今更ですが6ケ月点検のついでに待ち時間でロードスターRFの試乗をしました。
自分のNDはもうホイール含め19kgの軽量化もし、サスはバネレートを上げ、ナックルサポートやタワーバーで補強もし、マフラー交換もROMチューンもしているので、かなり別物になっていますが、比較すると・・・
んー、まずクローズドで乗ってみると、当然ながら遮音性が高いですね。
コンパクトな2シーターだし、すごく静かとはもちろん言えないんだけど、それでも幌NDに比べたらだいぶ快適で平和。
自分の幌RSにもついてるBOSEサウンド・システムはガサガサしたちょっと安っぽい音質だけど、でもどうせ幌だしうるさいしって感じなんですが、RFなら「アンプは悪くなさそうだからスピーカー換えてみようか」なんて気になるかも。
駐車の時なども金属ルーフはやっぱり安心感があるし、しかもそれがこの美しいファストバック・スタイルなら、積極的にこっちを選ぶのもよくわかります。
リアクォーターからの眺めなんか、コンパクトなのにグラマラスでとてもグッとくるスタイリングですよね。
カタマリ感や一体感があってシンプルで美しくて、その上ギュッとちっちゃくてキュートなところが素晴らしい。
ルーフを開けると前を見ていれば幌と同じですが、それでもなんとなくCピラーの存在は感じますし、さらけ出され度が幌より低いのも良いかも。
ハンドリングは穏やかで幌NDに比べると若干ながら重さも感じるけれど、それがしっとり感とか大人っぽさに感じられてぜんぜん悪くないです。
レザーパッケージのシートはちょっと違和感。
RSのレカロに慣れてるせいかな?
踏み込むとなるほど2リッターのトルクで楽に進みます。
それでも自分のROMチューン1.5Lと比べて「速い」って感じではありません。
自分の1.5Lとはトルクでまだ4kg近い差はあるし、出力でも20ps近い差があるんですが、でもなんだろう、「速いな」とはあまり感じないんですね。
それはたぶん音とレスポンスの問題かな、と思いました。
フラッシュ・エディターのJOY SPLデータで自分のはレスポンスも回転上がりのキレもよくなっているし、HKSのマフラーも踏めば乾いた音を高らかに鳴らすようになっているので、そういう感覚的なものが大きいのかもしれません。
そのエンジン自体は、ぼくはやっぱり1.5リッターの方が好きですね。
レブリミットでも最大出力発生でもまるまるプラス1000回転、高回転型なのももちろんあるけど、回転フィールが1.5Lの方が繊細で滑らかで軽やかで美味しいと感じます。
やっぱりフルカウンター鍛造クランクや軽量フライホイールの恩恵は、はっきりフィーリングの差になってます。
なんでこれ雑誌とかでは誰も言わないのか、ちょっとわからないですけど。
まあ、そんな微妙なフィールより絶対的なパワーとトルク、ってことですかね。
2Lのフィールが悪いってわけじゃないですし。
全体的にRFは幌のND5に比べると少し穏やかで上品なスポーツカー、という印象です。
もちろん基本はそう変わらないのでちゃんと軽快感もあるし、トルクが全然太いので速さもあるんですが、クルマの動きも含め少々しっとりとした性格に感じられます。
それこそ「ミジェットではなくMGB」的な感じ。
MGBというのはイギリスのライトウェイト・スポーツカーで、長くベストセラーだったクルマ。
エンジンは1800ccで95馬力、全長3890mm、車重は920kg。
このBの下に位置していたのがぼくも所有しているミジェットで、最もパワフルな1275ccでも65馬力、全長3500mm、車重は686kgです。
MGBの方がパワーで上、パワーウェイト・レシオでも上、つまり加速も最高速も速いです。
ミジェットはパワー的にもギア比的にも高速道路なんか大の苦手だし、筑波サーキットあたり持って行ったってもちろんBの方が速いです。
でもこれが不思議、ブリティッシュ・ライトウェイト・スポーツ乗り、特にMGやオースチン・ヒーレー乗りなんかの間では「軽くて俊敏でスポーティなミジェット、少々大きくてGTライクなMGB」という認識なんですね。
もちろんそれは用途とのバランスや好みの問題なんですが、言ってしまえばつまり、ミジェットの方がスポーツカーとしての純度ではやや上だ、という一般的な常識とは逆の認識。
それで思い出しましたが、ND開発陣の操安性能開発部の梅津大輔氏のインタヴュー。
NDロードスター開発初期に歴代のロードスターやいろいろなスポーツカーなどを集めて試乗会をし、NDの方向性を探ろうとした時のこと。
「試乗会には初代NAのダイナミクス担当エンジンニアだった大先輩にも参加してもらったんですが、『NCはMGBに似たフィーリング』と言われて軽く衝撃を受けました」
だそうで、この意味がわかるかわからないかでNDの評価が分かれるのだとぼくは思います。
MGBだと言われて衝撃を受けたっていうのはつまり、NC(3代目ロードスター)はGTライクだと言われてショックだった、ってこと。
つまりロードスター開発陣っていう人たちはこのブリティッシュ・ライトウェイト乗りの認識を共有している人たちだってことにちょっと驚きました。
それはでも、やっぱり一般的には理解され難いことだとぼくは思います。
世間一般では、どう考えたって「速い」方がスポーツカーとして格上で、よりスポーティで、良いスポーツカーです。
でも、ブリティッシュ・ライトウェイト乗りという人種は、ライトウェイト・スポーツの愛好家は、そうは考えない。
いかに低慣性モーメントであるか、いかに軽快であるか、俊敏であるか。
だからライトウェイトを長年造り続けた専門家であり愛好家でもある彼らは、NDロードスターを1500ccで出し「パワー足りない、2リッター出せ」と言われたって「やだ」と言うのです。
だってそんなの「ピュアじゃない」から。
彼らにとっては2リッターのNDはいくら速くても1.5リッターのNDよりもライトウェイトのスポーツカーとしてのピュアネスで劣る。
だから国内でも2リッターで出すRFはMGBよろしく「ちょっと大人なGT」に仕立てる。
電動ルーフで重量増するのは確かなんだから、だったら価値を変えた方が純粋で正しい。
それなら2.0Lの余裕でちょっと大人なGTの走りを目指す方が正しい。
すべてがピタリと原理主義的な純粋性で構築されてます。
だからRFに乗ると「これはこれで気持ち良いな」と思う。
こんなライトウェイト・マニアな価値観は世間のスポーツカー好きには理解され難い。
スポーツカーのみを少量生産するバックヤード・ビルダーならともかく、軽自動車からSUVまでラインナップする量産メーカーの開発者が持つべき価値観とは到底思えませんが、本当に素敵だと思います。