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Dr. mkmcoのブログ一覧

2026年06月01日 イイね!

効くカナード、効きにくいカナード。

効くカナード、効きにくいカナード。こんにちは!
空力DIYをガチってる工学博士のmkmcoです。
今日も今日とて、模型用風洞のwindsibleを使って、身近な空力DIYのナゼナニを解明していこうと思います。
今回は、空力+見た目ドレスアップの定番、カナードの効果の原理、効くものと効きにくいものの違いについて見ていきましょう。


(Wikipedia エアロパーツ より)


引用 https://www.mooncraft.jp/blogstaff/aerodynamic/canard/

既にかなりの数の方が知っているカナードの効果は、wikiやムーンクラフト様の解説記事に譲ります。要点は、フロントコーナーで"制御された縦渦"を発生させる装置だという点。その渦の軸がボディ外側へのアウト&アップウォッシュとなりつつ、渦軸の持つ負圧によりタイヤハウスから空気を吸い出すため、見た目以上にダウンフォースのバランスを変えることができます。

このカナードですが、大手チューニングメーカーが実験や解析などにより各車種に最適化して開発したものは、効果のほどは折り紙つきと言ってもいいでしょう。
しかし、通販サイトなど含め、汎用品として色々なものが出回っているのも事実。
DIYで空力チューンをする方は、後者のお世話になる方が多いのではないでしょうか。


図 アリエクやAmazonなどで買える、よくある汎用カナードの例

最初に、これらの汎用カナードが発生させる実際の"縦渦"の様子をお見せしつつ、効果の強弱の差について解説します。



今回も模型用風洞のwindsibleを使って実験です。
この風洞は、風速こそ最大20 km/hですが、整流状態がよく、かつ密閉空間で流せるため、Youtubeなどでミニカーでよくみられる「なんちゃって風洞」や、高圧ガンなどの重い水滴でみる「風洞実験もどき」とは一線を画す検証精度を誇ります(そもそも、それらは流体実験の基本である実車との相似性を到底満たせるものではないことに要注意です) 。特に、カナードやVGくらいの小型パーツの検証にはピッタリです。
気流はオイルミスト法にて可視化します。


図 取り付け例
パーツは図のように、ディスプレイ箇所に対して立てて取り付けます。
気流は画面左の網目部から、右側に向けて抜けていきます。
つまり、図のディスプレイステージが実車ボディの側面に相当すると見てください。
装置の奥・手前が、それぞれボディ上方・下方にあたります。




まずは先ほどの汎用カナードを試験してみましょう。写真は20 km/hの流速で定常状態の時の静止画で、上から、ボディ側面図、ボディ下から見上げた時の図、見上げた図のミストの出る位置を変えた図です。
このカナードの特徴は、
・前方(画面左側)が太い三角形の翼面形状
・それほど大きくない一定の翼断面曲率
です。
○で囲った三角形の頂点付近を起点に、緩く縦渦が生成しています。(※縦渦とは、渦の回転軸が主流の方向と平行なタイプの渦)
この渦が、周囲の流れを引き込むパワーをもっており、特にタイヤハウス周りの乱れた流れを引き抜いてくれる効果の源となるものです。
同じ主流速度であれば、渦のパワーはミストの螺旋が密に連なって見える方が強いです。

このカナードでは、翼の前縁側からカナード下面の流れが剥離して生じた負圧域に、上面でカナードにぶつかり高圧となった流れが回り込むようにして渦が生じています。それ以降は、後縁に向けて窄まる三角形状を取るため、渦の駆動力である翼上面の正圧と翼下面の負圧の差が維持できず、渦の成長は翼前縁側がピークです。渦軸のアウト・アップウォッシュも弱くステージ近くを流れています。



図 商品ページ
(https://vwmaniacs.com/fs/maniacs/gd18892)

続いては、低速からよく効くと評価される、株式会社キザス(VW Audi界隈だとmaniacsさんで知られる)製のm+ downforce canardを試します。



手元にフリーの品がなかったので、クリアファイルを型取りして同形状を作製しました。
先程の汎用カナードと対称な比較試験とするため、翼の前後縁を結んだ直線(コード)が主流に対して迎える角度は同じにしています。




