THUNDER Racingのブログ一覧

夏が来ると思い出す。



ガソリンスタンドでバイトしていた時のこと。



「いらっしゃい～♪」
（入ってるクルマに聞こえなくても大きな声で言うのだ）

で、窓越しにもう一度。
「いらっしゃい～♪」
元気なかけ声と共に、運転席のドアを開けるのがS.S.マンとしての努めだった。

ウィンドーを下げるお客様は少なく、コレが基本サービスだった。


そしてドアノブに手をかける。

「レギュラー、満タンですか？」

ちょっとばかし開いたドアの隙間から、
お客様の声を待つ。

「そうだな、満タンで。」

「はい、ありがとうございます。レギュラー、満タンで！」
（ほとんど現金払いか掛け売りだったな）

そうして、鍵をもらう場合もあるし、レバーを引いて給油口を開けてもらい、給油のズルを刺す。
給油中に、窓の清掃や灰皿やゴミの有無を聞く。
さりげなくタイヤのチェックをし、エアーが少な目に感じたら、
「タイヤのエアーを確認しますね」
とか、
長距離を走る雰囲気のクルマなら、
「オイル他、確認しときましょうか？」
と声をかける。

ガソリンスタンドで、高い買い物を買わされると思っている人や時間のない人もいるので、あまり押しつけがましく言ってはいけない。

ささいなことだが、タイヤローテーションをする人はあまりいない。
だから、FF車などではフロントがずいぶん減っている場合もある。

そういう場合は、
「お急ぎだと思いますが、時間の余裕があればタイヤローテーションもお考え下さいね。」
と、さらっと声をかける。

要するに、売りつけよう、ではなく、あなたのお車の状態を気にしていますよ、ということである。



さてさて、また新たに１台お客様が入場だ。

「いらっしゃい～♪」

で、窓越しにもう一度。
「いらっしゃい～♪」
元気なかけ声と共に、運転席のドアを開けるのがS.S.マンとしての努めだった。

ウィンドーを下げるお客様は少なく、コレが基本サービスだった。


そしてドアノブに手をかける。


バキッ










ウィンドーが小刻みに震えながら、下がる。
お客様が、手で回しているのだ。
（ほんとの手パワーウィンドーだった）


「何か音しなかったか？」


「あ、あの、これ、取れました！」

右手にはメッキのドアノブが・・・・・。


中からお客様が出てきて、ドアを閉め、
「オイ、壊しちゃったのかよ？」


「いやぁ～、軽く引いたんですけどね～」

「あちゃ～折れてるやん。」

「申し訳ありません。とりあえず修理させていただきますので、部品取りますから、お車の車検証をお借りできますか？」

「しゃぁ～ないなぁ。ほれ、車検証。」

「２，３日で部品来ますので、着きましたらご連絡させていただきます。」

「おう、頼むわな。」

常連のお客様だったので、そうややこしいことにもならず、ガソリン代もきちんとお支払いいただいた。

お客様は、お釣りを財布にしまいながら、運転席のドアを開こうとして・・・・


「オイ、コレどうやって乗るんだ？」

「助手席からお乗りになるのが一番かと・・・・。」

「おい、これ大変だぞぉ～」

「おい、これ・・・・」

なかなか苦労して、センターコンソールをまたいでおられました。


簡単にもげたドアノブを右手に握りしめたまま立ちつくす同僚の後ろで、一部始終を見ていた俺は大笑いしていた。


２，３日して部品が届き、
来られたお客様が車を降りて開口一番、

「乗り方、結構うまくなったぞ！」（こういうお客様って、いいよね～）





夏が来ると思い出す。

３０年も前の、あの夏のことを。