
楽しいも幸せも本人次第。俺はなんでも面白いもん。
ぶつけたって面白いんだから。
所ジョージとは何者なのか。どんな番組でも存在感はあるのに誰も邪魔しない、あの独特な雰囲気。彼はコメンテイターなのか。それとも卓越したセンスでお茶の間に笑顔を振りまく彼はコメディアンなのか。はたまた、自身でレーベルを立ち上げ、今年6月には自主レーベル3枚目のアルバムをリリースした彼はミュージシャンなのか。そこんとこを所ジョージ本人に伺ってみた。
——まずは音楽の事から伺います。第一・二弾アルバムを驚異の700円で販売されたジャムクラッカーレコードですが、それは売れる・売れないではなく、自分が残したいもの残すというコンセプトで曲を出しているからなんですね。
所 そうなんですよ。この前、700円でやったんですがあんまり反応がなかったから、次はアルバムの通常価格の半額で出そうかと。その辺は適当なんですよ。そんなにそれで暮らそうとは思っていないですからね。そこに暮らしが乗っかっていたらもう少しちゃんとやっているとも思います。
——とても身近な日常を歌っているのも所作品の特徴ですね。
所 まぁ特殊音楽だよね。ロック、フォーク、それらを含めた日本の歌謡界は、聴く人の共感を得るもの、聴く人の喜びや悲しみといった心情が震えるみたいな、そんな歌を提供している。それが芸能界だと思うんですよ。でもウチが描いているのは俺一人のできごとなんです。だから感動を共有できない。せいぜい「そんなこともあるのかなー」ぐらいですよ、ウチの曲は。だけどそれをカッコイイと思っているから仕方がない。誰かに「そうだろ?」って共感を求めているんじゃなくて、俺はこうなんだよってことを発表したいだけなんで。誰か同じようなことをしていればこういうジャンルももう少し広がると思うんだけど、誰もしていないからね。あえて言えば芸能界や歌謡界は全部敵。
——敵……ですか?(笑)
所 そう。芸能界って山は、俺の山じゃなくて敵なの。こんなのが流行っているんだ、こんなのがみんなに支持されてるんだ、ふーん。コノヤロウ!みたいな(笑)。バラエティもやってるんだけど、その中で自分の歌を披露したいという気持ちはない。あそこは芸能界だから。芸能界は(自分にとって)いろんなものをリサーチする場所。自分の番組の間で自分の曲を……みたいなこともできるんだけど、音楽はそれとは違う別の山を作っているんですよ。
——そこが所さんの魅力です。多くの芸能界にいる人は、やはり、人が共感する自分を保とうとしているように思います。
所 保とうとしている……というより彼らはそれができる人たちなんですよ。俺はコレしかできないの。芸能界的な歌を作ろうとしてもそれができない。例えば「季節が巡ってきて、君と僕で地球を回す……」って書けばいいのかもしれないけど、それはもう筆が進まないっていうのかな。それはもう芸能界・歌謡界の人にやってもらって、ウチはそれ以外のパーツで作りますよって感じです。
——今までお話を聞いて、私の所さんに対する印象は「ミュージシャン」なんですが……
所 ミュージシャン……じゃないよね(笑)。だって今からギターやってください!っていわれてもできないもん。例えば以前『所さんの世田谷ベース』(BSフジ)で2コードで「スタンド バイ ミー」を弾くという企画をやったけど、今それをやれって言われてもできない。先日、高見沢(THE ALFEE)がここにきて、ウチのギターを見てたんだけど、彼はミュージシャンだから、人のギターも上手に弾くんですよ。でも俺は、カラオケバーでギターがあっても弾けない。そのギターによほどの思い入れがないと弾く気にならないし持つ気にもならない。というのも、持っている楽器に刺激を受けて曲を作るから。このギターでこういう曲を作りたい!って感じで。車なんかと感覚はいっしょで、例えばたまの休日はスポーツカーに乗りたいとか、山に行くなら四駆に乗りたいみたいなのがあるでしょ。対して険しい道もないのに。ギターもいっしょで、このギターだからこんな感じの曲みたいってなるの。でないと大切なギター一本じゃ曲作りも限界がありますよ。それじゃ興奮がないから。なんでもいいんですよ。充電器を買い換えるでもいいし、ネックをしょう油に漬けてみてもいいんです。滴れてきたしょう油が刺激になって新しい曲が生まれるかもしれませんから。そういう意味ではみんな恵まれてるんですよ。誰にも邪魔されない環境で作れるんですから。でもそんなとこでやってるから「あんなもの」……もう、「あんなもの」って言っちゃうよ俺は(笑)。「あんなもの」で終わっちゃうんだよ。俺はアルバム一つ作るにしても全部刺激的じゃなきゃイヤなの。アルバム12曲のうち、これ1曲がいいなんてものがあったら、だったら12曲全部その曲のほうが助かるわ。リピートしなくていいんだから。みんな曲数なんかにも縛られちゃっているから、ピンとこないものができちゃうんだよ。
——『JAM CRACKER 3』のライブとかは?