三枚の図は、先程のカナードと同じ構図の静止画群です。
このカナードの特徴は、
・後方(画面右側)まで一定太さの四角形の翼面形状
・前方から半分くらいのところから翼断面曲率が急増
です。
○で囲った、曲率が急変する部分を起点に、螺旋の密度の高い強い縦渦が生成しています。
つまり、先程のカナードと異なり、下面の流れの剥離は○印あたりを起点に、翼の後縁にかけてマイルドに発生しており、流れの大部分が翼の曲面にしっかり追随できています。これは、前縁から緩い曲率にそって流れてきて動圧(流速)が高まった流れが、曲面にしっかり追随することで強い負圧を生じさせたことを意味します。さらに、四角形で一定の翼幅であることも加わり、渦の駆動力である翼上面の正圧と翼下面の負圧の差が非常に大きいまま後縁まで維持されているため、先程のカナードよりも強い渦となりました。また、渦軸のアウト・アップウォッシュも先程より強く、ステージから離れる方向に渦が飛んでいく様子もわかります。



二種類のカナードを比較するとこんな感じ。
一枚目の比較では、黄色線で示した渦や、緑線で示した周囲の流れのアップウォッシュ具合の違いがよくわかります。
二枚目の比較では、渦の螺旋の密度の違い、アウトウォッシュ具合、周囲の流れの巻き込まれ具合の違いも明確です。

上記の差の理由は明確で、翼の取り付け角度と曲率により下面の剥離ポイントがどこに取れるか、翼面の形状により上下面の圧力差をどのくらい維持できるかが、大きな違いに繋がっています。
また、この差はレイノルズ数の観点からも実車でも同様の現象が起こると言え、かつその差は車速が上がるほど顕著になっていきます。

したがって、今回紹介したカナード群を使い分けるのであれば以下が最適なシチュエーションと言えそうです。
・よくある三角カナード:
高速になるほど徐々に、かつマイルドに効果を強くしたい場合や、リア側の空力デバイスにあまり影響させたくない場合。
・m+のカナード:
低速から前輪側のダウンフォースをしっかり増やしたい場合や、リア周りも同様に空力処理してダウンフォースを出せる場合。


そんなわけで、今回はカナードの発生させる渦が、実際はどんな流れになっているのか、さらにはカナードの形状の違いがどのようにして効きの違いに繋がるのかを、風洞可視化実験により半定量的に説明してきました。
今後は、効きの強さをコントロールする角度の付け方、モディファイの仕方、複数枚貼りの効果など、様々に検証していきたいと思います。
ご覧頂いた皆様からも、検証の中での疑問点のご質問や、ご自身のカナードやその取り付け方の検証などの検証アイテムのご提案お受けしますので、気兼ねなくコメントいただければと思います!

それではまた次回!!






Posted at 2026/06/01 16:10:28 | コメント(0) | トラックバック(0)
2026年02月14日 イイね!

模型用風洞Windsibleでボルテックスジェネレータを検証!

模型用風洞Windsibleでボルテックスジェネレータを検証!久々の空力関連投稿です!
なんと!一昨年にクラファンで投資していたFun-Tech-Labから、模型用風洞型ディスプレイのWindsible (1:24サイズ)が届きました!
こちらは香港の会社さんなのですが、技術に寄った同好会的チームが源流で、今作も実際の風洞に必要な整流された流れを作る機構がしっかり組み込まれています。
普通に買うと10 万円くらいしますが、超早期に投資をしていたので、2.5万円程度で手に入れました💪


ミスト発生機や整流部、試験部、モーターを直線配列するため、全長は900 mm程度と巨大。


某ロボットアニメで出てきそうなデザインがいい感じです。

さて、本題はこの風洞をどう使うかです。
もちろん、ミニカーなどの模型を置いて、風洞試験チックに飾るのもよし(というか、それが本来の意図)。


うちの1:43 R8 LMS GT2を飾るとこんな感じ。


TT RS roadsterならこんな感じ。

もちろん空力DIY人間の私としては、これだけの整流機能、可視化機能、測定領域を備えているなら、実車用小型空力パーツの検証に使うしかない!!
ということで、手始めにエーモンのVGを使って、様々な設置方法でVG周りの流れがどう変化するかを確認します。
ある意味では、これまでRS3に施してきた様々な設置方法の効果の答え合わせをするということです。



