
愛車のホーミーコーチが、八幡平の山道を力強く登っていく。心臓部のZ20エンジンが刻むリズムは、まるで古い鉄道の貨物列車を思い起こさせるような、粘り強く心地よい鼓動だ。すでに40年選手だが、まだまだ走れる。
窓から見える景色は、かつて読んだ紀行文の通り、深い渓谷と緑が織りなす圧倒的な自然の懐である。「人里離れた山奥の湯治場」。観光地の温泉とは一味違った雰囲気を持つその場所へ、日常を積み降ろしたホーミーを走らせる。
玉川温泉に到着すると、変わらぬ強烈な硫黄の香りと、源泉から噴き出す熱気が迎えてくれた。あの「大噴」は、今も変わらず大地から猛烈なエネルギーを放っているのだ。
強酸性の湯に足を踏み入れる。皮膚を刺すような刺激のあとに訪れるのは、形容しがたい解放感だ。二十分の時が過ぎる頃には、「極楽、極楽」という言葉が、まるで自分の身体から自然とこぼれ落ちた。湯治場特有の静寂の中、湯に浸かりながらふと思う。先人たちも、こうして日常を離れ、旅先で自分自身を見つめ直したのだろうか。
帰路、ホーミーコーチのエンジンブレーキを効かせながら、私は確かな充足感とともに山を下った。途中のドライブ・インで郷土の絵はがきを買い求めた。夏の玉川の湯のことを手紙に書いてみよう。そう思いながら、愛車のハンドルを握りしめた。
Posted at 2026/07/31 07:57:07 | |
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