2021年02月02日
燃料の話
半年ほど前に巷を賑わしていた、ハイオクバーター問題。
元売り毎にそれぞれが作ったハイオクを売っているのではなく、地域毎に操油所同士でバーター契約を結んで、ハイオクを融通し合っていた件が問題視されている。
コレは配送距離によるコスト増を抑えるために、レギュラーでは相当昔から当たり前に行われていたが、ここ20年程の間にハイオクもバーターするようになったって話で、何ら驚くことではない。
以前はハイオクの表記が「レーサー100」とか「マグナム100」だったのが、ある時期からどこへ行っても「プレミアム」や「ハイオク」に変わったことは、多くの人が記憶していると思う。そう、あの頃からバーターは盛んに行われるようになったのだ。
個人的には何をいまさらと思うが、一般的には認知されていなかったらしく、それなりの衝撃があったようだ。
また、一部の小売店や転売業者によるレギュラー混入問題も同時に語られているが、これは全く別次元の話なので、同一視してはならない。こちらは明らかに悪質である。
また、例え混ぜ物をしていなくとも、転売を繰り返され、古くなって劣化したガソリン(業転玉)を仕入れて販売する店は、意外と多い。
元売り系のロゴが入っていない無印ローリーが出入りしている店は、業転玉を仕入れている可能性が高いなんてのは、業界では言い古されているし。
サーキットランナーは普段から同じGSで給油して、セッティングを出しておけば、特に問題はないんだけど。
問題になるとすれば、遠征先で給油&走行会のパターン。自分の場合は燃料添加剤を使って保険を掛けてる。
と、前置きはここまでにして、モータースポーツを齧るのなら、知っておきたい燃料の知識をおさらいしようと思う。
ハイオクとレギュラー違いはオクタン価の差であるが、ハイオクは概ね15~18%のBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)を含んでいることが一般的、一方レギュラーは2~7%である。イソオクタンはアンチノック性の基準として採用されただけで、ハイオクの主成分ではない。
詰まる所ハイオクとレギュラーの差は、概ねBTXの含有量の差である。その他、オクタン価向上剤としてMTBEなどを含んでおり、加えて洗浄剤としてPEAが添加されることもある。
こう書くと「トルエン混ぜればオクタン価UPでパワーUP狙えるぜ」と思う人が居るだろう。
しかし、トルエンは沸点が高いため、ガソリンへ添加するには沸点の低い軽質油を増量して、蒸気圧を上げる必要があり、ハイオクとレギュラーはガソリン基材にも若干の違いがある。
単にトルエンを増量するだけでは蒸気圧が下がってしまうので、素人が扱うのは結構難しい。
蒸気圧の調整を怠って、例えばトルエン100%を燃料に使用すると、点火前に揮発が追いつかず、酸素と十分に混合しないため、エンジンの始動すら出来ない。
この現象は真冬の冷間時にエンジンが掛かり難いこととよく似ている。
燃料やエンジンが冷え過ぎると燃料が気化し難くなり、気化しなかった燃料は燃焼しないため、燃焼室はリーンになってしまう。即ち冷間時にはその分だけ増量が必要ということ。キャブならチョーク、インジェクションなら冷間増量補正。
また、ドライアイスなどで無暗に燃料を冷し過ぎると同じ状況が発生する。
真冬アタックで欲をかいてドライアイスで燃料をキンキンに冷やしたら、始動困難で出走できず、なんてことも。(吸気口にパーツクリーナー吹いたら掛かるけど)
素人がトルエンをオクタン価向上目的で燃料に添加するのであれば、ハイオクに対して精々10~20%程度の割合が限度。ポイントは「蒸気圧」である。
また、蒸気圧を上げたガソリン基材は、オクタン価が少々下がる傾向にあるため、ハイオクでも地域や季節によってオクタン価は多少異なる。(JIS規格で96以上は担保されているが)
特に冬場は東北地方など雪国のオクタン価が低いという事例をよく聞く。
オクタン価を少々犠牲にして、冷間時の始動性を重視しているのだろう。
しかしオクタン価96と100の差はチューンドエンジンには致命的。筑波でセッティングを出した車両をSUGOに持っていき、地場のGSのガソリンを入れたらノックリタード多発でタイム出ず、なんて話もある。