最大の実流速は20 km/hなので、実車高速走行時に比べて変化のスケールは1/4程度ですが、レイノルズ数は同じ桁の範囲なので、現象の相似性はあると見てよいです。
まずは普通に流れと平行に設置した場合です。
VG後方ではミスト線よりも下側に渦ができますので、VGの頂点付近を流れてくる気流はその渦に引かれて、やや下方向に広がりながら流れます。とはいえ、かなりマイルドに効果が出ていますね。



ついで、流れに対して斜めに設置した場合です。この時は、VGを斜めに乗り越える流れにより、図の場合なら正面からみて時計回りに渦ができている様子がわかります。



斜め設置を縦列させた場合がこちら。
私のRS3で言えば、サイドスカートの裏側に貼ったものがこれに値しますね。
先程の単体斜め設置に比べて、後方の渦が大きく成長していることがわかります。



最後に、Vane-tape式で八の字に設置した場合です。
私のRS3で言うと、フロントのサイドインテーク前に設置したものに値します。
両側のVGから対称的に渦が生じるため、中心を流れる気流が地面方向に強く偏向する様子が確認でき、ダウンウォッシュが生じていることがわかります。

こんな感じで、ちょっとしたサイズ(10 cm程度まで)の空力デバイスなら、その作動原理を半定量的に評価できることが分かりました。
私がRS3に設置したものたちも、設計意図通りに作動してるようで、満足です!
今後も思いついたことは様々に検証してみようと思いますし、ご覧の皆さまも何か思いついたときはご提案いただけると、面白いものをご覧に入れることができるかもしれません。

※なお、この装置と模型のミニカーを使った場合は、あくまでエンターテインメントとしてのディスプレイになることには注意が必要です。
流れの縮尺試験は、レイノルズ(Re)数と呼ばれる、寸法と流速に比例するパラメータを実車と一致させる必要があります。
したがって、例えば1:43の模型の周りに実車と相似な流れを作る場合、実車速度の43倍の流速が必要となる計算です。
実車100 km/hを見るなら風洞内に4300 km/hの気流…音速の4倍弱なので、装置が可能でもそもそも現象として再現不可能です…
他のユーザーで、模型だけで空力の何たるかを語る人に出会したら、話半分で聞いておきましょう…






Posted at 2026/05/16 15:46:52 | コメント(1) | トラックバック(0)
2026年01月23日 イイね!

フロントバンパーコーナーの空力処理と冷却能力向上

一昔前のクルマは、コーナー部を比較的ツルッと丸く処理したものが多いですが、最近は複雑な"えぐり"やブレード状の意匠が着いたりで、なんかこう、クワッとした顔が増えましたね。
お察しのことかと思いますが、その多くはフロント周りの流れの剥離の制御を軸にした空力処理のための形状です。





アウディもダミーダクトの横にブレード状の突起の意匠が着いていたり、e-tronあたりはガッツリ機能させるダクトと併せて設計されていたり…



国産で言うとR35も凝った造りになっていますし、FL5なんかは公式に解析結果の一部と併せて設計意図が公開されています。

つまるところ、最新世代のクルマは車体全体の空力のトータルコーディネートに力を入れていて、その中でも流れの始まりになるフロントの造形にはこだわりが詰まっているということですね。
DIY空力は、その意図をしっかり汲み取って、それを試行錯誤しながらバランスよく補強していくのが醍醐味でもあります。

そういうふうに思考をセットして、改めて我が家のRS3くんのフロントバンパーコーナーを見ていきます。



8Y前期の時からですが、バンパーコーナーは縦のブレードを隔てて、内側にはサブラジエーターのグリル、外側にはダクトが着いています。また、外側ダクトの外縁は"く"の字に開口しています。先述したFL5の造形コンセプトから類推し、全体形状としてはサイドの剥離を抑え、高速の流れをなるべくボディに沿わせようとしていると推測できます。これはフロントフェンダー後方のダクト出口に負圧を作り、ホイールアーチやエンジンルーム内部の滞留空気を抜くのにも重要な処理になります。この点からも、適切なカナード類を追加してあげるのが効果的であることがわかります。



