この記事はは学生フォーミュラの現役学生、OB、審査委員などの関係者によって12/1から25日まで一日一記事づつリレーしていくアドベントカレンダーです。リンクは
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前回の記事は福田S太郎さんの「パワートレインの作り方」でした。
福田S太郎さんの記事は
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1. はじめに
こんにちは。むとさんです。一昨日が誕生日で、26歳になりました~
社会人2年目で、ゆる~く学生フォーミュラ界隈をOBの立場から眺めていたら執筆のお誘いを頂きました。
現在は完成車メーカーでエンジニアをしており、日々クルマ作りに励んでいます。大好きなクルマが仕事になって、今でも不思議な気分です。
突然ですが、「カーライフ」という言葉を聞いて、どんな光景を思い浮かべるでしょうか。
マイカーで買い物に出かける光景、サーキットを走る光景、自分好みにカスタマイズする光景、仲間と夜の駐車場に集まってお喋りに花を咲かす光景、大切な人とドライブに出かける光景...
大切な人とのドライブデートの写真はありませんでした。。。別れる前に撮っておけばよかったー(TT)
イメージしやすい光景だと、こんなところですかね。
いずれも共通しているのは、クルマを通じ何らかの歓びを得て、人生を満たそうとしている事です。「クルマを通じて」ですから、クルマを作って何らかの歓びを得ようとする学生フォーミュラは、カーライフの一つではないでしょうか。というのが私の主張です。
学生フォーミュラ活動を通じてエンジニアとしての成長のみならず、かけがえのない経験と仲間を作る事は、「クルマを通じて歓びを得る」事ではないでしょうか。
しかしながら、学生フォーミュラ活動を進める上で何らかのトラブルが発生し、歓びどころか苦悩ばかりの学生フォーミュラ活動になってしまう方もいらっしゃるかと思います。(私の同期の学F経験者もその1人です)
その苦悩を紐解いていくとよく表れてくるのが、OBやFAといった圧倒的に強い立場にいる人たちと、圧倒的に弱い立場に置かれる学生との間で生じる対人関係の問題です。
立場の違いにモノを言わせて論理的に破綻した命令を下したり、正論や理屈で精神的に追い詰めたり、言うことを聞かなければ脅したり怒り狂ったり...といった老害の行動や言動がチームに悪影響を与えてしまいます。俗に言うハラスメントというやつですね。
これは、学生フォーミュラに限らず社会の様々な共同体で発生しています。学校や家庭、研究室、企業などなど、発生する場所によって「いじめ」や「虐待」「DV」「モラハラ」「アカハラ」「パワハラ」などと言葉を変えますが、強者が弱者を追い詰めるという構図は全て同じです。
では、人が集まって「縦の関係」が構築されると、なぜハラスメントが起きてしまうのか。ここではハラスメントを起してしまう人の事を「老害」と呼ぶことにして,学生フォーミュラに限らず色々な人を間近で観察して得られた考察をこの記事で書かせて頂きます。
2. 老害の見分け方
老害を見分けるポイントは、
「心理的な支配と干渉」があるか無いか。この1点に尽きます。これが頻繁にある場合は間違いなく老害です。具体的な言動で言うと
①従わなければ罪悪感を与える言動
例:いつでも相談してねって言ったのに何でこうなる前に相談しなかったの?
②従わなければ恐怖感を与える言動
例:〇〇しなければ次の走行会のFA引き受けないから
③権力で威圧し恐怖感を与える言動
例:誰のお陰でこの活動が出来てると思ってるんだ!
④指摘に人格攻撃を含む
例:そんな事も出来ないようではお先真っ暗だわ
⑤侮辱的・差別的な言動
例:××××××××××××××!(自主規制)
挙げたらキリがないのでこの位にしましょう()
接した直後にどっと疲れが出てきたり、無用な緊張感を強いられる人、忖度を非言語メッセージで強いる人、感情に振り回され癇癪を起す人、敵意を隠して接する人。などなど。自分の心の中を土足で入られたような嫌~な感じがします。
では、なぜ老害がこのような言動や振る舞いをするのでしょうか?
