2012年10月27日
僕は、
舘野泉さんというピアニストを知ったのは、
今年の始め頃でした。
夏頃、千葉の文化会館でも演奏会がありましたが、どうしても都合が付きませんでした。
すると忘れていた頃、先日、NHKの特集で、再放送(5月20日分)されていたのでじっくり拝聴できました。
ピアニスト歴46年。
北欧のフィンランド、厳しい寒さの中、美しい雪景色のようなきらびやかな旋律を持つ、シベリウスやグリーグ、カスキという作曲家の楽曲を演奏し、世に広め、フィンランドからも功績を讃えられています☆
そして、僕が舘野さんの最も尊敬するところは、「諦めない」、という、その「不屈の精神」です。
それは・・・
デビュー40周年記念コンサートの最中、最後の曲も終盤に差し掛かった時、突然、右手が利かなくなり、違和感はさらに加速し、ついにはまったく動かない。
それでもなんとか最後まで曲を弾き切り、拍手に送られて、ステージを去ろうとした時・・、
舘野さんは床に崩れ落ちてしまい、なんと脳溢血だったのです。
右半身不随。
それ以後、体の半分が凍り付いてしまったように動かなくなってしまい、ピアニストとしての時が止まったまま、無為な日々が2年も続いたそうです。
時折、友人たちは励ましのつもりで口々に言う。
「あの曲を弾けばいい、ラヴェルの『左手のための協奏曲』があるじゃないか。」
そのたびに舘野さんは感情的になり、
「ぼくの60年を捨てろと言うのか!」
励ましの言葉がかえって、ピアニストとしてはもう終りだと言っているように聴こえ、非常に辛かった事だと思います。
5歳の時から弾き続けていた、膨大なレパートリーを捨てるなんて…
ある時、絶望に瀕していた父を、ヴァイオリニストとなっていた息子が、留学先から見舞いに訪れ、ふとある楽譜を黙ってピアノの上に置いていったそうです。
戦争で右腕を亡くした友人のピアニストのために、イギリスの作曲家が書いた左手のための曲。
舘野さんはおそるおそる左手を鍵盤の上に置いて、ピアノを響かせた・・・。
すると舘野さんはピアノの前から離れなくなっただけでなく、ピアニストとしての目の輝きを取り戻し、左手のための楽曲に取組んでいったそうです。
皆さんご存知のとおり、ピアノは、左側に低い音、右へ行くに従って高い音の鍵盤があり、全部で88本、並んでいます。

鍵盤の中心から、左手と右手がそれぞれ受け持つ領域があり、両手が同時に別の動きをしながら演奏することを前提に考えられています。
舘野さんは左手一本だけで、どうやって豊潤な音を弾きこなすのか?本当に不思議です。
解説によると、低音部の和音を弾くとすぐに左手を移動させ、高音部のメロディを弾き、楽譜の上下の段に書かれている音符を省略することなく弾いている、本当に驚異的です(驚)
左の五本の指を二つのグループに分けて、
親指と人さし指が主に右手が担当する旋律のパート。
残りの中指、薬指、小指が主に左手が受け持つ和音のパートとし、
しかしながら、どうやっても左手一本では出来ない事、それは、ひとつの音を長く伸ばしながら同時に次のメロディを弾く部分。
ピアノは音を伸ばす時、鍵盤を押さえ続けなければならないので。
両手があれば、左手で鍵盤をずっと押さえながら、右手でメロディを弾くことが出来ます。
片手でも手を開いて指が届く範囲なら可能でしょうが・・・、
片手では届かないパートをどうやって弾いているのか?
こんなときは、手で押える代わりに、足で踏む『ペダル』を使います。

このペダルさばきが、一音一音切れずに流れるような旋律を生み出しているという事です。
ちなみに、一番右の
『ラウド‐ペダル』は
、踏むと弦を押さえている『ダンパー』という装置がすべて持ち上がる。
通常『ダンパー』は、鍵盤を押した部分だけが上がり、鍵盤を放すと弦を押さえて音を止める。
『ラウド‐ペダル』を踏んで鍵盤を押すと、開放された弦は響き続け、他の弦にも共鳴が広がるという仕組みです。
この『ペダル使い』には特に決まりというものがなく、演奏者の感覚で使い方が工夫されているそうです。
ですから、舘野さんは、このペダルの機能をうまく利用し、低音の弦を響かせ、メロディの調べを包み込んで、
低音部を強く弾いて同時にペダルを踏み、低い音を長く響かせておいて旋律の部分を弾く。
ペダルを踏んでいる間は弦が開放され、音は響き続けている。
低音部を強く弾き、同時にペダルを踏んで響かせ、その間に旋律を弾く。
舘野さんは、右手を使えないハンディキャップの部分をこのペダル使いで克服したのです。
しかも、左手一本で演奏することになった舘野さんが、苦心の末に編み出した独自の“演奏法”『左手の音楽』には音のうねりを生み出す、神秘的な世界があると音楽評論家達は言います。
舘野さんは
「速くたくさんの音を弾くのは自然に出来てしまうが、ゆっくりな音楽というのは、どの音をどれだけしっかり響かせて、どれだけニュアンスを持って謳うかという難しさがある」
と語っております。
ゆったりとした曲は音の数が少なく、楽譜には二分音符・四分音符・八分音符しかない、
左手のためのこの曲の演奏の中にこそ、舘野 泉さんの真髄が・・。
やはり、最初は判らなかった・・・・と舘野さんは語っておりました。
確かに、単音で音が繋がって・・・・なんて不器用な音なんだろうと思いつつ、最初は弾いていたそうですが、そのうち、『音が生きてきた!』と。
両手で自在に操っていた音が半分に減ってしまってから、1音1音と対話するように丁寧に音をたぐり寄せた。
すると、はじめはただの音符に過ぎなかった音が、歌い出したのだという。
これが舘野さんが奏でる、音楽の真髄☆
一流ピアニストが、左手一本になったことで発見した『左手の音楽』。
この豊かで奥深い音の世界、なんと凄いのかと、僕は思いました☆
同時に、「絶対に諦めない」「不屈の精神」
「希望は失望に終わることはない」
と仰る、舘野泉さん、優しい笑顔の中には、今までの困難や壁があると思うと、本当に尊敬いたしますし、僕は勇気や力を頂きました☆
これからも元気で演奏活動を続けていっていただきたいと思います(^^♪
栄光の時代の演奏(シベリウス より 樅の木)
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Posted at 2012/10/27 20:23:52 | |
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アーティスト | クルマ