また、サイドブレードの前方への張り出し量は、おそらくはサイドラジエーター前方の高圧滞留領域の大きさで決められており、高圧空気が漏れ出さないちょうど良い塩梅を取っているものと考えられます。





以前にも確認しましたが、サイドダクト自体は8Y前後期ともにサイドラジエーター裏の空間に直接接続されています。したがって、ここに高速気流を直接入れて、ラジエーターにぶつかる高圧空気の抜けを良くしているようです。出口側もだいぶフェンダーの内側に寄っているので、どうもエアカーテンの要素はバンパー全体の形状に委ね、サイドダクトの効果としては冷却能向上と前方正圧の低減に寄与させる設計と最近は思います。

さて、そうすると、更なる抵抗低減と冷却向上のためには、サイドダクトから入る気流の流速と引き込み力を向上させたくなるわけです。その分、たくさんの空気がフェンダーに入りリフトしやすくもなるわけですが、そこはカナードとフェンダー後方のダクトの効果のキャパを信じます。



そんな考えで取り付けたVGセットがこちらです。八の字での取り付けです。
ルーフのVGの記事(https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/3142035/car/3696923/13523246/parts.aspx)を読まれた方は察されたかもしれませんが、この配置は八の字の中心軸線に、取り付け面に向かって強力に引き込む縦渦の組みを生じます。航空機や風発の風車で言うところのvane-tape型のVGのCounter-rotating配置です。メカニズムとしては対向配置した斜めVGが互いに反対向きの螺旋渦を生じさせ、下向き流を強め合う効果を得るものになります。RS3のサイドダクトは三角形に窄まって行く形状で、元々ベルヌイの定理的に流速を速めていく形状です。それを邪魔することなく促進する方針としては、これが最適と考えます。

参考

https://doi.org/10.1016/j.renene.2023.04.104

ぶっちゃけると、下手に大きなフィンを一個つけるより、一組八の字配置の小さなVGを付けた方が、効果を得やすいのはあります。
他の箇所にも応用できるので、色々と試してみるのをオススメします。

空力的には、フロントの操舵感に特に大きな変化はなく、フェンダー内への流入が増えたものの、バンパーコーナーへの吸い寄せが効いてカナード類の効果が高まり、相殺できたものと考えます。

冷却能は高負荷運転をした時に試してみたいと思います。

以上、久々のDIY空力レビューでした!
Posted at 2026/01/24 07:12:25 | コメント(0) | トラックバック(0)
2025年10月10日 イイね!

Cd値を実走で測ってみた!

空力的なテコ入れを色々と重ねてきて、燃費の面では改善の様子が伺える我がRS3君ですが、もっと直接的な指標で性能向上を確認できないかということで、Cd値走行実測を試みてみました!


Cd値は各メーカーも空力性能アピールのために公表することが多いパラメータです。Coefficient of dragの頭文字に由来しており、摩擦・圧力・誘導含む全空気抵抗の係数で、この数字が小さいほど、ボディ全体が低抵抗な形状や処理がなされているものと考えてください。
これを走行実測できれば、燃費などの外乱の多いパラメータよりもかなり信頼できる数字として比較できます。

舞台は5%勾配がしばらく続く某所で、そこをEfficiency設定のコースティングモード(無い車はニュートラルでもよい)で走行します。そのときに加速度または平衡速度から求めた抵抗力が、車重と重力加速度より算出した力のうち坂を下る成分と等しくなると仮定して比較します。
この手法であれば、ほぼ転がり抵抗+空気抵抗のみの数字が出てくるため、転がり抵抗係数レンジが公表されている同等品のポテンザS007Aの値で代替するなど転がり抵抗値を差し引けば、空気抵抗分のみを取り出せます。

算出における仮定は以下の通りです。
・式は簡単のため以下を適用。


・抗力と速度
抗力は勾配における坂道下り方向の重力成分から、転がり抵抗を差し引いた値を使用。
算出時の車重は1630 kgとする。
速度は上述の定勾配コースティング時の平衡速度を使用。

