
米国フィラデルフィア科学大学ポール・ハルパーン物理学教授著、2020年度Physics World Best of Physics受賞作。シンクロニシティは単に共時性と訳されることがあるが、著名な心理学者ユングが提唱した概念で、意味ある偶然の一致(非因果的連関の原理)をも意味する。
人間の脳は生存の為に危険や好機を予測するように物事を関連付けようとする。その中には因果関係が明確なものだけでなく、虫の知らせのように非因果的なものもある。ユングは、意味のある偶然の一致は期せずして現れる自然の真理であると主張したが、根拠に乏しく心理学会で幅広い支持を得るには至らなかった。ところが、因果性を凌駕するユングの世界観は、彼が交流した物理学者達:アインシュタインや彼の患者でもあったパウリなどを通じて現代科学へ広く浸透したことは皮肉なものである。
人類は太古より宇宙や自然現象について理解しようと努めてきた。が、体系立てて論じられるようになったのはギリシャ時代からであろう。アリストテレスの物理学に始まり、コペルニクスやガリレオの天文学、ニュートンの古典力学、そして、アインシュタインの相対性理論によってひとつの完成形を見た。
ここまでは、作用が直接伝わることで自然現象が起きると言う考え:因果律に基づいてきたが、量子力学が異を唱え始めた。その最たるものが量子もつれである。互いに正反対の量子状態(スピン)を持つ電子のような一対の素粒子は、それぞれがどちらでもあり得るような状態を重ね合わせて持っており、その内のひとつの粒子を観測して初めてその状態が決まり、同時にもう一方の粒子の状態はその反対であることが決まると言う共時性を持つ。これは2つの粒子がいくら遠く離れていても同時に決まることから、超光速の情報伝達現象であり、相対性理論の限界を破ってしまう。
物理学者は現在、この因果性と非因果性を同時に説明する統一理論を構築しようと奮闘しているが、答えを出すには長い道のりが残男されているようである。これが解決される頃には、光速を超えた宇宙旅行や瞬間移動、タイムトラベルが実現するかもしれないなどと、ロマンを掻き立てられる本であった。
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2023/09/27 17:19:36