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超七郎のブログ一覧

2015年09月29日 イイね!

RGQって、私のことなんですか? ~2.美奈子(1)~

2.美奈子(1)

 私が両手で同時に投げた二本の缶コーヒーは、それぞれ放物線を描いたあと、愛車を降りた崇夫クンと誠二クンの、グローブを嵌めた手で受け止められた。
「ふふ。まだまだ、ですねぇ」
 私が声をかけると、崇夫クンはちょっと乱暴なしぐさでグローブを外しながら悪態をついたあと、美奈子先輩速すぎですよぉ、とぼやいた。誠二クンは、黙ってグローブを外し、ヘルメットを脱いだけど、憮然とした表情だった。もっとも、彼はいつもそんな風だけど。
「あんまり遅いから、ほら、冷めちゃってますよ?」
 言いながら、コーヒーを勧める。二人は改めて缶を両手で握りしめたり頬に当てたりして、その温度を確かめ、それからがっくりとうなだれた。
「なあんて、本当は、あらかじめ買ってあったのを、ずっと革つなぎの中に入れておいたんですけどね」
 種明かしをすると、二人ともぎょっとしたように、まじまじと手にした缶を見つめた。

「それにしてもですよ、先輩なんであんなに速いんですか」
 小涌園の駐車場の輪止めに腰掛けて、三人で缶コーヒーを飲みながら、崇夫クンがお決まりの問いかけを投げてよこす。私はそれに、お決まりの答えを返す。
「私は、直線番長なだけです」
「んなワケないじゃないですか。先輩が直線番長だったら、誰が曲線番長やるって言うんですか」
 崇夫クン、時々精悍な顔立ちに似合わず面白いことを言います。
「ホントなんですよ。直線を速く走れない人は、峠を速く走れません」
「そりゃあ、そうかもしれないですけど」
 彼は、まだ納得がいかない様子。
「ん~、しいて言うなら、二人とも、直線の最後でがんばり過ぎてるんですよね」
「突っ込みすぎって、ことですか」
 誠二クンが、ぼそっとつぶやくように言う。
「なんだぁ、分かってるじゃないですか」
 私が言うと、誠二クンは、いえ、全然、とかなんとか、ごにょごにょ言いながら顔を赤らめた。
「若いから、突っ込みたくなるのは分かるんですけどねぇ」
「若いったって、先輩だって俺らのイッコ上じゃないですか」
 崇夫クンがふてくされたように言う。ほら、そういうところがいかにも年下なんです。今の私のボケをスルーしてるようじゃ、見込みナシと言われても仕方ないですよ。それこそオトナのツッコミ力が問われる場面だったのに、ねぇ。
「まあ、それはそうなんですけどね。でも、がんばるのは、そこじゃないんですよ。とゆーかですね、がんばっちゃダメです」
「ええーっ、もう、ワケわかんないっすよ。先輩、ホントは俺らに速くなられちゃ困るから、そんなこと言ってんじゃないんですか」
「そんな、心外です」
 私は心底、二人にはうまくなってもらいたいと思っている。
「だってほら、あの約束が・・・・・・」
 言いかけて、崇夫クンは黙ってしまった。
「え、どの約束ですか」
 私はとぼけて知らない振りをした。
「いや、あのほら、もしも俺らのどちらかが、先輩を抜くことができたらって・・・・・・」
「できたら?」
「その時には・・・・・・」
「その時には?」
「もう、いいですよ」
 崇夫クンは怒って横を向いてしまった。ちょっと、意地悪しすぎちゃったかな。
「あ、まさか……」
 崇夫クンは、はっとした様子で顔を上げ、こっちを睨み付けるようにした。
「忘れちゃったんじゃないですよね!?」
 崇夫クンが詰め寄ってくる。誠二クンもヒトゴトならぬまなざしで私を見つめてくる。ああ、いっそもう二人とも、そのままキスしてくれたっていいのに。私はついそんなことを考えてしまう。
「忘れてませんよ」
 身をよじりたくなるのをぐっとこらえて、私は澄まして答える。二人は安堵のため息をつき、互いに牽制の視線を飛ばしあい始めた。
「でも、あなた達が突っ込み重視でいるうちは、私の唇は安泰ってわけなんですよねぇ」
 私は何だか複雑な心持ちがしたけれど、先輩らしく二人に笑って見せた。
Posted at 2015/09/29 00:38:19 | コメント(5) | トラックバック(0) | 創作物 | 趣味
2015年09月28日 イイね!

