
カローラⅡのフロントには、
冬の入り口を知らせるように PIAA のフォグランプが二つ、
静かに、しかし確かな存在感で光っていた。
その白い円は、80年代の空気そのものを丸く切り取っているようだった。
カーステにカセットを差し込むと、
少し擦れた磁気の匂いと一緒に、
松任谷由実の 「サーフ天国、スキー天国」 が流れ始める。
テープの回転する軽やかな音が、
どうしようもなく若い時間を思い出させる。
関越道は午後の光を低く受けながら、
まるで長い呼吸をするようにゆっくりと続いていた。
その流れの中を、ひと台の スキーバス が追い抜いていく。
白い車体は、少し先の未来を急ぐみたいに
僕の視界をかすめてゆく。
そのバスの窓際に座る女性に、
なぜか目が止まった。
名前も、声も、何も知らない。
ただ、その横顔の淡い光だけが
冬の午後に静かに沈んでいくように見えた。
池上優(原田知世)。
もちろん、この時点でそんな名前は知らない。
けれど、何かがここから始まるとしたら、
きっとこういうささやかな瞬間なのだろうと思った。
冬が始まる音を聞いたのは、
たぶん、そのときだ。
Posted at 2025/12/06 08:08:16 | |
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