3. 老害の心理
老害の心の中は次の感情に強く突き動かされていると私は考えています。
その1 不安
その2 孤独
その3 怒り
あれ?と思った方が多いのではないでしょうか。これは被害者の感情ではないかと。
1つづつ詳しくお話します。
*不安*
老害になる人は対等な目線での対話ができないといった特徴を持っています。心の中をさらけ出す事が不安で、他人との間に上下関係を作らなければまともにコミュニケーションが取れません。上の人には腰を低く、下の人には威張り散らすといった具合にです。自身がダメ出しされる事への不安から、自身に従順な後輩を従えて、周りをイエスマンで固めておけば当面の不安からは逃れられるように見えます。ですが、老害もイエスマンも本心は不安で、お互い疑心暗鬼になってますます不安になってるのではないでしょうか。
*孤独*
先に述べた通り対等な目線での会話ができないという事は、その他の身近なコミュニティ(職場や家庭、交友関係など)におけるコミュニケーションが円滑に進まず、孤立しがちです。そこで、頼らざるを得ない学生に相談や技術の引継ぎ名目で依存させ、老害は孤独を解消するために依存するという、共依存の関係になります。共依存の例として、
機能不全家族において子供が衣食住の面で親に依存する一方、親が愛情の名目で子供を支配・干渉・虐待をするといった手段に依存し、親自身の葛藤の解消しようとする。といった構図が挙げられます。
*怒り*
大きく分けて2つの要因から怒りにつながると考えます。1つ目は、老害と比べて恵まれた環境下でのびのびと活動している学生に対する嫉妬に由来するもの、2つ目は自身の考えや世界観との相違を受け入れられない事に由来するものです。
現在あるいは過去の不遇な老害の状況に対し,のびのびと楽しそうに自由な発想で活動に取り組む学生に嫉妬し,老害自身の無力さややるせなさが外部への怒りへと変化します。
また、未だに老害を中心に世界が回っていると信じて疑わず、老害の思いや考え以外は一切受け入れる事が出来ない為、そのような状況に遭遇すると怒りを表明する事でしか内面を表現できないのではないかと、私は考えています。
4. 老害が与える影響
まずはチーム・学生側が受ける影響です。
老害と直接関わった学生は言わずもがな、チーム全体のモチベーションが低下し,組織力の減少につながります。老害から与えられた罪悪感、恐怖感、絶望感、無力感が個人のメンタル的なエネルギーを浪費し、チームとして取り組むべきタスクをこなす時には精神的なガス欠状態となってしまう為です。
また、チームのリソース(活動予算、設備、スポンサー、チームメンバー)や活動方針に老害が干渉すると、学生フォーミュラの体をなした老害フォーミュラに変わり果ててしまう事となります。老害フォーミュラになり果てた挙句、結果に対する責任を老害が取る訳もなく学生が後始末といった目も当てられない状況になりかねません。
更には、老害の周りを固めたYESマンが次の後輩にハラスメントをはたらくことで老害に昇格し、そのYESマンが...(以下無限ループ)となり、老害が世代を超えて連鎖するチームの体質となってしまいます。
次に、老害自身が受ける影響です。
一時的に学生を振り回すことで支配欲求や虚無感、幼児的願望を満たす事は出来ますが、すぐに欠乏状態となり再び学生を振り回す事となります。自身が学生を振り回した時に支配欲求や虚無感、幼幼児的願望が満たされる一方で、傷つく学生を目の前で見る事になりますから、罪悪感も一緒に無意識の領域で蓄積されます。(※このように人が傷ついても何の感情も湧かない人を俗にサイコパスと呼ぶのはよく知られていますね)
支配欲求や虚無感、幼児的願望は放っておいても勝手に消えるわけではないので、学生を振り回すといった不適切な手段に依存しがちです。いつの間にか学生を振り回す(=他人を傷つける)事をせずにはいられない人になってしまいます。
5. 老害の対策
過去に素晴らしい成績を残した人や今現在優秀な人であったとしても、ハラスメントを起こす事で個人や組織にダメージを与えてしまうような人は、幼児的願望が満たされておらず精神的に成熟していない人だと私は解釈しています。チームにとっては害でしかなく、だから老害と呼ばれるのです。そのような人に振り回されてあなたの夢や希望に到達できなかったら本当にもったいないと思います。また、誰かの足を引っ張る事でしか自身を満たせないような惨めな人生も、これまた本当にもったいないと思います。
ここでは、今現在進行形で老害から被害を受けている方に向けた対策を「学生編」に、もしかして、私って、老害?と思われた方に向けた対策を「老害編」にまとめました。
*学生編*
