クルマの20kgという数字は、たぶんそれほど大きなものではない。
助手席に少し重い荷物を置けば、それくらいにはなる。
ガソリンを満タンにするかどうかでも、似たような数字は動く。
だから最初、新しいAQUA GR SPORTのフロントが、今のZより約20kg軽いと知ったときも、
「まあ、20kgだからな」
と思っていた。
けれど、今回の水野和敏さんがLEXUS IS300hとBMW 320iを乗り比べている動画を見ていて、少し考えが変わった。
大切なのは、
「20kg軽くなったことではなく、その20kgがどこから消えたのか」。
ということなのかもしれない。
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以前、ISに試乗したことがある。
評判のいいクルマだったし、実際、悪いところはほとんど見つからなかった。
ステアリングは正確だった。
ボディもしっかりしていた。
乗り心地も悪くない。
レクサスらしく、きちんと作られていた。
それなのに、試乗を終えてクルマを降りたとき、
なぜか感動が残らなかった。
「いいクルマですね」
とは思った。
でも、
「もう一度乗りたい」
とは、あまり思わなかった。
その理由を当時の僕はうまく説明できなかった。
性能が不足しているわけではない。
速くないわけでもない。
何かが悪いのではなく、
「何かが少しだけ、こちらに届いてこなかった」。
そんな感じだった。
今回、水野さんの話を聞いていて、そのときの感覚を少し思い出した。
彼はISと320iを比較しながら、興味深い話をしている。
静止状態で見れば、どちらも前後重量配分はおおむね50:50。
数字だけなら、大きな違いはない。
ところがBMWは、エンジンという重いものをできるだけ車体中央へ寄せている。
だからステアリングを切ると、
すっ、と向きが変わる。
そして一つの動きが終わる前に、もう次の動きへ移っていける。
水野さんはそれを「切れ味」と表現していた。
一方のISには、フロント側の重量がステアリングを切ったあとにも少し残るという。
水野さんは、自転車の前カゴに荷物を載せたときの感覚にたとえていた。
なるほど、と思った。
もしかすると僕が以前ISで感じた、
あの「悪くない。でも何かが残らない」という感覚の一部は、
そこにあったのかもしれない。
もちろん、後から理屈を貼り付けているだけかもしれない。
クルマの印象なんて、天気や道や、その日の気分でも変わる。
でも説明を聞いたあとで、
昔感じた小さな違和感に名前がつくことがある。
それは少し面白い。
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重さそのものではない。
重いものが、「どこに置かれているか」。
物理の言葉を使えば、ヨー慣性モーメントということになる。
フィギュアスケーターが腕を広げると回転が遅くなり、身体に寄せれば速く回る。
クルマにも似たところがある。
中心から遠い場所に重いものがあれば、向きを変えようとしたとき、その重さはほんの少しだけ過去に残ろうとする。
こちらはもう次へ行こうとしているのに、
「まだここにいますよ」
と、後ろから声をかけてくる。
水野さんがBMWについて言った、
「次の行動にすっと入れる」
という言葉は、たぶんその反対側にある感覚なのだと思う。
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もちろん、AQUA ZとGR SPORTの違いを、BMWとISの話にそのまま重ねることはできない。
駆動方式も違う。
サスペンションも違う。
ボディ剛性も、タイヤも、ステアリング制御も違う。
GR SPORTの動きは、それら全部の総和として作られている。
だから9月2日に乗り換えて、
「あ、鼻先が軽い」
と感じたとしても、それを20kgだけの功績にすることはできない。
たぶんクルマというものは、そんなに単純ではない。
そして単純ではないから、面白い。
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それでも僕は、その20kgが少し気になっている。
20kgという数字ではなく、
「前から20kgが消えた」
ということが。
以前ISに乗ったとき、僕には感動が残らなかった。
でも水野さんの説明を聞いて、何年か経ってから、その理由の一部を教えてもらったような気がした。
クルマを降りたあとに残るものは、馬力や重量配分の数字だけではない。
ステアリングを切ったあと、
クルマがどれくらい早くこちらの意思を理解してくれるのか。
あるいは、ほんの一瞬だけ遅れてついてくるのか。
そういうものなのかもしれない。
今のAQUA Zで最後に恵那山を越え、
そして数日後にはGR SPORTのステアリングを握る。
同じAQUAだ。
見慣れた景色も、たぶんそれほど変わらない。
でも最初の交差点を曲がったとき。
あるいは少し速めに右から左へ切り返したとき。
ステアリングの向こう側で、
何かがほんの少し早く、次の動きへ移るかもしれない。
そのとき僕はきっと思い出す。
20kgが軽くなったのではない。
20kgが、そこからいなくなったのだ。
Posted at 2026/08/27 07:00:04 | |
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