
気流デザインに関する試行が一通り完了し、これで現状の穴あけなし空力チューンとしてはひと段落ついたと思いますので、全体の気流設計についてまとめたいと思います。
ベース知識については過去のブログでの流体解析や境界層の扱いに関するあれこれを参考にしていただければと思います。
「境界層について色々と考えてみる。」
https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/3142035/blog/47997646/
「TT周りの気流を可視化した結果を共有!!」
https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/3142035/blog/48005957/
基本的な設計思想としては、
・ボディ全体をバランス良くリフトフォース→ダウンフォース傾向にする。
・〜80 km/h走行時の燃費は出来るだけ維持する。
・80〜 km/hでは前後バランス良くダウンフォースかけて、ピッチとロールを抑制しつつ、コーナリングでのノーズの入りをクイックにする。
なので、
① フロントタイヤハウス内全域の正圧低減&前後タイヤ周りから下面への流入量低減
② ボディ後流の後引き渦を低減
③ボディ後端で上向き流を形成
について、バランスを整えつつ達成するイメージです。
TTは後端が翼断面に近く、かつ最近のウェッジシェイプなデザインも取り入れていることや、ミラーからCピラー周りの処理をうまくこなしていることなどから、素の流れもかなり綺麗です。
綺麗な流れはしっかり利用しつつ、乱れやすい部分の影響を可能な限り取り除きます。
① フロントタイヤハウス内全域の正圧低減&前後タイヤ周りから下面への流入量低減
主にフロントサイドの処理と、サイドスカートの全後端の処理、リアサイドの処理で達成を目指しました。

フロント正面にぶつかってサイドに流れる気流は、フロントバンパーのサイドに取り付けたEZ LIPスポイラーの上面を通り、ある程度まとまった流れとしてカナードへ送ります。
これにより、タイヤハウスへ正面からぶつかろうとする気流を偏向してタイヤによる抵抗を低減します。
また、途中に切れ込みを入れましたが、曲率の変わる部分で剥離を起こす前に、負圧になっている裏面側へ境界層を吸い込ませ、カナードへの流れを整ええます。カナードの真下にあたる部分は何段階かで上側に跳ね上げるように段差をつけ、カナードの効果向上を狙います。

カナードは上下二枚組とし、上側のカナードの上端をホイール中心に合わせます。
特に、カナードは下面で剥離させた流れの渦によりタイヤハウス及びホイール内の高圧空気を吸い出しますので、取り付け角度は流速に合わせて適切に剥離・渦形成できるようにします。
上側カナードは前方にフロントバンパーサイドの装飾があり流速が低下するので、やや角度をつけ目にします。下側カナードはリップスポイラー付け根を通ってきた綺麗で早い流れなので、前端が気流と平行になるようにします。これにより、特にタイヤ中心と、それより下側の高圧部の空気を効率よく抜きます。
別途取り付けているブレーキ導風板の効果も向上できると考えられます。

ボディサイドは純正のサイドスカートの機能を活かしつつ、前後タイヤハウス周りで下方向に延長し、ボディサイド流れとボディ下面流れの分流と、タイヤ後方にサイドから流入することを抑制します。
特に、前方の延長部では微小渦の発生によりエアカーテンの効果(気流を活用したサイドスカート機能)も狙います。

リアサイドは地面に対して水平にスポイラーを取り付けることで、ボディ後端とタイヤ後端で流れを分流します。
※緑は剥離渦になっている部分のイメージです。
未対策だと、主流に対して15度くらい角度がつくと剥離し始めるとされます。
以上、大きな付加物のない最低限の装備により、ボディサイドの流れを高速低圧で維持し、タイヤハウスからの流れの引き抜きとボディ下面流れの分流を狙う装備一式でした。
② ボディ後流の後引き渦を低減
ボディ後方での後引き渦の本質的な現象としては、ボディ上面から剥離してきた渦と、ボディ側面から剥離してきた渦同士が垂直水平に干渉することで、飛行機の翼端から流れ出る渦の形状によく似た流れを形成します。
詳細は以下の文献の図4あたりで読み取れます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/39/3/39_3_3_41/_pdf/-char/ja
この渦が長く後を引き大きな抵抗になるために燃費が低下したり、車線変更で左右の流れの変化が大きいときにはバランスを崩す要因となります。例えば、道路の生垣のそばを通過したあと、草木がどれくらい車道側に引き込まれるかがこの渦のエネルギーを反映します。
これを低減するために、ボディ上面とサイドからの剥離渦のエネルギーをそれぞれ小さく保つ必要があります。
具体的には、曲面部での剥離をなるべく抑えてテールに向かって絞り込む流れを作りつつ、剥離を避けられないところに向かう流れはなるべく早く乱流に遷移させ、大きな渦になる空気を少なく保つことが求められます。
そこで、今回はルーフエッジのスポイラーとテールゲートでの境界層吸い込み、テールライトサイドのVGの三種類の対策で上記を実現します。

