新型BRZを所有する方が投稿した面白い動画を見つけました。
見つけたというか、YouTubeのトップページに漂流していたので見てみました。
FA20とFA24は右コーナーで油圧が下がる現象は私のなかでは既知のことでしたが、投稿者は頻発しているとみられるFA24のブローの原因を探るために、その油圧低下に触れて考察を動画にまとめておられます。
ECU(CAN)のデータと油圧のデータを車載動画に合成し、見えない/見えにくい現象も含めて観察したうえで本人の結論を述べていて、とても面白いです。
投稿から3日で再生回数が6万回、いいねが3000以上ついているところからいって、視聴後に多くの人が参考にしたり、投稿者と同じ認識をもったのではないかと思います。
投稿者の考察のおおまかな要約は次の通りだと思います。
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・FA24がブローする事例が多く、巷でその原因について憶測が飛び交うなかで、データを収集して根本的に解決を目指すことにした。
・FA24車両2台、FA20車両1台、複数のドライバーでデータを収集。
・FA24はFA20と比較して右コーナーでの油圧低下が顕著である。
・右コーナーで油圧が下がるのはオイルストレーナーがオイルを吸えなくなるせい。(※1)
・油圧低下は、直ちに故障に至らないとしても、メタル(クランク/コンロッドベアリング)の損傷を引き起こすのに十分なものであると信じている。
・オイルストレーナーに液ガスの欠片があるかどうかは実験と結論に影響しない。
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私としても、去年ワンメイクレースが始まったときにFA24のエンジンブローが頻発している噂を聞いたこと、その後初代では許されなかったオイルパンバッフルプレートの使用が解禁されたことなどから、FA24に対してロバスト性が低いのではないかという印象をもっていたこともあり、初見では「あ〜なるほどね~」とその説明に呑まれてしまいました。
で、その認識のままこの動画に関して同調するツイートもしてしまいました。
…のですが、冷静になって改めて見返してみると、ツッコミどころがいくつかあります。
趣味の場の話でそういうツッコミはあまりすべきでないと思っているのですが、これだけ注目されれば相応にツッコミを入れる/受ける責任も生じてくると思います。もし仮に真実とは異なる点が取り上げられて騒がれるような状況があるのであれば、そこは冷静に客観的に捉えたいぞと。
おそらく投稿者ご本人も、ビデオの投稿前にここまで視聴されるとは予想していなかったのではないかな…
ちょっと申し訳なさもありますが、投稿者に対して最大限の敬意を表しつつ、以下ツッコませていただきます。
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エンジン種別間の差を統計的に有意というならば、もう少しサンプルがほしい
私が特にツッコミたいのは、FA20を引き合いにしてFA24のロバスト性の低さを主張している点です。
あくまでプライベートの実験だと思うので仕方ないとは思いますが、実験車両は新型2台と初代が1台の合計3台のみです。
「初代と比べて新型はこういう傾向がある」と統計的に有意であると主張するのであれば、もう少し他の車両でもデータを見てみたいです。
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オイルクーラーがエンジンの本来の給油能力を阻害している可能性がある
テスト車両はすべて、エンジンに社外品のオイルクーラーが追加されています。(Jackson Racing製との説明がありますが、詳しい仕様は不明)
オイルクーラーは必ず圧損を生むため、エンジンが本来もつ給油能力に影響を及ぼす側面があります。エンジン自体の性能に言及するなら、オイルクーラーは取り外してデータを取るべきでしょう。
また、データ取得中の油温がかなり低く、最大でも110℃くらいです。使用オイルは5w-30。推奨オイルが0w-20で、そのままサーキット走行をすれば120〜130℃が作動温度になるFAエンジンにとって、この実験中のオイルは動粘度が高くなりすぎている可能性が考えられます。動粘度が高ければ、オイルパンへのオイル戻りには時間がかかるようになり、オイルストレーナーがオイルを吸えなくなるリスクが高まる恐れがあります。FA20と比べて油量が少なくなったFA24はなおさらです。
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オイルパンバッフルプレートの有無が不明瞭
バッフルプレートの有無は油圧低下の現象の発生に大きく影響する可能性があります。しかし動画内で車両の説明をしているときに、その点について説明がありません。動画の概要欄でも触れられていません。
動画の後半、Next stepセクションで、実験中に投稿者の車両にバッフルプレートが入っていたことを伺わせる発言があります。
ならば他の車両は?
FA20にバッフルプレートが入っていたならば、どのようなものを使っていたのか?
それは右コーナーの油圧低下を抑制する効果があったのではないか?
→投稿後追記: 投稿者に直接質問したところ、実験車両のFA20にはバッフルプレートは入っていなかったとのこと。
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油圧低下を懸念する理由はなにか?
投稿者は、一般的なルールとして、エンジン回転数に応じた必要な油圧(10 psi + 10 psi per 1000 RPM)を挙げ、FA24の油圧がコーナリング中にそれを大きく下回っていることをsignificant concernだと言っています。
私はこれは明確なエビデンスがないためにconcernと言うに留めているのであって、実際には問題だと信じているのだろうと感じたし、この動画の視聴者のなかにも同様に捉える方がいるだろうと思いました。
私も自分のFA20の油圧を投稿者と同様の手法で観察してきましたが、A052を履いてTC2000を走れば、油圧が25-30PSI程度まで落ち込むことはコーナーを旋回するたびに起こります。2ヘアや最終コーナーは回り込むので、その油圧が5秒くらい続くこともあります。しかし私のエンジンは今でも快調で、オイル食いは皆無です。マフラーエンドにオイルが滲んでいたりすることもありません。
油圧というのはシステムの状態を捉える1つの指標にすぎず、ただ圧が高ければいいというものではありません。むしろ高い油圧はそれだけ油圧回路の抵抗(ムダ)が大きいことを意味します。某国産車両メーカーのエンジン開発者のなかには「油圧なんてあればいい」と言っている方もいるほどです。(その油圧をどこで測定するかによりますが。)
油圧をチェックしてその上げ下げばかりを懸念するというのは、ほとんどの場合ほぼ意味がないのではないかと個人的には思います。
ただ、油圧が完全に0になった場合は、オイルが枯渇し、境界潤滑が起こることを意味します。油圧が下がるということは、油圧が0に近づいているということではあるので、0に近づくこと自体を懸念しているのであれば、それはその通りだと思います。
ツッコミどころはざっとこんなところかなと。
とはいっても、投稿者は今後、Killer-Bが開発中の新しいバッフルプレートを導入してテストを行うようで、それはそれで楽しみです。
Killer-Bが開発中のバッフルプレートの詳細は
こちら。
個人的には、油圧低下の直接的な原因がストレーナーの空吸いであるという仮説についてまだ疑いの余地があると思っているのですが、もしそうであるならば、この開発中のバッフルは油圧低下に効きそうに見えるんですよね。
詳細中にはKiller-Bの設計思想も書かれているのですが、洞察力がめちゃくちゃ高いと思います。
※1
投稿者はオイルを吸えなくなる要因として考えられるものを以下2つ挙げています。
1. チェーンカバーにオイルが流れ込みやすい設計であること。
ブレーキングや路面の傾斜によるリフトで車のフロントが下方向にピッチングするときに、オイルパンからオイルがチェーンカバーに流れ込む。そして右コーナーに差し掛かった時にその流れ込んだオイルがチェーンカバーの側方へ遠ざかることで、オイルストレーナーがオイルを吸えなくなる。
2. オイルストレーナーの形状が左右非対称であること。
わずかにオフセットしていて、左右コーナーで油圧低下度合いが異なる。