話は一年前に遡る。第五回WOLビーナスラインツーリング二日目の行程を、愉しくもつつがなく辿り、俺は、檀那さん、鮎♪さんと共に、中央道相模湖ICで神奈川の一般道に降り立った。
その症状は、相模湖ピクニックランド前の信号待ちからの再スタート時に表れた。スロットルをひねりつつクラッチをミートさせようとした瞬間、エンジンがストール。あちゃ、やっちゃった、恥ずかしい。急いでセルボタンを押すが、エンジンは掛からない。おや、なんだろう、ガス欠? いや、まだそんなはずはないが。というか、これセルモーターが回ってない。無線でエンジン停止を伝えつつ、ひとまず路肩に寄せた。
見ると、エンジン警告灯が点灯している。どうもエンジンに何らかのトラブルが発生しているようだ。共に高めの温度と湿度の影響で、オーバーヒートでも起こしているのか? そしてエンジンにダメージを与えないよう、ある程度冷えるまでエンジン始動をブロックする回路でも働いているのかもしれない。水温計はそこまで高温を指示してはいないが、俺はとっさにそんな風に思った。今から思えば、オーバーヒートしていたのは俺の頭の方だったのだが。
幸い、その地点からの道は下り坂になっていた。俺は信号が青になるのを待って、惰性で坂を下り始めた。風に当てれば早く冷えるだろうということと、その先で待ってくれているだろうお二人との距離を少しでも詰めておいて悪いことはないとの判断だった。
それなりの勾配と距離の下り坂のお陰で、速度が結構乗ってきた。俺は試みに、イグニッションをオンにして、ギアを二速に入れ、クラッチをミートしてみた。バルルルル、と、ストリートトリプルRのエンジンは再始動した。しめた、やはり風に当てたのが良かったのか。お二人にエンジン再始動を報告し、そのまま走り出し、合流。
やれやれ、と胸を撫で下ろしたのもつかの間、2、3キロ進んだ時点でまたもやエンスト。今度は登り勾配の道だし、セルは回らないしで、すぐに再始動できる状況にないと判断、道沿いにあったベイスターズマートの駐車場に入れさせてもらう。再度の無線でのエンスト報告に、再び少し先の路肩で停まってくれていたお二人も、戻ってきてくれた。
檀那さん、鮎♪さんと、ああだろうか、こうだろうかなどと話しつつ、やはり俺の根拠なき直感通りオーバーヒートだった場合を想定して、旅のしおりでエンジン周りを扇いでみたりした。心優しき鮎♪さんは、一緒に扇いでくれた。今から思えば、あれは、俺に合わせてエンジン周りを扇ぎながらも、その実、思い込みに囚われた俺の心を慰めてくれていたのだ。なんとお優しい。檀那さんはオーバーヒート説には懐疑的で、俺と鮎♪さんがストトリを囲んで白い冊子をひらひらさせているのを、怪しげな宗教儀式でも見るような目で、ちょっと離れてうろんげに眺めていた(笑)。まあ実際のところ、あれは怪しい宗教だっただろう、「ストトリRのエンストの原因はオーバーヒート教」という。
必死のおまじないも甲斐なく、結局ストトリのエンジンは再始動しなかった。俺は自走での帰宅を諦め、まずはディーラーに電話してみた。確か、ロードサービスがあったはずだ。しかし出ない。何度か掛けなおしてみるが、やはり出ない。ならばと保険会社のロードサービスに望みをつなげるが、なんと二輪車はサービス対象外の由。とほほ~。いくつか心当たりを当たって、最終的には弟に軽トラで迎えに来てもらえるよう頼むことができた。すでに暗くなり始めていたので、檀那さんと鮎♪さんには先に帰途についてもらった。お二人にはお疲れのところトラブルに付き合わせてしまって、申し訳ないことをした。
弟が迎えに来てくれるまでには、まだしばらく時間がかかりそうだった。IS01(スマホ)のグーグルマップアプリで最寄りの店を探す(そのベイスターズマートは営業していなかった)と、しばらく戻ったところにマルエツ三ヶ木店がある事が分かった。途中まで下り坂だったので惰性で下り、その先は押して歩いた。それにつけても、携帯電話とスマホのありがたさよ。