基本的には信頼できる人に打ち明けましょう。(メンバー、家族、友人、パートナー、カウンセラーなど)ここで大事なのは、不快な感情をぶちまけて終わり!ではなく、不快な感情を受け止めて今後どうしたいか、シナリオをきちんと描いてから打ち明ける事です。そうすれば不快な感情が再び湧いた時に今後のシナリオに沿って動きやすいです。例えば、ボスにハラスメントを受けた時に、ただ不快な感情をぶちまけにカウンセリングを受けるのと、「不快なのでボスを変えたい」という考えを持ってカウンセリングを受けるのでは、当然後者の方が合理的ですよね。
ただし、精神的に限界な場合は無理をする必要はありません。真面目な人はどうしても耐えてしまいがちですが、心理的・身体的健康を損なってまで耐えようとして回復不能な状態になってしまっては元も子もありません。それだけの真面目さは素敵ですが、自分を真面目に労わる事が出来たらもう少し楽になると思います。
また、比較的精神に余裕がある場合には老害から学ぶのも有効な手段です。これまで述べたような「老害の特徴」を観察し、なぜこの人はこんな愚かな事をするんだろう。と考えて仮説を立ててみると、自ずとその人に合ったオリジナルな対処の仕方が見えてくるかと思います。老害の振る舞いで不快な気分になった時には、その不快感をじっくり味わってみるのも変化球ですがアリです。(ただし無理はしないで下さい)
ここからはハラスメントを未然に防ぐための対策です。具体的には、普段OBやFAの方とのコミュニケーションをとる機会がある時にも心がけて頂きたい事があります。設計やチームの方針、自身の考えを決めるに当たり、何を指摘されても答えられるように自分なりのシナリオやビジョンを描いてください。相談や質問をするときには何を求めているのかを簡潔に伝えられると尚良いです。
「〇〇にしたんですけど、これで合ってますか?」とか「××で問題が起きてるんですけど、どうすれば良いですか?」といった模範解答を求めるような相談はNGです。このような相談を受けてもOBやFAは模範解答を知ってる訳ではないので答えようが無いですし、最適解を持っていたとしても妥当性は保障できないためです。少し難しいですが「××について判断が難しいのでコメント頂けますか?〇〇という考えから△△にしたんですけど」みたいな具合です。回答が〇か×で答えられるクローズドクエスチョンで相談するのもありです。
OBやFAの指示だけを聞いて自分達は手を動かすだけ。という方が精神的には楽かもしれませんが、OBやFAの指示が常に正しいとは限りません。もし間違っていたとして、それが原因でチームの目標が達成できなかった時にはどんな気分になると思いますか?そうなってもOBやFAが責任をとってくれるはずもありません。途方もない無力感と空虚感だけが残ります。だんだん目が死んでいきます。そんな風に私はなって欲しくないです。
OBやFAだけでなく、学内の先輩や後輩、同期を含めて身の回りにいる関係者の方を対等なエンジニアだと思って接してみてください。時には意見がぶつかっても構いません。むしろぶつかるのは自然な流れかと思います。何度もぶつかっていく内にお互いの考え方や熱意、志の中から同じ方向を差すベクトルが見えてくるはずです。それがチームの目指す方向と重なった時に、強いチームが生まれると私は考えています。1人ひとりのベクトルを同じ方向に向かせるのではありません。それは洗脳です。あくまで自然体に、自分のベクトルがどこを向いていて、チームの方向がどこを向いているのか、そこを理解する事で自分の強みを理解できると思います。
最後に少し思い出してほしいのですが、学生フォーミュラを始めたきっかけは何でしたか?速いクルマを作りたい!レーシングカーを運転したい!何かものづくりをしたい!などでしょうか。「毎年生まれては消えていくクルマを通じて歓びを見出す」という想いはみんなが持っているはずです。
*老害編*
この項を読んでいる方でもしかして私は老害!?と思った方。ご自身の言動や振る舞いを客観的に振り返る事が出来る素晴らしい方ですね!お読み頂きありがとうございます。耳の痛い話があるかもしれませんが、最後までご覧ください。