・前面投影面積
RS3 sportback 8Y後期は、純正でCd値0.34、前面投影面積 2.22 m2と公表されているので、この数字を使います。

https://uploads.audi-mediacenter.com/system/production/car_motorizations/241/file_en/28776b93cf213d6a3c2e4336e62484200208389e/eTD-Audi-RS3-Sportback-TFSI_250306.pdf?1741339185

・空気密度
20℃での密度1.166 kg/m3を使用。

以下、結果です。
純正で何もつけていない時にも既に測定しており、その時の平衡速度から純正Cd値は0.335〜0.348の範囲と算出されました。
タイヤの空気圧や機械摩擦などで転がり抵抗係数が10.5〜12のレンジで変化するとみなしたときの範囲なので、メーカー公表の値とほぼ同等が出たと考えて良いでしょう。
コレに対し、これまでの全空力対策後に測定した平衡速度からは、Cd値0.298〜0.310と算出され、0.04程度の大幅な低減ができたと言えます。
セダンのメーカー公称値が0.32なので、それを下回る低抵抗をハッチバックで実現できたことになります。

今回、特にボディ後方の流れ収束のスムーズさを高めつつ、ダウンフォース傾向にする取り組みを進めてきました。
もちろん、スムーズさに振るようなチューンを施せば、さらにCd値を下げることもできます(特に作りたい流れに対するVGの使い方が重要で、目算はついています)。
引き続き、いろいろと試行錯誤しつつ、数値化や可視化手法にて検証を進めてみたいと思います!
気になる箇所があれば、是非コメント頂ければと思います!
Posted at 2025/11/10 13:43:24 | コメント(2) | トラックバック(0)
2025年04月26日 イイね!

境界層吸い込みの導入方法から見る、DIY空力設計の考え方。

結構色々な方から、「境界層を吸い込む?!」、「そんなことほんとに起こるの?」、「うちの車でも使える?!」などのお声を頂くので、改めて技術背景と、RS3でボディ表面の結露を利用して可視化した結果をお示しつつ、DIYでの空力設計に必要な考え方をお伝えできればと思います。



そもそも境界層とは、分子同士の引き合う力に由来する、俗に言う空気の粘り気が引き起こす現象です。
ざっくり言うと、この引き合う力による粘り気があるおかげで、空気の分子は物体のごく表面をなめらかに滑ることができなくなります。
こちらも以前のブログにてざっくり解説しましたので、引用しておきます。
https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/3142035/blog/47958704/

この境界層ですが、剥離を起こしにくくしたいのであれば、層の厚み方向のエネルギー交換を促してあげればよいわけですね。
例えば、物体表面の温度と気温を上昇させると、分子一つ一つの速度が上昇し、分子同士が衝突する機会も増えます。これにより、速度の違う空気分子同士もぶつかりやすくなりため、境界層は厚く(見かけ上、空気がサラサラに)速度変化もなだらかになり、剥離もしにくくなります。
また、巷で話題のボルテックスジェネレータも、作り出した渦の持つ流れが層の厚み方向のエネルギー交換を促進することを意図しています。
どちらにも共通するのは、層の厚み方向のエネルギー交換の促進を図っているという点で、このような挙動は車体周りの気流全体で言えば摩擦抵抗を増やすことにつながります。
しかしながら、層流を敢えて早めに乱流に遷移させることで、多少の摩擦抵抗の上昇を許容しながら、より高速域での剥離による圧力抵抗の発生を低減することができ、高速走行時の抵抗や車体後方の剥離渦による姿勢不安定を低減できるわけです。
流れそのものの名前的に、層流=摩擦が小さくて綺麗、乱流=摩擦が大きくてきたない、みたいな感覚を持ってしまいますが、層流の境界層がこのような不安定な効果をもたらすなら、正直剥離のポイント含む流れ管理が簡単な乱流の方が扱いやすいので上記のようなVGの設置をしたくなるし、もっと言えばそもそも層流境界層なんか無い方が(極めて薄い方が)良いよね?っていう発想に至るわけです。
そうして生まれたのが、境界層吸い込み技術です。

以前のブログで紹介した通り、境界層吸い込み技術自体はもともとは航空工学での翼面の境界層制御技術の一つです。
https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/3142035/blog/47997646/
物体表面の境界層を何かしらの圧力差で吸い込み、吸い込み領域の後方では再度薄い境界層にして、剥離しにくくかつ摩擦抵抗も小さい流れを作るのがコンセプトです。
これができると、車であればリアスポイラーなどの効率を最大化でき、最後方での不安定な剥離も極めて小さくすることにつながります。

