
一般的な可変ギアレシオステアリングは、ステアリング中央付近のギア比を低く(ステアリング操作量に対してタイヤの切れ角が小さく)、切り込んでいくにしたがってギア比を高く(ステアリング操作量に対してタイヤの切れ角が大きく)しています。そうすることで、高速走行時の過敏さを減らすと同時に、ワインディングロードでのステアリングの効き味をシャープにできるからです。
ところが、スイフトの可変ギアレシオステアリングは、中立付近のギア比が高く、逆に切り込んでいくとギア比が低くなります。
普通に考えれば、高速道路では過敏になり、ワインディングに行くとダルになってしまうわけですね。でも、実際に乗ってみるとそんな印象はまったくありません。高速道路でも十分落ち着いているし、ワインディングロードでは先代以上にキビキビと走ってくれます。
開発陣はどんなマジックを使ったのでしょうか? 実は、考え方が従来の可変ギアレシオステアリングとはまったく違うのです。新型はリアサスがしっかりした分、基本となるステアリングギア比を高くしても十分なスタビリティを確保できるようになりました。先代よりクイックなステアリングなのに、高速道路でも過敏な印象を受けないのはそのためです。
しかしこのままでは問題があります。前回触れたEPS用モーターの耐久性です。そこで、モーターにもっとも負担がかかる大舵角時のみ、ステアリングギア比を下げた。こうすることで、四つ角や駐車時にモーターが過度なアシストトルクを発生する必要がなくなるからです。
高価な大容量モーターを使えば、こうしたデバイスを使う必要はありません。では厳しいコスト制約で小さなモーターを使わざるを得なかったらどうするのか? スイフトの開発陣は「だったらギア比を下げればいい」とは考えなかった。小さなモーターで楽しさを実現するためにはどうすればいいのかを真剣に考え、そこから導き出されたのが、新しい発想の可変ギアレシオステアリングだったのです。
韓国車が急速に実力を上げてきているいま、日本車はどんな道を進むべきなのか。答えはひとつじゃないけれど、やはり、突き詰めれば、コストパフォーマンスの極大化こそが日本車の生きる道だと思うのです。安かろう悪かろうではなく、安いけどこんなに素晴らしいクルマを作れるのは日本だけだねと。
口で言うのは簡単だけれども、実際にやるとなると本当に難しいことです。でも、スイフトのEPSと可変ギアレシオステアリングには、欧州車や韓国車にはない、日本が誇るべき発想と技術が間違いなく詰まっている。今回採りあげたのはほんの一例ですが、こうしたトライを続けていけば、必ずや日本車の存在感が世界で再び高まる日が来るはずです。
そういう意味で、新型スイフトは、日本車が今後歩んでいくべき道しるべとなる好例だと思うのです。
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2010/11/27 12:45:27