マルエツで弁当と抹茶入りコーヒーなるものを購入、ひとり店先のベンチで夕飯を食す。すでにとっぷり日は暮れど、蒸し暑さは引かず。時折、軒下の虫取り機が、ばちっと音を立てる。弟が来てくれるまでは、することもなし。何とも侘しい気分。同時に、そんな自分の境遇に、くつくつと笑いがこみ上げてきたりもする。
まんじりともせず時を過ごし、そして弟が現れた。忙しいだろうに、用事を早々に済ませて時間を作ってくれた。不甲斐ない兄は、いつも弟に助けてもらってばかりだ。全く、ありがたいやら申し訳ないやら。こうして俺は、どうにか自宅に辿り着いた(送り届けてもらった)のだった。
後日、ディーラーに改めて連絡を入れ、トラブルについて説明すると、何やら向こうさんには心当たりがある様子。それは恐らく(と言いつつ、ほとんど確信している様子で)、レギュレーターのパンクが原因でしょう、とのこと。レギュレーターはジェネレーターで発電された電気をバッテリーに送る際、電圧を一定に制御する電子部品で、これが逝かれるとバッテリーが充電されなくなってしまうということだった。そしてストトリはインジェクション車なので、バッテリーが上がると燃料ポンプが止まって燃料を噴かなくなり、エンジンが止まってしまうということなのだった。なるほど。これで「あれ」が実践的対処ではなく怪しい宗教儀式であったことが確定した(笑)。どうやらこの勝負、檀那さんに軍配が上がった。(なんの勝負だよ)
更に曰く、いくつか同様の例が報告されていて、すでに保証期間は過ぎているが、部品を無償交換してくれるとのこと。有償を覚悟していた身としてはありがたいが、それってリコールなんじゃないの、との疑念も少し(笑)。
そして日を改め、バッテリーをフル充電し、ディーラーに自走で入庫を試みる(笑)。200m手前でバッテリーが力尽き、エンスト(爆)。ディーラーに電話すると、歩いて迎えに来てくれた。ふむ、まあ、だいたい計画通り(ぉぃぉぃ)。
更に後日、引き取りに行った際の説明によれば、もともとのレギュレーターは空冷フィンが車体内側に向いて取り付けられており、熱でパンクしやすかったが、今回はフィンが外側を向いて内部回路も強化された対策品に交換したので、今後は同様のトラブルの心配はないと思われる、との事だった。
それってやっぱリコールだよね……、との疑念を抑え切れず、突っ込んでみると、「リコー……ル……では、ないです、現時点では。ぇぇ。当方も。そういう連絡は。」などと苦しげな様子。畳み掛けるようにして、お陰で出先で往生した上、怪しげな宗教儀式まがいの醜態を晒してしまい、以来、同行していた友人から疎遠にされるようになってしまったどうしてくれる、ロードサービス頼もうと電話してもちっとも出ないしさ、などと突っ込んでみるオプションが、とある人物の顔と共に思い浮かんだ(笑)が、市民として未熟な俺は、現金の出費が無かったことを多とし、なにより不具合が解決したのが喜ばしいということで、にっこり笑顔でディーラーを後にした。
これで、来年の第六回WOLビーナスラインツーリングにおいて、トラブルなしに帰って来られる可能性が大幅アップしたというわけなのだっだ。
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実は、この話には後日談がある。再び一年時を下った(今回の)第六回WOLビーナスラインツーリングから帰ってみると、トライアンフから封書が届いていた。開けて見ると、中には正にその部品のリコールのお知らせが入っていたのであった。おっそwww ……と思ったが、こうして事実上の第五回長野ツーリングレポートの完結編アップを、とうとうこの日まで引き伸ばしてきた俺には、何も言えない……。
一年越しの、そんな、後日談(笑)。
(初日の巻へつづく)
Posted at 2012/09/04 19:43:17 | |
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