
米国を代表する国際政治学者で、ハーバード大教授や国家安全保障会議のコーディネータを勤めたサミュエル・ハンチンソンの著作。30年近く前に冷戦後の世界を予測した本書は、世界中で大きな反響を呼んだ。冷戦後の世界を予測した本としては、西欧の自由・民主主義が普遍化していくものとした、フランシス・フクヤマの「歴史の終焉」も大きな反響を呼んだが、どうやら「文明の衝突」の方が正解に近いようである。
文明の定義は一様ではないが、価値観・規範・社会制度・思考様式など文化的な特徴と現象(歴史)の集合であるとの考えなどが紹介されている。文明は始まり・栄え・衰えるものであるが、近代の世界を9の文明(西欧・ラテンアメリカ・アフリカ・イスラム・中国・ヒンドゥー・東方正教会・仏教・日本)に大分類、その文明の特徴・差異によるこれまでの紛争の分析と将来予測が為されている。勿論、その文明の中にも細かな文明が分かれて存在しており、その間の紛争についても同様に述べられている。
西欧とイスラムの紛争(共に一神教で布教に力を入れているが、政教分離と一致の差がある)、ウクライナとロシアの紛争(民族差によるウクライナ領土の分割と捉える)など予測通りのものが多いのだが、中国の台頭により日本は安全保障の観点から米国より中国を選ぶとの予測は今のところ外れているようである。
ひとつの国の中における文明の衝突として、移民による問題にも多くのページが割かれている。西欧への現在の移民の中心であるイスラムやヒスパニックは労働力の補完や人口維持に寄与してきたが、その地位が高まらない不満を持ったまま人口比率が増えて紛争の火種となっている。西欧の多文化主義は、自国文化に同化を求めるフランスも多文化を容認するイギリスどちらも上手く行っていない。
本書では冷戦後は多極的多文明の世界とされているが、近年は中国が非西欧の中核国となりつつあり、アメリカと中国による新しい冷戦に突入するのではないかとも思われる。どちらがより安定な平和な世界となるかは分からないが、筆者が唱える「文明の衝突は世界平和の最大の脅威であり、文明に依拠した国際秩序こそが世界戦争を防ぐ最も確実な安全装置である」ことが実ることを願って止まない。
Posted at 2024/07/25 04:32:35 | |
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