そもそも小学校5年生の時に母親に命ぜられた天声人語を要約するっていう勉強方法が芥川賞受賞に至ったような本人のコメント。なるほど、もう少し早く知ってれば我が家の豚児たちにもスパルタで叩きこんで、な〜んて親ばかが頭をよぎります(笑)。そんなわけで、まずはこっちの方から読んでみますか(^^
勘違いで始まった、小説家への道 芥川賞・羽田圭介さん
【2015年7月21日 朝日新聞デジタル】
■芥川賞に決まって 羽田圭介さん(寄稿)
小学校五年生の五月から、中学受験のための勉強を始め、塾へ通いだした。塾では毎週
日曜、子供たちがテストを受けている間、別室で保護者たちが教科ごとの講師たちによる
指導アドバイスを受ける、いってみれば保護者向けの授業があった。
とある国語講師が、「朝日新聞の天声人語を要約すると、文章能力の基礎力アップにつ
ながる」と母に教えたらしい。その年の夏休みに入ってすぐ、僕は小学校で出される宿題
や塾の課題とは別に毎日、「朝日新聞の天声人語の要約」をさせられることとなった。
九六年夏のことである。
数日のうちは、大学ノート上に、写経のように天声人語をほとんどそのまま書き写して
いた。全然要約できていないではないかと母にさんざん怒られ、苦痛で仕方がなかった。
俳優の渥美清さんが亡くなったことについての文章を必死になって要約しようとしたこと
を、やけに鮮明に覚えている。書き終えたものを母に見せては、容赦のないチェックが入
った。やがて半分、三分の一ほどにまでまとめられるようになり、毎日の要約作業が苦で
はなくなっていった。
八月の末、夏休みの終わり頃には、一回分の天声人語を、大学ノートのごく四~五行に
まで難なく要約できるようになっていた。当然、母から怒られることもない。それどころ
か、自覚できるくらいに少し甘めというか長めに要約した日ですら母がなにも指摘してこ
ないというのを何度か経験し、自分はもう文章表現においてこの人から教わることはなに
もない、と思った。単に文章の要約がうまくなっただけのことだが、小五の少年に己の文
章能力を過信させるには、約二ケ月弱続いた鍛錬の成果は、じゅうぶんすぎるほどだった。
自分に文才があると勘違いした少年は、勉強するフリをしては隠れて小説を読み、明治
大学の附属中学へ入学してからも、自宅のある埼玉から東京へ向かう長い通学時間を利用
し色々な本を読み続けた。やがて椎名誠さんの作家としてのライフスタイルに憧れ、己の
文章能力を過信していた自分は当然のように小説家を目指した。なんの気負いもなく小説
を書き、初めて投稿した小説で高校三年時に文芸賞を受賞し作家デビューを果たす。その
一二年後、芥川賞の受賞が決まった。
なんでも、勘違いから始まるのだと思う。だから、なんでもやってみるといいし、なん
でもやらせてみるといい。すべての人や機会、偶然に感謝している。
◇
はだ・けいすけ 85年生まれ。「黒冷水」で文芸賞。「スクラップ・アンド・ビルド」
が第153回芥川賞に選ばれた。
Posted at 2015/07/23 05:33:32 | |
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