一方、一般車では飛行機のエンジンなどのようにアクティブに吸い込む力を供給することは難しいので、自然に生じる圧力差でパッシブに機能する吸い込み経路を作り上げる必要があります。
以前のTTでは、リアゲートのサイドとCピラーのチリの隙間を吸気口、リアゲートとリアバンパーの隙間を排気口とみなし、境界層の表面近傍の低流速域(高静圧)と、車体の真後ろの剥離渦=ウェイク領域(低静圧)の圧力差で空気を抜くようにしました。
この経路の途中に存在する他のチリは、圧力差を抜いてしまうので、全て塞ぐのがポイントでした。





TTでこのように経路を定めたのは、ルーフをなだらかに下ってくる流れとサイドからリアウィンドウ上に入り込んでくる流れをうまくバランスさせ、リアスポイラーの機能を強めすぎずバランスさせる必要があったからです。
おそらく、ルーフエンドとテールゲートの隙間からの吸気としてしまうと、左右からの流れの安定化による姿勢安定ができず、リアスポイラー下面の流速のみが上昇してダウンフォースだけが強まり、乗り心地と性能の両立の点では難しい方向に行ったことでしょう。

一方のRS3では、ルーフエンドとリアゲートのチリの隙間を吸入口、リアゲートとリアバンパーの隙間を排気口と定めています。




RS3は比較的なだらかとはいえ、切り立った後端のハッチバックスタイルであることには間違いないです。
故に、ボディ後方の剥離渦はサイド流由来のものよりもルーフエンドやボディ下面からからの流れによるものの影響が大きくなると予想されます。
それをメーカー側も当然理解していると考えられ、後期型ではリアディフューザーそのものがアンダーボディ流と後方ウェイク領域の圧力差の利用を想定した上下二分割構造になっております。
したがって、メーカーが想定した流れをうまくアシストするように、地面に対して水平な面の気流を整えることが、ボディ後方での効率的な整流とウェイク低減、それによるリアリフトの低減とボディ全体でのダウンフォース傾向創出に繋がると考えられます。
ゆえに、このようにハッチのサイドの隙間を全て塞ぎ、テールゲートの下端に集約して排出する設計となったわけです。

これが機能することで、後方のウェイクに適度なエネルギーを供給でき、アンダーボディ流とテールレンズ高さ以上の領域の流れとがボディ真後ろで剥離渦として混ざることを防ぎます。すると、ボディの直後からだいぶ後方までの広い範囲で、上下面由来の流れ同士がやや上方に向かいながら滑らかに合流できるようになり、低抵抗かつダウンフォース傾向の創出に繋がります。

想定した流れが生まれたかは、例えば結露した状態で80 km/h走行させると見ることのできる水滴の流跡線などで確認できます。




写真一枚目は、その条件で走行したときのルーフを後方から写したものです。
ルーフ全体で水滴が綺麗に後方に流れておりますね。アンテナ後方では渦の生成の証拠となる巻き込み流れがみてとれます。
このことからも、ルーフ後端までに剥離は起きていない様子がわかります。

二枚目はルーフ後端とエッジスポイラーのチリ(吸入口)全域を写したものです。
通常であれば、ルーフ後端からの水滴がエッジスポイラー側にジャンプして、スポイラー上にも大きめの水滴の流れた跡が残るはずです。今回は吸入がうまく作用しており、そのような大きな水滴は全てチリに吸い込まれ、後ろには新しい流れが生まれたことがわかります。
また、AP製スポイラーの下側では局所的に結露が全て解消されており、翼型がうまく作用して高速流が生じ、結露が全て流れ去ったことを意味します。
ただ、ちょっと難しいところが、純正スポイラーの前半には流れ始めるような跡がない点です。
これは、流れが吸い込み口に向かって局所的に小さく逆行したであろうことを意味しています。
その後のAPスポイラー手前では結露が消えているため、この部分で再表面の流れの逆行は終了して高速流に戻ったと考えられます。より高速走行して主流が早くなれば逆行もしにくくなりますが、排出口側の負圧が大きいと吸い込み力も高まりますので、ここはいかなる速度でもAPスポイラーの直前には逆行が終了するように設計を詰めたいところですね。
具体的には、純正スポイラー前縁に境界層くらいの高さまでのガーニーフラップを置いて流れを堰き止め、静圧を高めつつ後方からの逆流をシャットアウトする手法なんかが、パッと思いつきます。