燃料はなるべく普段使っているものを携行缶で持ち込むようにしておき、念のためオクタン価向上剤を常備しておくとよい。
この何れも難しいというのであれば、シェルのGSを探してV-Powerを入れること。V-Powerはバーターしていないので、地元と遠征先どちらも同じ品質である可能性が高い。
一方そんな問題と無縁なのがレースガス。
レースガスはオクタン価の高い物質を中心に混合し、適切な蒸気圧とした上で、種々の添加剤を加えたものである。
夏ガソリン、冬ガソリンのような作り分けはしていないので、燃料の温度は季節を通じて適切な管理が必要だ。
レースガスとは言っても、特別な化学薬品を使っている訳ではなく、種々の混合比に各社のノウハウがあるだけで、工業的にはどれも簡単に入手出来るものである。
レースガスには大抵、酸素含有量の表記があるが、これはメタノールやMTBE、ニトロメタンなどが含まれていることを示唆している。実際にガソリンに比べてレースガスは同じ噴射量ではA/Fは1~2割前後リーンになるものが多い。
(アルコール類は一般的に燃焼速度が速くオクタン価が高い。またアルコールのA/Fはガソリンに比べて約半分)
レースガスはハイコストだが、エンジンには優しく、デトネーションによるブローは殆ど発生しない。
レースガスを使えばパワーだけでなくレスポンスも向上するので、パワーは控えめにしておき、レスポンスUP&エンジン保護という使い方もアリだろう。
一方、プレイグニッションは無くならないので、その点は注意が必要。
ひと昔前ならチューンドエンジンじゃなきゃ、燃料なんて気にする必要はなかったが、現代のエンジンはノックレベルを監視して点火時期を自動制御しているため、オクタン価の低い燃料を入れると一気にリタードされてパワーが落ちる。
このような基礎的なことを知っているか知らないかは、何れどこかで差が付くと思う。
以下参考資料
・ガソリンのオクタン価
ハイオク(JIS 1号)RON:96以上
レギュラー(JIS 2号)RON:89以上
・中間材のオクタン価
軽質直留ナフサRON:60~70/MON:63~68
異性化ガソリンRON:80~90/MON:78~88
接触分解ガソリンRON:90~93/MON:78~82
接触改質ガソリンRON:96~100/MON:86~89
ガソリンの材料となり得る物質のオクタン価(低オクタン価順)
n-へプタンRON:0(オクタン価0の基準物質)
n-ヘキサンRON:24.8
2-メチルヘキサンRON:42.4
n-ペンタンRON:61.7/MON:61.9
2-メチルペンタンRON:73.4
メチルシクロヘキサンRON:74.8
1-ヘキセンRON:76.4
シクロヘキサンRON:83.0
1-ペンテンRON:90.9/MON:77.1
2,2-ジメチルブタンRON:91.8
2-メチルブタン(イソペンタン)RON:92.3
2-メチル-1-ペンテンRON:94.2
イソオクタンRON:100(オクタン価100の基準物質)
シクロペンタンRON:101.3
メタノール RON:106
エチルベンゼンRON:107.4/MON:97.9
1,2,4-トリメチルベンゼン RON:110.5/MON:103.5
エタノール RON:111
p-キシレン RON:116.4/MON:109.6
エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE) RON:117
m-キシレン RON:117.5/MON:115.0
メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE) RON:118
トルエンRON:120.1/MON:103.5
1,3,5-トリメチルベンゼン RON:120.3/MON:120.3
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Posted at
2021/02/02 19:56:18
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