教育大学時代からの友人と、名駅に呑みに来ている。
ヤツは公立中学の教師で、オレは予備校の講師。
前回呑んだ時は、オレが連れてきたチューターをヤツに紹介した。
どこまで行ったか関知しないが、まだ繋がってるらしい。
今回は、ヤツが同僚という女性を連れてきた。
専門は英語、担任も部活も受け持っているという。
背が高く細く、いかにもスポーツが得意ですといった印象だ。
「私、クルマ大好きなんです。特にスポーツカーっていいですよね。
手足のように動かす、そこはやっぱりミッションでしょ」
オレのカレラがミッションと知ってのことか、それともヤツの入れ知恵か。
とりあえずは3人、クルマの話題で盛り上がった。
「私の愛車コペンも、ミッションなんですよ。
よかったらぜひ一度乗ってみて下さいね。
私も一度でいいからポルシェって運転してみたーい」
なーんて目を潤わせ露骨に言われたら、お約束でしょ。
持ちモノを褒められて嬉しくない男なんて、いない。
翌週、彼女をドライブに誘うことに。
吞んだ時、海岸線をドライブし食事までは話の流れになっていた。
当日、市内で彼女との待ち合わせは、夕方の5時。
ドライブと軽い食事で、2、3時間程度のつもりで。
約束の時間に少し遅れ、サイドガラスを指で叩く笑顔の女性。
前回のパンツスーツとは違い、短か目のスカートが嬉しい。
カレラの助手席に乗り込んだ彼女の、最初のセリフがこれ。
「せっかく土曜のデートなのに、ごめんなさい。
明日は部活が早いので、日付けが変わるまでには送って貰えますか?」
まったく意表をついたソノ気発言。
当然、オレのナビはフル回転でレストランからホテルへのルートを探す。
インター近くのラブホでいいだろうか、戻ってシティホテルにすべきか。
そんな思惑は微塵も顔に出さず、まずはゆっくりと発進。
都市高速を降りて、産業道路を南下。
明るいうちに運転させて欲しいといっていた彼女の要望に応えるべく、
広い路側帯にウインカーを出して駐車する。
「ここからしばらくは真っ直ぐだから、運転してみる?」
待ってましたとばかりに微笑む彼女と、席を交代。
「クラッチって、左足ですよね?」
尋ねるというより、確認のつぶやきだろう。
シートポジションを直し、クラッチを踏みこんで、ショートレバーを動かす彼女。
「実は左ハンドル、初めてなんです。
あ、でも、ミッションの左右の向きは一緒なんですよね」
それってペダルが左右対称だったら、違う意味で面白いかも。
シンプルな質問も楽しいし、誰にだって最初はある。
「ウィンカーとウォッシャーは逆だけど」と言った矢先に、ワイパーが動いた。
「行きます」
と、バックも振り向かず、いきなり発進する彼女。
加速でシートに押さえつけられた時、いやーな予感がした。
スパッとつないだ1速で6千回転まで引っ張ると、ダブルクラッチで2速へ。
「あってますよね、これ、2速で」
はい、あってますよ。
もしお隣りの4速だったら、2千回転以下のはずですから。
2速も6千回転近くまで引っ張ったままの彼女。
既に制限速度はかなりオーバーしてますが、と声をかけて良いものかどうか。
どうやらスピードメーターを見る余裕が無いらしい。
「ちなみに、今、何キロですか?」
やっと聞かれて答えると、
「ふーん。だったら3速は入れられないかな」
って、この状態で走り続けるの?
アクセルのオン・オフで、前後にぎくしゃくと揺さぶられるオレ。
足を踏ん張るには遠すぎるし、手を置く場所も無く、シートベルトを握り締める。
片側2車線のほぼ直線とはいえ、右助手席のオレは常に白線上のままだ。
サイドミラーで確認すると、後続車は2車線ともかなり間隔をとってくれている。
そりゃ誰が見たって危険なクルマだろう。
近寄りたくない気持ちはよくわかる。
凄く長く感じたけれど、慣れぬまま10分も走っただろうか。
路側帯に設けられた駐車場へ誘導し、停まるよう指示。
停止と同時にサイドブレーキを引いたオレの左手は、べっとりと汗をかいていた。
「思ったより難しくないんですね。エンストもしなかったし」
彼女がこちらを向いた時、血の気の引いたオレの顔は青白かったに違いない。
酔った。 それも自分のクルマで。
外へ出ると身体は重く、背中に冷たい汗をかいていた。
交代し席を戻すと、ルームミラーがオレの位置のままだと気付いた。
つまり彼女って、一度も後方確認してないってことだよね。
緊張で力が入っていたせいだろう。
クラッチを踏みこむ左膝が震えている。
ソノ後どころか、このまま一緒に食事をすべきかどうか考えている。
Posted at 2012/04/10 15:23:13 | |
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