
オランダと日本が、2対2で引き分けた。
そのスコアを見たとき、僕はしばらく黙っていた。
驚いた、というのとは少し違う。
でも、何かが静かに変わったことだけはわかった。
僕はどうしても、マイケル・オーウェンの時代からのイングランドファンである。
あの鋭い抜け出し。
若さのまま、世界の裏側まで走っていってしまうようなスピード。
そして、クラブでいえばチェルシーファンでもある。
スタンフォード・ブリッジの青。
チェルシーのホームカラーである青。
それは偶然にも、日本代表の青と同じ色である。
もちろん、色が同じだからといって、何かがすぐにつながるわけではない。
でも、長くサッカー(
英国では呼称は絶対フットボール)を見ていると、そういう小さな偶然に、妙な親しみを感じることがある。
イングランド、オランダ、スペイン、ドイツ。
その頃の僕にとって、欧州サッカーは遠い場所にあった。
ただ強いだけではなく、サッカーそのものの言葉を持っている国々だった。
オランダもそうだ。
アヤックス、PSV、フェイエノールト。
クライフの影。
トータルフットボールの記憶。
人口は少なくても、サッカーに関しては、国全体がひとつの巨大な育成アカデミーのように機能している。
そのオランダを相手に、日本は二度リードされ、二度追いついた。
これは、地味にすごい。
勝ったわけではない。
でも、負けなかった。
その差は小さいようで、たぶんとても大きい。
昔の日本なら、強豪相手に一度試合が傾くと、そのまま遠いところへ持っていかれることがあった。
追いかけているつもりなのに、気がつくと相手の背中だけが見えている。
そんな試合が、何度もあった。
でも今は違う。
相手がオランダでも、慌てない。
崩れない。
自分たちの時間を待つ。
そして、必要な場所で、きちんと爪を立てる。
ドイツに勝ち、スペインに勝ち、そしてオランダと引き分ける。
もう日本は「よく頑張った国」ではない。
相手から見れば、普通に面倒くさい国になった。
それでも、僕の心のどこかには、今もイングランドの白いユニフォームがある。
オーウェンが走っていた頃の、あの少し眩しい記憶が残っている。
そして同時に、チェルシーの青もある。
その青は、いつのまにか日本代表の青と重なって見えるようになった。
欧州の強豪に憧れていた日本が、今はその強豪たちと同じピッチで、当たり前のように勝ち点を取りに行っている。
サッカーの世界地図の中で、日本の位置が少しずつ変わっている。
そのことを、派手な勝利ではなく、2対2という静かな数字が教えてくれた。
そして、ふと思う。
サッカーだけではなく、日本の企業文化も、同じように追いついてほしい。
世界に憧れる側ではなく、世界と同じテーブルで、普通に議論し、普通に競い、普通に選ばれる側へ。
そのために必要なのは、気合いや根性だけではない。
偶然の成功でもない。
やはり、研究なのだと思う。
なぜ強いのか。
なぜ育つのか。
なぜ組織は変われるのか。
それを感覚ではなく、言葉にし、構造にし、次の世代へ渡していくこと。
オランダがサッカーを文化として育ててきたように、
日本もまた、企業や教育や研究の現場で、静かに育て直さなければならないものがある。
奇跡ではない。
でも、簡単なことでもない。
日本サッカーは、また少しだけ遠くまで来た。
そして青いユニフォームの向こう側に、まだ見たことのない景色が少しだけ見えた気がした。
Posted at 2026/06/16 08:46:43 | |
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