、本記事内で記載した車輪の速度データファイル(CSV)と、GoProの動画データを取り込んでの合成動画は、一応無料版で作成できました。
合成するゲージの見栄えなどにこだわりがなければ、RaceRender 3でも良さげです。
車輪の速度データの取得に関しては、自作のCAN BUSリーダーをRaceChronoと接続のうえロギングして得るというのも1つのやり方だと思います。
このやり方については、仕組みの構築方法や使い方をtimurrrr氏がGithubで公開してくださっています。仕向け地が日本国内の車両にそのまま適用できるかどうかなんかも含めて記載されている情報の扱いについては読み手側で検証が必要になるとは思いますが、参考情報としてリンクを貼っておきます。
RaceChronoDiyBleDevice
氏が紹介しているDIY CAN BUSリーダーがありますが、そこで使用するMCU「Adafruit Itsy Bitsy nRF52840 Express - Bluetooth LE」で使われているモジュールは工事設計認証を得ているとのことですので、電波法の面では安心して使えそうです。
私はこのやり方を自身ではトライしていませんが、このやり方であれば、車輪の速度データを得るのみならず合成動画の作成までRaceChronoで完結できそうです。
CAN BUSリーダーの自作や、RaceChrono上で数式設定の手間はかかりますが、導入コストに関しては既成のデータロガーを導入するよりも抑えられるのではないかと思います。
何か不明点等ありましたら、コメントしていただければ可能な範囲でお答えしたいと思います。