独ボン大学哲学科教授マルクス・ガブリエル著。史上最年少29歳の若さで教授に就任、新実在論を提唱し世界的に注目される。氏は無用の用を旨として社会からの乖離が進んだ哲学を現実に関与する学問として蘇らせた。以前紹介した「なぜ世界は存在しないのか」など著書多数。
 
先日行われた第1回京都会議「価値多層社会の実現に向けて」のために来日、基調講演をされたところだ。
 
近代の文明モデルは科学技術の進歩と経済的進歩を組み合わせれば、誰でもよりよい生活が送れると言う発想に基づいている。多くの人のための富の創造と自由民主主義社会を組み合わせると平和と幸福が訪れる、と。しかし、現状を見る限りこの約束は果たされていない。このモデルの巻き添えと被害と欠点は恩恵を上回る。この問題に対処するためには新たな社会契約が必要だ、、、との書き出しで始まる。
新自由主義の問題は、他者が存在しなければ実現しない自由であることを見落としている点にある。倫理と資本主義は融合できる。資本主義のインフラを使って道徳的に正しい行動から経済的利益を生み出し、社会を大きく改善することは可能だ。
ノーベル経済学賞を受賞したフリードマンの「企業の目的は利益追求である」との主張に背を向け、「企業の目的は善行である」とのスローガンを掲げる。企業にCPO最高哲学責任者が率いる倫理部門を設置するとの提案には全く持って同意できる。
道徳的進歩は往々にして子供の介入によっておこるとの事実から、子供への選挙権の付与も提案している。政治家には一笑に付されそうと思いきや、吉村大阪府知事も同意見を持っていると聞く。
現代の資本主義の問題点を指摘しているところは同じでも、資本主義から離れることを選択している「人新生の資本論」の斉藤幸平教授が監修している所も面白い。一見正反対の手法のよう見見えるが、どちらもどうバランスを取るかの差だろう。哲学本としては非常に明快で面白かった。
  Posted at 2025/10/16 04:49:33 |  | 
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