まず、我々OBが学生フォーミュラに貢献できる事は残念ながら非常に限られていると言わざるを得ません。せいぜい学生の精神的な支えになるか、焼き肉をおごるか、モノや金を出す位だと思います。技術的な情報や知識、これまでの経験を学生にどれだけ熱心に伝えたとしても、それらを吟味し判断するのは学生自身です。明らかに我々の意見が正しいと信じて疑わないとしても、それを強引に押し通してしまったら学生の主体性を踏みにじる事になってしまいます。もしかすると、学生は無条件に自分より能力の低い人だと判断していませんか。もしそうなら、その根拠は何ですか。年齢が上の方が無条件に能力が高いものだと無意識で思い込んではいませんか。そんな事はありませんよね。まずは学生としてでなく、対等なエンジニアだと思って接してみるのが良いと思います。自身のリソースを提供する際には決して押しつけがましくならないように選択肢の一つを提示するに留め、学生が採択するかしないかに関わらず交流する事自体に楽しみを見出す位が丁度いいのではないでしょうか。ちなみに私は学生と交流する際、学生がどんなビジョンを描いているか、以前に比べてどれだけ成長したか、私自身が交流を通じて学生から学びを得られるか、の3点に注目する事を心がけています。
また,学生の行動や判断に怒りや不快感を覚えた時やツッコミを入れずにはいられなくなった時には,一呼吸おいてみてください。(5秒程度待つ)衝動的に言動や行動につながるとロクな事になりません。5秒待つ間に喉元まで出かかった言葉や行動を,あなたの上司に同じことをできるか一瞬考えてみてください。あるいは,自分がそうされたらどう思うかを考えてみてください。おそらく到底そんなことはできないでしょう。まずは突発的に湧いた感情を切り離して受け入れる事,次に取ろうとした言動・行動が妥当か考える事,最後に取った言動・行動の責任を引き受ける覚悟を持つ事。この3ステップで少なくとも不適切な対応は避けられるはずです。自身がどんな感情を持っているか良く分からない人は自身にかける内部対話を,厳しい言葉から労いの言葉に変えてみましょう。例えば仕事でクタクタになってコタツへ直行し,グタグタしてたらもう寝る時間です。こんな時に「ああやってしまった!グズグズせずにさっさと風呂に入っておけば良いものを!」という内部対話をしたら,嫌な気分になりますよね?ここで「クタクタになるまで仕事頑張ったもんな~」という内部対話にしたら,どうでしょうか。なんだか自分を甘やかすみたいで真面目な人には難しいかもしれません。(私も難しくて中々実践できません)ですが,嫌な感情に振り回される頻度は確実に減るはずです。
学生たちは何だかんだ言って我々OBの事をよく見ています。我々が笑顔でご機嫌でいれば,学生たちも勇気を持って活動に取り組んでくれます。学生が失敗しても,彼らは自ら反省し改善に取り組む力を持っています。本当に困ったら学生からアクションがありますし,言い方は悪いですがほったらかしでも勝手にたくましく成長します。我々が温かく見守っていれば。もう少し学生の力を信じてみませんか。
最後に少し思い出してほしいのですが、学生フォーミュラを始めたきっかけは何でしたか?速いクルマを作りたい!レーシングカーを運転したい!何かものづくりをしたい!などでしょうか。「毎年生まれては消えていくクルマを通じて歓びを見出す」という想いはみんなが持っているはずです。
4. おわりに
今回は過激なタイトルで内容的にも耳の痛い言葉がいくらか並んだ気もしますが、いかがだったでしょうか。
腫物のようなテーマを選んで記事にした理由を最後に書かせてください。
実は、私自身20年間過ごした家庭が機能不全状態で、多くのトラウマや嫌な記憶、葛藤を抱えたまま高専から大学へ3年次編入しました。もう誰も信用できない、これからは自分1人で生きていくしかないと決心した一方で、心にぽっかりと開いた穴を少しずつ埋めてくれたのが学生フォーミュラでした。私の無責任な行動で散々チームに迷惑を掛けてしまった事もありましたが、最後まで私を見捨てずにメンバーとして受け入れて頂きました。
また、院試で失敗し何とか滑り込んだ大学院でも温かく迎え入れて頂き、連覇の瞬間をメンバーと味わう事が出来ました。おかげで就活もうまく行き、趣味のクルマ作りが仕事になり、たまにつまづく事もありますが、何とか頑張れています。
そうやって人生で訪れたいくつかの困難を、心理学の本や記事を読み漁るなどして得た知識と、現実に起きている事を照らし合わせながら乗り越えたと自負しています。今でも昔の事を思い出しては苦しむ時もあるので、これからも学びと実践は続けていくつもりです。私は心理学のプロではありませんが、私なりに心理面での困難をどう乗り越えると良いか、誰かに伝えたいと思っていた所でした。そんな時にアドベントカレンダーのお話を頂き、学生フォーミュラで出会った人たちから貰った宝物のお返しをするつもりで、この記事を書きました。このような記事を書く機会を与えていただいた事を心から感謝しています。また、今日まで私を支えてくれた学生フォーミュラ関係者の皆様にも心から感謝しています。
非常に長い記事となってしまいましたが、何か一つでも皆様のお役に立てたなら幸いです。最後までご覧頂き、ありがとうございました。