「シャコタン」という言葉が生まれたのはいつだろう?私が車に興味を持つずっと前から存在し、時代とともに進化してきた。車高調かエアサスか…シャコタンにする方法は多数に及び、それぞれにアツい拘りが見てとれる。今回はそんな「シャコタン」を追及し続ける一人の「シャコタンジャンキー」に密着した。
11月某日、「シャコタンジャンキー(私が勝手にそう思っている。)」の異名を持つよっだ氏に「車を撮影させてほしい。」と、申し込んだ私は集合場所である某ショップにお邪魔した。ガレージ内ではエンジンをかけ暖気を完了させたBMW E66 745Liが出番を待っている状態。私が到着する1時間も前から暖気を開始した745Liだが何やら様子がおかしい。「あぁ、1時間前からエンジンかけなきゃ、ギアが入らないんよ!」…なるほど。ここでまず大事なことをお伝えしておくが「ジャンキー」なのはオーナーだけでなく745Liもその対象であるということ。これから街中へ撮影しに行くというのにこの状況。…ヤバすぎる。いろいろ。
ガレージから745Liは期待通り強烈な「異音」を発しながらゆっくりと…いや、ものすごい勢いで飛び出してきた。色んな部分から色んな異音が聞こえてくる。よっだ氏は笑顔で「何も気にしないし気にならない。むしろ勢いがなければ出ようにも出れない。」そう話してくれたが、それはオーナーだから言えるセリフであるのは間違いない。
目的地へ行く前に給油タイム。「給油でこんな恥ずかしい思いするのは始めてだなぁ。」まぁ、そんな場面をも撮影するために私は来たわけだから構わず撮影を続け、給油が終わったところでナビシートに乗せてもらい街中へと移動した。
745Liは私の指示した道をスーパースローで走り抜ける。この段階で当然の如く異音は鳴り響いているのだが、正直言ってここまで周囲から注目されるとは予想していなかった。場所は繁華街のど真ん中。見るからに「悪い・うるさい・低い」の三拍子揃ったこの車は注目の的。しかし、道行く人達の視線は温かく…そして笑顔だった。指を指し笑う人もいれば携帯で写真を撮る人もいた。また、嬉しそうな顔で「これ、アルピナ?」なんて声をかけてきたおじ様もいた。
アルピナについては各自調べていただくとして…この車に装着されたホイールはアルピナ クラシック ソフトラインの20インチ。定番という表現を使うのはちょっと微妙だが、間違いなく745Liに似合うホイール。
この745Liの足廻りにはオーナーの拘りが凝縮されている。フロントフェンダーはツメ叩き折り・インナー内部配線延長移動・インナーを削りボディーに穴開け加工を施し、リアフェンダーはツメ切り・インナーカバー撤去・インナーを削り加工し配線処理。これで20インチを飲み込む準備が完了。
メインとなる足廻りは純正エアサスを撤去し、イエロースピードレーシング車高調加工(フロント/ショック加工+アッパーシート加工+ボディー側アッパー部加工・リア/ショック加工)+別注バネを組み合わせ、フロントアッパー全開倒し・リアスタビリンク→他車種用調整式リンク加工+大型トラック用パーツ・リアスタビライザー→ドライブシャフト干渉部加工。という仕様になっている。
「シャコタン」とは奥が深いもので、オーナーの好みでセッティングする以上は正解というものがない。しかし、どんなオーナーでも行き着くところは「走れるシャコタン」。実際によっだ氏はこの状態で愛知県まで高速・下道を駆使し旅している。「シャコタンだけど、どこでも走れなきゃいけないし、どこでも行けなきゃいけない。だから俺は車高調でシャコタンを楽しんでる。」。よっだ氏はエアサスを否定しているわけではなく、エアサスのメリットを理解したうえで車高調をチョイスした。きっと世界中のシャコタン野郎は車高調とエアサスそれぞれのメリット・デメリットを理解してカスタムしているはず。だから「正解」がなく、それぞれにアツい拘りがあるのだ。
