オンザロック。
スコッチかバーボンを思い浮かべたのは20代の頃。
今の俺は酒を飲まない代わりに、岩登りに熱中している。
特にこの1年、趣味を通り越してハマってしまった感じだ。
アンカーが打たれたフックに、カラビナをかける。
身体は両足と手の3点で、力をかけず腹筋と背筋で固定。
もう片方の手がかかったら、階段を上るように足を交互にあげてゆく。
基本、岩は足で登る。
指は第1関節がかかればいい。
手はあくまで支えであって、登るのは足を使う。
左手を伸ばし、中指と薬指で岩の継ぎ目の引っ掛かりを探す。
足と腕での三角形を頭に描きながらふたつ重ね、菱形を作る要領で上に進む。
梯子を昇るように、確実に、ゆっくりと。
岩が乾いたこの時期は、寒いがシーズンとしてはベスト。
岩の表面が、手に吸いつくように感じる。
ただ、寒さのせいで指の関節が曲がったまま固まることもしばしば。
普段使わない指の間や関節など、変なところを傷めたりする。
怪我を避ける意味では、身体を鍛え筋肉をつけるより体重を落とすほうが楽だ。
体脂肪率12パーセントだった俺、今では9パーセントまで落ちた。
危険と隣り合わせ、剥き出しの自然との対峙。
護られていない開放感と緊張。
パートナー以外、誰に助けられるでなく、自分と向き合う時間。
今、俺は藍とパートナーを組んでいる。
オフ会で知り合ってから、何度か連れだって登りに行くようになった。
ハマってる理由のひとつは、正直なところ藍がいるからだ。
山ガールと呼ばれるハイキングが流行り出してから、山に女性が増えた。
一部では「岩ガール」と呼ばれているらしい。
裾野が広がることで、男女の出会いの機会が飛躍的に増えたことは間違いない。
藍はといえば、岩ガールと言うよりオヤジガールに近い。
夏はノーブラでタンクトップだが、前の谷間より後ろの谷間が欲しいと言う。
胸は邪魔なだけ、野糞も平気、化粧っ気もなく細かい事は気にしない。
ポイントまでの運転は、俺のクルマ、ランクルを出す。
高速道路も林道も問題なくこなし、快適に移動する。
V8のガソリンエンジンは、パワフルなだけでなく驚くほど静か。
未舗装の林道では、過保護に護られているようで鬱陶しく感じる時もある。
オープンのような開放感に憧れてはいるけれど、危険から護られることは大切。
狭い道ではボディの大きさが邪魔をするが、この安心感には換え難い。
身体ひとつで挑むロッククライミングと、屈強なランクル。
危険といつも隣り合わせの解放感と、万一の時も護られるであろう安心感。
両端だからこそ、お互いの大切さがわかるのかもしれない。
バツイチの俺としては、藍を女として意識しないかと言えば嘘になる。
こんな華奢な身体の男はいないし、意識しないよう努力はしてきたつもりだ。
実際、プライベートについてお互い語らないし、聞かないようにしてきた。
でも、ふと寂しさ感じる時も、藍がそばにいてくれた。
ペアを組んで半年、ロープワークもお互いの信頼が基本。
たぶんだけれど、交際を申し込んでも断られることはないだろう。
が、一歩踏み出すには勇気がいる。
崩れてしまえば、元に戻ることも出来ない。
一度失敗しているだけに、二度しない覚悟が必要だ。
帰り仕度でロープを束ねながら、藍に付き合って欲しいと告白した。
藍からの返事は「あたしが護ってやるよ」だった。
俺はホッとすると同時に「よろしくお願いします」と頭を下げていた。
ん? ナゼこうなるんだ?
既に藍に手綱を握られてしまっているじゃないか。
って、今さら気付いても無駄か。
Posted at 2011/02/21 21:31:14 | |
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