
東京大学大学院天文学専攻教授、戸谷友則著。生命の起源は、宇宙の誕生と共に個人的には2大興味の対象である。しかし、宇宙の誕生ほどには専門書は少ないように思われる。著者によれば、問題が物理系科学と生命系化学にまたがり、難解すぎて成果が期待できず、この研究で飯を食っていくことが難しいので、シニア研究者が趣味的に研究している程度になりがちのようだ。
生命はいつ、どこで、どのように生まれたか? 生命誕生の時期については、微生物の化石(34億年前)や生物活動の痕跡(37億年前)、推測される地球環境などから40億年ほど前(地球誕生から5~6億年)と見積もられている。生命誕生の場所については、初期生命誕生の条件:水と有機物が得られ易い ①暖かな小池、②海底の熱水噴出孔、そして③宇宙空間説が良く知られている。特に、はやぶさが小惑星イトカワから持ち帰った石から有機物が見つかった事は③説を後押ししている。
「どのように」が最も難しい課題である。有名なミラー・ユーリーの実験では、無機物から非生物的に有機物が作られることが示されたが、そこから人間のような複雑な生命体に繋がるような初期生命体が生まれるのは容易な事ではない。宇宙はとてつもなく大きいから、そのような条件が得られることは難しくないとの議論もあるが、筆者は試算した。
生命が持つ基本要素である自己複製が起こるにはRNAが40~100塩基と見積もり、ドレイクの式(銀河系に存在する地球外文明の数を計算する式)を引き合いに出し、生命が実際に発生する確率を試算したところ、RNA(右巻き)50塩基のケースでは確率10の30乗分の1を得た。ところが、宇宙に含まれる恒星の数は10の22乗分の1であり、ランダムで非生物的な化学反応では生命は誕生し得ないこととなる。
ところが、宇宙の大きさに落とし穴があった。現在よく用いられている宇宙の大きさ:半径138億光年(膨張分は無視)は宇宙年齢から来ているが、光が届く観測可能な宇宙の大きさであり、実際にはそれ以上にどれだけ宇宙が広がっているかは分かっていない。私は知らなかったのだが、実はインフレーションによる膨張率10の26乗は、この観測可能な宇宙の大きさから逆算したものであり、実際には26乗よりもっと大きな値を取り得ると言うことらしい。この値が大きければ宇宙の大きさも恒星の数も飛躍的に増大し、ランダムで非生物的な化学反応でも生命は誕生し得ると言うことになる。
勿論、これはひとつの試算であり、未知のプロセスが関わることによってこの確率がずっと小さくなり、多くの地球生命体が存在することも考えられる。私の時代では、地球外生命の発見は難しいかも知れないが、興味は尽きない。
Posted at 2025/09/10 06:04:38 | |
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