トレドブルーという選択。
アルピナにある「アルピナブルー」は吸い込まれそうな鮮やかで深い色合いのブルーだ。トレドブルーは、火を着けた時の蒼い炎のようで、淡いブルーが特徴的なカラー。もちろん昼間の明るい時間に見るのも良いが、夜に見ると昼間と違って味がある。よっだ氏は元々トレドブルーだったこの745Liに再度トレドブルーで全塗装した強者である。
「純正昇華的スタイル。」よっだ氏のカスタムにおける最大のテーマ。稀少性もあるこの綺麗なボディーカラーの雰囲気を崩さないよう装着されたのは、オートクチュール ノーブルラインのフロントリップスポイラー。フロントバンパーとリアバンパーに若干の塗り訳が施してあるがこのシンプルなリップスポイラーのおかげでゴデゴデ感は皆無。ちなみにマフラーについて聞いたところ「走ってたら落とした。笑」もちろんきちんと回収済みである。
「どこにでも、どこでも走れるシャコタン。」そう豪語するよっだ氏に私は後日、再度撮影させてほしいと依頼し高速道路を使ってある外港へと向かった。ちなみに、私の移動車は7シリーズにも搭載されたV8エンジンを載せた545。間違いなくパフォーマンス的に何の問題もない車であり、むしろこの545についてのインプレッションが書けるくらい素晴らしい車だった。だが、メインはシャコタンの745Liなので勿体無いが545のインプレッションはやめておく。
道中、期待を裏切らないよっだ氏と745Liにハプニングが発生した。私が先導していたのだが…よっだ氏がなかなか現れない。車を降りて様子を見に行こうとしたその時、ゆっくりと745Liが近付いてきた。「リアバンパー破壊した。笑」笑顔のよっだ氏が指差す方に目を向けると、リアバンパーの右側が間違いなく外れている!
「さすがにヤバイと思ったけどね、うん。これくらい大丈夫。何の問題も無いよ!」そう言いながら、よっだ氏は外れたリアバンパーを勢いよく手で叩き戻した。でも、接合部が完全に破壊されたバンパーは完全に戻ることなく、角部分は明らかに浮いていた。しかし、失礼だがこんな状況にもかかわらず私は感動していた。正直、本当は少ーしだけ落ち込んでいたかもしれないよっだ氏に「カッコいい!リアバンパー破壊したのに笑いながら手で叩き戻すなんてヤバすぎます。」そう声をかけた。オーナーであるよっだ氏は笑顔で教えてくれた。「サイドは破壊したことあるけど、リアバンパーは始めてやね。でもね、フロントに関しては一度も破壊したことないし、擦ったことすらないよ!」
シャコタンスタイルなBMWは駆け抜ける喜びを体感することが出来るのか?私はその答えをファインダー越しに見つけることができた。
間違いなくシャコタンでも、バンパーが地面とキスしても、なぜか火花を散らしながらでも、BMWはよっだ氏に「駆け抜ける喜び」を与えていた。それは車ではなく、運転するよっだ氏の表情が教えてくれた気がする。
日も暮れ始めてきた。ここが最後の撮影場所だと思うと少し寂しい気持ちもあった。「いつでも、どんな時でも「今日がこの車に乗る最後の日」って思いながら走ってる。」車を乗り換えるからなのか、単純に故障したら車を手放すからなのか…その真意は定かではないがよっだ氏は落ち着いたトーンで話してくれた。そんなよっだ氏の隣で夕陽に照らされながら佇む745Liは何だか少しだけ寂しそうに見えた。
「何れは最終形態を披露します。どんな感じになるかはわからないけど、楽しみにしててね!」
そう言い残し、よっだ氏と745Liは異音とともに車体の下部から花火を打ち下げながら、夜の高速道路へと消えていった…。
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2014/12/03 08:19:17