2011年02月04日
お客がいなくなると、女の人はもう一度箱を開けて、白とブルーとピンクのアイスキャンデーを一つずつ取り出します。三つのアイスキャンデーを、きちんと並べて地面に置き、隣にしゃがみ込んで、しばらくじっとしていたあとで、女の人は立ち去りました。
「どうしてあんなところに、アイスキャンデーを置いておくのかしら。アリのえさになってとけてしまうだけなのに・・・・・・。」
アイスキャンデー売りのふしぎな動作に気づいたのはわたしだけではありません。友達はみんな、毎日必ず地面に置かれる三つのアイスキャンデーのことを知っていました。
売れ残りを捨てているのだとか、あれこれ言い合っていた子どもたちに、しんそうを話してくれたのは近所のおばあさんでした。アイスキャンデー売りは空襲で、三人の子どもをなくしたのです。焼け死んだ小さい人たちがいた場所に、毎日キャンデーを供えているのでした。
「ここに幽霊がでるぞ。子どもの幽霊が三人でてきて、アイスキャンデーを食べるんだ。」
小学生たちは言って、幽霊ごっこが始まりました。幽霊がでる、幽霊がでるとくり返しながら、木の周りを回るのです。単純すぎて、遊びとも呼べないようなものでしたが、幽霊のまねをしてぐるぐる回りながら、思いつくかぎりの怖い顔をして見せるのがおもしろく、しばらくの間、みんなが熱中しました。
ある日、幽霊ごっこの最中に、アイスキャンデー売りがやってきました。
「アイスキャンデーのおばさんの、子どもの幽霊・・・・・・アイスキャンデーを食べるぞ。」
三人の子どもの幽霊のふりをしていた小学生たちは、自転車が止まると立ちすくみました。なくなった人をおもちゃにしてはいけないと、心のどこかしらで考えていたのかもしれません。しかられるのを覚悟して、しんとしている小学生たちに向かって、女の人が言いました。
「幽霊になって、会いにきてくれるといいんだけどね。」
それっきり、だれも、何も言いませんでした。
夏休みが終わると、アイスキャンデー売りは来なくなり、白とブルーとピンクのアイスキャンデーも姿を消しました。次の年もその次の年も、合図の鐘は聞こえませんでした。小学生だったわたしは、アイスキャンデー売りと同じくらいに年をとり、戦争があったことや爆弾で吹き飛ばされた子どもたちがいたことを忘れかけています。
「いったい、どんな味がしたのだろうか、あのアイスキャンデー・・・・・・。おなかが痛くなってもいいから食べておけばよかった。」
暑い日にめぐりあうたびにそう思います。おいしくつくられて、せいけつにパックされたアイスキャンデーは、立派なアイスボックスにつめこまれていて、いつでも買えます。ちりんちりんと鐘を鳴らしながら、心の痛みを抑えていたにちがいない女の人に、小学生たちが出会う夏は、二度とないようにと思います。
「アイスキャンデー売り」 立原 えりか
Posted at 2011/05/18 21:42:32 | |
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戯れ言 | 日記
2011年02月04日
《洪作は小学校五年生、おぬいばあさんといっしょに山の中の村で暮らしている。村に(都会から)新しい所長さんの一家がこしてきた。所長さんの娘はあき子といって、六年生である。》
二学期が始まって一週間ほどした最初の日曜日の朝、おぬいばあさんは洪作に、「きれいな朝顔が咲いたから、所長さんの家へあげておいで。」と言った。なるほど目の覚めるようなあい色の大輪が柄のぬけたひしゃくの鉢に咲いている。「よそうよ。」「どうして。」「おかしいや。」「おかしいなんて、洪ちゃ、ただでくれてやるんじゃ。」おぬいばあさんはは言って、「所長さんとこの人たち、びっくりするぞ。これだけの朝顔、めったに見られやせん。」そう言われると、洪作も持って行ってみたくもあった。結局、洪作はその朝顔を持って、所長さんの家へとどけるために往来へ出た。どこかで遊んでいた二、三人の子どもたちがかけ寄って来た。「洪ちゃ、どこへ行く。」一年坊主が言った。「所長さんの家だ。ついて来い。」
玄関の前まで行った時、洪作は玄関の横手にサボテンの鉢が二列にずらりと並べられてあるのを見た。大きい鉢もあれば小さい鉢もあった。どれも洪作の目には上等の鉢に見えた。それを見ると、自分が手に持っている朝顔が急に貧相な価値のないものに見えてきた。洪作は玄関の戸に手をかける気持ちをなんとなく失ってしまった。
その時、家の横手から、思いがけず突然、あき子が姿をあらわした。「あら。」あき子はそんな声を出した。洪作は今となっては逃げることもできず、「朝顔が咲いたんで、ばあちゃんが置いて来いって・・・・・・。」と、そんな言い方をした。
「まあ、きれい!」あき子は言った。目を大きく見はって、いかにも朝顔の美しさに、驚いたといった表情であった。洪作は血が顔に上がっていくのを感じた。きれいな少女がきれいな表情をとったというただそれだけのことで、洪作は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
「アラ、マア、キレイ!」お供の一年坊主が、あき子の言葉をまねてわざととんきょうな声を出した。「帰ろう。」かたわらの少年に言うと洪作は、すぐあき子に背を向けた。アラ、マア、キレイ。アラ、マア、キレイ!三人の子どもたちは、歩きながら、同じ言葉をくり返して、調子をつけてうたった。洪作はそんなことをうたう子どもたちに、いつもなら怒りを感じるのに、なぜか今は少しも感じない。それどころか、自分もまたそれを口に出してみたいような誘惑を感じた。「あら。」と、大きく見はった少女の表情は、それだけで、洪作の気持ちを遠くさせるものをもっていた。洪作は女の子に対して、今までこのような感情を持ったことはなかった。
井上靖「しろばんば」より
Posted at 2011/05/18 21:41:43 | |
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戯れ言 | 日記
2011年02月01日
一日ですよ、一日。
っていっても、もう二月でした。
さてさて。
クルマ生活しとるか?
レーシングな生活は?
レッド近辺まで、回してるかな?
Gがたまったコーナーリングしてる?
ブレーキングGとか、加速Gとか、どうでつか?
そんなもん、一切無縁な、「G様」になってきたぉ。
うへへ。
さてさて、一年と一ヶ月ぶりのセントラルは、楽しみだなぁ。
そんなサイクルで、ポンとタイムが・・・・
出るわけがないでしょね。
あはは、まぁ、そこはまぁお楽しみということで。
まぁ、適当にごちゃごちゃやって、適当に走って
(ウソです。信じないように)
コースアウトしないように、目標は完走だぁ。
って、いったいいつ走るんだろう?
わはは♪
Posted at 2011/02/01 20:12:07 | |
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