所 あ、前のアルバムの曲は俺できないもん。今やっているので夢中だから。前作った曲のリフなんて全然覚えてないし。だから、とにかく今作っている曲を録音したいんですよ。安心するから。もうやんなくてもCDがあるんだからって。録音するまでは一所懸命覚えているけど、出来上がっちゃうと忘れちゃう。だから、ライブもできないよねー(笑)。坂崎(THE ALFEE)なんかが、自分たちが全部準備するからライブしましょうって言ってくれんだけど、もうそこまでしなくていいよぉ、みたいになっちゃうんですよ。なんなんだろうね。
楽しいも幸せも本人次第。俺はなんでも面白いもん。
ぶつけたって面白いんだから。
——『所さんの~』でお茶の間に見せるみんなが知っている「所ジョージ」がある一方で、戦車やモデルガンのような一部の人に向けた情報も発信されているわけですが、どういう考えでの行動なんですか。
所 そうしないと歌ができないんですよ。歌だけやっているとつまんなくなっちゃうの。例えば一曲詩を書いて、曲作りに煮詰まったら、ちょっと休憩するので戦車をいじっちゃう。そうなったら今度は戦車に夢中になっちゃうんだけど、戦車も煮詰まったりするわけ。で、次はまた歌でもやろうかなって歌に戻る。そうすると、この前煮詰まっていたことは忘れてるから、スッとできちゃう。あと、余計なことばっかりする性分なの。売っている車を普通に乗れば、何の問題もないじゃない。でも俺はこの中どうなってるのって開けたり、こんなの付けたほうがいいんじゃないって付けてみたりしちゃう。で、余計なことするから余計な目に合うんだけど、その始末がけっこう大変。だからいわんこっちゃないのに……って思いながら元に戻すことなんてしょっちゅうですよ。でも、隠れているとどうしても開けてみたくなる。どんな仕掛けかなって。で、それが楽しい。一時期「フリッツ・ハラー」っていうイタリアの家具が流行ったときも、本当に良いものかよ?って疑って、特別な工具がいるんだけどそれも知り合いに譲ってもらって分解してみたの。そうしたら、なんだよ!みたいになって。そういうのっていっぱいあるの。みんなが珍重していいなーってなっているのを、「中身はこんなだぜ」って思えるのが面白い。それに本質に対する価格なら納得できるんだけど、本質+人気という付加価値は芸能界にいるわりに認めてないんです。本当は付加価値なので素直に認めてもいいんだけど、付加価値が付いたならそれに追いつくぐらいはしてくださいよっていう気持ちがあんの。だから自分に付加価値が付いたら、俺はそこに追いつこうとするもん。付加価値をキープしようとするんじゃなく、付加価値に追いつこうと努力する人が素敵な人だと思うんですよ。これ知らないんだって言われるのに腹が立つんだよね。そう言われないように全部準備する。だから忙しいんですよ。そういうことをやっている間にいろんな目に合うんだけど、それが詩になる。ドラマチックな展開に出会って歌ができるんですよ。何かやらかしてしまうということは興奮するじゃない。興奮するから詩になる。そういうことなんです。
——SNSが発展して、他人と自分をすぐ比較できる現代にあって、所さんは“楽しさ”や“幸せ”をどう捉えていますか。
所 楽しいも幸せも本人次第だからね。俺はなんでも面白いもん。ぶつけたって面白いんだから。「やっぱぶつかるんだ、ココ。やっぱりねぇ」ってなればもう面白い。自分で経験すればなんでも面白い。みんな早く手応えがほしい、早くいい結果がほしいってなってるよね。ズルしてでも早くほしいみたいな。そういうのは面白くなくて、なかなかいい手応えや結果にたどり着けない自分を面白がれっての。例えば俺は三線なんかも弾くけど、習ったり教科書読めばすぐ弾けるようになるじゃん。だからつまんないだよ。
——え? 所さん人に聞かないんですか?!
