概要
ログの取り方に続いてログの読み方について主な項目についての自分の理解.
bootmod3 では色々なセンサ等の値がログとして記録されるのですが,特にエンジンの調子に関して注目される次の項目について紹介します.
- 点火タイミング
- Target/Actual (目標値/実測値) を持つもの
おことわり
筆者は OTS MAP を利用している程度で,大した知識はなく調べた内容をまとめているだけです.特に各種情報は bootmod3 特有の内容・B58 エンジン・BMW エンジン・ターボエンジン全般について,どこまで当てはまるのかは区別せずに書いています (理解が浅いためそこまで分けて書けない😂).情報の信頼性が怪しい点 (特に別のプラットフォームや別エンジン利用者) についてはご留意いただきつつ,誤った内容があればご指摘いただけると幸いです.
画面の開き方
ログを取る際はスマホ利用と書きましたが,ログを読むのは PC にてブラウザ利用一択です.ログビューワがスマホと相性が悪いためです.
ブラウザのメニューから Datalogs を選び,適当なログのダウンロードボタンのようなところから View Graph を押すとそのログが開きます.
ログを開くと全てのチャンネルの情報が表示されて見にくいので,左上の Deselect All を押していったん全て非表示にしてから下のメニューで必要な項目をポチポチ押して表示させていきます.
項目一覧
この記事では下記の数値について紹介していきます.2--5 は目標値/実測値の乖離をチェックする方々です.
1. 点火タイミング
2. 過給圧
3. 高圧燃料ポンプ
4. 空燃比
5. 負荷
1. 点火タイミング
燃料のオクタン価が MAP の要求を満たしているかを確認する項目です.大別して「実際の点火タイミング」と「タイミング訂正」の2種類があります.前者のチャンネル名は "Ignition Timing N",後者は "(RAM) Ignition Timing Corr. Cyl. N" (N はシリンダの番号) となっています.
点火タイミングは角度で表現されているのですが,自分の理解では「混合気が燃焼室に入っている状態でピストンが圧縮していっているとき,どれぐらい手前で点火するか」というものです.オクタン価 (燃料の燃えにくさ) が十分高いと手前で点火してもピストンが上がり切る余裕があるのですが,不十分の場合は圧縮途中で燃焼するデトネーション・ノックに陥るようです.で,この角度が大きい (進角/Advanced) と良い感じのトルクが生じ,小さい (遅角/Retarded) とその逆のようです.燃料が燃えやすい状況だとタイミング訂正が生じて遅角するログが得られます.
以下で4枚の画像を紹介し,点火タイミングの良い例・悪い例について点火タイミングと訂正の様子を2x2通り示します.
良い例です.エンジンの回転数があがるにつれて点火タイミングの数値が上がっていきます.ポイントは全てのシリンダのグラフが揃っている点です.点火タイミングの絶対的な値は状況によって変わる (気温,ブースト圧,燃料品質,使用MAPなどに依存) するので,「13まで行ってないからダメ」という訳ではないです.(状況に応じた制御によって点火タイミングが選ばれているとはいえ,進角してくれる方がクルマは速く走るのですが...) 2枚目がタイミング訂正の様子ですが,0 に張りついており良い感じです.
イマイチな例です.1,2枚目とは対照的に,タイミングはばらつき,訂正も非零の数値が時折でています.訂正も -3° 以内のシリンダが1,2本程度であれば許容範囲とされるようですが,このログは結構ばらついています.
何度かログをとっても毎回このような結果になる場合は
- 要求オクタン価の小さな MAP を使う (93 AKI > 91 AKI > 91 ACN)
- スパークプラグが新しいか確認する (交換から 30,000km ほど経過したら換えると良いようです)
- 燃料のオクタン価を上げる (試したことないですが
エタノール添加など)
利用するガソリンスタンドを変えるというのも手軽ですが,自分の経験上はそんなに差が出るか分からないなという印象です.
なお,アクセルを離したり普段の運転状況などフル加速状態ではない場合の点火タイミングは割とマチマチです.この辺はチューニングというよりは純正の制御に近いようで,燃費もろもろを考慮した挙動のようです.したがって点火タイミングの数値が揃っていなくてもさほど気にしなくて良いようです.