ルーフエッジスポイラーは、センターから外側に15cm付近の領域は渦による流速遅延が大きく、そこから外側にかけては徐々に流速が早まる形で縦渦を形成するような形状をしています。
したがって、ルーフからの流れは必然的に中心方向に絞り込まれるため、剥離の源になる流れの大元を削減できると考えられます。
上記の流れの変化の分、サイドウィンドウからの流れが高速でリアウィンドウ中心方向に引き込まれますので、サイドミラー周りとCピラーにVGを装着ののち境界層吸い込みを活用して剥離を抑制します。

最終的には後端の渦領域を水平方向に大きく狭めつつ二分割することで、抵抗源となる後引き渦を大幅に減少させます。
③ボディ後端で上向き流を形成
こちらは②で水平方向の渦領域が減少した分で縦方向の偏向の効果が出やすくなることもあり、少しの処理で大きな効果を望めます。
フロントのアンダーパネル付近の流速向上とタイヤハウスでのリフト低減で、フロントもダウンフォース寄りになっているので、リアスポイラー周りとディフューザーの処理で前後のバランスを整えるようなダウンフォースの発生を狙います。

リアスポイラーはルーフからの流れの剥離を抑えたこともあり、効果が高まっている(ノーマルよりもスポイラー周りの流速が向上している)と考えられます。
AP製などの大型スワンネックは翼面の高さも上がるため、リアのダウンフォースが過大になってアンダーステア傾向になることや燃費が悪化することが懸念されます。
そこで純正のRSスポイラーのリアエンドにエクステンションを装着しつつ、ボディのテールエンドにもトランクスポイラーを装着します。
これにより、スポイラー上面での流れの減速と偏向を促進しつつ、下面とボディの隙間ではスポイラー下面を通る流れの剥離を抑制しつつ上方に跳ね上げます。
この手法の良い点は、純正スポイラーの取り付け高さから変わらず、車速変化に対してもスポイラー周りの流速変化が穏やかなため、ダウンフォースの車速に対する変化も穏やかで姿勢のバランスが崩れにくい点です。

最後にリアディフューザーの機能を少しでも向上するため、ディフューザー下面にいくつかVGを装着します。これにより、ディフューザーの曲面にも流れがある程度追随できるようになると見込まれます。
全体のドライブフィーリング変化結果ですが、TTの空力やその他色々をブログでまとめていらっしゃるFujiwaraさんのTTRSとの乗り比べも実施しつつ、お互いに確認しました。
(※FujiwaraさんのブログURL https://polo9ngti.blogspot.com/2022/05/tt.html?m=1)

Fujiwaraさんのコメントを抜粋すると以下の通りです。
・60 km/hから四輪全体の接地感の向上が実感できる。
・90 km/hを越えると上記は顕著で、段差を越える時などのピッチングが非常に小さく抑えられている。
・120 km/h以上の高速でも車線変更の安心感が優秀。お尻のあたりに伝わるリアのブレ感がほとんどない。
・広い速度域で前後バランスが良い。万人受けする感じの効き方。TTRS比でもノーズがよく入り、コーナーの入り口から出口まで操舵のブレがかなり少ない。
・ダウンフォースにより登坂時やアクセルオフ時の失速感は大きい。
・風切り音がほとんどしない。
・総括してコーナリングマシンとして優秀で、吸気によるトルクアップも加味してテクニカルサーキットを全開走行したくなる味付け。
大変ありがたいコメントの数々…
全体として狙い通りのダウンフォース傾向を作り出せたと思います。
私もTTRSに試乗させて頂きつつ、上記の差を確かめることができました。
燃費に関しては従来からのパーツレビューで示してきた通り、〜80 km/h走行ではノーマル時から20〜30%程度向上しておりました。
一方、今回の新東名の120 km/h区間(御殿場〜長泉沼津の往復平均)での計測では、ノーマル時とー3%から同等程度と言う形で、ここでも高速域でダウンフォース傾向化していることが明確に数字に現れました。
近いうちに、一つ一つのパーツの気流への効き方も含め、まとめ動画を撮る計画を立てております。
ひとまずはここまでで我が家のTTくんの空力チューンは完成ということになります。
今後は様々な土地や道路、コースに出張って性能を確認したり、その結果を元に吸気の効率の更なる向上施策を試すなど考えています。
長くなりましたが、今回もみなさまのチューニングの助けになれば幸いです!!!