RGQって、私のことなんですか? ~1.誠二(1)~

<登場人物>
星川美奈子 19歳 RGV250Γ(白・青)
宮田崇夫  18歳 TZR250(白・赤)
鈴木誠二  18歳 NSR250R-SP(白・銀)

<舞台背景>
公共交通機関網の整備が行き届き、わざわざ自分で車を運転する人の数が減り続けている社会。温暖化が進み、冬季でも路面凍結はかなり標高の高い地域でしか起こらなくなっている。
どこか見覚えのある国の、どこか見覚えのある時代のお話であっても、それらは本作とは一切関係ありません。


1.誠二(1)

「よし、今日もいつものルートを1周、いくぜ?」
 宮田崇夫がそう言って、グローブを嵌めた右手でフルフェイスヘルメットのシールドを閉め、親指を立てた。俺もシールドを閉め、同じように親指を立てた。
 平日の午後9時を過ぎた箱根は、車通りもすっかり絶えて、軽く攻めるにはちょうど良い。俺のNSRと宮田のTZRの間では、美奈子先輩のRGVガンマが乾いたアイドリング音を響かせている。美奈子先輩がタンクに両手をついてうつむいている姿は、見慣れているはずなのになぜかいつも胸を衝かれる思いがする。本人は、ただ集中力を高めるための仕草です、なんて言っているが、俺には何かに祈りを捧げているかのような、そう、それは神聖な儀式のように思えた。

 美奈子先輩が、両手をゆっくりとタンクから離し、両のグリップに乗せた。そしておもむろにクラッチレバーを握る。美奈子先輩の左足のつま先がシフトペダルを蹴ると、カコッという音と共にギアが一速に落とされた。それを合図に、俺も宮田も、ほぼ同時にギアを一速に入れる。RGVガンマのエンジンが回転を上げ、排気音がそれにともない高まる。スタートの合図は、美奈子先輩のクラッチリリースだ。

 美奈子先輩のガンマは、軽くフロントを上げながら箱根小涌園の駐車場から飛び出して行き、直後、車体を右にバンクさせて国道1号線を芦ノ湖方面へと向かわせると、みるみるうちに速度を乗せていった。だが俺と宮田もほとんど遅れずに、美奈子先輩のテールランプを視界の近いところに捉えつつ追っていた。
 スタート時イン側にいた宮田が、俺の前に出ていた。だが、この程度の差はあってなきがごとしだ。実際、次のヘアピン気味に曲がる左コーナーで、ラインをクロスさせた俺がインを取り、宮田の前に出た。次のコーナーでは宮田が、そしてまた次のコーナーでは俺が前に出る。抜きつ抜かれつ。いつもの通り。そして、その頃には美奈子先輩のテールランプは、視界の遠いところへ離れている。これもまたいつもの通り。
 少し下るとガソリンスタンドのある直線に出る。そっからは伏せに伏せ、全力加速だ。千切れよワイヤー、とばかりにアクセル開けてるのに、美奈子先輩には全く追いつかないばかりか、差は広がっている。膝の下で喘いでいるNSRのエンジンに向け、胸中で呪いの言葉を吐く。くそ。もっと回れよ。
 長い直線の中間地点で、下り坂は上り坂に切り替わる。行く先を見上げると、ちょうど美奈子先輩が次のコーナーの向こうに消えて行くところだった。

 俺たちがいつも走るこのコースは、箱根小涌園からスタートして、国道一号線から芦ノ湖手前の県道75号入り口で右に折れ、そこから芦ノ湖を左手に見つつ箱根園を通り過ぎ、元箱根から千石原、早雲山、二の平を抜けて小沸園前に戻ってくるというものだった。俺も宮田も、このコースを一周する間に美奈子先輩の前に出ることを目標に定めてはいたが、当面のところ、どれだけ離されずについて行けるかというお話より先に進めるめどは立っていない。

 俺らが息を荒げて小沸園に戻ってくると、美奈子先輩はすでに涼しい顔で缶コーヒーを飲んでいた。俺らに缶コーヒー1本ずつを投げてよこすと、いつものにっこり笑顔で、
「うーん、まだまだ、ですねぇ」
と言った。

Posted at 2015/09/29 00:00:56 | コメント(0) | トラックバック(0) | 創作物 | 趣味

プロフィール

「[整備] #SR400 トップブリッジ及びステム交換 https://minkara.carview.co.jp/userid/579192/car/3129258/6502682/note.aspx
何シテル?   08/14 09:28
Super7を手放した今、超七郎というHNを名乗るのは気がひけないでもないのですが。現在の愛車はMAZDA AXELA XDです。
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