過給圧
ターボの働きをみる項目です.目標値 "Boost Pressure (Target)" に対して実際の圧 "Boost (Pre-Throttle)" が合っているかを確認します.また,両者の誤差として "Boost Pressure (Deviation)" というチャンネルもあります.Pre-Throttle の実測値とほぼ同内容のチャンネルとして "MAP" というものもあります.manifold air pressure みたいな量かなと推察しますが,Boost Pre-Throttle との違いについてはよく分かっていません.
数値が大きいほど多くの空気を取り込んでいるという解釈で良いと思います.自分は hPa を使っていますが,北米勢は psi (ポンド重毎平方インチ; 1psi≒68.9hPa) とかいう単位も使っています.kPa や Bar の方がなじみがある方もいるかもしれませんが,bootmod3 だと hPa/psi の2択のような気がするので,hPa で記録して適当に小数点を動かして読むのが良さそうです.
過給圧関連の典型的なログはこんな感じです.注目ポイントは Deviation が一瞬大きくなるものの,すぐに過給が追いついて相対誤差が小さくなるという挙動です.これが0付近に落ちない (Pre-Throttle が Target に達しない) といった場合はチャージパイプ等の漏れなどを疑われます.
Stage1 の MAP だと 1,200 hPa 弱です.純正ターボだと 1,400 hPa 程度まで上げられるようです.Stage2 だともう少し加圧されるのかなと思います.純正ダウンパイプに Stage2 を利用したりすると Deviation が落ちるのが遅かったり,Target まで加圧しきれないといった挙動があるのかもしれません.
高圧燃料ポンプ
Stage2+ で交換が必要な高圧燃料ポンプ (high-pressure fuel pump; HPFP) に関する項目です."HPFP (Target)" に "HPFP Act." が追いついて合っているかを確認.
センサの解像度の関係で 1 ずれることがありますが,大体こんな感じです.
HPFP 交換が必要になる場面は「過給の結果より多くの燃料が必要」「エタノール添加でオクタン価を上げた (点火タイミングを進められる) ものの,エタノールは重量あたりに取り出せる熱量がガソリンより少ないためより多くの燃料が必要」といった感じのようです.
空燃比
燃料と空気の重量比に関する項目です."Lambda" と "Lambda Act." が合っているかを確認します.自分の設定では 1 ぐらいから徐々に小さくなっていく値が表示されますが,設定によっては理想空燃比の 14.7 から徐々に小さくなるような数値を示すこともあるようです.また,チャンネル名も "AFR (Air-to-Fuel Ratio)" の場合もあります.
数値が小さいと燃料を多く混ぜている (rich burn; 逆は lean burn) ことを示しているようです.
目標/実測でずれることは稀なようですが,もし逸脱している場合は高圧燃料ポンプ不調やインジェクタの不調などが考えられるようです.
負荷
Load というチャンネル名なのでここでは負荷と呼んでいますが,何を表しているのかいまいち分かっておりません.要求トルクと解釈すると「負荷」っぽいなと思うんですが,「取り込んだ空気の量」みたいな説明をどこかで見たことがあります.また,下図のように % で表示されているというのも混乱に拍車をかけています.
bootmod3 は過給圧ベース (boost-based) なチューニングである一方,純正 B58 や MHD は負荷ベース (load-based) な設計のようです.後者はアクセルの踏み具合などから要求トルクが決まり,それを達成できる過給圧や点火タイミングなどが決まっていくという仕組みのようです.一方,過給圧ベースではまずブースト圧を決めて,それに合わせた燃料調整や点火タイミングなどで最終的なトルク出力が決まる,といった感じでしょうか.
で,過給圧ベースのログを確認するときは負荷の目標/実測が合っているかは重要な確認項目ではないようです.
ログの見た目はこんな感じです."Load target" と "Load Act." の間にはだいぶ乖離があります."(RAM) Load (Target)" と "(RAM) Load (Actual)" は大体合っています."Load Act." は "(RAM) Load (Actual)" の "(RAM) Load (Target)" に対する割合なのかなという気もしますが,詳細は不明です.
まとめ
ログで取れる色々な情報のうち,点火タイミングと目標/実測にまつわる主だった内容を紹介しました.