明治神宮外苑の美しい森や景観を壊し、17日間の祭典のために投じる建設費は少なくても1,300億円! ちょっと考え直したほうが良いんでないかい? ってことを槇文彦さんという偉い建築家が言っております。
「神宮の森 美観壊す」 20年五輪 新国立競技場巨大すぎる
【2013年9月23日 東京新聞】
2020年東京五輪のメーン会場となる新国立競技場をめぐり、世界的建築家の槇文彦
さん(85)が計画の大幅な見直しを求める論文を発表した。新競技場は自然の美観が
保存されている東京・明治神宮外苑の風致地区に立地する。槇さんは、現計画では巨
大すぎて歴史のある景観を壊すと懸念。莫大(ばくだい)なコストがかかる恐れもあ
るのに、関連した情報が知らされていないと指摘する。 (森本智之)
「新競技場は数字(延べ床面積)だけ大きくて、必要かどうか疑わしい機能が多い」
槇さんが異議を唱える最大の理由は、新競技場の巨大さにある。先月、日本建築家
協会の機関誌『JIAマガジン』に問題を指摘する論文を発表した。
文部科学省所管の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)によると、「世
界一のスタジアム」を目指した新競技場は、新宿区霞ケ丘町の現国立競技場を取り壊し
て建て替える予定だ。施設を大幅に拡充。開閉式の屋根を備え、観客席を54,000席か
ら8万席に増やすほか、スポーツ関連の商業施設や博物館・図書館などを加え、延べ
床面積は5.6倍の29万平方メートルにふくらんだ。
神宮外苑は崩御した明治天皇をたたえようと、内苑(ないえん)である明治神宮とと
もに整備され、1926(大正15)年に完成。東京で初の風致地区に指定され、景観を
守るため開発が規制されてきた。
ところが、高いところで高さ70メートルに達する巨大な競技場を建てるため、都
は今年六月に高さ規制を緩和。15メートルから75メートルへと五倍に緩めた。
これに対し、槇さんは「外観上、新競技場は大部分がコンクリートの壁になる。
これでは単なる土木加工物。歴史的に濃密な地域の美観を壊してしまう」と危惧。
「景観を守るために作ったルールを自ら否定した」と、都を批判する。
29万平方メートルの床面積は、昨年のロンドン五輪のメーンスタジアムと比べ約3倍
の特大サイズ。しかし、敷地面積はロンドンの7割しかない。
槇さんは、コストの問題も指摘する。
国際基準では、五輪の主会場に使う競技場は観客席が六万人以上必要だ。だが槇さんに
よると、ロンドン五輪では8万席のうち6割以上は仮設だった。
「全て本設にしなくても五輪はできる。終わった後、八万人もの観客席がどれだけ使わ
れるのか。17日間の祭典に最も魅力的な施設は次の50年、100年後、都民にとって理想
的とは限らない」
試算したところ、観客席の一部を仮設にし、過剰な駐車スペースや余分な関連施設を減
らすだけで、少なくとも数百億円のコストが削れるという。
槇さんは「必要な情報が事前に十分に公開されず、国民が計画の是非を判断する機会が
与えられていないことが問題」と指摘。有志の建築家らとシンポジウムを開いたり、要望
書を提出したりすることを検討している。
JSCの担当者は「各界の代表にお願いした有識者会議で、必要な意見は吸い上げてい
る。計画は確定というわけではなく、必要なら見直す可能性はある」と話している。
<まき・ふみひこ> 東京都出身。東京大で故丹下健三氏に師事。米ハーバード大大学院
修了。「モダニズム建築」の旗手として知られ、主な作品は東京・代官山の複合施設ヒル
サイドテラス、幕張メッセ、名古屋大豊田講堂など。建築界のノーベル賞といわれるプリ
ツカー賞を師の丹下氏に続き、日本人として2人目の受賞。イスラエルのウルフ賞や米建
築家協会ゴールドメダルなど受賞多数。
<国立競技場の建て替え計画> 1958年に完成した現競技場は老朽化が進み、五輪会
場の基準を満たしていない。2016年五輪の招致では晴海地区にメーンスタジアムを新設
する計画だったが、交通アクセスの悪さなどが指摘され、現在地に建て替えることが決
まった。新競技場には、VIP席・個室席(25,000平方メートル)、スポーツ博物館・
商業施設(計21,000平方メートル)、地下駐車場(900台分)なども計画。15年秋の
着工、19年春の完成を見込む。総工事費は少なくとも1,300億円かかる見通し。