三枚目はテールゲート下端のチリ(排出口)を写したものです。
細かい液滴がチリからゆっくりとバンパー後方に向かって流れた様子と、同時に後方から巻き上がってテールゲート表面に付着する大きな液滴がない様子がわかり、排出機能も発揮されたことが分かります。
総じて、今回の境界層吸い込みは一定の目論見通りには機能したと考えられますが、流れの逆行問題の部分はリアスポイラーの効率の安定化の面でもう少し改善の余地ありというところですね。


さて、この境界層吸い込みも含め、これまで色々なデバイスを試して全て効果があることを確認してきました。
ここでお伝えしたい重要なポイントは、むやみやたらに色々な箇所に空力デバイス、例えばVGやカナードを着けるなどはしてはいけないというところです。

例えば、今回の吸い込み機構ですが、これを支えるのは流入側と流出側の圧力勾配なので、機能させるためにはある程度の大きさの後方剥離渦と負圧域を用意してあげないといけません。例えば、ボディサイドのVG配置ですが、敢えてテールランプ下部〜リアバンパー上部の領域には設置していません。
この領域はテールの丸みによる剥離と再付着により、水平方向に回転する大きめのウェイクが生じます。
この辺りにウェイクによる大きめの負圧があるが故に、テールゲート下端からの吸い出しや、リアディフューザーの吸い出しが、斜め上方に機能してくれます。

逆にここにVGを設置し、ウェイクを小さくして負圧を低減してしまうと、機能させたいメインの空力デバイスの効果が小さくなり、全体のバランスを崩すことにつながります。

また、ルーフのアンテナ近傍にもVGは設置しておりません。

VGは単体であれば境界層内でエネルギーを均質化してくれますが、それは動圧が大きく静圧が小さい渦を境界層内に作ることになり、表面近傍での静圧は小さくなります。
すると、境界層吸い込みにおける吸入側の駆動力は低下することにつながります。
境界層内の流速が平均化されて主流よりも遅くなるため、境界層吸い込みだけの場合よりも遅い流れがルーフスポイラーに到達し、効率の低下も予想されます。剥離後の領域に吸い込み点を設けるなら別ですが、RS3はTTのようにルーフが絞り込まれているわけではなく、極端な剥離もしないので、今回のようにルーフスポイラーと境界層吸い込みを合わせる場合にこのエリアでのVGは不要と考るに至ります。
一方、先ほどの流跡線解析の結果から、吸入口直後での逆流や流速低下が想定される場所については、車速に応じた空力効果の変化をタフトなどで可視化しつつ、ガーニーフラップ設置など対策が必要かどうかを見極めたいところです。


DIYといえど、空力設計は単体の効果に飛びつくのではなく、どこに何を設置するとどのような流れが生じ、全体でどのように相乗効果(あるいは相殺)を発揮するかを考えることが重要ということで、今回のブログの結びとさせて頂きます!
・自分の車にも境界層吸い込みを使ってみたい!
・空力で乗り心地や操舵性を改善したい!
・こんなデバイスを着けたらどうなるかを予想したい!
という方のお手伝いもしますので、気軽にコメントいただけると嬉しいです!
Posted at 2025/04/26 12:29:13 | コメント(2) | トラックバック(0)

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「妻と妻のコスプレ仲間たちが、元愛車のTT coupé Final Editionと一緒にコスプレビデオグラフを制作しました!
とてもカッコよくTT最後の思い出を飾れました!
https://youtu.be/46NpteDUwMM?si=PhMw0-s1LHnujvgs
何シテル?   04/11 19:41
Audi大好きmkmcoです。 航空宇宙工学専攻を出て、今は企業の研究員です。一応、工学博士。 原理原則から考えがちな人間です。 専攻や本職から、空力と構...
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