
クルマを運転していると、遠くの目的地だけでなく、目の前の信号やメーターにも注意を払わなければならない。
政治も、おそらく同じなのだと思う。
国会の会期末には、国旗の損壊を処罰する法案や皇室典範改正案など、国家の根幹に関わる議論が注目を集めた。
もちろん、それらも政治が向き合うべき大切な課題なのだろう。
ただ、その少し傍らで、別の警告灯が静かに点灯していた。
厚生労働省が公表した2025年の国民生活基礎調査によると、現在の暮らしを「苦しい」と感じている世帯は55.4%。
母子世帯では82.1%、児童のいる世帯では61.5%、高齢者世帯でも52.1%だった。
つまり、子育て中の家庭だけでなく、高齢者を含めた幅広い世帯が、生活の重さを感じている。
貧困率についても、2024年の所得を基にした相対的貧困率は15.0%。子どもの貧困率は11.0%だった。
さらに正確にいえば、「子どものいる現役世帯のうち、大人が一人の世帯」に属する人の貧困率は44.7%に達する。
相対的貧困率と子どもの貧困率は、前回調査よりわずかに改善している。しかし、ひとり親家庭を取り巻く状況は、改善したと呼べる段階からはまだ遠い。
物価高も家計を押している。
2025年、二人以上の世帯のエンゲル係数は28.6%。1981年以来、44年ぶりの高水準になった。
食料への支出額は名目で5.5%増えた一方、購入量などを反映する実質では1.2%減っている。
高くなったから、たくさん買ったわけではない。
むしろ、値段が上がったので、同じようには買えなくなったということだ。
光熱・水道への支出も名目で6.2%増えた。賃金そのものは2.3%上昇したが、物価を考慮した実質賃金は1.3%減っている。
アクセルを踏んでいるのに、向かい風の方が強い。
そんな状態が続いている。
一方、教育や教養娯楽への支出は、二人以上の世帯全体では実質増加している。だから、すべての家庭が一様に困窮しているとまでは言えない。
けれども、「生活が苦しい」と感じる世帯が過半数を占める事実は、単なる気分として片づけるには重すぎる。
政治には、安全保障や皇室制度といった、遠くにある大きな目的地を考える責任がある。
しかし同時に、食費や電気代を気にしながら、一日一日を走っている人たちのメーターを見る責任もある。
法案が何本成立したかではなく、人々の暮らしが実際にどれだけ良くなったか。
政治の性能は、本来そこで測られるべきなのだと思う。
国会で見えている景色と、生活者が運転席から見ている景色。
その二つは、果たして同じ方向を向いているのだろうか。
ハンドルを握りながら、ふとそんなことを考えた。
※数値出典:厚生労働省「2025年国民生活基礎調査」、総務省「2025年家計調査」、厚生労働省「2025年毎月勤労統計調査」
Posted at 2026/07/30 08:14:40 | |
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