整備手帳でちょっと書いたのですが、コンデンサーチューンの一環で、EDLC(電気二重層コンデンサー、スーパーキャパシター)を電源ラインに入れるカスタマイズがあるのですが、ちょっと疑問に思っています。
もともとオーディオ系統の電源用に、超巨大電解コンデンサ(EDLCではない、電柱みたいなやつ)とか、サブのバッテリーを入れる手法が伝統的にあったと思います。それとは別に、エンジン系に効くとして、電解コンをバッテリーの端子に入れる所謂ホットイナズマに代表されるようなコンデンサーチューンが出てきた。これが2000年代初頭、みんカラの初出は2002~2003年くらいです。
2010年代になるとホットイナズマの○○倍とかいって、EDLCを使った事例が出てきたようです。みんカラの初出は2009年くらい。
私は、2010年ぐらいまで、みんカラをよく見ていましたが、その後(フォレスターを買うまで)離れており、その間にEDLCが広まったようですね。
EDLC自体は昔からありました。私が電子工作少年をしていた90年代、トラ技の広告にあったEDLCを見て「すごい容量だから家のアンプに入れてみよう(改造)」と思い立つも、スペックを調べてオーディオには適さないとガッカリしたことを覚えています。内部抵抗が高すぎて電流流せない&耐電圧が低すぎるのです。あくまで「バックアップ電源用」の理解です。
それが、コンデンサーチューンのレポとして、「トルクとか燃費は良く分からんけど、オーディオの音は良くなった」というのを良く見るにつけ、エンジン系への効果は自分も良く分かりませんが、オーディオに通用するものになったのでしょうか。ここ十年くらいで何か技術革新があって、「バックアップ電源用」という理解が過去のものになったのでしょうか?ちょっと調べてみました。
■内部抵抗
EDLCは耐圧が低いので、車載で使うには複数個直列にする必要があります。秋月電子で手に入るEDLCを例に考えてみると、例えば、
25F 3Vだと、車載では最低5個、余裕を見ると6個は直列にする必要があります。
このデータシートを見ると、ESR(等価直列抵抗):25mΩ(1kHz)、40mΩ(DC)となっています。思ったよりは低いですね。低インピーダンス品となっているので、この辺が技術の進化でしょうか。でも6個直列だと、150mΩ(1kHz)、240mΩ(DC)となります。これが結構大きいんですよね~
普通の電源用低インピーダンス電解コン、例えば
4700μF16V105℃ ルビコンZLHだと13mΩ(100kHz)です。もちろん並列接続すれば更に抵抗は減ります。
■リプル除去性能
電源ラインにコンデンサーを入れた時の波形のシミュレーションをしてみます。
オルタネータの発電波形を、そのままぶち込んで、ナビ・ヘッドユニットの根元に、コンデンサーを入れた時の波形です。負荷はスピーカーを想定して4Ωです。
上がEDLCスタック(25Fを直列接続で約4.2F)、下が単発の電解コンです。容量だけ見たら890倍ですが、EDLCは内部抵抗が高いので、全然リプルが取れないことが分かります。
実際、各コンデンサーメーカーのアプリケーションノートには、大電流系の回路へのEDLCの使用は非推奨(抵抗が高いので発熱大)となっています。
先日の整備手帳で実施した電解コン追加は約9400uFですので、下のシミュレーションと同等以上の仕事はしてくれている筈です。
■充電電圧のアンバランス
EDLCの直列接続は、もう一つ、厄介な問題があります。容量バラつきからくる、充電電圧のアンバランスです。
上述のEDLCでは容量誤差+30% ~ -10% となっていますので、単純に直列接続すると、それだけ電圧も偏ります。試しに下のような容量誤差があったとすると、
一番小さい子は3Vの耐圧を超えてしまいます。容量が均等なら15/6=2.5Vの計算になりますが、容量が全く同じということはないので(温度や経年劣化でも変わるので厄介)このようなことになってしまいます。
ですので、電圧アンバランスを簡易に解消するには、一般的には下の回路のようにバランス抵抗をパラに入れます。ただし、バランス抵抗は「徐々にアンバランスを解消する」ので、電圧が安定するまでは、やはり過電圧になる可能性があります。
例えば470Ωのバランス抵抗にすると、電源投入後1188秒(≒20分)で、3V以下まで落ちます。抵抗を大きくすると安定する時間は短くできますが、もちろん消費電流は増えます。(470Ωだと暗電流5mAくらいです)
■コスト
例のEDLCは単価460円、これが最低6個必要です。電解コンなら100円です。EDLCと同じ値段だったら27個買えますので、これを全部パラにしたら0.127F、0.5mΩの超高性能コンデンサーアレイになります。
■許容温度
例のEDLCだと、周囲温度上限は65℃です。これだけでも車載で使うには不安がありますね。電解コンの場合は85℃~105℃です。
■まとめ
このように、パワー系の回路へのEDLCは、高リスク低リターンのように思います。冒頭に書いた「内部抵抗が高すぎて電流流せない&耐電圧が低すぎる」の理解は、現代でもさほど変わっていないようでした。もともと鉛バッテリーの内部抵抗が5~10mΩというオーダーですので、EDLCより電流供給能力はあります。周波数応答を高めたいならバッテリー側ではなくて、オーディオ機器側に「電解コン」を入れた方が効果が高い。EDLCを入れる余地がありません。
容量競争の成れの果てで、他のESRとかのスペック無視で、闇雲にEDLCが使われている気がしてなりません。最近のマイルドハイブリッドにEDLCが使われるケースも承知していますが、内部抵抗が低く許容温度も高い専用設計品でしょう。汎用品で売ったら値段は万単位になると思います。
適材適所が大事ってことですね~
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Posted at
2020/05/06 01:37:16