
二日前、仕事帰りにディーラーに寄りそのまま愛車を預けて来た。
そして今日の午後、ディーラー担当者さんから電話が掛かって来た。診断結果が出たのである。
挨拶もそこそこに私は早速本題に入った。
「ええと、診断結果出ましたか?」
「はい、診断結果出ました。」
「どういった不具合だったのでしょうか…?」
「はい。今回はですね、非常にレアケースと言いますか…」
この時点でほぼ全てを察した。
大抵の場合、結果を告げるにあたりこういった枕詞が付く時はその内容はネガティブなものになる。
専門的なワードは記憶出来なかったが、告げられた結果を要約すると、
まず、ハイブリッドバッテリーの不具合は確定であるということ。
今現在判明しているところだとそこを対処すれば改善されるはずではあるが、バッテリーを交換したのちに再度診断・テストを行った際に別の部品のエラーが検知される可能性もゼロではないこと。
具体的にはECU、つまりコンピュータの部分なども不具合を起こしている可能性は現時点では否定出来ないということ。
深刻な病気であることを医師から告げられる時はこういう気持ちになるのかも知れない。
予期していなかったわけではないが、想定していた最悪のパターンが現実のものとなるとやはり一旦頭の中は真っ白になるものだ。
とはいえ打ちのめされていても仕方ないので会話を進めることにした。
「なるほど…そうですか。それでこのまま修理を進めるとなるとざっくりと費用はどのくらいを覚悟しておけば良いのでしょうか?ええと、正式な見積もりではなくざっくりとした額で大丈夫です。」
「ちょっと申し上げにくいのですが、まずハイブリッドバッテリーの交換とその工賃。ここだけで約39万円は越えて来ます。」
「…はい。」
知っていた。
私のCR-ZはZF2中期型であり、搭載されているハイブリッドバッテリーにはリチウムイオンが使われている。
ZF1前期型であればハイブリッドバッテリーはニッケル水素が使用されており、これはCR-Zに於けるZF1とZF2の大きな違いの一つである。
そして、(他車種に於いてはどうかわからないが)このリチウムイオンバッテリーの交換費用はすこぶる高額である。
いや、ニッケル水素の方も十分高額なのだが費用の差はおよそ倍ほどにもなる。
これらの情報はネットでかき集めたものであり、その鮮度や精度がどれほどのものか不明であったために一応聞いてみたが…まぁ、いくつも読み漁った記事が同じことを言っていたのだから大きく外れているわけはなかった。
ディーラー担当者さんは説明を続ける。
「それでですね、バッテリーを交換したあとに再度診断やテスト走行を行ってそこでもまた警告灯が点いてしまうとなると他のところも異常を来していると。それがもしコンピュータであると最悪の場合、費用はさらに十数万円掛かる可能性はあります。もちろん内容によるのであくまでも費用が高額になるケースを想定したら、という話ですがその可能性も無いとは言い切れないという感じです。」
「なぁーーーー……るほどお…」
「正直、ハイブリッドバッテリーがダメになるという事例は本当に稀で私自身ほとんど遭遇したことはないのですが、それでも無いわけではないという意味で非常にレアなケースに今回該当してしまったということになりますね…」
会話をしつつ、脳内では既に別のことを思案していた。
「えっと、すみません。車を預かって貰って診断までしてもらっておいて言いにくいのですが、修理に関しては白紙に戻してもらうことは出来ますか?もちろん今回診てもらったことに関しての作業代金はお支払い致します。」
実は、担当者さんにも車両購入時に保証が付いてきており、万が一ハイブリッドバッテリーそのものが故障している場合にはおそらく保証の対象になるがもろもろの手続きで日数がかなりかかりそうだということと当初はバッテリーではなく別の機器の故障の可能性の方が高いだろうという前提のもと今回は保証会社を通さずに自費で修理に出そうと思うという旨の話をしていた。(逆に周辺機器が原因の場合は保証の対象とならないということも自費修理を選択した理由の一端ではある。)
「そうですよね、保証が効くのであればそうした方が良いと私も思います。流石に費用が高くつきすぎますから。。」
こちらの都合で二転三転してしまうことに関しては非常に申し訳ないが、保証が効くかもしれない可能性があるのにその線を捨てて自腹を割くにはあまりにも高額過ぎた。
担当者さんには「数日以内に車を引き取りに伺うのでその際に今回の作業代金をお支払い致します」と伝え電話を切った。
そしてすぐさま保証会社に電話を掛ける。
警告灯が点いた当日、保証会社にも電話をしておりその際に手続きに日数を要する旨を聞き申込みを辞退したという経緯があるのでこちらにも事の顛末を説明した。
「左様でございますか。ハイブリッドバッテリーが原因であれば保証の対象にはなるかと思います。見積もりが出てから当社での審査の上、決定させて頂きます。」
自分を安心させたい一心で保証内容に関しての質問をいくつかしてしまったが、当然のことながら先方は断定的なことは言うわけがない。
それでも念を押すように、「原因箇所が複数あった場合は保証対象に含まれない箇所のみ自費負担をすればよいという認識で合っていますか?」と質問したら「左様でございます。」との返答があった。
「最後に注意点をお伝えします。まず、交換部品に関しましてはリサイクル品、リユース品、社外品、純正品の優先順で部品の手配を行わせて頂きます。」
「それともう一点、見積もりが出たあとは当社からの審査認定が出るまでは着工しないようにご注意下さい。」
こちらは両方ともホームページにも明記されており既に知っている内容だった。
とりあえずは修理の申し込みは出来た。
保証会社が提携している私の自宅近辺の修理工場を手配してくれるらしい。
手配が出来たら私が修理工場に連絡をし、入庫日程の調整をする。
そして修理工場が不良箇所の調査をし見積もりを出す。
その見積もりを保証会社が認定して晴れて着工。
という流れらしい。
時間は掛かるだろう。
もはやそんなことは大した問題ではない。
想定していた最悪の事態を迎えた今、使える(かも知れない)手札があるのなら遠慮無く使わせてもらおう。
もしも保証認定が降りなかったら?
その時は自費でバッテリー交換をすればよい。
こういう時のために日々死に損ないながら働いている…のかも知れないのだから。
まぁ、憧れのカスタムが半年から一年先送りになるだけである。
と自己暗示をかけつつ、内心ではどうにかなってくれと祈りを捧げる週末であった。