所 聞かないよー(笑)。三線買ってきて、三線のCD聴きながら、こうか?違うか。じゃあどうだ?ってしているのが面白いんだから。あの三本の弦がどういう音階でできているのか知らないでやるのが面白い。手探りでいろいろ試して、それが人といっしょになったら嬉しいじゃん。これ、発明しちゃったよって。だから面白いんだよね。それはなんでもそう。人に教わったら結果には早くたどり着けるけど、そこに行き着くまでの面白い枝葉を全部スルーしちゃうことになる。それとコンビニエンスになんでもそろう今の恵まれた環境も面白くない原因の一つかも。我慢しなくていいんだもん。でも、食べたいのに食べられない、欲しいのに手に入らないというところに面白さがあるのに。みんなオンとかオフをすぐにしちゃうからつまんない。オンとオフの間にあるニュートラルな部分を楽しまなきゃ。あと、レギュレーション(規則)をつけて行動すれば面白くなる。今日のゴミ捨ては右足だけで行くぞとか。人は大人になると頭が良くなって、やってもこうなるだろうみたいな結論を先読みしちゃう。でもそれはやってみないと分からないわけで、やると意外と面白かったりする。だから何でも頭で結論付けない。何でもやると面白いんだから。企てごとが計画通りに行くことなんてどうでもよくて、甲府に行こうとしたら途中で相模湖に行っちゃったんだけど、そこを甲府と思って遊ぶってこと。で、ブドウと思いながら芋掘って、ワインと思いながら焼酎飲めばいいんだよ。みんなは甲府に行くのに混んでたから相模湖で降りて、ブドウ畑がないから芋掘りしちゃうんだけど、それじゃ全部ダメな気分になっちゃう。そうじゃなくて、最初の間違いを全部正当化して楽しめば馬鹿な思い出になるでしょ。だから最初からくだらないことと決めない。
——ちなみに自分がして無駄だなぁと思うことはありますか。
所 無駄なことは何にもないの。ギターのペグを変えても音なんて変わらないっていう人もいるけど、変わるの。それをした張本人のポテンシャルがあがるんだから。本人が刺激されることが大事。え、写真? 適当で良いよ。(BOND12号の表紙を見て)これでいいんじゃない? ちょっとおデコ広くしてさ(笑)。
[ ところ・じょーじ ]
1955年生まれ。1977年に『ギャンブル狂騒曲 / 組曲冬の情景』でキャニオンレコードよりシンガーソングライターとしてデビュー。同年、ニッポン放送『オールナイトニッポン』のパーソナリティーに抜擢され、本格的にタレント業に進出する。1979年にテレビ東京『ドバドバ大爆弾』で司会を務め一躍有名に。その後も数々のバラエティ番組やCMなどに出演、多方面で活躍し、国民的タレントとして不動の地位を築く。また、黒澤明監督作品『まあだだよ』での好演やTBS『私は貝になりたい』では主演を果たすなど、役者としても活躍。ほかにも、作家、ゲームクリエイター、発明家、漫画家など活躍の場は多岐に渡る。また、2014年8月に自身のレーベル「Jam Cracer RECORD」を設立。今年6月24日には第三弾CD「JAM CRACKER MUSIC 3」がリリースされた。ちなみに取材した『世田谷ベース』は、所ジョージさんの仕事場兼遊び場。
Posted at 2016/01/08 21:58:16 | |
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世田谷空軍基地 | 日記