
スキーバスの尾灯が、
夕暮れの境界線に小さく吸い込まれていく。
僕のカローラⅡはその背中を追いかけるでもなく、
ただ一定のリズムで冬の道を進んでいた。
ユーミンの声は相変わらず軽やかで、
その旋律の裏側に、
“どこかへ行ける気がする” という根拠のない確信めいたものがあった。
若さというのは、たぶんそういう錯覚を
なんの疑いもなく信じられる力のことだ。
ハンドルの向こうに広がる雪雲は、
まだ遠いようで、でも確実に近づいている。
天気図の上では点と線にすぎない冷たい前線が、
実際の道ではこんなふうに
じわりと、体温を奪ってくるのだ。
ふいに、
さっきのバスの窓に映った彼女の横顔が頭をよぎった。
もしかしたら、
あの視線の切れ端はただの偶然だったかもしれない。
彼女は外の景色を眺めていただけで、
僕の存在など認知すらしていなかったかもしれない。
でも、人が出会うというのは、
たいていそんな曖昧なずれの中から始まる。
関越道の温度は下がり、
フロントガラスの端が少し曇った。
ワイパーを一度動かすと、
透明な帯だけが奇妙に現実的な音を残した。
その瞬間、
僕はふと思った。
もし彼女と話す機会がどこかで訪れるのだとしたら、
そのきっかけは案外、
スキー場の駐車場の斜め向かいに車を停める、
そんな取るに足らない偶然かもしれない。
人は、そういう小さな出来事の重なりで
冬の物語に巻き込まれていく。
カセットのA面が終わりに近づき、
テープが少しだけ速度を落とした。
道路標識には「苗場まで 62km」とある。
冬は、もうすぐそこまで来ていた。
Posted at 2025/12/07 10:59:11 | |
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